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第65話 ミカエルとの1日 白銀の獣

 side カイツ


 俺はミカエルと一緒に砂の城を造っていた。


「むっふふふ。良い感じになってきたのお。カイツ、ここの部分に砂を追加しておくれ」


 俺はその指示通りに壁の部分に砂を追加する。砂の城と言ってもかなり本気のものであり、彼女は頭を悩ませながら城を造っている。まだ一部しか完成していないが、色を無視すれば本物と遜色ないレベルの代物だ。ここまでレベルの高い砂の城は初めて見る。


「ここをこうやって……いや、だめじゃの。このままではいかんわい」


 ただ、砂の城を造るのは良いんだが。


「ミカエル。いつまで俺の上にいるつもりだ?」


 俺はあぐらをかいており、彼女はその上に座っていた。


「なんじゃ。この体勢は嫌じゃったか?」

「嫌というわけではないが、少し落ち着かない」


 俺がそう言うと、彼女は悪そうな笑みを浮かべる。


「ふふふ。そう緊張するな。お主はいつも通りで良いんじゃぞ。ほれほれ」


 彼女はお尻をすりすりとさせながらそう言ってくる。


「おいミカエル。こういうことするのは」

「おおお。カイツの赤面とは珍しいのお。ふふふ。恥ずかしいことをした甲斐があるわい」

「恥ずかしいならなんでやるんだよ」

「お主に好きになってほしいからじゃよ。あと、お主とこうやってすりすりするのが大好きなのじゃ」


 そう言って彼女は俺の方を向いて抱き着いて来た。


「はあ。お主の匂いは良いものじゃのお。これまでの疲れが一気に吹き飛ぶようじゃ」

「そうか。それは、ありがとう」

「ふふふ。心臓の鼓動がうるさいのお。そんなに妾に抱き着かれるのは緊張するのか?」

「さあ。どうだろうな」

「強がりじゃのお。そんなお主はこうじゃ」


 彼女の羽がもふもふの尻尾へと変わり、それは巨大化して俺の体を包み込む。ふんわりした柔らかさ、ふわふわした毛、心地よい暖かさは俺の力を奪っていく。


「うお……力が抜ける」

「ふふふふ。気の抜けたお主の顔は可愛いのお。どうじゃ。妾のモフモフ攻撃は」

「ああ。今にも寝ちまいそうだ」


 うとうとしていると、尻尾が離れ、天使の羽に戻っていく。もう少し堪能したかった。


「ふふ。睡眠も良いが、今日は妾とのデートなのじゃ。しっかり起きておれ」


 そう言って彼女は俺のところにもたれかかり、腕を引き寄せて抱きしめる。


「ふふふ。腕の筋肉も良いものじゃのお。それにこの匂い。くらくらしてしまいそうじゃ。こうして過ごすのも久しぶりじゃからのう。今日はめいっぱい堪能させておくれ。妾がここまで長いこと実体化できる日は、そうないのじゃから」

「姿を隠そうとしなければ、長いこと実体化できるだろうに」

「それはダメじゃ。妾は高貴なる存在なのじゃ。安易に他の者に姿を見せるわけにはいかんのじゃよ」


 高貴なる存在は人の上に座ってこんなことをしないと思うんだが、そうしてる間に城は完成し、立派なものになった。


「おお。完成したな」

「うむ。立派な城になったわい。ふふふ。こうして砂の城を造るのも良いものじゃな」


 彼女はそう言って俺の方にもたれかかる。


「カイツ。せっかくじゃし、もっと海で遊ぼうではないか」

「ああ。そうだな」


 俺たちは海の中を泳ぎながら、魚や珊瑚を眺めていた。ミカエルのおかげで目を開けられるし呼吸も出来る。本当になんでもありだな。流石は世界を作り変えると自称するだけはある。


