表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/236

第94話 襲い来る者たち

 side カイツ 


 偽熾天使(フラウド・セラフィム)を片付けた後、俺たちは中庭へ向かって走り出した。


「いやー。さっきの不気味な人型気持ち悪かったのお。一体何をすればあんなのが出来るのやら」

「さあな。ヴァルキュリア家を叩き潰して尋問すれば分かるだろ」


 ある程度は推測できるがな。大方、人体実験で生み出されたものなのだろう。だが、一体何のためにやってるんだ。ミカエルの力と似たような雰囲気を感じるが、奴らは何を企んでいる。そもそもお茶会の件も謎だ。なんで奴らはお茶会なんてものをやってる。そしてケルーナ。偽熾天使(フラウド・セラフィム)を素手で相手に出来るほどの実力者。そして妙な化け物を連れていた所。こいつは何者で何が目的だ。分からないことだらけだな。とにかく、さっさと中庭に行かないと。そう思いながらスピードを上げていると、妙な気配を感じて立ち止まった。だが、これには覚えがある。


「どうしたのカイツ……!? この気配」

「あらら。また変な奴が来たみたいやのお」


 天上を突き破って現れたのは、きらきらと輝く銀色の髪をなびかせる青年。髪は肩まで伸びており、獣の耳が生えている。赤い目は狼のように鋭く、目から光が消えている。


「あれは……ガルード!?」

「いつのまにか消えたと思ったら、こんな所にいたのか。だが」


 今のあいつ。明らかに普通じゃないな。魔力が薄気味悪いし、生きてるって感じがしない。


「グガ……ががががが」

「? なんや不気味な奴やのお。なんなんやあれ」

「さあな。とりあえず、俺たちの敵だということは確かだ。ウル!」

「分かってるわ!」


 彼女は既に矢を引いており、雷を纏わせている。


「プラズマショット!」


 彼女が矢を放ち、5本の矢が様々な角度からガルードに襲い掛かる。


「グがああああああああ!」


 奴は獣のように咆哮して襲ってくる矢を消し飛ばし、床に亀裂を生み出した。


「あの程度で殺せるとは思ってなかったけど、まさか消し飛ばされるとはね」

「どうやら、あの時とは次元が違うようだな」

「カイツ……お前は殺す!」


 そう言った瞬間、奴は一気にこっちまで距離を詰めて殴りかかってきた。間一髪で刀で受け止めるも、その攻撃を止めきれず、ふっ飛ばされてしまった。


「カイツ!」

「ぐ!? これは凄いな」


 パワーがケタ違いだ。一体何をしたらこんなことになるのやら。


「うおおおおお!」


 奴は獣のような雄たけびをあげ、背中から天使のような形の黒い翼を生やした。


「あれは」


 何度も見たあの黒い翼。奴があの翼を生やしたということは、ヴァルキュリア家の人間に実験されたというわけか。


「ウがあああアア!」


 奴がまた襲い掛かるかと思った瞬間、上空から何本もの矢が奴に降り注ぐ。しかし、奴はそれを簡単に躱して後ろに下がった。


「ぶち抜け。サンダービースト!」


 彼女が3本の矢を放つと、矢が雷の獣を纏って突き進んでいく。


「邪魔だあああ!」


 奴は背中の翼で獣を叩き潰した。


「俺は……カイツを殺す! 邪魔するな!」

「あらら。ずいぶんと恨み買ってるなあ。あんたなにやらかしたん?」

「さあな。奴の気味悪い結婚式を潰した思い出しかない」

「あらら。そりゃ恨まれて当然やのお。なにしとんの」

「色々あったんだよ。それよりさっさと奴を片付けないと」


 刀を抜いて接近して攻撃するも、奴はその攻撃を腕で受け止めた。刀がぶつかった瞬間、鉄がぶつかり合ったような音が響く。体もかなり頑丈なようだ。


「カイツうううううう!」


 奴が翼で攻撃してきたので、刀で捌きながら後ろに下がる。


「六聖天・第2解放!」


 天使のような羽が2枚生える。両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。俺は自身の周囲にいくつもの紅い球体を生み出した。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 放たれたいくつもの紅い球体は様々な方向から一斉に襲い掛かる。


