第一章 箱庭の中
前回のあらすじ:前回結構短いから、今の間に早く読んでおいで。
今日も、本を読んでいた。これまで、一体何万冊の本を読んだのだろう。
私はこの館に閉じ込められている。玄関はあるのに、扉を開くことはできない。窓も開くような造りになっていない。窓は、きっと月を見るためだけに存在している。玄関の扉も、きっと飾り。
私は今まで、この館に独り。
「そして永遠に、ね。」
そんな独り言が、ふとあの日の事を思い出させた。
気が付いたら、私はこの館の書斎にいた。何故こんなところにいるのかは全く思い出せなかったが、目の前にあるたくさんの本に目を奪われ、読書に没頭していた。といっても、読んでいたのは絵本ばっかりだったが。
読書に疲れて外に出ようとした時、ある異変に気が付いた。扉が開かないのだ。つまり、ここから出ることはできないし、自分で鍵をかけたつもりもないので、そもそもどうやってこの館に入ったのだろうか。
また、書斎から玄関まで迷わずに行けたこともおかしい。この館は複雑な構造な上にとても広いので、普通迷うはずだ。それに私は、今日初めてこの館に入ったのだから。
混乱していたが、とりあえずこの館の中を色々と探してみることにした。食料も確保しないといけないし、他に出口があるのかもしれないからだ。
「まずは、書斎の隣の部屋からね。」
書斎の近くにもたくさんの部屋があった。一つずつ調べるのは大切なことだ。
ガチャリ、と音がして、扉が開く。ここの部屋の扉は開くようだ。
「ここは...寝室?」
ベットが二つ程並んでおいてある、簡単な部屋だった。もしかしたら、ここには誰か住んでいるのかもしれない。そんな事を考えながら、次々と部屋の扉を開けて行った。しかし、どの部屋も似たような作りだった。かなりの大家族なのか、もしくは客室かもしれない。
今度は、書斎とは反対側の通路へ向かって行った。
ずっと進んでいたが、こちらの通路から行ける部屋は一つもなかったが、その先には大きな庭が広がったいた。星月夜の下で広がる真っ赤な薔薇が、とても幻想的だった。いくつかテーブルや椅子があったが、使われている形跡は無かった。その空間はまるで、箱庭のようだった。
あれから何年、いや何十年経っただろう。私はずっとこの館に住んでいる。何万冊という本を読む事ができたので、様々なことを学べた。見た目こそ10歳くらいのままだが、自分の力だけで生き抜く知恵は充分にある。多分だけど、私が知らないことといったらこの館との事と、私が一体何者かと言うことだけ。
「人間は約80年で死に、その間に容姿・思考を大きく変化させる。だけど私は、もう数十年この見た目のまま。ってことは、私は人間じゃない...?」
いつもの独り言が始まってしまった。聞く人も応える人もいないので、私が言った言葉は全て独り言になる。世間一般的にそれはおかしいことみたい。
「まぁ私、人間なんて見たことないのだけれどもね。」
人間がどういう生き物なのかは知っている。私が知らない生き物なんて、きっと存在しない。だけど、本当にただ知識として存在しているだけなのだ。本物を見た事がない。
「誰か、話し相手がいたら良いのに。」
そうやってまた、言葉を呟く。
だけどそれは、独り言にはならなかった。
「なら、僕がなってあげようか?」
その言葉と共にこの部屋に入ってきたのは、黒く細身の姿をした生物ー黒猫だった。
読んでいただきありがとうございました。
好評であれば、僕がとても喜びます。
続きが欲しいという要望が強ければ、僕が書きたいと思う限り続く可能性が高くなります。
この作品はフィクションです。