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第228話 ミカエル信徒の襲来 カイツたちの逃避行

 クロノスとニーアの2人は、カイツをノース支部から逃がすため、彼がいる部屋へと向かっていた。


「カイツ様。少しよろしいでしょうか?」


 扉の前に着き、クロノスがそう聞いてノックするも反応はない。扉を開けようにも鍵がかかっていて開かなかった。


「これは……しかも気配が感じられない。まさか」

「どけクロノス。兄様、荒っぽいやり方ですまないが、緊急事態だ!」


 ニーアは何発ものレーザー攻撃を放ち、扉を破壊して突破した。部屋の中はもぬけの殻となっており、カイツ達の姿はそこにはなかった。


「どういうことだ。兄様は一体どこに」


 彼女はカイツを探そうと周囲の気配を探るが、気配や魔力は全く感じられなかった。


「少なくとも、半径500メートル内にはいない。ミルナ、お前が見える範囲に兄様はいるか?」

『いないにゃーん。見る範囲を5キロくらいまで広げてるにゃんけど、毛1本見つからないにゃんね』

「だとすると、一体どこに」


 クロノスは部屋の周囲を見ながらベッドに触れる。


「ベッドが暖かい。部屋を出てからそう時間は経ってないはずです。そしてこの感じ。恐らくですが、ミカエルが転移魔術を使ったのでしょう」

「転移魔術。例の大天使パワーとかいうやつだな。行先は分かるか?」

「転移した理由を考えれば察しはつきます。恐らくミカエルは、信徒が来ることを私達よりも先に感知して面倒事が起こることを予感し、逃げるために転移魔術を使ったのでしょう。あの女狐はミカエル信徒のことをかなり嫌がってましたからね。天使祭が始まるまでに雲隠れしたいなら、あそこが一番打ってつけです。ロキの腰巾着、今から言う座標にある場所を、あなたの魔術で見てください。X6457WのY3382Nです」

『にゃーはミルナって名前があるのにゃ。腰巾着はやめてほしいにゃん。ていうかその座標見るのは構わないにゃんけど、ここから大きく移動しないと見れないにゃん』

「ならさっさと移動して下さい。私たちもここから転移します」

『にゃー。お前は人使い荒いから嫌になるにゃんね。ま、命令には従うにゃんよー』


 その言葉を最後に通信が終わった。


「さて。私たちも早く行きますよ」


 そう言うと、クロノスの右手に強大な魔力が貯められていき、魔力の圧で周囲の空間が揺れていく。


「おいクロノス。何をするつもりだ。転移といったが、お前は転移魔術を持っていないはずじゃ」

「一応出来ますよ。少々荒っぽい所はありますがね。ちょうど良い機会ですし、私のリハビリに付き合って下さい。大丈夫ですよ。運が悪くても腕が消しとぶ程度で済みますから」

「腕が消しとぶ事が程度で済むか! 待て。まだ心の準備が! というか聞きたいことも山程あ」


 ニーアが抗議する暇もなく、強大な光が2人を包み、その直後に大爆発でも起きたかのような振動が支部を揺らした。



 ロキがノース支部前でアマテラス達を待っていると、ドゴオオオンと鼓膜を突き破るかのような音と振動が鳴り響いた。


「なんだこの振動は。奴らは一体何を」

「ずいぶんとえげつない揺れだな。誰かが爆発魔術でも使ったのかい?」


 声のした方を振り向くと、ロキは舌打ちし、あからさまに嫌な顔をする。彼女の前に立っていたのは真っ赤な修道服を着た男である。修道服を着ている癖に煙草を2本咥えており、両端に刃物の付いた三節棍を首からぶら下げている。赤黒い瞳に鋭く尖った鼻、切り傷が付いた口元や一部が欠けている両耳と中々におっかなく、獣のようにイカツい顔立ちであり、何も知らない人が見れば犯罪者と思うかもしれない。

 アマテラスは彼に首根っこを掴まれながら引きずられながらぐーすかと寝ており、全身泥だらけ埃まみれになっている。明らかに目上の人に対する扱いをされていなかったが、ロキにとっては当たり前のように見る光景なので、大して動揺もしていない。むしろ彼女を動揺させたのは、修道服を着た男がここに来たことだ。


