花咲学園開花祭 前編
とうとう今日は花咲学園開花祭当日です。開花祭は前夜祭、本祭、後夜祭の三つに分かれますが、告白祭は後夜祭のメインイベントです。保護者が来るのは本祭と後夜祭なので、もちろんのこと前夜祭は生徒だけで行います。
当日とは言っても今日は前夜祭なのですがね。前夜祭は教師に怒られるようなことをしなければ何でもオーケーなのです。直前までに自分たちの出し物の準備をするも良し、カップルや友人と最後まで一緒に過ごすも良し、前夜祭の男子は女子の手料理で餌付けされ、直前まで出し物の準備をしているのがほとんどでした。でも欄場さんはこの場には居ませんでした。わたくしの答えはもう決まっています。もう何をしようとも揺るぐことはない…はずです。
欄場さんは屋上に居ました。扉をそっと開けて様子を見たのですが、そこには欄場さんの他にもあの女子生徒も居ました。あぁ、やはりあの告白は噓だったのですね、と落ち込んでいると
「誰だ?」
いきなり屋上の扉が開いたかと思えばそこには欄場さんがわたくしの顔を覗き込んでそう言いました。
「別に、誰でもないです」
わたくしがそう言って踵を返すと
「良かった…来てくれないかと思った」
「正直わたくしはメモの通りに動いたわけではありません」
噓ばっかり。あのメモにはちゃんと欄場辰巳と書かれていたではないですか
朝登校するとわたくしの机の中に〔前夜祭、屋上に来てください〕というメモが入っていました。わたくしは浮かれてうっかり鼻をぶつけてしまい、鼻血を出してしまいました。ちなみに言っておきますと、今も若干貧血気味です。
「で、何の用なのですか」
きっとこの方とお付き合いする的な発言をするのでしょう。告白祭の時ではだめなのでしょうか
「いやー、こいつとお前を会わせたくてな」
やっぱりですか
わたくしは初対面の人の前で泣いてしまいました。
「だ、大丈夫?友理ちゃん」
「気安く名前を呼ばないでください。こんな女が言うのもおかしいかもしれませんが、あなたは欄場さんの何なんですか!?付き合ってでもいるのでしょう。はいはいそうですか。お二人の邪魔をして悪かったですね!」
わたくしはそう言って屋上から立ち去りました。飛び降りた方が良かったのでしょうが、生憎とわたくしにはそんな勇気はありませんでした。
屋上から教室に戻ったわたくしは教室の隅で泣いていました。当然友人はわたくしをなだめてくれましたが、わたくしにはそんなものは逆効果でした。
死にたいです。まだ付き合ってもいないのに勝手に嫉妬して、そうです。調理室に行けば包丁があるはずです。
でも、そう思っていても勇気が出ないのがわたくしでした。
だからわたくしはこんな所でうずくまっているのでしょう。ほんっと馬鹿みたいです。D組の生徒がA組の生徒ごときに期待するだけ無駄なんです。
これがわたくしの初めての失恋でした。ですがそう思っているのはわたくしだけで…まぁこれも後述するとしましょうか
迎えた中学最後の開花祭の本祭の日は寝不足で始まりました。
寝不足の理由はもちろんのこと欄場さんのせいです。そしてわたくしは今友実と周っています。いえ、少し訂正をしましょう。友実とそのお友達と周っています。
「お姉ちゃん、あれ買ってよ」
友実が指を差したのは幸か不幸かA・D組の屋台、欄場さんのクラスでした。A・D組の出し物はサーカスのようなもので、そこには風船が売っていました。もちろんのことサーカスっぽいこともしていました。
まぁ、サーカスっぽいことと言いましても、簡単なマジックくらいでしたが、その時、ステージ上に現れたのは欄場さんでした。
欄場さんの格好はピエロで、明らかにサイズが間違っていました。
わたくしは欄場さんの格好に笑ってしまいました。それはそれは友実も一緒で
「お姉ちゃん、あの人の服面白いね」
「えぇ、そうですね。それにしても風船は何に使うんですか?」
「え?雰囲気用」
わたくしは風船を買って、A・D組の所を離れました。少し寂しかったですが
「あ、手伝いに行くのを忘れていました」
わたくしのクラスは話し合いの末、クレープ屋に決まりました。なぜか勝手にクラス委員長になっていたわたくしの「クレープ、食べたいですね」という呟きから決まった感じです。
「お姉ちゃんのクラスは何するの?」
「一応、クレープ屋になったのですが」
「いいじゃんクレープ屋!ちなみに私のクラスはお化け屋敷。超怖いから覚悟しててね」
「肝に銘じておきます」
友実はえへへと軽くはにかみました。それがわたくしの母性を刺激したのか
「偉いです。自分が怖いものを作れたのですね」
気が付けばわたくしは友実の頭をくしゃくしゃにしていました。
「え?私は怖くないよ」
「え、えっととにかく行ってきますね。友実、皆と仲良くするんですよ」
「言われなくても分かってるよ。お姉ちゃんこそがんばって」
友実に背中を押され、わたくしは自分のクラスの出し物であるクレープ屋に向かいました。