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第230話 次なるミカエル信徒襲来!

 カイツたちが無限の(インフィニティ・)方舟(アーク)で過ごしていた頃。それぞれの状況も変化していた。


 サウス支部支部長アマテラスと彼女の部下ガルムはノース支部のある町、バリアスシティを離れてカイツたちがいると思われる方向向かって走っていたのだが。


「がルルルルル!」

「たく。めんどくさいことになったな!」


 ガルムは悪態をつきながら、両端に刃がついた三節棍を振り回し、襲いかかってくる黒い獣をバラバラに切り裂く。切り裂かれた獣は液体のようになって地面に落ちて水たまりを作る。

 一見死んだかのように見えるが、水が蠢いて獣の形を作り、切り裂かれた獣は元の姿になって復活した。


「やれやれ。殺しても殺しても復活する。クソガキアマテラスさん。あれ誰の魔術なのー?」

「誰がクソガキアマテラスやゴミガルム。あれはロキの魔術、影世界(シャドウ・ワールド)やな。自分の影に別世界を作り、そこで生み出された魔獣や道具をこの世に呼び出して戦う魔術。しかもロキの魔術で生み出されたものは、周囲に影がある限り、何度でも復活する。ロキ曰く、影世界の住民共は影から力を得てるということらしいで」

「じゃあ、ここら一帯から影を消すしかないのかー。とはいえ!」


 彼は話をしながら、襲ってくる黒い獣たちの攻撃を避け、獣たちをバラバラに切り裂いていく。切り裂かれた獣は先ほどと同じように地面に落ちて黒い水たまりとなり、再び復活して襲いかかってくる。


「無理ゲーすぎるだろ。ここは一帯の木の影、手のひらサイズの石や木片、ちっこい虫たちの影、そして、俺やアマテラスの影。消すものが多すぎるし、何より俺たち自身の影を消すのはほぼ不可能。対処しようがねえよ」

「たく、ロキの奴も面倒なことしてくれたの」

「あんたが宣言なんてしなきゃ、もう少し楽に物事進められたんじゃねえの?」

「アホかゴミガルム。未来の宣言をするのは信徒として当たり前の事やで? 聖典にも書いとるやろ。【未来のことは必ず誰かに宣言してから実行せよ。それこそ我らの使命。汝らの守るべき法である】ってな」

「その聖典って、最近ではただの落書き説とかも出てるけど、内容信じて良いのかね〜」

「落書きなわけないやろうが。これやから信仰心の低いゴミカスは嫌いやねん。自分に都合の良いように物事を解釈するからな。ほんま、うちは悲しい限りやで。お前みたいな信仰心浅いボケがサウス支部におるねんからな。実力がなかったら、とっくに袋叩きにしとったんやけど」

「はいはいそーですかー。で、本格的にどうするの? こんなに町が近いと本気を出して戦うのは難しいし、俺たちの身動きは封じられてるようなもんだろ」

「ふん。こんな雑魚ども。うちが本気を出せば」

「間違ってもそんな事するなよ。こんな所でお前の魔術を使ったら、町が滅ぶなんて生易しいレベルじゃ済まないからな」

「……分かっとるよ。まあ心配せんでもええよ。この事態も想定してるし、第2の駒も向かわせとるからな」

「第2の駒? 第1の駒はもうやられちゃったんですか?」

「せや。空から飛んできた女どもに瞬殺されたわ。全く、うちの目をわざわざ貸してやったというのに、とんだ恥さらしやで」

「あらら。それは大変だ」

「にしても、突然転移してきたあの力。それにあの女は……」

「アマテラス? どしたのーアマテラス?」


 彼は獣の攻撃をさばきながら、アマテラスの頭を殴ったり蹴ったりするも、まるで反応はなかった。


「もしかしたらあの女は、聖典のタブーに記された……それやったら、ロキが強気やった理由も分かる……そういう事も……でもどこから。これは、第2の駒に貸した目でしっかり観察する必要が……天使の力の反応も」

「だめだこりゃ。完全に自分の世界に入ってる。しかたねえ。クソガキアマテラスがボコられるのを見るのもあれだし、しっかりお守りするとしますかね。やれやれ。社畜団員は辛いよ」




 ガルムたちが黒い獣たちと戦っている光景を、

 ロキは獣たちの目を通して見ながら、ミルナと通信をしていた。


「よし。とりあえず足止めは出来ているようだな。あのクソガキが魔術を使ったりしなくてホッとしたよ。あいつが魔術を使ったら、この町どころか国が大変なことになるからな。ケルーナ、そっちの方はどうなってる」

