いじめから助けてくれた欄場さん
わたくしの名前は蘇上友理。今は緑山高校という所で生徒会長をしています。そんなわたくしですが、過去中学生時代に彼氏がいたことがあります。わたくしが通っていた中学校は花咲学園という小中高一貫校でした。これはわたくしの花咲学園中学三年生から緑山高校一年生までのお話を語らせていただきます。
「お、俺と付き合ってください」
これがわたくしが受けた初めての告白でした。
「欄場辰巳さん、でよろしいですか?同級生ですよね。なぜわたくしにこんな?」
「え、えっと…前から好きでした。姿勢良いところとか、大人びてる性格とか…あ、あととにかく好きです。今じゃなくてもいいので、ぜひお返事ください。では」
そう言って彼は教室から出ていってしまいました。
彼は中学生とは思えない体格をしていました。例えて言うなら…そうですね。ボディビルダーのような、よく言えばガタイのいい、悪く言えば筋肉が服を着ているようで気持ちが悪い、そんな体格をしていました。
皆さんもうお気付きでしょう、そうです。彼がわたくしと付き合うことになる欄場辰巳さんです。
「え、えっとさ…非常に言いにくいんだけど…彼はやめておいたほうがいいんじゃないかな」
普段からよく話す女子生徒、いわゆるわたくしの友人がそう話しかけてきました。
「なぜですか?」
この時のわたくしは初めての告白で浮かれていたのだと思います。わたくしは誰に対しても平等に接する人で、あまり表情も表に出さないのですが、この時のわたくしの頬は完全に緩み切っていたと思います。なぜなら友人の口が見たこともないくらいに大きく開けていたのですから
「あの人、欄場くん、各方面から悪い噂があるんだよ。一人で他の中学の不良グループを乗っ取ったとか、校長先生に喧嘩吹っ掛けたとか、これでわかるでしょ、欄場くんは根っからの不良生徒なんだよ。優等生の友理とは違うの、絶対に合わない。だからやめたほうがいいよ」
仕方ないですね。せっかく初めて告白してもらったのに
「分かりました」
わたくしの趣味は読書です。実は読書は元々好きではありませんでした。ですが本を見ることで心が安らぐ事を知りました。これは妹に感謝ですね。そうです。読書は元々小学五年生の妹の趣味だったのです。きっかけは妹から『お姉ちゃんも本読もうよ』と言われて一度読んでみたらこれが何と面白かったのです。わたくしが当時読んだ本が面白かったのか、それとも本の面白さに気付いたのかは今では確かめる術がありませんが
そんなわたくしは今、図書室に居ます。わたくしは最近図書室で見たことがない本を探すのにはまっています。バトル、ラブコメ、ミステリー、もちろんのことメディア化したものの原作もほとんど読破しています。わたくしはアニメ化、もしくは自分が気になったものしか読まないどこかの作者(新田の凜斗)さんとは違うので様々な知識があるのです。
そんなことはさておき、わたくしが唯一見たことがないないもの、それが図鑑でした。
今まで図鑑なんて子供っぽいと思っていましたが、この花咲学園の小~高等部までの生徒が揃って図鑑を借りているのを何度か見たことがあります。
今日を機にわたくしは図鑑を見てみるとことにしたのです。
わたくしは一番初めに動物の図鑑を本棚から取り出してテーブルに乗せて読んでみました。
わたくしの定位置は出入口からそこそこ遠い位置です。そこは妹の定位置でもあります。もちろんのこと妹が来たら席を移りますが、妹が来ない限りは決してそこから動くことはありません
十分後、ようやくわたくしは図鑑を閉じました。正直な感想を言いましょう。
猫ちゃん可愛かった~~
その時、授業の予鈴が鳴ってしました。辺りを見れば、先程までいた生徒たちがいつの間にか居なくなっていたのです。わたくしは急いで図鑑を片付けて、教室に向かいました。教室に向かっている途中大きな壁にぶつかりました。わたくしがこんなところに壁なんてないのにと思っていると
「だ、大丈夫か?」
わたくしがその壁しばらく見つめているとその壁からそんな声が聞こえてきました。わたくしが恐る恐る上を向くとそこには欄場さんが立っていたのです。