「久しぶりだな。ロキ」

「ガルムか。お前がここに来た理由は」

「お察しの通り。アマテラスと共に、ミカエルの器であるカイツ・ケラウノスを抹殺しに来たのさ」

「ちっ。またずいぶんな実力者が来たものだな。貴様のような存在を遊ばせられるほど、サウス支部は暇なのか?」

「暇? 何を言ってるんだ。俺様は騎士団としての責務を果たしに来たのさ。遊びに来たわけじゃない。このぐーたらニートのクソガキアマテラスに言われてな。ミカエル様の器である不浄な男、カイツ・ケラウノスを殺せって命令受けた。正直、俺様自身はカイツとかいう男のことなんざどうでも良いけど、こいつの命令は聞くしかないからな。ガキみたいに暴れられたら手に負えねえし」

「……お前も苦労してるんな。にしても意外だよ。てっきりミカエル信徒は全員、カイツを殺そうと躍起になってるのかと思ったが」

「信徒も一枚岩じゃねえんだよ。俺様みたいに動向を見守る者もいれば、クソガキアマテラスのように、カイツを殺そうとする奴もいる。俺様から言わせれば馬鹿馬鹿しいけどな。ミカエル様の幸せはミカエル様が決めるもんだ。俺様たちのようなザコ信徒が考えることじゃないし、カイツという男のことももう少し観察してから結論を出すべきなんだよ。このクソガキアマテラスにも何度かそう言ったけど、聞く耳持たずだし、自分の意見を押し通してばかりで話にならない。任務失敗した奴は殺すとか言ってるし、もうどうしようもない鬱陶しいことこの上ないが、殺されるのはさすがに勘弁だからな。てなわけで、俺様が任務失敗して殺されないようにするためにも、カイツの討伐に協力してくれよ。これも可愛い団員様を助けるためと思ってさ」

「お前のどこが可愛いんだ。アマテラスからのパワハラには同情してやるが、だからといって、私が協力する義務はない。カイツを探したいなら1人で探せ。貴様が殺されようと知ったことじゃない」

「言うと思った。聞いたかクソガキアマテラス。ロキ支部長は協力する気はないってよ」

「ふん。そないな事やろうと思ったわ。しかも、いつの間にか不浄な器も逃げ出してるみたいやしな。逃げ足の速い奴やで」


 寝ていたと思われていたアマテラスがぱちりと目を覚まし、ロキを睨みつける。


「まあええわ。この程度は想定内やし、器の居場所はある程度把握済み。既に別の兵隊も迎撃してる頃やろうからな。ロキ、これから先の未来の宣言したるわ。うちらサウス支部メンバーは、ミカエル様の器、カイツ・ケラウノスを処刑する。これは決定事項や」

「そんなくだらない事を言うためにここに来るとは、随分と暇なのだな」

「くだらなくあらへんわ。未来の宣言は大事やからな。ミカエル様の信徒として、これからやるべきことや未来の事をはきっちり宣言する。それが信徒として当たり前の事や。これは聖典にも載ってることやで。信仰心のない馬鹿には分からん話やろうが」

「まあ、宣言するのは貴様の自由が、カイツはそこら辺の団員では相手にならんぞ。最低でもクロノス程度の実力がなければ、返り討ちになって終わりだ」

「その程度のことをうちが読めないとでも思うた? ちゃーんと対策はしてるわ。うちらミカエル信徒は、いつ如何なる時でも、ミカエル様を守り、不浄なる者を殺すために鍛錬を積み上げてきた。信徒の力を思い知るとええわ。行くでゴミガルム。うちらも念を入れて参戦や。5分で到着するように走れ。5分過ぎたら1ヶ月は無給で働いてもらうで」

「たく、馬車馬よりも酷い扱いしますね。まあ分かりましたよ。というわけだロキ支部長。あなたには悪いが、これも仕事なんだ。恨まないでくれよ。恨むならクソガキアマテラスだけにしてくれ」

「誰がクソガキや! くだらんこと言っとらんではよ走れ!」


 その言葉を最後に、彼はアマテラスを米俵のように担ぎながら走っていった。


「……はあ。アマテラスは本当に面倒くさくて鬱陶しい奴だ。無駄に勘は良いし、読みもそれなりだし。あれでクソガキのような性格の悪さと信徒としての鬱陶しい行動さえなければなあ」


 愚痴をこぼしながら指を鳴らすと、彼女の影から黒い手が現れた。その手にはミルナやニーアたちが着けている物と同じイヤリングがあった。


「ミルナ、今の会話は聞こえていたな?」

『ばっちり聞こえてたにゃんよ。にしてもガルムみたいな常識人まで来るとは予想外にゃんね。てっきり、こういうくだらないことはやらないと思ってたにゃんけど』

「アマテラスの指示じゃ、あいつも動かざるを得ないんだろう。あのクソガキの機嫌を損ねると面倒だからな。とりあえず、アマテラスは私が何とか抑えておくから、急いでカイツの救援に向かえ。嫌な予感がする」

