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第70話 狼との邂逅

 side カイツ


 ウルの母親が、白銀の髪の男を紹介する。


「ウル。彼はガルードさんと言って、強制縁談で貴方と結婚する予定の男性よ。200人近くのサキュバスを墜とした超優良物件で、とっても紳士的な方なのよ」


 200人近くとは恐ろしいな。それだけの数の女性を手籠めにするとは。彼はアリアをじろじろ見た後、俺とウルを値踏みするように見始めた。


「ふむ。そこの赤髪メッシュが入った女性が、僕が結婚する予定の女性かな?」

「ええ。そこの白い髪の男性は、あなたとバトルする予定の男性ですわ」

「ほお。彼が僕とバトルする男か」


 彼は興味深そうに俺をじろじろと見つめて来た。


「ふむ。中々に面白い男だ。中に何かがいるし、剣の実力も素晴らしいことが分かる。そして、その黒髪の女に好かれてることがよく理解できる。君はかっこいい男だな」

「そりゃどうも」

「だが、僕の美しさにはかなわないし、とっても弱い。君はウルの結婚相手に相応しくない。」

「ちょっと。カイツをずいぶんとぼろくそに言うじゃない。カイツも貴方に負けず劣らず美しいと思うのだけど」


 ウルがそう言ってくってかかると、ガルードはウルの顎をくいっとあげる。


「カイツ君をかばう君の姿。とても美しいものだね。可憐な花が棘を出し、敵を傷つけて仲間を守るものに似ている。思わず見惚れてしまったよ」

「あう……こ、こんなもので私は」


 あれは7割くらい墜ちてるな。前も思ったけど、本当に惚れやすいんだな。あの軽さは少し直した方が良い気がするけど。そう思ってると、彼は彼女の耳元に顔を近づける。


「改めて君と結婚したくなったよ。麗しき薔薇よ。どうか僕と結婚してほしい」

「……くう……わ、私は……カイツと……結婚します、ので、貴方とはしません」


 とんでもなく心が揺らいでるな。あの状態で彼の求婚を断れるのは凄いかもしれない。


「そうか。お母様。彼と戦って僕が勝てば、ウルと結婚出来るのですよね?」

「ええ。けど貴方が負ければ、縁談の話は無しにさせてもらいますよ」

「良いですよ。僕よりも美しくないものに負けるなんてことはありえないですからね」


 ナルシストというか調子に乗ってるというか。とにかく、俺が苦手なタイプの人間だな。


「ずいぶんと調子に乗ってるわね。自分が負けることは考えてないみたいね」

「そりゃそうだ。僕はこの世で最も美しい存在だ。この世は美しい者だけが勝利することが出来る。ならば、この世で最も美しい僕が負けることなどありえないんだよ」

「大した自信家だな。その鼻っ面へし折ってやるよ。さっさと場所を移動してやろう。こんな所で戦うのは危ないからな」

「いえ。ここで戦っても大丈夫よ?」


 場所を移動しようとすると、母親が呼び止めた。


「なんでですか? こんなところで戦ったら周囲の物がめちゃくちゃになりますけど」

「なんでそんなことになるのよ。戦うと言っても殴り合いや剣のぶつけ合いをするわけではないわ。バトル内容は、ウルへの愛の深さよ!」

「愛の深さ?」

「貴方たちのウルへの愛の深さは十分に理解してる。だから、ここでは彼女に求婚し、ウルがキュンとして手を取った人が勝利よ! 要するに告白勝負!」


 告白勝負か。というか、あのガルードって人も母親に認められるくらいにはウルへの愛が深いのか。初対面らしいのにそこまで愛が深いってのは凄いな。


「さあ。誰が告白するのかしら? これは早い者勝ちみたいなところもあるわよ!」


 愛の告白か。結婚する気はないが、ガルードって奴に負けるわけにはいかないし、全力で行くとしよう。


「君から先に行きたまえ。美しくない君がどんなに愚かな告白をするかを見させてもらおう」


 ずいぶんと調子に乗ってるな。それなら、彼の更意に甘えてとっととウルをぶんどるとしよう。


「ウル。俺はお前のことを愛してる。お前と初めて会った時は変な奴かと思ったけど、仲間を思いやる優しさや実力に惚れていって、いつの間にかウルのことばかり考えるようになってしまった」

