第85話 お茶会にて
side カイツ
お茶会が始まり、茶と多少の菓子が俺たちの傍に置かれる。テーブルの中央には果物や菓子などが大量に乗った皿が置かれている。プロメテウスは楽しそうにケルーナに話しかけている。
「ふう。このお茶は美味しいですのお。良い茶葉が使われてることが分かります」
「お褒めに頂き光栄の至りです。頑張って収穫した甲斐がありますよ。良ければ、この茶葉が取れる場所を教えましょうか?」
「ほんまですか? それはありがたいわあ。この茶葉を使ったら旦那様も喜ぶでしょうし」
「旦那様と言えば、ケルーナさんは確か、伝説と言われた血の王の召使をされていらっしゃるとか」
「はい。食料集めとか大変ですが、毎日充実しておるんですよお」
「ほお。それは良いですね。宜しければ、旦那様のことについて色々教えてくれませんか? あの方の話を聞けるのは貴重ですからね。私は吸血鬼の話を聞くのが大好きなんですよ。ぜひあの方の話を聞いてみたい」
「ええですよお。まず主人の朝ですけど、これがとにかく面白くてのお」
2人は楽しそうに話をしていた。一方ペルセウスの方は。
「hello、子猫ちゃん。君ずいぶんと可愛らしい顔してるね。今夜、俺と個人で飲まないかい?」
アリアがナンパされていた。彼女は彼のことを完全に無視しており、お茶や菓子を無言で食している。
「ちょっと。無視は困るなあ。超絶イケメンな俺様には興味なしかい? 子猫ちゃん」
彼は諦めずに彼女にナンパするも、彼女の方はどこ吹く風だった。
「Shock。取り付く島もない。なあ。そこの赤髪ちゃんYO」
「私のことかしら?」
「Yes。君超絶に可愛いよね。彼氏とかいるの?」
「いえ。今はいないわ」
「Oh。今はってことは前はいたのかよ。まあ良いけどさ。君って、どんな人を彼氏にしたいと思ってんNO?」
「強くてかっこいい人ね。あとは優しければそれでいいわ」
「Oh yeah! それって正しく俺のことじゃないか。ねえ。このあと俺と個別にお茶でもしないかい? 歓迎するぜ。俺のことをよく知れば、きっと君もメロメロになっちゃうこと間違いなしだZE」
アリアには脈がないと諦めたのか、今度はウルに話しかけてきた。女好きなところは変わってないようだな。昔から色んな女に話しかけまくってたからな。
ペルセウスは楽しそうに話してるが、ウルは時々こちらをチラチラ見ながら、仮面を着けたような笑顔で話を聞いていた。あれは完全に脈なしだな。にしても珍しい。ウルは基本的に惚れっぽい性格だと思ってたが、奴に対してはひたすら冷たい。何か心の変化でもあったのだろうか。
ダレスの方は近くにいるメイドや執事に戦いの楽しさを話している。
「この世で最も楽しいことは戦うことだと思うんだ。肉体と共に生の感情をぶつけ合う戦い。あれに勝る快楽はないと思ってるよ」
「わかります! 私もそんな戦いが大好きなんですよ。魂は炎のように燃え上がり、血は沸騰したかのように湧き上がる。あの感覚がたまらないんです」
「素晴らしい! 君わかってるじゃないか!」
メイドの方もその話題が刺さってるのか、楽しそうに話している。ダレスの戦闘トークについていける人がいるというのは驚きだな。
そしてラルカの方もダレスと同じように近くにいるメイドや執事に話しかけている。
「ふふふ。お前に教えてやろう。なぜ我が崇高なる騎士団の団員として素晴らしき振る舞いをできているかをな!」
「ありがとうございます! あなた様のような素晴らしき人から教えを賜る。一生の幸せです!」
「ほお。貴様初対面の割には分かってるではないか」
「あなた様は初めて見た時からオーラが違っておりました。他者を圧倒する圧倒的なパワー。あなた様はこの世界の王、いえ、神になるべきお方でございます」
「ははははは! お前凄いな。そこまで我の素晴らしさが分かるものは今まで存在しなかった。我が神になった暁には、お前には相応の地位を与えてやろう」
「ありがたき幸せでございます」
自分の自慢話をしまくっていた。近くで聞いてる人は彼女を尊敬の眼差しで見ており、メモ帳を取り出して、彼女の話をメモしたりもしていた。ラルカもそれが嬉しいのか、話に興が乗っており、身振り手振りで自分の凄さをアピールしている。話を聞いてる人はそれに一々感激したり、感動の涙を流したりしている。ラルカにあそこまで心酔してるとはな。何が彼をそこまで思わせたのだろうか。
ウルやアリア以外の者はみんな楽しそうに話をしている。ケルーナはいつの間にかプロメテウスだけでなく、近くにいるメイドや執事とも楽しそうに話している。だが、ウルはなぜか他の執事やメイドたちとも一言二言話すだけで終わっていた。ウルはそこまで話すのが苦手だったはずではないはずだが、何か理由でもあるのだろうか。
それにしても奇妙な感覚だ。ここで楽しそうに話をしているメイドや執事。あいつらから妙な気配がする。人間のものじゃないが、魔物と言うには何かが違うような奇妙な気配。ヴァルキュリア家やワルキューレ家が何を企んでるかは知らないが、あいつらも警戒したほうが良いかもしれない