『了解にゃーん』


 通信が切れると、ロキの影が大きく伸びていき、そこから何匹もの黒い獣が飛び出してくる。


「予想外ではあったが、奴らがここに来てくれたのは助かったよ。私のペットたち。久しぶりに働いてもらうぞ」






 その頃。カイツたちの方では。


 side カイツ


 俺はヴァルハラ騎士団ノース支部所属のカイツ・ケラウノス。今日はアリアと一緒にお出かけする予定だったのだが。


「ミカエル、もっとスピード出してくれ! このままじゃ撃墜されるぞ!」

「無茶言うな! 全盛期を取り戻せてないこの体ではそんなスピード出んのじゃ!」

「ちっ。こんな上空じゃなければ、すぐ殺しに行けるのに」


 現在、俺たちは雲の上を飛んでいた。ミカエルが俺の肩を掴みながら飛んでおり、俺はアリアの手を掴んで離さないように握っていた。雲から飛び出して来る何十発もの青い光線を避けながら。



 事の発端は十数分ほど前。出かける準備をしていたら、急にミカエルが飛び出してきて。


「カイツ、アリア。悪いが、今から少し遠出してもらうぞ」

「遠出? それは構わないけど、なんでまた急に」 

「後で話す。スーパー大天使ぱわー!」


 彼女の力で、俺たちは白い光に包まれる。そしてその直後、何かに突き飛ばされたかのような衝撃が襲いかかり、いつの間にか雲の上にいた。


「ぐっ!? ミカエル。今の変な衝撃は」

「ちっ。やはり弾かれてしもうたか。」

「弾かれたって何の……どわああああ!?」

「おっと危ない!」


 落ちそうになった俺を、ミカエルが掴んでくれたおかげで事なきを得た。危ない。ここから落ちたらどう考えても助からないからな。あとは。


「ミカエル。アリアのことも!」

「分かっておるよ!」


 ミカエルは背中から光の鎖を何本も出し、アリアをグルグルに縛り付けて救出した。


「カイツ、大丈夫か? 怪我はないか?」

「俺は問題ないけど、アリアの助け方はもう少しどうにかならなかったのか」

「あやつに好き勝手動かれる可能性を潰すためじゃよ。こんな所で暴れられたら手に負えんからの。後、妾の私怨じゃ」


 ほぼ私怨のようにしか思えないのだが。


「アリア、そっちは大丈夫なのか?」

「グルグル巻きなのがムカつくけど、それ以外は問題ないよ。それよりここどこ? なんでいきなり転移したのさ。しかもこんな変な所に飛んで」

「本当はお気に入りの場所に飛ぶつもりだったのじゃが、結界に弾かれてしもうたんじゃよ。やはり今の体では、正規の手順を使わんと入れなー!? ちっ。信徒の手がここまで伸びておるとはな。あのクソガキの策か」


 ミカエルが何かに気づき、下を見ながらそう言った直後。


「! カイツ、下の方に」

「ああ。何かいるな。しかも俺に対してとんでもない殺気を放ってるし、結構な実力者だ。一体誰が」


 考え事をしようとする暇もなく、何十発もの青い光線が襲いかかってきた。


「ちっ。めんどくさいの!」


 ミカエルは必死にあちこちを飛び回りながら、避けていく。


「ミカエル、もっとスピード出してくれ! このままじゃ撃墜されるぞ!」

「無茶言うな! 全盛期を取り戻せてないこの体で2人も抱えてる状態では、スピード出んのじゃ!」

「ちっ。こんな上空じゃなければ、すぐ殺しに行けるのに」


 そんな話をしてる間に、何発もの攻撃がこちらめがけて襲いかかってきた。今のミカエルのスピードでは確実に避けられない。ならば。


「六聖天・第3解放! 剣舞・龍封陣!」


 六聖天の力を発動し、下に紅い魔法陣を展開して攻撃を防いだ。


「当たるとは思えないが、こうなりゃ一か八かだ」


 周囲に紅い光弾をいくつも出現させる。距離が遠すぎる上に敵の位置が分からないが、このままやられっぱなしでいるわけにもいかない。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 その光弾を下の敵めがけて一斉に発射した。攻撃の方向からある程度、敵の居場所を推測して撃ちはしたものの、手応えは全く感じられない。