『こっちはカイツ達を襲ってた奴をニーア達がぶっ倒して、今のところは問題な……にゃ!? なんでいきなりそんな場所に!』

「! どうした」

『にゃ、にゃんか、やばそうな奴が突然転移してきたのにゃん。一旦通信切るにゃん!』


 その言葉を最後に、ミルナからの通信は途絶えた。


「なるほど。向こうはかなり切羽詰まった状況のようだ」




 クロノスとニーアがいる海上にて。ニーアたちは他の追っ手が来ることを警戒し、辺り一帯の気配を探っていた。そんな中。


「! クロノス。この感覚」

「ええ。私やミカエルの大天使パワーに似た力ですね。来ますよ」


 クロノスがそう言った直後、彼女たちの前の空間が歪み、水面のように波打ち始め、そこから1人の男が現れた。彼はハートのネックレスを首からぶら下げており、額にはミカエルLOVEと書かれた鉢巻きを巻いている。眼鏡をかけ、無精髭を生やしているが、そんな手入れされてない状態でも分かるくらいにはかっこいい顔つきであり、整えれば多くの女性を虜にしそうであった。騎士団の制服を身に纏っており、右腕には白い鎧を纏っており、鎧には天使の羽のような模様が刻まれている。


「ふむ。やはりノース支部の人間が来ていたのかミカエル。ま、アマテラス様の予測通りであるなミカエル」


 男の話し方に、ニーアとクロノスは困惑せざるを得なかった。


「……クロノス。あの変な語尾の男はなんだ」

「知りませんよ。あんな吐き気のする気持ち悪い男なんて」

『2人とも、大丈夫にゃんか!』


 2人が困惑していると、通信出来ーる君からミルナの声が聞こえる。


「ミルナか。いきなり現れたこいつはなんだ? 騎士団の人間だというのは分かるが」

『そいつはストーキン・ドレイバー。クロノスレベルの問題児にゃんけど、実力は確かなやべーやつにゃん』

「……あれと比べられるのは非常に不愉快なのですが」

「まあそれはどうでも良いとして、奴の魔術は何だ。瞬間移動の類か?」

『いや。確か身体強化系の魔術で、瞬間移動系系ではなかったはずにゃん。それに奴が瞬間移動した直後、あの腕の鎧が一瞬だけ光ってたにゃん』

「なるほど。ということは、あの鎧に何らかの仕掛けがありそうだな。ひとまず通信を切る」


 ニーアは通信を切った後、彼に話しかける。


「で、貴様がここに来た理由は」

「察しはついてるだろミカエル。俺は忌まわしき間男、カイツ・ケラウノスを殺しに来たのだミカエル」

「やはりな。ところでさっきから気になってたが、なんで語尾にミカエルってついてるんだ」

「おっと失礼。俺のミカエル様を愛する気持ちがつい語尾に出てきてしまったミカエル。俺の名はストーキン・ドレイバー。ミカエル様の未来の婚約者だミカエル」

「……そうなのか。その婚約者というのはお前の自称か? それともミカエル公認か?」

「公認に決まってるであろうミカエル。俺は夢の中で何度もミカエル様と熱いキスをし、体を重ね、今年の天使祭で結婚しようと約束したのだミカエル」

「夢の中? 現実でミカエルと話したことはないのか?」

「現実ではまだないな。しかーし、夢の中で婚約してるのでなーんの問題もないのだ。きっとミカエル様も、何度も俺と睦み合った夢を見ているに違いない。俺たちは相思相愛なのだミカエル! 故に、それを邪魔するネトラレクソ野郎のカイツはぶっ殺さないと気が済まないミカエル!」

「……はあ。馬鹿馬鹿しい。夢の中での内容など妄想と同じだろ。いくら夢の中で婚約しようがキスをしようが、それはお前の虚しい妄想にしかならない」

「いーや。そんなことはないのだミカエル。ミカエル様の聖典第27条によれば、夢で起きた出来事は必ず実現する。つまり、ミカエル様と結婚し、イチャイチャする夢を見た俺は、ミカエル様と現実で結婚し、イチャイチャすることが決まってるのだミカエル」