「邪魔だあああああ!」


 奴は再び雄たけびをあげ、その衝撃が龍炎弾をかき消した。ここまでパワーがあることは予想外だが、想定内ではある。奴の咆哮が終わった瞬間を突き、一気に距離を詰める。


「なに!?」

「剣舞・龍刃百華!」


 剣を横に一振りする。その直後、無数の斬撃が飛び交い、ガルードの体をズタズタに切り裂いた。


「ぐは!? 馬鹿な」

「パワーはある。スピードも。だが咆哮の隙が大きい」

「調子に……乗るなあ!」


 ズタズタに切り裂かれたのに、奴は翼でこっちを攻撃してきた。それを躱し、一旦距離を取る。


「ぐう……俺は。まだやれるぞ!」

「そうかい。じゃ、下の攻撃にも耐えてみろよ」

「なにを――!?」


 俺が忠告した直後、奴の足下に待機してた何本もの矢が奴の腕や体を貫いた。


「ごはっ! この野郎」

「確かに隙が大きいわね。咆哮だけでなくその他にも。おかげで楽に攻撃が当たったわ」

「俺は……こんな所で終わらない!」


 奴は爪を光らせ、俺に飛びかかってきたので、それを刀で防ぐ。


「このおおおおおお!」


 奴は何度も攻撃を仕掛けてくるが、その攻撃は防げないレベルでは無かった。奴の攻撃の隙を突いて両腕を弾き、右斜め上から切り裂いた。


「があ!? なぜ……なぜなんだ。俺は……こんな所でええ!」


 奴は黒い翼でこっちに攻撃してくるも、その翼は雷の獣によって消し飛ばされた。


「なに!?」

「なるほど。防御自体はそこまで高くないわね。隙を突けば簡単に殺れるわ」

「このおおおお!」


 奴が再び黒い天使のような翼を生やして攻撃しようとするも、その前に奴の首を斬り落そうと刀を振る。


「くそ!」


 奴は俺の攻撃を避け、距離を取ろうと後ろに下がる。だが、このまま距離を離すわけにはいかない。俺は自身の周囲にいくつもの紅い球体を生み出した。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 放たれたいくつもの紅い球体は奴向けて一斉に襲い掛かる。しかし、その攻撃は上からカーテンのように降り注いだ糸によって防がれてしまった。


「この糸! まさか」


 糸の出所を見ると、ピンク色の髪を伸ばした女性が壊れた天井の間から見えた。怪しく輝く紫色の目。黒のノースリーブに白衣を着ており、怪しげな液体の入った小さな試験管をいくつも所持していた。その隣には、1人の男性。でかい口ひげに眼鏡をかけており、茶色のスーツを着ている。服の上からでも分かるほどに筋肉質であり、腕の部分がぴちぴちになっている。


「スティクスとアレスか。こんな時に」

「やっほーアダム。久しぶりぽよねえ。あ、今はカイツだったぽよか」

「カイツ。あの2人は何?」

「ピンク髪の女はスティクス。糸を出す蜘蛛女だ。男の方はアレス。筋肉馬鹿の近接特化人間だ」

「ぶー。酷い言い草ぽよねえ。アレスが筋肉馬鹿なのは納得ぽよけど、私は超絶ビューティー人間ぽよ」

「皮被ってごまかしてるだけだろうが。なんならその皮切り裂いて丸裸にしてやろうか」

「ふふふふ。相変わらず強気でかっこいいぽよ。キュンキュンしちゃうぽよ。アレス、ガルード。周りの奴ら任せるぽよ」

「良いのかね? 今我々が戦ったら、プロメテウスが激怒しそうであるが」

「あんな奴から怒られたって屁でもないぽよ。せっかくの再会。これを無為にするほうがどうかしてるぽよ。それに、あんな雑魚じゃ呪いの調査にならないぽよ」

「貴様。誰が雑魚だ!」


 ガルードが食ってかかろうとすると、彼女が小さい卵のようなものを飛ばし、奴のうなじに撃ち込んだ。


「お前しかいないぽよ。せっかく熾天使(セラフィム)の力を与えたというのに、使いこなすどころか暴走すら出来ない失敗作未満。ほんと、使えないぽよね。せめて、足止めの役には立ってほしいぽよ」


 やはり、ガルードにもなんらかの処置をしていたようだな。人体実験大好きな所は相変わらずのようだ。にしても、スティクスは何を撃ち込んだんだ。ガルードの奴が急に大人しくなってるが。


「さてと。てなわけでガルード、アレス。足止めよろぽよ」

「全く。私がフェミニストで良かったですね。あなたのわがままな願いを聞いてあげるのですから」

「了解しました」


 そう言った直後、奴は一気にウルの元まで距離を詰め、赤い石を取り出した。それと同時に、ガルードもケルーナの元まで距離を詰める


「ウル!」

「しまった」

「行くぞガルードよ」

「了解です」

『転移開始!』


 奴がそう言った直後、ウルたちやケルーナたちの足下に魔法陣が現れ、どこかに消えてしまった。


「今のは……転移結晶か」

「正解! さすがカイツぽよー」


 転移結晶。魔法陣の中にいる相手を特定の場所に飛ばす道具だったな。


「さて。これで2人っきりになれたぽよ。カイツ相手には、この姿を見せても良いぽよ。むしろ見てほしいぽよ。絞殺を絞殺して絞殺せよ。我こそは縛りの悪魔。全てを縛り、ねじ伏せる。存分に泣け。喚け。絶望するぽよ!」


 そう言うと、彼女の足が形を変え、蜘蛛の体が飛び出し、そこから6本の足が生える。背中からは黒い天使のような翼が生え、頭からは触覚のようなものが2本飛び出した。それだけでなく、奴の額から4つの目が十字型に現れる。その目は血のように真っ赤に染まっていた。さらには、両手にヒビのような模様が入り、それは腕まで広がっていった。上半身は人に近い姿。下半身は蜘蛛の姿。相変わらず気持ち悪い姿だ。


「ふふふ。この姿をカイツに見せるのは快感ぽよね。久しぶりの家族の団欒。たっぷり楽しもうぽよ」

「俺はお前たちを家族と思ったことは無い。俺にとってお前たちは、ただの敵だ」


 一刻も早くこいつを片付けて、ウルとケルーナの捜索に行かないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