俺は楽しもうという気にはなれず、誰にも話しかけてないし、話しかけられてもいない。ずっと殺したかったヴァルキュリア家の奴が2人もいて、イシスは後ろの方で待機してる。そして奇妙なメイドや執事への警戒。こんな状況で楽しく話が出来るわけがない。そう思ってると、プロメテウスが話しかけてくる。
「おや。カイツはほとんど飲んでいませんね。口に合いませんでしたか?」
「ああ。俺はこの茶が嫌いだ」
「それは失礼しました。代わりに何か用意しましょうか?」
「いらねえよ。何も飲まなくて良い。お前らのいるお茶会では、何も口にしたくないんだよ」
「Fuck you! なんのためにこのお茶会に参加してんだYO。せめて茶くらいは飲めや。女たらしの劣等種がYO!」
「相変わらずぶっきらぼうで態度が悪いですね。昔住んでいた頃と全く変わっていない。お茶会ではそういう作法は0点ですよ。ま、劣等種には礼儀作法なんて高貴なものは分からないでしょうが」
昔。こいつらと一緒に住んでいたという事実だけで吐き気がしそうだ。ワルキューレ家は知らないが、ヴァルキュリア家は最悪の一族。奴らは人体実験と暴力大好きな外道一族。こいつらを見てるだけで、過去の記憶が昨日のことのように脳裏に浮かぶ。
十年前のこと。ヴァルキュリア家のプロメテウスとペルセウスがとある街を火の海にした。理由はない。強いて言うなら、奴らがそうしたいと思ったからやった。あの光景は地獄だった。
「Yeah! 見ろよプロメテウス。町の奴らが必死こいて逃げ出してるぜ。逃げ場なんてドコにもないってのにYO」
「ふふふ。思考放棄して無様に走る人間ほど面白いものはないですね」
「相変わらず小難しいこと言ってるなA。そんなんじゃモテねえZO」
そう言いながら、ペルセウスは逃げ惑う人たちの1人の頭を掴み、そのまま握りつぶした。
「Excite! やっぱ頭を握りつぶすのは楽しいな。ぶちゅって潰れる感覚が最高だZE。もっともっと殺してえなあ」
「なら、効率の良い殺し方がありますよ。こうするのです」
プロメテウスがそう言うと、地面から巨大な蔦が飛び出し、逃げ惑う人々を次々に捕まえていく。そしてその蔦から小さなツルが分化し、捕まえた人たちの頭にくるくると巻き付いていく。次の瞬間。
「クラッチ」
頭が一斉に握りつぶされ、血の雨が降り注ぐ。
「Fantastic! 流石はプロメテウスだNA。俺もそんな力を身につけたいもんだぜ。けどさ。こんなに殺しちまって良いのか?」
「問題ありませんよ。既に実験に使うための素体は手に入れてます。後は実験に使えないゴミだけ。なんの問題もありません」
「Excellent! そういうことなら、もっと殺してくるぜーー!」
ペルセウスはそう言って逃げ惑う人々に襲いかかり、次々に人を殺していった。その光景はあまりにもおぞましく、目の前の男が化け物にしか見えなかった。
「カイツ。私達を見てしっかり学びなさい。効率の良い人の殺し方を」
「Wait! そこは楽しい人の殺し方だろ。非効率だろうとなんだろうと、楽しいことが大事なんだからYO!」
人殺しをしてへらへらと笑いながら話す。殺す理由は殺したいから殺しただけ。敵意も何かを守りたいという心もない。力の無い女子供であろうと容赦なく虐殺する。ヴァルキュリア家でのびのびと生きていけるのは、倫理観を無くし、殺戮と人を痛めつけることを快楽とするイカれた奴らだけ。最低最悪の外道家族だ。
その後もお茶会は進行していった。奴らは俺を煽ることこそしなかったが、時々蔑み、見下したかのような目でチラチラ見てきた。俺とアリアの方は基本話すことはなく、ダレスやラルカ、ケルーナは楽しそうに話をしていた。ウルもメイドや執事、プロメテウスたちに話しかけれてたが、仮面を着けたような笑顔で接するだけであり、明らかに会話したくないというのが分かった。最も、他の奴らはそんなのに気づかなかっただろうが。
「さて。時間も良い頃ですね。今宵は皆さん泊まっていって下さい。ワルキューレ家の当主が用意した部屋に案内します。お着替えの方は問題ありません。どの人にも合うサイズの部屋着を用意しましょう」
プロメテウスがそう言ったことでお茶会はお開きとなり、俺たちは泊まるための部屋へと案内された。ウル、ダレス、ラルカ、俺は1つの部屋を用意され、アリアとケルーナはそれぞれ個別の部屋を用意された。
「お食事の時間になりましたら、メイドや執事たちがお呼びします。それまでどうぞおくつろぎくださいませ」
その後、しばらくして食事会が開かれ、ダレスやラルカ、ケルーナ、プロメテウスやペルセウスは楽しそうに話をしていたが、アリアは終始固い表情で食事をしており、ウルは仮面を着けたような笑顔で会話していた。
俺は奴らの食事なんて食べたくは無かったが、ウルに食べないのはまずい、流石に食べたほうが良いと言われ、渋々食べることにした。その時の食事はお世辞にも美味しいとは言えず。吐き出しそうになるのをずっと我慢していた。
こうして、ワルキューレ家で過ごす1日目が終了した。