「なんだそのふざけた内容。ミカエルがそんな事言うとは思えないのだが」

「……はあ。これだからミカエル様のことを知らない素人は困るんだミカエル。君のような女性は、ミカエル様の聖典も碌に見ていないのだろうな。あの方の聖典を読めば、カイツという男がどれだけ罪深く、忌々しい男なのかよーく分かるんだぞミカエル。なんなら、今からでも聖典の内容を軽く教えてやろうミカエル。そうすれば、ミカエル様と俺のイチャイチャがどれほど尊いかよーく分かるぞ」

「いや、別にいらない。聞きたくもないし」

「まあまあ遠慮するなミカエル。まず、ミカエル様の聖典第1条からだが」


 その後、ストーキンの長ったらしい聖典解説を、ニーアとクロノスは死んだ目をしながら右耳から左耳へと聞き流していた。彼の説明はとても分かりやすく、言い方だけを考えれば子供でも分かるくらいには良い話し方である。しかし、肝心の内容がニーアたちにとってはゴミのような内容で聞く価値がないため、2人はずーっと聞き流していた。


「というわけで、俺とミカエル様のイチャイチャ結婚生活をを邪魔しようとする忌まわしき男、カイツ・ケラウノスは絶対にぶっ殺さないといけないのだミカエル。さあ、そこをどけお嬢さん方。俺は女性と戦うのは好きではないミカエル。それにお嬢さん方も今の話で分かっただろう。真に討つべき巨悪が誰であるかを。さあ、そこをどきたまえ!」

「悪いが、ここをどくわけにはいかない。それにさっきの話で、貴様を討つべきだと改めて実感した。同じ騎士団の仲間だから殺すまではいかないが、半殺しまでは覚悟しておけよ」


 ニーアは強い魔力を殺気と共に放ち、周囲の大気や海面を揺らしていく。退く気はないということを理解したストーキンは、悲しそうに溜め息を吐いた。


「悲しいものだミカエル。あれだけミカエル様と俺のイチャイチャ生活の尊さを教えたと言うのに。そこまで分からず屋なら、力で分からせるしかないな。覚悟しておけミカエル」

「悪いが、覚悟するのは貴様の方だ。既に準備も終えてるしな」


 彼女が指を鳴らした直後、彼の足元に緑の魔法陣が出現した。


「!? これは」

「貴様がグダグダと解説してる間に仕掛けさせてもらった。崩衝滅魔!」


 魔法陣から出た巨大な光の柱が彼を飲み込む。しかし、その光はすぐに収束してしまい、光は左腕の鎧に吸い込まれるようにして消えていった。


「やれやれ。随分と酷いことをしてくれるな。不意打ちをするとは、とんでもない卑怯者だ。ま、間男の味方をするような奴なんざそんなものかミカエル」

「さっきから、いちいち語尾が鬱陶しい!」


 彼女が指を星型に振ると、緑色の魔法陣が現れた。


「崩衝流星群!」


 魔法陣から緑色の流星が空を舞い、四方八方から彼の方へと襲いかかる。すると、彼の左腕の鎧が光を放ち、流星がその光に引き寄せられて吸い込まれていった。攻撃は全て鎧に吸収されてしまい、彼は無傷の状態で立っている。


「どうした。お前の実力はこんなものなのかミカエル?」

「なるほど。どうやらその鎧。かなり厄介な仕組みのようだな。ところでクロノス。さっきからなんで黙って見ているんだ。お前も協力してくれ。私ではあいつに有効打を与えられそうにないんだが」

「嫌です」

「……お前。今なんて言った」

「嫌だと言ったんですよ。私ではあの男と相性悪そうですし。それに、今サウス支部の奴と戦ったら、あのクソガキに色々と勘ぐられそうで嫌なんですよね。だから1人で頑張って下さい」

「おまえな。そんなふざけたことを」


 話をしてる最中、何発もの緑色のレーザーが襲いかかるが、ニーアは背中から黒い翼を生やし、その攻撃をガードした。


「惜しい。あともう少しで当たったんだがなあ。油断もすきもありゃしないぜミカエル」

「私と同じ魔術攻撃。どうやらその左腕の鎧、面白い性能をしてるようだな」

「覚悟しておきな。間男の妹よ。ミカエル信徒としてお前に裁きをくだし、ストーキン×ミカエルの尊さを教えてやるミカエル」

「本当に鬱陶しい語尾だ。二度とそんなふざけた話し方が出来ないよう、徹底的に叩き潰す」

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