表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/236

第34話 アリア覚醒

 時は少し遡り、避難所にて


 アリアは先ほど治療しようとした男のことがトラウマとなっており、頭を抑えてうずくまっていた。メリナはそんな彼女を見て舌打ちするも、他の怪我人の治療があるため、いちいち気にかける暇など無かった。


「くそ。あの役立たずが。何のために騎士団来たんだ。まあいい。あの馬鹿のことはほっといて、さっさと怪我人の治療をしないと」


 彼女がせっせと他の怪我人の治療をしている中。


「……! ……!」


 奇妙な音が聞こえ、その足を止めて壁の方を見る。


「この音。いや、さすがにまさかだよな?」


 彼女の嫌な予感は即座に的中した。避難所の壁が破壊され、瓦礫が飛び散っていく。避難所に開いた壁の先には、真っ白な体の奇妙な人型の化け物だった。


偽熾天使(フラウド・セラフィム)。なんでこんなとこに来てんだよ」

「いやあああああ! 化け物が来たああああ!」

「やだ。俺はまだ死にたくねえよおおお!」


 怪我人でもそれなりに動ける人や、そもそも怪我をしてない人が一斉に避難所から逃げ出そうと走り出す。


「おい! いきなり走るんじゃねえ! 他の人たちに迷惑だろうが!」


 メリナがそう言うも、その声は逃げ出してる人たちには聞こえなかった。


「いやあああ! 来ないで! こっちに来ないでよ!」

「嫌じゃ。儂はまだ死にたくない。誰か助けろやああ!」

「うるせえよ。怪我人共。そんなに喚かなくてもちゃんと助けてやるって」


 そう言って彼女は怪我人たちの前に立つ。偽熾天使(フラウド・セラフィム)は周りの人たちを品定めするように見ると、怯えているアリアの方に視線を向ける。


「いや……こないでください。来ないで」

「Aaaaaaaa!」


 偽熾天使(フラウド・セラフィム)がアリアに襲い掛かると、彼女と天使の前に黒い壁が現れた。


「弱そうな女襲ってんじゃねえぞ。変態モンスター。お前の相手は私だ」


 天使はメリナの方に向き、彼女を睨み付ける。


「Aaaaaa」

「来いよ。軽くぶっ飛ばしてやる」


 彼女が戦おうとすると、怪我人たちから声がかかる。


「ま、待ってくれ! こんなところで戦われたら儂らが死んでしまう! あやつをどこかに飛ばせ!そうすれば戦わなくてすむじゃろうが!」

「そうだ! 俺たちを見殺しにする気か!」

「それでも騎士団の人間かよ!」

「……はあ。馬鹿どもはいちいちうるせえな。こうすりゃ満足だろ」


 彼女はありったけの瓶を投げた。


錬成(フォージング)


 瓶の中の水は錬成され、怪我人たちとメリナたちを分ける巨大な壁となった。


「砲弾を喰らっても無傷で済むと言われる超希少鉱石、グレナデンで作った壁だ。これなら文句ないだろ。さあ来いよ。変態モンスター。軽く叩き潰してやる」


 彼女が挑発するように手まねきすると、天使はそこから姿を消した。


「消え――! ……後ろか!」


 彼女が後ろを振り向いた瞬間、顔に一撃を喰らい、壁までふっ飛ばされた。


「あぐっ。このお」


 天使は一気にメリナに接近し、みぞおちを殴る。


「ごふっ……にゃろお!」


 彼女は蹴ろうとするも簡単に躱されてしまい、天使は後ろに下がった。


「くそが。レディーの顔を殴ってただで済むと思うなよ。ぎったぎたにしてやる」(とはいってもどうしたもんかね。治療液やら壁の形成に使ったせいで、水のストックは残りわずか。ここぞという場面でしか使えない。どうするべきか)


 メリナが天使の動きに警戒してると、天使は再び姿を消し、次の瞬間にはメリナの横に現れていた。


「くっ。このお!」


 彼女が殴ろうとするもカウンターで腹を殴られ、そこから後ろに回られて背中を蹴り飛ばされる。


「ぐあ!?」


 彼女はなんとか体勢を立て直すも、また後ろに回り込まれてしまい、蹴りを食らってしまう。


「がふっ。ほんと速いな。どうしたもんかね」


 彼女は目で追おうとするも、あまりにも速すぎる天使の動きを見切ることが出来なかった。


「Aaaaaaa!」


 天使はまた後ろに回り込み、顔を蹴り飛ばす。


「ぐう!?」(このままじゃなぶり殺しにされる。水のストックも残り少ない。ならやつの動きを読んで、一か八かで行くしかねえ!)


