第37話 いざ食料調達へ!
偽熾天使による騒動を終え、報告書を書き、ウェスト支部に滞在する理由も無くなったので、俺たちはノース支部に帰ることになった。馬車で帰る時にはウェスト支部のメンバーが何人か見送りをしてくれて、イドゥン支部長やリナーテ、メリナもいる。
「今回は〜。本当にありがとうね〜。あなたが来てくれて嬉しかったわ〜」
「いえ。こちらも色々とありがとうございます。お世話になりました」
「ほんと、カイツが来てくれて良かった。メリナも少しだけ元に戻ったしね」
「うるせえよボケ。カイツ。絶対にまた来いよ。じゃないとぶん殴るからな」
「殴られるのは怖いな。近いうちに顔を出すとするよ」
「あと、次来るときは1人で来てくれ。じゃないと蹴る」
「分かった。けど、なんで1人で?」
「他のやつがいると落ち着かねえからだ」
メリナと話をしていると、リナーテがにやにやしながらメリナの後ろに来た。
「なに笑ってんだ。性悪女」
「いやー。メリナも素直じゃないと思ってさ。本音は、他の女がいると嫉妬するからって理由ーふぎゃ!?」
メリナがリナーテの頭を殴り、むりやり黙らせた。
「余計なこと言うんじゃねえよ性悪女」
「あい……すみませんでした」
「あはは。リナーテは、その口の悪さを直しておけよ。それじゃあ俺たちはもう行くよ」
「おう。元気でいとけよ」
「元気でね。あんたが元気じゃないと、私もメリナも悲しいから」
「みんな〜。元気でね〜」
俺たちはみんなに見送られながら、ルライドシティを後にする。馬車に揺られながら、アリアが話す。
「変わった人が多かったですけど、良い人ばかりでしたね」
「そうだな。にしても、あんなところでリナーテやメリナと再会するとは思わなかった。世間って意外と狭いんだな」
「ですね。カイツの昔の知り合いと聞いた時はびっくりしたです。それに、なんだかムカムカしたのです」
「? 何か嫌なことでもって、リナーテに変なあだ名付けられてたな。そりゃムカムカするか」
「それもあるですけど……えっと……カイツのことを」
「? 俺がどうかしたのか?」
俺がそう聞くと、彼女は激しく首を横に振った。
「何でもないです。気にしないで欲しいのです」
めちゃくちゃ気になるけど、本人が何でもないというのなら、追及するのはやめておこう。しつこくして彼女に嫌な思いをさせるのは嫌だからな。
『ふふふふ。お主は本当に罪作りな男じゃの。おまけにド天然の鈍感人間。ほんと、お主は面白いわい』
「さいですか」
ミカエルは何を面白がっているんだ。あと誰が鈍感だ。これでも人の気持ちには鋭いほうだ。そう思いながら景色を眺め、俺はノース支部へ帰っていった。
ノース支部に着いた後、支部長に報告をしてオレとアリアは自分の部屋へと戻った。クロノスは追加の任務があるらしく、支部長室に残った。支部長室を離れる際、クロノスが泣きながらひっつくから剥がすのが大変だった。ロキ支部長はゲラゲラと笑いながら見てるだけだったし、アリアからの視線は冷たかったしで色々大変だった。
「ふう。やっぱり自分の部屋が一番落ち着くな」
「分かるです。この部屋とっても住心地が良いですから」
俺とアリアはぐでーっと体を伸ばしながら体を休める。ウェスト支部では色々ありすぎたからな。もう体がクタクタだ。今日ばかりはゆっくりと休みたい。体を休めてると、ミカエルが実体化した。
「カイツー。あれを食わせておくれ。腹が減った」
「分かった。ちょっと待っててくれ」
俺はカバンを取り出し、紫色の石を取りだそうとする。紫色の石は天空石と呼ばれる石であり、妙な色をしたただの石にしか見えないが、ミカエル曰く、美味しくて大事な食糧らしい。
「あれ?」
「どうした? 早く食わせておくれ」
「ちょっと待てよ。ええと」
俺はカバンの中を漁ったりひっくり返したりするも、天空石はどこにも見当たらなかった。
「……ミカエル。石がない」
「なんと!? いやでも考えてみれば、最近は任務ばかりで採りに行く暇がなかったからのお。そりゃ無くなるわけじゃな」
そういえば、確かに採りに行く時間は無かったな。そりゃ無くなるわけだ
「カイツ! 石を採りに行くぞ。今の妾は、あれがなければ生きていけぬ」
「おっけー」
俺はミカエルの元に行き、彼女の手を握る。
「カイツ。何をしてるのですか?」
「ちょっくら石を採りに行ってくる。アリアも来るか?」
「石? よく分からないけど、カイツが行くなら、私も行くです」
彼女はそう言って近づき、俺とミカエルの手を握った。
「お主は基本的にカイツにべったりじゃな。たまには他の者と関わるのも大事じゃと思うが」
「私はカイツがいればそれでいいんです! それより、どうやって石を採りに行くのですか?」
「こうするのじゃよ。スーパー」
彼女は手に力を込めながら、大声で叫ぶ。
「大天使ぱわーーー!」
その瞬間、俺たちの体は光に包まれ、視界が光で覆われた。
「ふにゃーーーー!? なんですかこれーーー!」
「手を離すでないぞ。どこに飛ぶか分からんからな。よし。ここじゃ!」
光が収まると、俺たちは巨大な洞窟の前に立っていた。周りは広大な海が広がっている。
「え……えええええええ!? ここどこですかああああああ!?」
すごい驚きっぷりだな。まあ、こんなわけわからないのを初めて体験した時はこうなるよな。俺も初めての時はめちゃくちゃびっくりしたし。
「これぞ、妾のスーパー大天使パワーじゃ。目印を付けたところなら、どこへでも瞬時に移動することが出来る便利な力じゃ」
「……カイツ。ミカエルってなんでもありなんですね」
「そうだな。彼女の力は底が見えなくて恐ろしくて、頼もしい」
「ふっふーん。妾は世界を壊し、作り変える者じゃからな。この程度のことは朝飯前なのじゃ」
彼女は胸を張りながら、どやあっと言った感じでそう言う。普通ならイラッと来そうだけど、彼女がしたら似合ってるように見えるから不思議なものだ。
「さて。この洞窟に行くとしようかの。食糧調達の始まりじゃ!」




