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第60話 熾天使の真の力

 side カイツ


 螺旋階段を駆け上がり、一番上にあった扉を開けて4階に着いた。


「!? ここは」


 そこは倉庫のような場所であり、中には紫の石が大量に転がっていたり、武器が無造作に散らばっていたりと汚い部屋だった。


『これは驚きじゃ。まさか妾の食料がこんな所にあるとは』

「奴ら。一体何のためにこの石を」


 偽熾天使(フラウド・セラフィム)とやらのために必要なのだろうか。というか少し思ったんだが、奴らは何のためにあんなのを作ってるんだ。ヴァルキュリア家やモルぺウスたちの目的はなんだ。分からないことが多すぎる。


「まあいい。奴らのやることがなんだとしても、俺のやることは変わらない。ルサルカを助けて、奴らを潰す」


 ルサルカを探していると、取っ手が鎖でがんじがらめにされてる扉を発見した。いかにも入ってくんなって感じのものだな。鎖を刀で斬り、扉を開けた。その先にはルサルカがおり、床で寝ていた。


「ルサルカ!」


 ルサルカに駈け寄って脈や呼吸を確認する。気絶してるようだけど、呼吸や脈は正常だ。外傷もないし、何かされたような形跡もない。


「良かった。何ともなさそうだな」

『とりあえず、一安心と言った所じゃな』


 俺が安堵していると、ルサルカが目を覚ました。


「ん……ここは」

「起きたか。ルサルカ、体は大丈夫か?」


 彼女は何かを確かめるように指を曲げたり伸ばしたりした。


「うん。すこぶる快調」


 彼女はそう言って俺から離れ、自分の足で立った。なんだ。ルサルカのはずなのに、何か違和感を感じる。けど、この違和感は何だ。


「カイツが来てくれて良かった。本当に良かったよ」

「ルサルカ? 一体何を」

『!? カイツ! 離れろ!』


 ミカエルがそう言った直後、ルサルカの腕から水の刃が飛び出した。咄嗟に回避したものの、顔の頬を少しだけ斬られた気がした。しかし、傷もないし、血も出ていないので気のせいだろう。それよりも。


「何の真似だ。こういう冗談は好きじゃないんだが」

「知ってるよ。だから本気でやってる」


 こいつ。まさか偽熾天使(フラウド・セラフィム)の力にやられてるのか。そんな俺の考えを見透かしたかのように、彼女が鼻で笑う。


「違うよ。私は暴走してるわけじゃないし、洗脳もされてない。この行動は私の意思。やりたいからやったの」

「どういうことだ。なんでお前が俺を攻撃するんだ!」

「攻撃じゃないよ。これは恩返し。この天使の力で呪いを殺して、カイツに恩返しするの」


 意味が分からない。明らかに会話が成り立ってない感じしかしない。だが、知能が低下してるわけではなさそうだ。ルライドシティで会った暴走アレウスよりも、何を言ってるかは理解できる。内容は全く理解できないが。


「ミカエル。今のあいつはどういう状況だ。本当に洗脳やら暴走はしてないのか?」

『してないのお。いまのあやつは間違いなく己の意思でお主に攻撃した。魔術による洗脳は見られん。言葉による洗脳をされてる可能性はあるがの』


 言葉による洗脳。その可能性はあるな。だが言葉で洗脳したとして、一体何をしたんだ。こんな短時間で彼女の性格をここまで変えるなんて。


「ルサルカ! なぜ俺と戦う必要がある。俺はお前を助けに来たんだぞ!」

「知ってるよ。カイツはずっと私のために色々やってくれた。だから、その恩返しのために、呪いを殺すの!」


 彼女は手から水の剣を作り出し、俺と何度も剣をぶつけ合う。スピードはあるが、扱いは明らかに素人だ。この程度の剣捌きなら余裕でしのげる。


「凄い。私の剣をここまで完璧にさばけるなんて。やっぱりカイツは凄いよ!」

「褒めてくれてどうも!」


 俺が奴の剣を弾くと、奴は自身の手から水の矢を作り、俺に放ってきた。言ったん下がりながら全ての矢を弾いていき、再び奴に接近していく。


「速いね」

「おまえなあ。とっとと、目を覚ませええええ!」


 俺は渾身の力で彼女の顔を殴り飛ばした。大きく吹っ飛んでいったが、ダメージは無いかのように起き上がった。かなり強めに殴ったはずなんだがな。ダメージを負わないとは大したものだ。それに、洗脳から解けた様子もない。


「凄いねカイツ。呪われてるのに、こんなに強いパンチを繰り出せるなんて。やっぱりカイツは強くて最高だね」

「さっきから気になってたんだが、俺が呪われてるってのはどういう意味だ? 俺は何かに呪われた覚えはないんだが」

「……やっぱり覚えてないんだ。まあ無理もないよね。すっごく残酷な思い出なんだから」


 マジでなんの話をしているんだ。残酷な思い出だの覚えてないだの好き勝手言いやがって。


「洗脳だけでなく、頭も多少はやられたみたいだな。なら、今度はもう少し強く殴って、目を覚まさせてやるよ」

「残念だけど、今のカイツじゃ、私には勝てないよ」


 奴はそう言って、再び自身の手から水の矢を作り出した。あの能力は恐らく、体内の水を自在に操るってものだ。だとすれば、能力を使えば使うほどに体内の水が減り、まともに戦うことすら出来なくなるはず。そこを狙うしかない。


「カイツ。私の能力、水を操る程度だって思ってるでしょ? 残念だけど、天使の力はそこまで優しくないよ!」


 奴が指を鳴らすと、手から豆のように小さ弾が飛び出した。その速度は目で追うのがやっとで避けることが出来ず、俺の肩を貫いた。


「ぐ!? なんだ。これ」


 何が飛んできた。水……じゃない。弾が当たった感触は明らかに水じゃなかった。


「ほーら。次々行くよ!」


 手から何十発もの弾が放たれ、襲い掛かって来る。ほとんどを剣で弾くことは出来たが、何発かが俺の体を貫いた。


「くそ! 随分と鬱陶しいな」


 俺は痛みに堪えながら貫かれたところをさすろうとしたが。


「!? 傷が」


 確かに弾に貫かれたはずなのに、その箇所は穴どころか傷すらなかった。どうなってる。痛みはある。それなのに傷が無い。


「ふふふ。凄い魔術でしょ。体内の水を操るなんてちんけなものとは違うよ」


 どういう仕組みか分からないが、ずいぶんと摩訶不思議な魔術のようだ。


「さて。どうしたものかな」

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