「カイツ」

「俺と結婚してくれ。お前以外には考えられないんだ」


 そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。


「はい。私、貴方と結婚するわ」


 彼女はそう言って俺の手を取った。これでなんとかなったかな。愛の告白なんざ碌にしたことないから、どうにもやり方がよく分からない。俺たちのそんな姿を、ガルードは失笑したように笑う。


「やはり君の告白は美しくないな。その程度の告白しか出来ないとは」


 ずいぶんと馬鹿にしてくれるじゃねえか。どんだけ人のことを見下せば気が済むんだ。


「美しくない君に見せてやろう。本当の告白というものを」


 そう言って、彼はウルの肩を掴んだ。


「ウル。僕と結婚してくれ」


 そう言うと、ウルは急に顔を赤くし、目にハート模様が浮かんだように見えた。


「はい! 私、貴方と結婚します! 一生貴方についていきます! 絶対に貴方から離れません!」


 そう言って、彼女は彼の手を両手で強く握りしめる。


「お母さん。私、この方と人生を歩むわ! この方となら、必ず人生が上手く行く! そう決まってるのよ!」

「あらあら。貴方がそこまで入れ込むなんて珍しいわね~。これはとんでもない大発見だわ~」


 おいおいマジか。いくらちょろいとはいってもこれはやばすぎないか。ガルードは勝ち誇ったような笑みを浮かべて俺に振り返る。


「分かるかい? これが美しい者の力だ。僕のように真に美しいものは、長い言葉を使わなくても、相手を魅了することが可能なのだよ」


 確かにその通りだと言いたいところだが、これは何かが違うような。言葉には出来ないけど、何かがひっかかる。


「ちょ。ウル。お前それで良いのか? この縁談嫌がってたけど」

「はじめは嫌だったわ。でも、彼みたいな美しすぎる人と結婚できるなら、他のことなんてどうでも良いわ! カイツ、貴方には迷惑をかけたわね。でも私、もう彼以外考えられないのお!」


 彼女はまるで発情してるかのようにそう叫んだ。まさかこんな展開になるとは。これはいくらなんでも予想外すぎる。


「あらあら凄いわね。まさかこんな展開になるとは思わなかったわ」


 本当にそうだな。しかし、ウルの様子が少しおかしいように見えるが、気のせいだろうか。ちょろい女ってことは知ってたけど、あんな発情したような感じになることは無かったような気がするけど。


「さてと。それじゃあ結婚パーティーを始めましょうか。カイツ君はどうする? パーティーに参加する?」

「あ……はい。俺も参加します」


 一応ウルの結婚相手も決まったことだし、お祝いのためにもパーティーに参加するとしよう。


「では、僕は一旦失礼するよ。美しき薔薇と共演するためには、着飾る事が大切だからね」

「嬉しいわ。私のためにそこまでしてくれるなんて」

「これぐらい未来の花嫁のためなら当たり前のことさ。美しい格好で君を迎えるから待っていてくれ」

「はい。分かりましたわ。貴方」


 ずいぶんと甘ったるい空間だな。ウルってあんなんだったか。そう思ってると、彼が俺のーいや、俺がおぶってるアリアの肩に手を置いた。


「すまないな。君の最愛の人を奪ってしまった。だがそれも、君が美しくないのが原因だ。恨むなら、醜いい自分を恨み、これからも精進することだ」

「アドバイスどうも。それより、さっさとアリアから手を離せ」

「おっと失礼。久しぶりに仲間と触れ合ったけど、良いものだねえ。最高の気分だ」


 奴はぶつぶつと小声で何か言いながら、部屋を出て行った。奇妙な奴だな。ただのナルシスト野郎ってわけでもなさそうだが。それにしても、この言葉に出来ない妙な違和感は何なんだ。何かが引っかかる。

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