独り言
三題噺もどき―ひゃくきゅうじゅうご。
お題:薄暮・洋燈・涙
この時間になると、肌寒くなる日々が始まった。
朝の冷え込みとは、毛色の違う寒さ。
「……」
どこまでも冷たく、ヒヤリとした朝とは違い。
空気は同じように冷たいはずなのに。
空には橙があり。落ちた日は、山の上にともる洋燈のようで。
どこか、温かく感じてしまうのは、なぜだろう。
「……」
陽が落ち始めたこの時間。夕暮れ、黄昏。
―または薄暮ともいうらしい。薄い暮れ。だそうだ。詳しい語源は知らない。
この国の言葉は、一つの事柄にいくつもの名がついているから不思議でならない。
まぁ、各々感じ方は違うだろうし、それぞれが思ったように名付けていいのなら、その分言葉が生まれるのかもしれない。
「……」
だが、それも。
言葉を知っていてこそなのかもしれない。―言葉をしっていて、それでも表しようのないあれこれを、どうにかして表現しようと。あふれて仕方ないそれを、表現として生み落とそうと。
そうやって、生み落とされた言葉が集まって、物語として生き始める。
「……」
そういう。
物語を生み出すことを生業としている身としては。言葉があふれて仕方ないという状況が痛く羨ましい。
「……」
ここ最近。
どうしても。どうしても。
言葉が出てこないのだ。
「……」
やらないといけない事はある。
書くべきことは決まっている。
締め切りだって迫っている。
「……」
それでも。
こぼれてこないと、書けない。
溢れてこないものを、書くことは出来ない。
自分には、できない。
「……」
書き始めてから、それを生業にするようになってからも。
自分からこぼれるものを、自分の言葉で書くことでしか。
物語を生み落とすことができない。
嘘でもいいから、何か書けと言うことが、どうしてもできない。
「……」
流行りに乗るとか。今はこれが主流だからとか。
そんなことを言われても。
書けないものはかけないし。それは他の誰かが書くだろうし。
―書きたくないものは、書けない。
「……」
ワガママなのは自分が一番分かっている。
それでも書かないのは、書けないからとしか、言いようがない。
「……」
書けるものなら書きたいものだ。
今の流行りを。今の主流とやらを。
―こんな、日常の。自分の話なんかではなく。
非日常を生きる人々の姿を。
「……」
けれど、自分の目で見て。
涙があふれたものしか、書けないし。
自分で感じた苦痛しか、書けないし。
非日常を生きる人間の心中なんて、想像するのすら烏滸がましいと思っている。
「……」
自分が書くのは。
書けるのは。
全て、独り言も同然のようなものばかりだ。
自分という人間が、生きる日常を、独り言のように書き出して、写し出して、描き出すことしかできない。
「……」
だからこうして、自分のなかで言葉が詰まると、何も書けなくなる。
書きたいことはあるのに。
言葉がどうしても、詰まって。こぼれなくなって。固まってしまって。
「……」
涙も全部枯れてしまったのかと思う程に。
言葉をすべて失ったのかと思う程に。
「……」
こんな独り言。