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1-36 精霊と人間

「――――まさかこんな事になるなんてな」


数日後。


オーギュスティン家の会議室。


大きなテーブルの周りには、嬉しそうに椅子に座った小さな子どものような精霊達。その脇には大きな白い犬のような精霊に、真っ赤な羽の美しい鳥のような精霊、観葉植物や花瓶の葉っぱの上には小型の少年少女のような精霊に、床には木箱の中にフカフカの土がたっぷり入れられ、そこにモグラのような精霊やトカゲのような精霊が満足そうに座っていた。


ちなみに硬そうなディカルドの頭の上にはヒヨコのような精霊が嬉しそうに座っている。


「おい、ヒヨコ。俺の頭からおりやがれ」


『いいじゃんディル、ピヨリーはディルの髪の毛が巣みたいで落ち着くって言ってるんだから』


「ふざけんな。それから勝手に愛称で呼ぶな」


『なんで!お友達なってくれたんでしょう!?』


『ディ、カル、ドって、呼びにくい……』


『ディルこそいつになったらアニィって呼ぶの』


ギョッとした顔でディカルドが頭の上のピヨリーを見上げる。


ピヨリーは澄ました顔をして、ピヨピヨと可愛らしい声でディカルドに諭すように言った。


『ほんと、最初の一日目の勢いだけだったわよね。アタシ影から長年応援してきたのよ?もう焦れったすぎて黄色くなっちゃったわ』


「……お前何色だったんだよ」


『まぁ!雛鳥に色を聞くなんて野暮なことしないでよ』


オホホと可愛らしい声で鳴くピヨリーは、実はこの中で一番の年長者らしい。雛鳥なのに視線が妙に艶かしい。


『で?呼んでみなさいよアニィって』


「なんでだよ」


『あーもう、焦れったくて精霊界へ連れて帰っちゃいそーう』


「……アニィ」


ディカルドが物凄いしかめっ面の照れ顔でそう言うと、ピヨリーは全身を薔薇色に輝かせてぶわりと羽を広げた。


『エンダァァァァ』


『うるさいピヨリー』


『ほら、話進めようよ』


呆れたような幼児っぽい精霊が不思議な桃ジュースを飲みながら足をぶらぶらさせている。ですよね、さっきから話が進んでない。私はここぞとばかりに話を本筋に戻した。


「……ということで、もう人間界でも気にせず私に会いに来ていいわ。でも、みんなで話し合ってルールを決めたいの。どうやったら精霊と愛し子と人間たちが自然に共存できるかな」


『きょーぞんってなに?』


『一緒にいるってことじゃない?』


『気持ち良く一緒にいるってことよ!』


『仲良く?』


『そうそう』


小さな精霊達が話し合っている様子はとても可愛い。ニコニコとその様子を眺めていると、反対側の視界では金糸のような髪を、窓からのそよ風にサラサラと揺らしたアレクシス殿下がにこやかに頷いていた。


「もうアニエスと会えなくなるのは嫌だろう?人間に愛し子を好き勝手に利用されないように、みんなでルールを決めよう」


立太子予定の王子が普通にオーギュスティン家にいるという異常事態。私が精霊達と話し合おうとディカルドに提案したら、アレクシス殿下がいたほうが早いと、なんとオーギュスティン家に呼んでしまった。凄まじい展開にドキドキとしながら、私もコクリと頷く。


