第229話 雲隠れ カイツはさらなる鍛錬へ
Side カイツ
クロノスたちの気配を感知した直後、下からばかすか撃ちまくってた攻撃がポツリと止んだ。恐らく、彼女たちが止めてくれたのだろう。また会った時にお礼を言わないと。
「にしても、なんでクロノスやニーアがここに。そもそもどうやって来たんだ。あの2人は転移魔術とか持ってなかったはずだけど」
「恐らく、何らかの魔道具で来たんじゃろう。それより見えてきたぞ」
ミカエルが斜め下に視線を向けながらそう言ったので、同じ方向を見ると。
「えっ……な、なんだありゃ」
「凄いな。私でも、あんなにでかい船は見たことないよ」
視界に映ったのは超巨大な木造船。それが雲の上に浮かんでいた。周囲には幾何学模様が刻まれたバリアが張られている。
「ミカエル。あれは一体」
「妾のお気に入りの場所。名は無限の方舟。信徒から隠れるための絶好のスポットなのじゃよ。しかも、保全&外敵遮断用のバリアを張っておるから、損傷無しの新品同然の状態になっていて快適性抜群じゃ。最も、あのバリアのせいで妾たちは弾かれてしもうたんじゃが」
「なんでバリアを張ったミカエルが弾かれるんだよ」
「あのバリアは特殊な作りをしておっての。六聖天の力を持ち、全盛期の妾に匹敵する力を持つ者でなければ弾かれる仕組みなんじゃ」
「なんでそんな仕組みに。自分以外を弾くようには出来なかったのか?」
「いやー。作った時は体が分裂することなぞ想定してなかったからの。ノリと勢いで作ったらこのザマじゃ。おかげで、ここに来るまででも一苦労じゃ」
理由がダサい。ノリと勢いで作った物のせいで苦労するって。典型的な無計画タイプがやらかす事じゃないか。
「まあ安心せよ。手順を踏めば、バリアを解除出来るようにしてあるからの」
そんな事を言いながら、俺たちはバリアの目の前まで近づいた。
「すーぱー、はいぱー、ギガンテック大天使パワー! 門よ開けーそいやー!」
彼女が変な詠唱を唱えながら白い魔方陣を展開すると、バリアの一部に穴が開いた。
「……ずいぶんと独特な詠唱なんだな」
「ふっふっふ。良い詠唱じゃろ? 妾のとっておき詠唱リストパート21に記録してあるものじゃ。真似しても構わぬぞ。さて。中に入るぞ」
バリアの中に入ると、一瞬だけ視界が暗転した後、目の前に真っ白な世界が広がっていた。先ほどまで見ていた船の景色はどこにも見当たらない。空は真夜中のように真っ暗で、星の明かりが大地を照らしている。アリアもこの状況には驚いたようで、目を丸くしていた。
「世界の匂いが……変わってる。それに気配も」
「なんだこれ。ミカエル、ここは一体」
「ここが無限の方舟の中じゃ。お主らが見ていたあの木造船はこの世界へと導くための門の役割をしておるのじゃ。この世界はあの船で言うなら船内のようなもの。妾がぐーたらする為だけに作った世界じゃよ」
彼女は鎖をほどき、俺の手を放して地面に下ろした。地面はふかふかのクッションのように柔らかく、汚れや埃1つ見当たらない綺麗な世界だ。
「アナザー・ミカエル。お主も出てきて問題ないぞ」
ミカエルがそう言うと、俺の体から巫女のような服装、豊満な胸にスレンダーな体型の綺麗な女性、アナザー・ミカエルが飛び出してきた。
「ふ~。久しぶりにここに来れて心地よいの~。実に良い空気じゃ」
「そんなに変わるものなのか?」
「そりゃあ、ここは妾達にとってのマイホームみたいなものじゃからな。ここでは妾達の力もある程度ブーストされておるし、色んな事が出来たりするぞ。こんな風にな」
ミカエルが指を鳴らすと、目の前に白いテーブルが現れた。更にその上には豪華な皿がいくつも現れ、その上に果物が乗せられていく。
「無機物も有機物も自由自在か。これも六聖天の力なのか?」
「いや。これは妾のような四大天使だけが持っておる力じゃ。妾たち四大天使はその気になれば、有機物も無機物も自由自在に生み出すことが出来る。でなければ、暇つぶしで世界や文明を作るなんてできぬじゃろう」
