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第31話 アレウスの暴走

 アリアはメリナに連れられ、避難所に来ていた。


「……なんですか。これ」


 彼女の視界に映ったのは、大量の怪我人。体の一部が傷ついてる人、何かに食われたかのように抉られてる者。様々なものがいた。


「おい。ぼさっとするな。さっさと治すぞ」

「え……これを……ですか? というか、カイツはどこに」

「カイツがここに来るわけないだろ。私たちの仕事はあいつらの治療だ。死ぬ気でやれよ」


 メリナはそう言って手に持った瓶の中にある水を錬金し、けが人を治すための治療液に変えて怪我人を治療する。アリアは今にも逃げ出したくなるほどに怯えていた。カイツは近くにおらず、頼れそうな人もいない。それだけで、彼女の心は限界に近かった。


(ずっと……ずっとカイツが近くにいた。だから人を治せた。でも、カイツが、カイツがいない。誰に頼ることも出来ずに……私が)


 彼女の頭のはもういっぱいいっぱいであり、今にもそこから逃げ出したかった。だが、それは出来なかった。


(私も、ヴァルハラ騎士団の人間。なら、自分に出来ることのために)


 彼女は1人の怪我人の元へと向かう。足はガクガクと震えており、歩き方もおぼつかない。


(が……頑張るのです。カイツのためにも、ここの人たちのためにも。それが、私の仕事なのですから)


 彼女は恐怖心を抑え、怪我人の元へ向かった。そのものは片足が無くなっており、唸り声を上げていた。


「ぐうう。いてえ。いてえよお。誰か治してくれええ!」

「大丈夫です! 私が……私が治すです! 癒すです。治癒妖精(ライフ・フェアリー)!」


 そう言うと、彼女の手から緑色の小さい人のようなものが現れた。それは男の足にくっつくと、緑色の光に包む。しかし、どれだけアリアが頑張っても血を止めるのがやっとであり、男の足が新しく生えてくるということは無かった。


「はあ……はあ。ダメです。やっぱり、血を止めるまでしか」

「おい。もっと治してくれよ! 血と痛みは治ったけど、これじゃ歩けないじゃねえか!」

「ひっ! ご、ごめんなさいです。でも、私じゃこれ以上は」

「ふざけんな! 俺にこれからどうやって生活しろと言うんだ!」


 彼はアリアの胸元を掴んで怒鳴りつけ、アリアは委縮するしかなかった。


「ごめんなさいです。本当にごめんなさいです」

「謝って済む問題じゃねえだろボケ! てめえは人を助けるヴァルハラ騎士団なんだろうが! なら俺様を完璧に助けろや!」


 彼はアリアの頬を殴り、突き飛ばした。


「あう……ごめんなさいです。ごめんなさいです」

「はあ。謝ってばかりでうぜえなあ。そんなに謝るくらいなら、もっと別のもんで支払えや。例えば、てめえの身体とかな!」


 彼はアリアを抑えつけ、服に手をかける。


「ひっ! や、やめてください! それだけはやめてください!」

「やめるかよボケ!」


 彼がアリアの服を脱がそうとすると、後ろから鉄の塊が彼の後頭部に直撃した。


「えあ……がぶ」


 彼は気味の悪い呻き声を上げて倒れた。その直後、メリナが彼女に近づく。


「たく。ヴァルハラ騎士団の人間なら、この程度のことはなんとかしろよ。私に世話かけさせんじゃねえ」

「ご、ごめんなさいです」

「……はあ。なんかめんどくせえなあ。まあいい。私はこいつを別の所に連れ込むから、お前は治療の続きをしろ。次は助けてやんねえからな。団員なら、自分(てめえ)の力でなんとかしてみろ」

「……はい」


 メリナはそう言って男を抱え、別の部屋に向かった。


「うう。カイツ。助けてください。私は、どうすれば良いのですか」


 必死に絞り出した勇気も無くなり、今の彼女にあるのは恐怖心だった。もし次に治療する者がさっきのような男だったらどうすれば良いのか。そればかり考えてしまい、とても誰かの治療をしようとは思えなかった。


