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第29話 突然の警報

 戦いが終わってしばらくすると、俺と奴の体が光り出した。奴や俺についてた傷が次々に消えていき、光が収まる頃には、俺たちの体は完全に治癒し、戦う前と同じ状態になっていた。こういう所は、他のノース支部と同じらしい。少しすると、彼女が起き、正座を崩したような体勢で座りこんだ。顔を下に向けており、どんな表情をしているかは分からない。


「メリナ。俺は本物の」

「分かってるよ。本物のカイツだろ。ぱちもんがここまで頭回るはずがないし、剣の動かし方とかは本物にしか出来ない動きだったからな。たく、まさか本物のカイツが来るとは思いもしなかった。確かに会いたいとは言ったけど、支部長がそれを叶えてくれるとはな。驚きすぎて暴走して、ぶっ飛ばされて冷静になっちった」

「俺のことぱちもんとか言ってたのって、暴走したからか?」

「ああ。初め見たときはすごい嬉しかったけど、よく考えたら、こんなとこにカイツが来るわけないって思って、勝手にぱちもんって決めつけて、リナーテもぱちもんって言ってたからそうだと思いこんで……ごめん。色々言い訳して。しかも、カイツを傷つけてしまった」

「気にするなよ。誤解が解けて何よりだ。本物だと分かってくれたしな」

「……許してくれるのか?」

「別に嫌な思いをしたわけじゃない。色々大変だったけど、またメリナと会えた喜びの方が大きいからな。嫌われてないと分かっただけでも嬉しかったし」



 なんとか本物だと信じてもらえたみたいだ。にしても、俺と会いたいと思っていたとは驚きだ。てっきり嫌われてるとばかり思ってたから。それにしても、気になることがひとつある。


「なあメリナ。何でお前は」


 俺が質問しようとすると、彼女は俺の言うことが分かってるかのように答える。


「色々ありすぎたんだよ。これ以上は何も」

「そこから先は私が言ってあげる」


 後ろを振り向くと、いつの間にかリナーテとアリアが来ていた。アリアは即座に俺の傍にやって来る。


「お疲れ様です。カイツ」

「おう。今日は流石に疲れた。んで、性悪女」

「呼び方ひどっ!? もうちょっとなんかあったでしょ!」

「性悪女なのは事実だろ。それより、メリナに何があったんだ」

「メリナがこうなったのは、聞くも涙、語るも涙な物語があったのよ。メリナって、すっごいモテるでしょ?」

「まあ、確かにそうだな」


 アレウスのパーティーにいた頃は、1日に1回くらいはなにか貰ってたような気がするし、男から告白されることもかなり多かった気がする。


「騎士団でもそういうの多くてさあ。1日に10回以上は告白されてたんだよねえ。まあそれぐらいなら問題なかったけど、厄介な人が多かったのよ。ほら。パーティー組んでたときもいたでしょ?」

「そうだな。メリナの気持ちを考えず、自分の気持ちを押し付けるような人はちらほらいた」

「あいつらほど酷くはなかったけど、それに近い行動をする人は騎士団にもちらほらいてね。パーティー組んでた頃はあんたが守ってたけど、ここではあんたが守ってくれなかったから、彼女も辛い思いしてたのよ」

「お前は何してたんだ。一緒にいることもあったはずだろ」

「私? マジにやばい危害が及ぶ時以外は、後ろでゲラゲラ笑ってたけど。メリナがたじたじしてるの、すごいおもしろかったし」

「……そうか」 


 そうかとしか言えない。やってることが最低すぎる。そういやパーティーを組んでた時も、彼女は基本的に笑ってるだけだったな。メリナの性格が変わった理由って、この性悪女にあるような気がしてきた。後ろでゲラゲラ笑われるって、かなりのストレスだっただろうし。


「んでさ。そうやって男どもに押される日々が続いてストレス溜まったせいか、あんなふうになっちゃったのよ」


 俺たちがメリナの方を振り向くと、彼女はバツが悪そうに、顔を背けた。


「今まではカイツが守ってた。けど、この支部にはいない。リナーテは役に立たないゴミカスだし、自分の身は自分で守るしかないと思って強くなろうと頑張ったら、いつしかこんな性格になっちまった」