「こんな時間にどこに行こうとしてるんですか?」
わたくしの言葉に欄場さんは言葉を詰まらせながら
「……いや……ちょっとトイレに」
「はぁ~、不良生徒はどこまで行っても不良生徒なんですね。もうすぐ授業が始まりますので早めに終わらせてくださいね」
そう言ってわたくしは欄場さんのために道を開けて、教室に入りました。
花咲学園には寮があり、大半の生徒はそこで過ごしているようですが、こんな自称コミュ障には荷が重い所ですね寮というのは
放課後、わたくしは校門前に見知らぬ、と言えればよかったのですが不覚にも見知った顔を見つけてしまいました。
「よう」
「なんですか?」
そうです。今日、わたくしに告白をした欄場さんです。
「君が笑った顔なんて入学してから見たことがない。行事の時の写真だってそうだ。何か悩みでもあるのか?俺に話せ、俺に出来る事だったらなんだってする」
「いえ、ありません」
その時、わたくしの目頭が急に熱くなりました。泣くほど辛いことがあの時のわたくしにはあったのです。わたくしはいじめられていました。妹を人質にされて、誰にも言わせないようにしていたのです。
「では、話すとしましょうか…絶対に…誰にも…言ってはいけませんよ。わたくしは…クラスからいじめにあっているのです」
「そんなの見たことがない」
「見たことがないのも無理ありません…。彼女たちはいつも放課後…や…昼休み…それも見えないところでわたくしをいじめていました。どうですか?もう関わる気はなくなりましたか?」
その言葉を聞いた欄場さんは肩を震わせていました。笑っているのでしょう。そうでなければおかしいです。
その後、どうなったと思いますか、何と彼はわたくしを優しく抱きしめたのです。
「お前のことは俺が絶対に守るから」
「友理、こっちに来なさい。面白いもの見せてあげる」
欄場さんが身体を離した瞬間、背後からそんな声が聞こえました。その声はいつもわたくしをいじめる生徒の一人の声でした。
「もちろん言ってないよね。誰にも」
「はい……」
か細い声でわたくしはそう返しました。
「その男にも?」
「はい……」
「お前ら、友理に何の用だ?」
欄場さんはいじめっ子たちにそう突っかかったのです。
「別に友だちとして普通に誘ってるだけじゃん、何でそんな怖く言われなきゃいけないの?」
「友理はお前たちにいじめられて困ってるんだぞ」
「言ったの?友理。ふーん、妹ちゃんがどうなってもいいんだ。ふーん」
「だ、ダメです。友実は関係ありません。ですから……」
「あはははは、最っ高!あんたをいじめるのほんっと楽しいわ」
その時、欄場さんが「貴様ら!」と怒鳴ったのです。
「!」
いじめっ子たちは欄場さんの放つ空気に気圧されていました。
「今日はこれくらいにしてあげる。絶対に先生に言ったら承知しないから」
それだけ言っていじめっ子たちは逃げるようにして帰っていきました。
「あいつら、顔覚えたからな」
「あ、あの、あ、ありがとうございました」
か細い声で言いました。すると欄場さんは、わたくしになぜいじめられているのかを訊いてきました。わたくしの答えは分からないの一点張りだったのですが、欄場さんは黙って聞いていました。
その後は欄場さんと並んで帰りました。話してみて欄場さんについて分かったことは、A・D組の生徒だということ、(わたくしがD組なので友人の言う通りわたくしとは違います)趣味は動物を愛でること、家に犬を一匹、猫を二匹飼っていること、そして花咲学園までの距離はわたくしの方が近いこと
「ここか?」
「はい、ありがとうございます。ではまた明日」
わたくしは笑顔で欄場さんに向かってそう言いました。その笑顔を見た欄場さんの顔が赤くなったのはわたくしからは見えなかったのですが
家に入ると、まずリビングのソファーでゴロゴロしている友実が目に入りました。
「友実、あなた宿題をやったのですか?」
「ん?やってなーい。教えてー」
「宿題くらい自分でやったらどうですか?」
「え~お姉ちゃんのケチ」
