表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/236

第24話 ウェスト支部へ向かう道中で

 支部長室。ロキ支部長は机の上に足を乗っけながら、ある団員が来るのを待っていた。しかし、いくら待てども、彼女が呼びかけたはずの団員は来る気配が無く、約束の時間は10分以上過ぎていた。


「……はあ。あいつめ。またどこかで遊んでるのか、それとも部屋で爆睡かましてるのか。どちらにしろ、さすがにそろそろ見つかるはずだが」


 彼女が持っていた本を回しながら暇を潰していると、浮かない表情をしたウルが入ってきた。


「どうだった? クロノスは見つかったか?」

「いえ。この支部のどこにもいなかったわ。多分、外出してると思う」

「なんと!? しかし、彼女が任務以外で外に出ることなど無かった筈だが。一体なにをしに……まあいい。ダレスと他に空いてる何名かを任務に出すから、そいつらを呼んできてくれ」

「了解」


 ウルはそう言って部屋を出て行った。


「奴が外に出るとはなあ。一体何に興味を持ったのやら」








 俺たちは馬車を使い、ウェスト支部があるクライドシティに向かっていた。走ってるのは薄暗い森であり、日の光がそこまで届いていないので、少し不気味に感じる。御者はツインテールの女性がしているのだが、事あるごとにチラチラ見てきて落ち着かない。アリアも彼女に困惑して怯えてるし、連れてこないほうが良かったかもしれない。


「あのさ。さっきからチラチラ見てくるけど、俺の顔に何かついてる?」

「いえ。私はあなたの顔を見てません。あなたの中を見てます」


 何を言ってるのか全く分からない。中を見てるってどういうことだ。


「カイツ。あの人何なのでしょう。少し怖いです」

「同感だ。あいつが考えてることも全く分からないし、どうしたものかね」


 会話も全くないし、この人は何をしに来たんだ。外の景色を見ながら時間を潰してると、妙な気配を感じ、刀の柄に手を置いた。


「カイツ? どうかしたですか?」

「変な気配がする。まっすぐこっちに向かって来てるな」

「え? そうなんですか? なんだか怖いです」

「心配するな。俺が守ってやるから」


 そう言って、俺は彼女の頭を撫でる。耳をぴょこぴょこさせながら安堵の表情を浮かべている。アリアの手前かっこつけたが、今の俺に守り切れるだろうか。ツインテールの女性も気づいたようで、馬車を停めた。


「この気配からして、レッドオーガですね」

「レッドオーガ?」

「どんな生物も見境なく襲う凶悪な魔物です。2匹来ますよ」


 彼女の言う通り、赤い人型の魔物が2体現れた。頭に2本の角が生えており、刀と同じくらいの長さのある太い木の棒を持っている。


「ミカエル。今の俺は六聖天を」

『使えんよ。お主のダメージがまだ回復しておらんからの。魔力で戦うしかない』


 だよな。けど、数は2体。ツインテールの女性と協力して戦えば。


「あ。私は戦わないので、あなた1人で戦ってくださいね」

「……はあ!? お前何を言ってんだ!」

「そうです! どうして戦わないのですか!」

「確かめたいことがあるので。ほら。もたもたしてたらあっちから来ますよお」


 レッドオーガたちは木の棒を振り上げ、俺たちに襲い掛かろうとしていた。彼女は本当に何もする気が無いようで、ぼけーとしている。


「くそっ! 仕方ない」


 俺は馬車から飛び降り、刀を抜いて奴らに向かって走る。1体が飛び上がり、木の棒を振り下ろしてきたので、刀に魔力を多く込めて切れ味を増大させ、木の棒を切り裂いた。


「グオオ!?」

「魔術を使えなくても、この程度なら簡単に斬れるんだよ」


 俺は奴が着地した瞬間に、首を斬り飛ばした。あと1体。


「グオオオオオ!!」


 もう1体のレッドオーガが怒りを爆発させながら、こっちに向かってくる。俺は刀の先を奴に向け、いくつもの白い球体を生み出した。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの白い球体が奴に向かっていく。奴はいくつかそれを躱したが避けきることは出来ず、何発か被弾した。六聖天の力を使えないから威力は大幅に落ちてるが、奴を怯ませる程度のことは出来た。俺はその隙を突いて一気に接近し、奴の体を真っ二つに切り裂いた。