「おお。綺麗な魚が泳いどるのお。こういうのを見るのは楽しいものじゃ」

「そうだな。あ、あれ見てみろよ」


 そう言って俺が指さした方には宝石のように綺麗な石が並んでいた。


「おお。あれは海宝石(うみほうせき)じゃな。海の中でのみ輝きを放つ不思議な石じゃ」

「良いな。あの綺麗な石を見てると、心が和む」

「うむ。海は良いものじゃ。ゆったり休むには最高のスポットじゃな」


 ミカエルは俺の手をつなぎ、速度を合わせながら泳いでいく。



「ふふふ。こうしてると本物の恋人みたいじゃな。心地よい」

「恋人か。それは良いな。おまえとそんな関係になれたら、楽しくやれそうだ」

「おお。では恋人になるか? なっちゃうか? いやなろう! いますぐつがいになっておくれ」

「気が早い。俺は恋人作る前に、清算しないといけないものがあるんだよ。それまでは恋人探しはしない」

「清算。ヴァルキュリア家のことか?」

「ああ」


 人体実験大好きな外道一族。俺は奴らに人生を破壊され、調教された。前に進むためにも、奴らに落とし前つけて、叩き潰さないといけない。


「カイツ。あまり1人で考え込むなよ。妾はお主の味方じゃ。お主のためなら、たとえ火の中水の中。どこまでもついていく」

「それはありがたいけど、なんでお前はそこまで良くしてくれるんだ?」

「お主と会った時に一目ぼれしたからじゃよ。じゃから、妾はお主のためなら命も懸けられる」


 会った時か。彼女と会ったときのことはよく覚えている。雨が降りしきるあの夜。


 全てを失い、死にかけていた最悪の夜だった。


 正直、彼女がなんでここまで尽くしてくれるのか分からない。あの頃を思い返しても、惚れる要素があったとは思えないからな。もしかしたら、俺は騙されてるんじゃないかって不意に頭をよぎったりもする。けど。


「おいカイツ。お主、妾に騙されてると思っとらんか? 言っとくが、妾はマジにお主のことを愛しとるのじゃからな。その証拠にここで繋がってやろうか? 妾がつがいになって、一生お主を縛ってやろうか?」

「怖いこと言うなよ。つながるのはまだしも、縛られるのはまっぴらごめんだ」

「なら、妾のことを信じろ」


 彼女はそう言って俺に抱き着く。その目は嘘などついていない、本気だという圧を感じる。鈍いと言われる俺でも、彼女の愛が本物だということは、目を見ればすぐにわかる。けど。


「ミカエル。この質問に答えてくれ。アルフヘイムでルサルカと戦った時、何があったんだ」


 そう言うと、ミカエルは少し暗い表情になった。


「ミカエルは知ってるんだよな。俺に何があったのか。俺の中に何かがあることを知ってるんだろ。ルサルカに突き刺されて意識が消えた時、俺は真っ赤な海の中にいた。あれはどこなんだ。お前は何を隠してる」

「……すまぬ。今は話すことが出来ない。ただ、これだけは信じておくれ。妾はお主の味方じゃ。秘密にするのも、お主を守るためなんじゃ。嘘っぽいかもしれんが、これは真実じゃ。妾はお主を守るためならなんでもする。」


 ミカエルの目は強い意思がこもっており、その言葉に嘘が無いということが理解できた。


「いつか、俺の秘密について話してくれるんだよな?」

「もちろんじゃ。必ず話す。それに、その時期はそう遠くなさそうじゃしな」


 彼女は遠くを見つめるように空を見ながらそう言った。







 ミカエルとカイツがいちゃついてる最中、クロノスは町中を歩いていた。


「はあ。カイツ様とデートしようと思ってたのに、いつの間にかどこかに行っちゃって悲しいです」


 彼女が落ち込みながら町を歩いて買い物をしていると、妙な気配を感じた。現在は拘束具のような眼帯をしており、目を隠している。彼女が目を隠すのは、何か危険なことがあるとか、隠さなければならないルールがあるわけではない。ただ単に、彼女が気に入った人以外には自分の目を見せたくないのが理由である。