確かに言われてみればそうだが、にしても凄いな。魔術関係なく色んな物を生み出せる存在なんて見たことも聞いたこともない。常識外れだとは思ってたがここまでとは。
「さて。アリアは妾と果物でも食べながら雑談しようではないか」
「私は? カイツはどうするの?」
「カイツは、わっちと一緒に楽しい鍛練の時間じゃ」
アナザー・ミカエルがそう言って指を鳴らすと、白い魔方陣が俺とアナザー・ミカエルを包み込んだ。
「え? ちょっと待て。これは一体」
「そーれゆくぞ~」
彼女がそう言って指を鳴らすと、魔方陣から放たれた強大な光が俺たちを包み、視界は真っ白に包み込んだ。次に目を覚ますと、アリアやミカエルの姿はどこにもなく、騎士団の訓練場のような場所に立っていた。
「ここは」
「わっちたちの訓練場じゃ。といっても、今作ったばかりのものじゃがの」
「またとんでもないことを平然と。にしても、鍛練って一体」
「言葉通りの意味じゃよ。今からお主には、天使祭が始まるまでに強くなってもらう。でないと殺されてしまう可能性があるからの。そうならないためには強くなってもらわんと」
「殺される……殺してくる相手は、さっき言ってた信徒とかか?」
「流石はカイツ。察しが良いのお。お主の言う通り、殺してくる相手はミカエル信徒。わっちらを崇拝してるか知らんが、とにかく傍迷惑なゴミどもじゃ。どいつもこいつも、わっちらが一言も言ってないことをさも言ったかのように捏造しとるし、暇つぶしで作った落書きノートを聖典とか言って崇めとるし、色々と理解不能じゃ。中でも危険なのはアマテラスという女。ミカエル信徒の過激派にして、今はヴァルハラ騎士団の支部長をしておったはずじゃ」
「な!? 支部長が俺を殺しに来るのか? いくらなんでもそんな滅茶苦茶な事が」
「あやつの狂人っぷりを舐めぬ方が良いぞ。己の目的のためなら、ルールも何もかも知らんぷりして突き進むクソガキみたいな奴じゃからの。おまけに実力はかなりのもので厄介極まりない。今のお主では間違いなく殺される。そうならないようにするため、お主はわっちとここで鍛練じゃ。そうじゃのお。わっちに一太刀でも浴びせられたら合格じゃ。わっちは使わんから、お主が六聖天の力を使って構わんぞ」
「……良いのか? そんな緩いルールで」
「なんじゃ。もうクリアできる気でおるのか? 一応言っとくが、この世界でならわっちは全力で戦うことが出来る。全盛期の半分程度しか出せぬが、あまり舐めぬ方が良いぞ」
「別に舐めるつもりはない。四大天使の恐ろしさはよく知ってるしな。じゃあ行くぞ。六聖天・第3解放!」
六聖天の力を発動させ、刀に強い魔力を込めて構える。
「行くぞ!」
2時間経った後、俺は地面の染みになっていた。
「……いや。なんだ……このでたらめな強さは」
アナザー・ミカエルは涼しい顔をしており、まだまだ余裕があるように思える。恐らく、先ほどの戦いでもかなり手加減して戦っていたのだろう。アースガルズで戦った時とは次元が違い過ぎる。これで全盛期の半分ってどういうことだ。
「どうじゃ。わっちの力は十分に思い知ったか? ちなみに、これでもかーなーり手加減してやった方じゃぞ」
「化け物って言葉が可愛く感じられるレベルだな。正直、一太刀ぐらいなら頑張ればいけると思った自分が恥ずかしくなる」
「恥ずかしがっとる暇があるなら立ち上がれ。あと3時間はしごくからの。安心せよ。鍛練が終わった後はわっちとミカエルでのパフパフ癒しセラピーの時間じゃから」
「あの……できれば、もう少し……休みを」
「六聖天をフル稼働して無理やり動かせ。天使祭まで時間もあらぬし、突貫工事でやるぞ」
「ちょ、待っ……ぎゃああああああああああ!?」
その日、俺は四大天使の恐ろしさを嫌というほどその身で思い知ることとなった。