「そう、例えば誰かが私を脅してみんなに何かお願いしようとするでしょ?それが続くと私もみんなも困るから、そうならないようにルールを決めたいの」


『なるほど!わかった!』


『じゃあ脅した人間は土に埋めるっていうのでどう?』


『お家を壊しちゃおう!大きい氷の塊落としたらぺちゃんこになるはず!』


『うーん、土が汚れるし、人間を燃やしちゃうほうがいいんじゃない?』


「待って待って待って」


想像以上にこの子たちは危ない。よく考えたらみんな人間じゃなかった。私は至極真面目な表情で、アレクシス殿下に向き直った。


「至急シンプルで子供にも分かりやすいルールを作りましょう。とりあえず人間は傷つけない、というルールを設定していいですか?」


「そうだね……」


アレクシス殿下が引き攣った笑顔になった。やっぱり王家としてもこれは困るよねと申し訳なく思う。


「――基本はそれでいい。でも、アニエスを害する奴が現れたら、殺さないように防いでいい。これでいいか」


頭にピヨリーをのせたディカルドが、ちょっと怖い顔でズバッと言い切る。


「た、確かにこの間みたいな緊急事態だったら助けて欲しいけど……」


「当たり前だ。それに、これぐらい許可しないと納得しないだろ。なぁリップル」


突然リップルに呼びかけたディカルドの声に驚いてキョロキョロとその姿を探す。すると、大きな観葉植物の影から、小さな姿のリップルが少し気まずそうに姿を現した。


『……なんでいるのが分かったの?』


「アニエスが、俺とアレクが精霊の姿を見えるようにって頼んだろ。だからだ」


『隠れてたのに』


「そのぐらいの隠れっぷりで気づかねぇわけねぇだろ。それより、さっきのでいいか悪いかさっさと教えろ」


『……アニエスが危ない時は、守らせて欲しい。殺さないから』


そう気まずそうに言ったリップルの側に近づく。リップルは、私を泣き出しそうな顔で見上げた。


『ごめんねアニエス……』


「なんで謝るの!?」


『勝手に精霊界に連れて行ったから……』


しょんぼりしたリップルを手に乗せて抱き上げる。そんなの気にしてないよ、と言おうとしたところで、サッとディカルドが口を開いた。


「お前の行動は正しい」


ピヨリーが頭にのったままだけど。その表情は淡々としていて、真面目な表情だった。


『でも……』


「あの時リップルが大司教を止めなかったら王族貴族が全滅していた。そんな危ないところに大事な愛し子を置いておけないと判断したのは当然だ。甘かったのは俺だ」


その言葉に驚いてリップルと一緒にディカルドを見上げる。ディカルドは、淡々とした表情で、でも強い視線をこちらに向けていた。


「俺は愛し子の夫として甘かった。側にいる覚悟も戦略も足りなかった。アニエスとこの国を救ってくれたのはリップルだ。――もうヘマはしない。だから、アニエスをまだこの世界に留めておいてくれないか」


リップルが目をまんまるにしてディカルドを見上げている。まさか、ここまで言ってくれるなんて思わなくて、私も絶句して同じ表情でディカルドを見上げた。


「そうだね、僕からも礼を言うよ。ありがとう、リップル。危うく王家が断絶するところだった。アニエスが愛し子なら、君は救国の精霊だね」


『っキュ、キュウコク!?』


真っ赤になってしまったリップルが可愛い。私はなんだか嬉しくなって、リップルを胸元に持ち上げた。


「リップルは、全部私のためにしてくれたんでしょう?だから、怒ってるんじゃなくて、感謝してるよ。私を精霊界へ連れて行ったり……精霊界の大きな姿のリップルでこの世界に来るのは大変なんでしょう?そこまでしてくれてありがとう、リップル」


『っ、ば、バカじゃないの!』


すっかり照れてしまったリップルが真っ赤な顔を覆う。その姿が可愛くて、ふふ、と笑ってしまった。


「――とにかく。お前にはこれから沢山協力してもらうぞリップル」


ガタリと立ち上がったディカルドは、私とリップルのところまで来ると、目線をリップルに合わせるように少し屈んだ。


「どうしたら俺達が共存してお互い楽しく暮らせるか。お前ら精霊の話も、ちゃんと聞かせて欲しい」


『……随分協力的じゃない、ディカルド』


少し恥ずかしそうにしたリップルに、ディカルドは大真面目な顔を向けた。


「当たり前だ。……俺はアニエスを連れて行かれたら生きていけない」


きょとんとしたリップルは、次いでケラケラとお腹を抱えて笑いだした。


『まさかあの焦れったさしか無かったディカルドがここまで言うようになるなんてね』


「うるさい。……もうアニエスは絶対に手放さない。そういう事だ」


『ふふ、そのなりふり構わなさ、いいね』


一通り面白がったリップルは、少し照れた顔で笑うと、ディカルドにそのガラス玉のような瞳を向けた。


『……よろしくね、ディカルド』


リップルの、小さな、滑らかな白い手が差し出される。ディカルドは、一瞬その手を見て動きを止めてから、そっと人差し指を差し出した。


小さな白魚のような手が、男らしい少しゴツゴツとした長い指に触れる。


その光景が、なんだか眩しくて。私は幸せなその光景に、嬉しくなって、微笑みながら目を細めた。


読んで頂いてありがとうございました!


ピヨリー、もっと前に登場させたかった。

「エンダァァァァ!!!」と一緒に叫んで下さったノリノリの読者様も、

「リップルといい関係に戻れて良かった……」とホッとしてくれた優しいあなたも、

次回はついに最終回!最後までどうぞよろしくお願いします!


投稿は明日日曜午前中の予定!

ぜひまた遊びに来てください!

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― 新着の感想 ―
[一言] あと一話で完結 ちょっとさみしいかも・・・ 物語はいつかはおわるのにね
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