「これは……獣女と同じもの」


 不審に感じた彼女は気配のする方へと走っていく。そこは沢山の女性が集まっており、歓喜の声が聞こえていた。


「きゃー! ガルード様あああ! こっち見てええ!」

「いいえ! そんな女より私の方を見てえええ!」

「ああ。いつ見ても素晴らしいわ。まさに太陽のようなお方。あの方の前では、どんな男も薄汚く見えてしまう」


 女性たちの中にいるのはきらきらと輝く銀色の髪をなびかせる青年だった。髪は肩まで伸びており、獣の耳が生えている。赤い目は狼のように鋭く、ぎらついた目をしていた。彼が周りの女性に愛想を振りまいていると、クロノスと目が合った。その瞬間、彼は一瞬だけ驚いたような顔をすると、彼女のいる方へ飛んでいった。


「君。とても美しい顔をしているね」

「はあ。そうですか」


 彼女は心底どうでも良さそうに言うが、彼はそれに気づくことなく、彼女にさらに近づく。


「良い顔だ。眼帯で目を隠していても僕には分かる。君は絶世の美女だ。君の前では、どんな宝石もくすんで見えるだろう」

「そうですか。どうでも良いです」


 彼女が彼を無視して行こうとすると、彼は彼女の道をふさぐように前に立った。


「君のような美しい女性は、美しい男である僕といるべきだ。君には、僕と結婚する義務を与えよう」


 彼がそう言うと、女性たちがざわめき立つ。


「ええええええ!? 彼と結婚出来る義務!?」

「羨ましい! 私も彼と結婚できる義務が欲しいいいいい!」

「くそおおお。あのクソダサい夫さえいなければ、私にもチャンスが生まれたかもしれないのに」


 女性陣は阿鼻叫喚となっていたが、クロノスは特に気にしていなかった。


「なんであなたみたいな勘違い馬鹿と結婚しないといけないんですか。ごめんこうむります」


 彼女がそう言って歩こうとすると、彼はまた彼女の前に立った。


「おいおいいけない子猫ちゃんだな。君には僕と結婚する義務が与えられた。つまり、僕から離れることは許されないんだ。僕と結婚しろ。それが君のやるべきことだ」

「……はあ。あなたみたいな馬鹿と結婚するつもりはありません。そこをどいてください」

「どうして断るんだい? 僕みたいな美しい獣と結婚できることに、メスの喜びを感じないのかい? 僕を見てると疼くだろう。君のメスの部分が」


 彼が彼女に触れようとした瞬間。


「離れろ」


 すると、彼は何かに突き飛ばされたかのようにふっ飛ばされた。しかし、彼女が思っていたほどには吹っ飛ばなかった。女性たちは驚いたり、クロノスに怯えたりしていた。


(この獣。多少はやるみたいですね。言霊の効きが少し悪いです)


「やるねえ。美しい花には棘があると言うが、君は棘とかいう生易しいレベルではないな。それに強気で実力もある。君みたいな女の子は屈服させたくなるよ!」


 彼がそう言った瞬間、一気に距離を詰め、殴りかかってきた。クロノスは防御したが、それでも勢いを殺すことは出来ず、ふっ飛ばされてしまった。


(獣のくせにずいぶんなパワーですね。防御してここまで飛ばされるとは)


「ほお。この一撃を防御するとは。中々に素晴らしい。次はもう少し強めにいっちゃおうかな」


 彼が再び攻撃しようとすると、彼の懐からぴぴぴぴぴっと音が鳴り始めた。彼は時計を取出し、音を止めた。


「おっと。もうこんな時間か。そろそろサキュバスの店に行かなくては。美しき女性よ。さらばだ!」


 彼はそう言ってどこかに行ってしまった。


「はあ。なんだったんですか。あの変な獣は」


 彼女は呆れながら買い物の続きを始めた。その際、彼の周りにいた女性たちが責め立てるようになじっていたが、彼女はそれを無視していた。


(あの獣。妙な力を持っていました。それに、サキュバスの店と言ってましたね。なんだか、妙なことに巻き込まれた気がします)


 彼女はそう考え、これから先に面倒なことがありそうだと憂鬱になりながら、町を歩いていた。


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