「グオ……オオオ」


 奴も呻き声を上げながら倒れていく。どうなることかと思ったが、案外問題なく倒せたな。敵がそこまで強くなくて良かった。刀を収めると、馬車から拍手が聞こえて来た。ツインテールの女性が拍手をしており、心なしか嬉しそうにしてるように見える。


「素晴らしいですね。魔術を使わず、レッドオーガ2体瞬殺するとは。戦闘経験はかなりのものですね」

「褒めてくれてありがたいが、なんで加勢しなかった。もし俺が殺されてたらどうするつもりだったんだ」

「その時はその時。あなたがその程度の雑魚だったというだけです。さっさと馬車に乗ってください。先を急ぎますよ」


 自分勝手な発言にキレそうになったが、俺はその怒りを抑える。彼女と喧嘩したところで良いことは無いし、むしろマイナスになる。一応共に戦う仲間だし、下手に喧嘩するべきではないだろう。俺は拳を強く握りしめながら馬車に乗る。


「カイツ。大丈夫ですか?」

「大丈夫。特に問題ない」

「それは良かったです……にしても、あの人は何なのですか! 人間の屑にしか見えないです!」


 アリアは途中から小声でそう言った。気持ちは分からなくもないが。


「そういうことを言うのはやめておけ。彼女にも何か考えがあるんだよ」

「どんな考えがあれば、カイツに1人で戦わせるようなことをするのですか!」

「それは分からないが……多分何かあるんだよ」


 じゃないと騎士団のメンバーとして問題がありすぎるし、協調性が皆無の奴だとはあまり思いたくない。多分何か考えがあってああ言ったんだ。俺は現実逃避するかのようにそう結論付けた。






 日が沈み、月が照らす夜。1日でルライドシティに着くことは出来なかったので、火を起こし、野宿をしていた。ツインテールの女性はどこかに行っている。アリアは夜の森が苦手なのか、ガクガクと震えている。


「ううう。何か変なのが出てきそうで怖いです」

「心配するな。変なのが出て来ても俺が守るさ。お前は安心して寝てれば良い」

「でもそれじゃ、カイツが眠れないと思うのですが」

「大丈夫だって。体の疲れはだいぶ取れてるし、多少睡眠を取らなくても余裕だ」

「……じゃあ、手を握っててほしいです。怖いですから」

「それぐらいならお安い御用だ。いくらでも握ってやるよ」


 アリアは俺の手を両手で握りながら、馬車の中で眠る。


「ずいぶんと依存してますね。そこの獣女は」


 声のした方を振り向くと、いつの間にかツインテールの女性が戻ってきていた。


「アリアをそんな風に呼ぶのはやめろ。それより、何をしていたんだ?」

「この辺りに防壁を貼ってました。こんな感じのものを」


 彼女が指を鳴らすと、薄緑色の壁が周囲に出現した。


「これは」

「この防壁があれば、夜は安心して眠れますよ。流石に眠らせずに働かせるのは可哀想なので」


 こいつ。一体何者だ。見た感じ、かなり強力な防壁みたいだし、どうやってこれほどの防壁を。


「にしても、そこの獣女は依存しまくってますね。他人に依存しすぎるというのは、良くない傾向ですよ」

「……分かってるよ。時間が出来たら、なんとかしたいと思っている」

「その時間がとれたらいいですけどね。どうも、あなたは獣女に甘すぎるようですし」

「さっきも言ったけど、獣女っていうのをやめろ。彼女にはアリアという名前があるんだ」

「私にとっては獣女ですよ。ちょっと珍しい犬っころ。それ以上でもそれ以下でもありません」

「……お前。嫌な奴だな」

「自覚はありますのでご心配なく。では、私は外で寝ますね」


 そう言って、彼女は馬車を出て行った。


「はあ。今回の任務、無事に乗り切れるか不安になってきた」


 力もまだ取り戻せないし、レッドオーガよりやばい奴が出てきたら、少しまずいかもしれないな。そもそもレッドオーガとの戦いだって、奴らが貧弱な武器を使ってたから助かっただけだ。もし鉄の武器とかを使われてたらまずかっただろう。だが、それでもやるしかない。人々を、アリアを守るためにも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