「……ごめん。俺がいないせいで」

「謝るなよ。カイツは何も悪くない。自分の身は自分で守らないといけない。そんな当たり前すぎることに今まで気付けなかった、馬鹿な私の責任だ」

「そうよ。カイツも私もなーんにも悪くない。だから、気に病む必要は無いわよ」

「いやリナーテはバリバリ悪いからな。あたしがこうなった原因の4割くらいは、てめえの笑い声と性格がストレスになってたからだし」

「えー。私なんにも悪くないじゃーん。本気で危ない時はちゃんと助けてたしさー」

「てめえがちゃんと助けた時なんて一度もねえだろうが! パーティー組んでた頃、私が汚いおっさんに連れてかれそうな時も、てめえは近くでゲラゲラ笑ってるだけだっただろうが!」

「あの時はカイツもいたから、笑ってても問題ないかな〜と思って」

「ちっ。お前っていつもそうだよな! 危ないときは助けるとか言いながら、なんだかんだ言い訳つけて結局助けない。大体お前はいつもいつも」


 メリナとリナーテは口論を始め、俺とアリアは完全に置いてかれてしまった。リナーテの性格の悪さはギルド最強とまで言われていたが、ノース支部に来てもそこは全く変わってないらしい。今なら騎士団最強の性格悪い女になれそうだ。


「カイツ。メリナとリナーテって、いつもあんな感じなのですか?」

「いや。前のメリナはめちゃくちゃ穏やかな人だったから、こういう口論とかは無かったな。その代わり、リナーテの性格の悪さに悩んだり、困ったりすることが多かったけど」


 パーティーで一番の問題児だったからな。他のパーティーメンバーからも怒られること多かったし。パーティー組んでた時は、俺とメリナがリナーテの尻拭いに動くことが多かった。あの時はしんどかった。リナーテのせいで大事になったり、ガラの悪い人に絡まれたりすることも多かったからな。挙句の果てには怖い人たちに捕まったこともあるし。あの時は生きた心地がしなかった。

 過去を懐かしみながら彼女たちの口論を眺めていると、突然ビー、ビー、ビーと大きな音が鳴り響いた。その瞬間、リナーテとメリナは口論をやめ、表情を険しくする。 


「カイツ。これは」


 アリアが不安そうに俺の方を見ると、どこからか、声が響いてきた。


「伝令〜、伝令〜。今〜。町中の〜、C78、D45、A12に偽熾天使(フラウド・セラフィム)が現れたので〜。退治をお願いします〜」

「フラウド・セラフィム? てかC78とかD45って一体なんなんだ」


 混乱していると、リナーテに腕を掴まれた。


「カイツ! 今から私と退治に行くよ!」

「え。待ってくれ。まず説明を」

「それはあと! そこの変てこ耳女!」

「は、はい?」

「あんた。どういう魔術使えるの?」

「わ、私は……回復魔術を使えるです」

「ならメリナと一緒に、負傷者の救助に行って! さあ行くよ!」

「ちょっ……だから話を!」

「ま、待ってください! カイツーーー!」


 俺とアリアの言葉は無視され、俺はリナーテに、アリアはメリナにむりやり連れて行かれた。一体何がどうなってんだよ。そもそもフラウド・セラフィムって何なんだ。








 同時刻。クロノスは時計台の屋上に立っており、街を見渡していた。


「嫌なものがたくさん視えますね。醜く歪んだものと、悪意で満ち溢れた気味の悪いもの。いつ見ても慣れることができません」


 彼女は下の方に視線を動かし、リナーテに連れて行かれてるカイツを見る。


「あの人が動いている。なら、私も動いた方が良さそうですね。じゃないと、嫌われちゃうかもしれませんから。ようやく見つけたお気に入り。嫌われるなんてまっぴらごめんです」


 そう言うと、彼女は屋上の柵に乗り、そこから飛び降りていった。

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