「カイツ。助けてください。カイツ。あなたがいないと、私は」










 side カイツ


 俺たちは偽熾天使(フラウド・セラフィム)を倒すため、町中を走り回っていた。


「リナーテ。残りの偽熾天使(フラウド・セラフィム)はどこにいるんだ?」

「警報で聞いた情報では、この辺りのはずー! この気配」

「なんだ? この妙な感じは? 偽熾天使(フラウド・セラフィム)とは少し違うような」


 周りを警戒していると、建物の屋根から、1人の男が飛び降りてきた。金髪の髪に、ラフな服装の男性。こいつは。


「アレウス? なんでこんなところに」


 目の前にいるのはアレウスだ。だが、目から生気を感じられないし、まるで別人のような雰囲気がある。


「カイツ。久しぶりだなあ」

「ああ。久しぶりだな。なんでこんなところに」

「ああ。死ねやボケええ!」


 奴の手からいくつもの光の剣が放たれ、俺はそれを避ける。


「おいおい避けるなよ。俺が痛くなるじゃねえか!」


 奴はわけのわからないことを言いながら、俺に向かってきた。


「アタックコマンド、w3d5!」


 彼女が詠唱すると、彼の頭上に青色の魔法陣が現れた。


「そこそこ当たり。ヘビーレイン!」


 魔法陣からバケツをひっくり返したかのような雨が降り注ぎ、奴の動きを止める。


「なんか言動がおかしいね。明らかに噛み合ってないし」

「アレウス。どうしたというんだ」

「……カイ……ツ。うおおおおお!」


 やつは雨の中から抜け出し、何百発もの光の弾丸を連続で撃ち出す。俺とリナーテはそれを横に飛んで避け、俺は奴の元へ走って向かう。


「カイツううううう!!!」


 奴が鋭い爪を伸ばして襲いかかり、それを刀で受け止める。


「ぐう。一体どういうつもりだ。こんだけ怒らせるようなことしたか?」

「静かだな。もっとうるさくしろおおおお!」


 奴から衝撃波のようなものが放たれ、後ろにふっ飛ばされた。空中で即座に体勢を立て直して着地する。


「なんだ……この妙な力は」

偽熾天使(フラウド・セラフィム)に似てるけど、何かが違う。一体どうなってんのよ」

「少なくとも、まともに意思疎通取れる状態ではないな。まずは、死なない程度に殴って大人しくさせる」

「賛成。じゃあ行くよ。アタックコマンド、ki61!」


 彼女の詠唱で、奴の足元に黄色の魔法陣が現れた。


「ま、そこそこ当たりかな。パラライズブレイク!」

「!? ぐああ!」


 魔法陣から強力な電流がほとばしり、奴の動きを封じる。俺はその隙を突き、一気に懐に入り込む。


「目を覚ませえええ!」


 腕に全体重と多少の魔力を乗せ、奴の顎を殴り飛ばした。ふっ飛ばされて地面に倒れたが、何事もなかったかのようにすぐに立ち上がる。ダメージを受けているようにも見えない。


「参ったな。気絶までは行かないにしても、それなりにダメージはあると思ったんだが」

「さっきの偽熾天使(フラウド・セラフィム)よりも遥かに頑丈よね。一体どうやってこんな力を」


 奴はフラフラと歩きながら、俺たちに近づいてくる。


「カイツ。お前、俺のパーティーに戻ってこないか? 今なら奴隷として迎えてやるぞ?」


 何を言ってるんだ。こいつは。


「俺さ。お前を追放したことを後悔してんだよ。女には逃げられるわ、任務も上手くいかないしよお。だから、お前に戻ってきて欲しいんだよお。戻ってこいよヒモ野郎」

「……悪いけど、今の俺は騎士団にいる。そっちに戻ることは出来ない。それに、奴隷としてそっちに戻るなんてまっぴらごめんだ」

「そうか。そうなのか。なら」


 奴の背中から2匹の巨大な蛇が、羽のように現れた。


「いますぐ生きてみろや。このオカマ野郎!」


 何があったかは分からない。だが


「カイツ。これ、手加減できるレベルじゃないよ」

「ああ。殺すまではいかなくても、全力で戦わないと勝てない」

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