 彼女は最後の瓶を取り出し、天使の攻撃に備える。


「来いよ。てめえなんざ、一撃でぶっ殺してやる」

「Aaa。Aaaaaa!」


 天使は雄叫びをあげ、再びそこから姿を消した。そして、メリナの後ろに回り込み、攻撃しようとした瞬間。


「Aaa!?」


 彼女の背中から飛び出した剣に体を貫かれた。


「Aaaa……Aaa」

「くっそ。馬鹿いてえなあ。けど、通用して良かった」


 彼女は瓶の中にある水を錬成して剣を作り、己の体もろとも、天使の体を貫いたのだ。


「Aaa。Aaaaa!」


 天使が力を振り絞り、メリナに攻撃しようとするが。


「さっきからうるせえよ。ド変態野郎」


 彼女の背中から流れる血が2本の剣に変わり、天使の体を貫いた。


「液体であれば、なんでも錬成できるんだよ。覚えときな」

「Aaa……Aa」


 天使は君の悪いうめき声を上げながら、地に倒れた。


「ふう。なんとか片付いたか。手間かけさせやがって。けど、血が流れて良かった。治療液のストックができたからな。アリア。お前は大丈夫か? 怪我とかしてねえだろうな」

「だ、大丈夫です。それにしても、メリナは凄いのです。あんな恐ろしい化け物を1人で倒してしまうなんて」

「ふん。これぐらいのやつなら1人で倒せんだよ。それよりもさっさと怪我人の治療するぞ。まだまだやること残ってんだから」


 彼女が壁に触れ、水に戻そうとした瞬間、アリアの表情が驚きと恐怖に満ちた。


「メリナ! 後ろを見るです!」


 彼女がアリアの言葉に何事かと疑問を持った瞬間、白い腕が彼女の体を貫いた。


「あ……があ……これは」


 彼女が後ろを向くと、倒したはずの天使が立ち上がっていた。それだけでなく、体中に血管のような模様が浮き出ており、腕も少し太くなっている。


「こいつ……パワーアップしてんのか……がほっ……やべえ。このダメージは」

「Aaaa。Aaaaaaaa!!」


 天使は怒りに満ちたような叫びをあげ、メリナを投げ飛ばした。


「メリナ! う、嘘ですよね。メリナ」


 アリアは恐怖に支配され、動くことすら出来なかった。頼みの綱であったメリナも倒され、残ったのは彼女だけ。天使はぎらついた目で彼女を見据える。


「いや。カイツ、助けてください。カイツ!」


 彼女が助けを求める彼は、今はここにいない。その助けの声は、無情にも届かなかった。天使は彼女を侮っているのか、あるいは恐怖を与えたいのか、ゆっくりと歩きながら近づいてく。アリアも後ずさりしていくが、腰が抜け、動く速度はとてつもなく遅かった。


「いや……来ないで下さい。来ないで!」


 彼女が涙を流しながらそう言っても、天使は当然、歩くことをやめない。


「いや。いやいやいや。私はこんなところで……カイツもいない。このままじゃ……いやああああああああああ!!!」


 アリアが頭を抱え、泣き叫んだ瞬間。彼女の中で、なにかが切れた。まるで、自身を縛っていた鎖が千切れたかのように。そして。


「Aaaa!?」


 彼女を中心に、巨大な青い光の柱が出現し、建物を超え、空を貫いた。あまりの衝撃波に、天使は立っているのが精一杯だった。その衝撃波は壁や床にも亀裂が入るほどだった。そして、光が収まると。


「グルルル」


 アリアの姿が大きく変わっていた。四肢は白い毛がびっしりと生えており、鋭い爪も生やしている。目つきは鋭く、左目に青い炎が宿っていた。口の歯は牙と思えるほどに鋭くなっている。白い尻尾も生えており、その姿は獣のようだった。


「Aaaaa!」


 天使が彼女に襲い掛かろうとした瞬間、その視界が反転した。


「Aaa……Aa」


 天使は気づかなかった。自分の首がアリアの手で刈り取られていたことに。天使は何が起こったのかも理解できず、そのまま息を引き取った。


「グルルルル。アオーーーーン!」


 アリアは獣のような雄たけびを上げながら、ゆったりと歩いていき、避難所に空いた穴から外に出た。そのままどこかへ行こうとすると、それを遮るように2体の偽熾天使(フラウド・セラフィム)が現れた。


「グルルル。アオーーーン」


 彼女は雄たけびを上げながら、姿勢を低くして攻撃の体勢を取る。天使たちがそれに警戒し、彼女に攻撃しようと近づくと。


「グルル。ガアアアアアアア!!」


 大地が揺れるほどに咆哮し、その衝撃波で天使たちを吹き飛ばした。そして、天使達が空中で身動きを取れなくなった隙を突き、アリアは天使たちの首を、その爪で跳ね飛ばした。その動きはあまりにも速く、天使たちは目で追うことが出来なかった。


「グルルル。ガアアア」


 彼女はいらだちを発散するかのように鳴きながら、どこへともなく歩いていく。そして。


「……アリア?」


 彼、カイツは見つけてしまった。アリアの変わり果てたその姿を。信じられないような目で見ており、何が起こったのかを理解できていないようだった。そして、アリアのぎらついた獣のような目がカイツをとらえる。


「アリア。これは……一体」

「ウガアアアアアア!」


 アリアはカイツの問いに答えることもなく、そのまま彼の元へ向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