「はぁ~、分かりました。見てあげますので宿題を自分の部屋から取ってきてください。ここにあるのでしたら始めますよ。さすがにわたくしは自分のもやりますので、構う時間はそんなにないかもしれませんが」
「ありがとうお姉ちゃん」
友実はそう言い残し、自分の部屋に宿題を取りに行きました。その間自分のカバンから一枚のプリントを取り出し、やり始めました。
その後は友実と一緒に宿題をやりました。時々友実を教えながら
「そろそろいい時間なので、ご飯にしましょうか。わたくしも自分の課題が終わったところですし」
わたくしが時計を見ながらそう言いました。すると友実が
「あ、あと一問だから待って」
「大丈夫ですよ。待ってあげますから」
わたくしの家は母子家庭です。父は発電所で働いていました。そんなある日、父は発電所の爆発に巻き込まれて死んでしまいました。そんな中、母が急に再婚をすると言い出したのです。そんな義理の父には一人の娘が居たのです。皆さんもうお分かりですね。そうです。友実こそが義理の父の連れ子だったのです。ですが、そんな義理の父も早くに亡くしてしまいました。
友実には相当ショックだったのでしょう。もちろん母も相当ショックだったでしょう。自分が選んだ人が次々に死んでいったのですから。
わたくしは宿題をテーブルの隅へと移動させて立ち上がってキッチンへと移動しました。
「お姉ちゃん、今日のご飯何?」
「今日は友実の大好きなコーンスープですよ。もちろん粉末ですがね」
わたくしはジャーから二人分のご飯をよそい、お湯を沸かしました。
「やったー、コーンスープだー」
「友実は本当にコーンスープが好きですね」
わたくしは料理が出来ないのです。母は仕事が忙しく家にはあまり帰って来ません。帰ってくるのはいつも深夜の時間帯で、帰って来たとしてもすぐにまた仕事に行くので、わたくしは義理の父が死んでからというもの、一度も母の顔を見れていません。ですので友実の世話は全てわたくしの仕事なのです。ですがわたくしは、料理も掃除も出来なくて、女子らしさのかけらもありません。唯一女子らしさと言っていいのは髪が長いことくらいでしょうか
ご飯も食べ終わって、お風呂も友実に譲ったわたくしは自分の部屋に居ました。わたくしの部屋はゴミ屋敷、いやゴミ部屋と言った方が性に合っているかもしれませんね
そんなゴミ部屋と化した部屋に居るわたくしは今日のことについて振り返っていました。
欄場さんに告白されたこと、いじめからわたくしを守ってくれたこと、そして今、心像の音がうるさく、お風呂に居る友実に聞かれていないか心配なこと
これが恋というものなのでしょうか、欄場さんはずっとこれに耐えてるんですね。すごいです。来月の開花祭の告白祭までに答えを出さないといけないんですか、わたくしには荷が重すぎますね
告白祭とはその名の通り、告白をする場を学校側で設けてくれるものです。当然のことほぼ全校の生徒が集まり、その度胸も試されます。
翌日、家を出るとそこには欄場さんが居ました。
「何かわたくしに用でもあるのですか?」
わたくしは彼を意識するあまり、そんな素っ気ない対応をしてしまいました。まぁ、欄場さんからは昨日と変わっていないように見えたでしょうが
「いや、昨日の今日だからな。一緒に登下校しようかと思ってな」
「結構ですので、お一人でどうぞ」
「待ってくれ」
欄場さんはそのまま通り過ぎようとしたわたくしの腕を急に掴んできたのです。
女の力が男の、それもガタイの良い男の人の力に勝てるはずもなく、結局わたくしは欄場さんと一緒に登校することになってしまいました。
登校後、すぐにわたくしは自分の机にうずくまっていました。その原因は言うまでもなく欄場さんです。
本日はわたくしの元カレは乱暴者 ですがわたくしにだけは優しかったです ~いじめから助けてくれた欄場さん~ を読んでくださいまして誠にありがとうございました。こんな無名の作家を読んでくださった皆様には感謝してもしきれません。二作品目ともなってもお話になっていることは温かい目で見てもらえると幸いです。以上、新田凜斗でした。