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第83話 ウェスト支部にて

 ヴァルハラ騎士団ウェスト支部。そこの支部長室にて、メリナとイドゥン支部長、そして1人の男性が腹立たしそうに足踏みしながら立っていた。男性はスーツ姿といかにも生真面目を着たような格好であり、立っている姿勢も足を揃えて直立と綺麗な姿勢だ。黒髪を綺麗に七三に揃えている姿は正に優等生と呼ぶに相応しかった。


「うーん。リナーテちゃん、遅いわね~」

「たく。あの馬鹿はなにしてんだか」


 メリナが呆れていると、扉が開かれ、リナーテが現れた。


「すいませーん。遅れましたあ」

「やっと来た……ってなんだその見た目は」

「あらあら~。面白い姿ね~」


 メリナはリナーテの姿に驚きを隠せなかった。髪はぼさぼさであり、顔は眠そうにしている。服は片袖が通っておらず、明らかに着替えを適当に済ませた感じが出ている。


「いやー。昨日はカイツ×リナーテの本書くのに徹夜したからさあ。超眠いんだよねー。ふあーあ」


 彼女は眠そうにあくびをし、瞼をこする。


「んで、今日の仕事は何なの?」

「今日はね~。貴方たちにね~」

「支部長。その前にリナーテに言いたいことがあります」


 1人の男が支部長を遮り、リナーテを見る。


「リナーテ。昨日は何時に睡眠を取りましたか?」

「んー。朝の4時くらいかな?」

「騎士団の団員は夜の10時までに睡眠を取り、日の疲れを取るのが当たり前のことでしょう! なぜそんな当たり前のこともせずにくだらない趣味に時間を費やしてるのですか!」

「くだらないって言わないでよお。私にとっては大切なことなんだから」

「世間一般や客観的に見ればくだらないですよ。しかもそんなくだらない趣味のせいで遅刻し、支部長に迷惑をかける! 騎士団の団員としてあるまじきことです。おまえけにその見た目! 髪はぼさぼさで服もだらしない。しかも!」


 彼はメジャーを取り出してリナーテのスカートの長さを測る。


「スカートが既定の長さよりも5cm短い! こんなはしたない格好では騎士団の団員として示しがつきませんよ!」

「つーか人のスカートを勝手に測るな! この変態が!」


 彼女が蹴り飛ばそうとしたが、男はそれを後ろに跳んで回避する。


「レディーの服装に文句つけないでよ。変態メガネ」

「ふん。君のような女をレディーとして見たことないど1度もありません。というか、君にはレディーを名乗る資格は無いです。その理由は3つ。

 1 徹夜、遅刻、不真面目。これらの君の行動はレディーに相応しくない。

 2 君の態度や口調、性格はお世辞にも上品さや清楚からかけ離れている。そんな女がレディーを名乗る資格はない。

 3 服装に無頓着な時点で論外だ。レディーは身だしなみに気を遣い、少しでもよく見てもらえるように努力する素晴らしき人だ。君がそんな人たちと同列に扱われるなど虫唾が走る。

 以上のことから、君はレディーに全くふさわしくないダメ女です。よく聞いて理解し、次から立派なレディーに、立派な騎士団の団員になれるよう努力しなさい」


 リナーテは黙って聞いていたが、我慢の限界を超えたのか、手を交差し、魔術発動の準備をする。


「ほんっと。ぴーぴーぴーぴー鬱陶しいわね。その口縫ってやるわ! アタックコマンド、ew2「アクアバケット!」」


 リナーテが攻撃しようとした瞬間、メリナが水の入った瓶を投げる。そこから水が飛び出し、バケツをひっくり返したかのようにリナーテの頭をびしょぬれにした。


「ここで魔術を使うなよ。苛立つ気持ちも分からなくはないが、今回はお前が100%悪い。ちゃんと反省しろ」

「……あい」

「メジーマもだ。人を注意するのは良いけど、煽るような口調でやるのは良くない。それは余計な争いを産むし、相手もちゃんと聞いてくれないから良いことなしだ」

「煽ったつもりはありませんが……まあ、客観的に煽ってると判断されたのならそうなのでしょう。これから気を付けます」

「ふう。ようやく~。話が出来るわね~。それでは~。今回の任務を話します~」



 イドゥン支部長の話が終わった後、3人は馬車に乗ってある場所へと向かっていた。御者台に人はおらず、代わりに黒い木の人形が務めている。


「便利よねえ。騎士団で開発中の自動運送馬車。その試作品。うちの技術力ぱないわね」

「頭の悪い言葉を使わないでください。それより資料の確認をしなさい」

「たく。相変わらずの生真面目メガネねえ。少しくらいは雑談しても良いじゃん」

「任務の最中ですよ。雑談なぞしてたら致命的なミスの原因になる可能性があります。そんなことも分からないほどに不真面目で馬鹿なのですか?」

「……はあ。やっぱこいつ苦手だわあ。とっとと死ねばいいのに」


 険悪な雰囲気の中、メリナが頭を抱えながらぼそっと呟く。


「……今日の任務。人選ミスってんだろ」


 険悪な雰囲気の中、任務のために渡された資料の確認が行われる。今回の3人の任務はとある場所に現れた未知の魔力を調査すること。その魔力は偽熾天使(フラウド・セラフィム)に酷似したものであり、非常に危険なものの可能性がある。そのため3人の任務はその魔力の源の破壊。不可能の場合は情報だけ持ち帰って帰還するとのこと。


「場所はヘカトンケイル。別名地図いらずの森ノーマップ・フォレスト。嫌な所だな」

「? メリナ。そのノーマップなんたらって何?」

地図いらずの森ノーマップ・フォレストな。この森に入った者はどうやっても2度と帰ることが出来ず、朽ちて行くだけだと言われている。帰れない者に地図はいらないだろ。だから地図いらずの森ノーマップ・フォレストだ」

「ひえええ。おっそろしい所ねえ。今からでも帰りたいんだけど」

「今帰ったら俺があなたを殺します。任務をまともにしないようなカスは生きてる資格ありませんし」

「チッ……ほんとうざいわねえ。釘刺されなくても逃げやしないっての。にしても森かあ。あんま行きたくないなあ。じめじめしてるし気味が悪いし。あーあ。カイツに会いたいなあ」


 彼女は愚痴を言いながら、馬車の席の上で寝転がろうとしたが、それをメジーマが防ぐ。


「行儀が悪いですよ。寝転がらないでください」

「……もう。これだから苦手なのよお。自由が無いし、口うるさいし。カイツに会いたーーーーい」





 ヴァルハラ騎士団ノース支部にて。カイツはクロノスと訓練用の部屋で雑談をしていた。先ほどまでぶっ続けで訓練を続けており、その時間はおよそ6時間以上。彼女は大して息切れをしていなかったが、カイツはかなりへばっていた。


「そう言えばカイツ様。お茶会の場所はどこなのですか?」

「確か、ヘカトンケイルって場所だったはずだ」

地図いらずの森ノーマップ・フォレストですか。ずいぶんと不気味な所でのお茶会ですね。怪しさしかありません」

「どんだけ怪しくても行くしかないさ。ヴァルキュリア家の貴重な手がかりだし、イシスにもつながるかもしれないからな。よし。鍛錬の続きだ。もう体力は回復してるから問題ない」

「さすがカイツ様! そのスタミナ回復の速さは恐るべきものです!」

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