第35話 事態収束
「ああもう! カイツの奴先行き過ぎでしょ!」
リナーテは先に行ってしまったカイツを必死に追いかけていた。彼の身体能力があまりにも高く、彼女は置いてかれてしまったのだ。現在、魔物レーダーを使いながら残りの偽熾天使を探していたが。
「既に偽熾天使は全滅してる。レーダーの反応じゃ、残り3体くらいいたはずなのに、少し目を離したすきにそいつらは死んでいた。さっきの青い柱と関係あるのかな? ていうかクロノスって奴いないじゃん。あの性悪女。どこでなにしてんのよ」
彼女が愚痴を言いながら走っていると、ようやく避難所の前にたどり着いた。
「はあ。やっと着いた。カイツ~。アリアは……どう……した」
彼女は目の前に光景に絶句していた。なぜなら。
「離れろアリア! つかどういう状況なんだ!」
「わんわん♪ わーん♪ くんくんくんくん」
獣のような姿になったアリアがめいっぱいカイツに甘えており、顔を舐めたり、匂いを嗅いだりしていた。
「……カイツ。あんたなにしてんの?」
「リナーテ!? ち、違うんだ! こいつがいきなりこんなことをしてきて。俺は迷惑してるんだよ」
「の割には鼻の下伸ばしてるみたいだけど? つかそいつのその姿なに? 明らかに色々変わってるけど」
「いや、そんなはずは!? と、とりあえず、こいつをなんとかしてくれ!」
「……悪いけど、私はいちゃついてる奴らに水を刺す女じゃないのよ。じゃあアリアのことよろしくー」
「おい! 待てリナーテ! おーい!」
彼女はカイツの助けを無視し、避難所に空いた穴から中に入った。
「うわあ。どえらいことになってるなあ。」
避難所には巨大な壁が出来ており、あちこちに血が飛び散ってたり、壁がへこんでいたりと酷い有様だった。そして、メリナが血を流して倒れていた。
「ちょっ!? メリナ!」
彼女はメリナに駈け寄り、脈を確認する。
「生きてる? 生きてる? 生きてますかーーー!?」
「……生きてるよ。つかもうちょい声量落とせや」
かぼそい声ではあるが、彼女はなんとか生きていた。
「おお。生きてて良かった。てか脈確認したから生きてるの知ってたけどね~。でも、こんだけひどい傷なのに良く生きてたね。もしかしてあんたって不死身なの?」
「声量落とせって言ってんだろ。出てきた血を治療液に錬成して治療したんだよ。血はかなり失ったけど、ぎりぎり傷を治すことは出来た。アリアは今どこに?」
「ああ……ちょっと変なことしてるというか……変になってるというか……まあ見れば分かるよ」
彼女はメリナの腕を肩に回し、避難所を出た。
「……なんだ。あれ」
メリナが見たのは、カイツがアリアに舐められている姿であり、アリアは尻尾をぶんぶん振り回していた。
「わんわん♪ わんわーん♪ わーんわん♪」
「アリア! とりあえず落ちつーどわ!? 顔を舐めるのをやめろ。おい!」
リナーテは苦笑いを浮かべており、メリナは絶句していた。
「おい。あいつらがいちゃついてるようにしか見えないのは私だけか?」
「奇遇ね。私もいちゃついてるようにしか見えない。本人が言うには違うらしいけど」
「てか、アリアのあの姿はなんなんだ? そもそも残りの偽熾天使はどうなった?」
「アリアがああなった原因は不明。偽熾天使はすでに全滅してるよ。多分、あいつが片付けたんだと思う」
「マジか。それはすげえな。あの偽熾天使を倒すなんて」
「にしても」
「わんわんわーん♪ わんわんわん♪」
「ちょっ! 匂いを嗅ぐな! 服の中に手を入れ込むな! 体を触るな! 離れろおお!」
「ほんと、あの2人は何してんだか」
彼女は呆れながらそう言った。こうして、偽熾天使による騒動は収束し、この町は平穏を取り戻すことが出来た。
「本日は〜。カイツ君やアリアちゃんも〜。助けてくれてありがとう〜。おかげで市民の被害を減らすことができたわ〜。私達の町を守ってくれて〜。ありがとう〜」
「お褒めに預かり光栄です。イドゥン支部長、町の被害はどうなってるんですか?」
「怪我人や死人も多いみたいだけど〜。想定してたより被害は少ないわ〜。かなり最善に近い結果ね〜。あなたやアリアのおかげよ〜。本当にありがとう〜」
(けど、死人や怪我人をゼロにすることはできなかった。ゼロにするのが難しいことは分かってるけど、なんともやりきれないな)
事態が収束した後、カイツとアリアは、ウェスト支部の支部長室にて、イドゥン支部長と対面していた。人々の誘導や建物の修理、事態の後処理、怪我人の治療はウェスト支部にいる別のメンバーが行っており、リナーテも参加している。メリナは医務室で治療を受けており、ベッドの上で安静にしていた。アリアはカイツにおんぶされており、気持ち良さそうに寝ている。
「にしても〜。アリアちゃんの変化はびっくりね〜。すっごくモフモフになってるわ~」
「そうですね。おまけに、言葉が全く話せなくなってると来てる。イドゥン支部長。アリアがなんでこうなったか分かりませんか?」
「そうね〜。私はなにもわからないわ〜。そんなモフモフ人間なんて〜。初めて見たし〜。カイツ君は〜、何か分からないの〜?」
「いえ。俺もこんなことは初めてで。何が起こってるのか分かりません」(イドゥン支部長でも分からないか。どうすればアリアは元に戻るんだ)
「そうだ〜。彼女に〜、元の姿になれって言ったらどうかしら〜? それなら元に戻るかも〜」
「そんなんで戻ったら良いんですけど。アリア、元の姿に戻れ」
カイツがそう言うと、アリアの体が青く輝いた、白い毛や尻尾が消えていき、元の姿に戻っていった。
「……マジか。こんな方法で戻るとは」
「あらあら〜。可愛らしい姿に戻って良かったわ〜」
「びっくり仰天ですよ。ほんと、こいつの体はどうなってるんだか」
「あ、大事なこと忘れてたわ〜。今回の騒動に関しての〜。書類を書いてくれない〜?」
「書類ですか?」
「うん。今回は〜。あなたのお知り合いが偽熾天使になってたって聞いてるし〜。それに関しての報告がほしいのよ〜。偽熾天使っていうのが謎に包まれてるから〜。色んな情報を得ておきたいの〜」
「分かりました。俺に伝えられる限りの情報を伝えたいと思います。それと、偽熾天使に関して分かってる情報を自分にもいただけないでしょうか? 少し気になることがあるので」
「構わないわ〜。じゃあ〜。書類を書いてくれた後にお渡しするわね〜」
「ありがとうございます」(今回の騒動。気になることがいくつもあった。アレウスが喋ってたよくわからない言葉に、ミカエルの動揺。何か分かると良いんだが)