「やっぱり、こんな長距離だと当たるわけないか。せめて敵の位置さえ分かれば。アリア、お前なら下の奴に攻撃を当てられるか?」

「無理。敵が目で見える距離にいないし、匂いで見つけるのも不可能。そもそも距離が遠すぎて攻撃が届かない」


 話をしてる間にも何発もの青い光線が撃たれ続ける。今は何とか回避できてるようだが、このままでは当たるのも時間の問題だ。


「ミカエル。このばかすか撃ってくる敵の付近にワープ出来たりしないか?」

「無理じゃ。短距離の転送なら一瞬で可能じゃが、敵のいるところは距離が離れすぎておるから、少し時間がかかる。そしてその時間があれば、妾達はあっという間に撃ち抜かれてお陀仏じゃ」

「なら、連続で短距離の転送をして近づいていくってのは」

「それも無理じゃな。今の妾では、連続で転送を行うには10秒のタイムラグがある。そして10秒あれば」

「あっという間にお陀仏か。どうしようもない状況だな」


 今は龍封陣で何とか防げる威力ではあるが、いつまで保つかは分からない。一体どうすれば良いんだよ。


「む? この気配と魔力……まさか、あの女は」

「どうした。ミカエル」

「……いや、何でもない。それよりも、下の敵はどうにかなりそうじゃ。妾たちはこのまま目的地まで直行する」

「え。それってどういー! この気配は」

「……サイコパス女とブラコン女。どうやってこんな場所に」




 地平線まで広がる青い海。その海に浮かぶボートに、俺は立っていた。黒の帽子を深く被って気分を高め、白いステッキを上空に掲げる。


「そこか」


 居場所を確認すると、ステッキから青いレーザーが何発も発射した。ミカエルの使徒たちがいるのは雲よりも高い遥か上空。普通なら目で追うことなど不可能だが、俺は違う。俺は完璧で最強なミカエル信徒にしてサウス支部のパーフェクトスナイパー、ラクテル・フィアー。雲の上の敵を攻撃することなど、赤子の手をひねるより容易い。


「そう。俺は完璧で最強なミカエル信徒。だから、この任務も余裕でこなせる」


 信仰心の浅い馬鹿ガルムとは違う。完璧で最強な俺はアマテラス様から与えられし、この任務を完璧にこなせるのだ。

 ミカエル様は、完璧で最強な俺のように、孤高に生き、何事にも動じず、全ての感情を捨てた神と呼ぶべき存在。そんな神をたぶらかそうとする忌まわしき器、カイツ・ケラウノス。彼は我らミカエル信徒にとって最悪の敵だが、殺すことに何の感情も湧かない。憎しみも怒りも恨みも悲しみも恐怖もない。同じ騎士団の人間ではあるが、殺すことに何の迷いも存在しない。

 完璧で最強な俺は人としての全ての感情を捨てて、信徒としての使命を果たすためだけに孤高に生きている。故に感情に惑わされることなく、淡々と任務をこなす。他のミカエル信徒には絶対に出来ない俺だけの長所。どんな妨害も通じないし、どんな奴が相手であろうと絶対に負けることはない。


「器のバリアの強度も確認できた。そろそろチェックメイトといこう。カイツ・ケラウノス。完璧で最強で孤高に生きる俺が使命を果たすための、踏み台となるが良い」


 ステッキに魔力を込めて攻撃を放とうとすると、上空から妙な魔力を感じた。


「この感覚。サウス支部の者ではない。恐らくノース支部の者だな。しかし何者であろうと、完璧で最強で孤高に生き、全ての感情を捨てた俺を倒す……こと……は」


 俺は目の前の景色を見て絶句した。巨大な緑色のレーザーが雨のように降り注いできたからだ。一発一発が尋常ではないほどの魔力が込められており、一発当たっただけでも致命傷なのは確実。


「だ、だだだだが、この程度で、ききききき恐怖を感じる……事……は」


 考えろ。この攻撃を避ける方法はあるはずだ。雨のように降り注ぐ攻撃。走ったりして避けるのは不可能。とはいえ防御することは不可能。撃ち落とすのも無理だ。絶対に間に合わないし、そもそもあの攻撃を相殺できるほどの攻撃をポンポン出すなど不可能。


「ど、どどどどう考えても対処はで、ででで出来ない。いやああああああああ! 怖いよママああああああああああああ!」


 どうしょうもなくなってパニックになり、その数秒後にはレーザーの雨の中に包まれ、一瞬で意識が飛んだ。




「何が腕が消し飛ぶ程度で済むだ。熾天使(セラフィム)の力を使ってなければ、全身が消し飛んでいたぞ。お前の転送魔術は随分と物騒なのだな」

「むう。思ったより力の調整が上手く行きませんでしたね。それに、久しぶりにこの力を使ったせいか、とっても疲れちゃいましたよ」


 ラクテルが気絶したボートの上に2人の女性、ニーアとクロノスが降り立った。

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