第227話 ニーアとクロノスの護衛任務
支部長会議が終わった後、ロキはミルナが御者を務める馬車に乗り、ノース支部へと向かっていた。バルテリアやリナーテたちは他の仕事があるため、本部に残っている。
「はえー。まさかそんな結果ににゃるとは。しかも、メリナが旧世代ってやばいにゃんね」
「やばいな。今はまだ記憶を取り戻してないようだが、もし記憶を取り戻して変に拗れたら、シェヘラザードの二の舞になってしまう。そうなると、今の騎士団では対処出来ないだろう。あんな爆弾抱え込んで、奴は何を考えているのやら」
「シェヘラザード。確か、界変の語り部って異名があったにゃんね」
「万象の図書館とも呼ばれていたな。そして、ヴァルハラ騎士団ウェスト支部の前支部長にして、最強の騎士と恐れられた存在。奴が治めていた支部に新たな旧世代が入るとは。運命なのか偶然なのか」
「むむむむ。カオスがメリナを取り込んだ理由が気になるにゃんね。シェヘラザード級の実力者になることを期待してるのか、別の理由があるのか。疑問は尽きないにゃん」
「奴がメリナを取り込んだ目的は気になるが、今の私達にはそれよりも先に考えることがある。アマテラスの件だ」
「あー、確かにそれは早急に何とかしないとまずいにゃんね。ちなみに、カイツがアマテラスに勝てる可能性はどれくらいあるにゃん? カイツも結構強くなったし、4割くらいは」
「1割。多めに見積もっても2割が限界だな。今のカイツじゃほぼ確実に殺される。会議の時は奴が鬱陶しいから散々馬鹿にしまくったが、実際に2人が戦えば、カイツの勝利はほぼ無いだろう」
「ロキ支部長はなにやってるにゃんか。てか、勝利はほぼ無いって、いくらなんでもカイツを舐め過ぎじゃないのかにゃ? 流石に4割くらいの勝率はありそうにゃんけど」
「お前が支部長を舐め過ぎなんだよ。ヴァルハラ騎士団の支部長には、冷静な判断力や類まれなる頭脳が求められるが、それ以上に必要になるのは実力だ。力が無い王についていく奴などいない」
「そうにゃんか? でも、こう言うのは失礼にゃんけど、イドゥン支部長がそこまでの実力を秘めてるようには見えないにゃんけど」
「別に力=戦闘力ではない。彼女の魔術、切断世界はあらゆる外敵から身を守れる魔術だ。入口のパスワードが漏洩したら侵入され放題になるというのが唯一の弱点だが、そのセキュリティ性能は折り紙付き。ウェスト支部はイドゥンが支部長になってから、ヴァルキュリア家が襲来するまで一度も襲撃された事がないし、本部もイドゥン支部長が就任してから、襲撃された事は一度も無い無敵の要塞となっているしな」
「そうなのにゃんか!? でも、もし入るための入口が壊されたりした場合は」
「入口は壊されても、すぐ別の場所に作り直す事が出来る。いくら壊されようと大した問題じゃない。それだけの力を持つ魔術を持っているからこそ、彼女は支部長に就任出来ているのだ」
「にゃるほどにゃるほど。イドゥン支部長は凄いにゃんね」
「だが、イドゥン支部長の場合は稀なケースで、基本的には力=戦闘力に直結してる支部長の方が多い。アマテラスもその1人だ」
「ロキ支部長はどうなのにゃん? 力=戦闘力なのにゃん?」
「今は私の話はどうでも良いだろ。ともかく、アマテラスはヴァルハラ騎士団の中でもトップクラスの実力を持つ化け物だ。審判者は一国の軍隊を超える実力を持つらしいし、アマテラスもそのレベルの実力は確実に持っていると見た方が良いだろう。しかも、奴は来ようと思えばいつでもこっちに来れる最悪のおまけ付きだ」
「ふむふむ。あ、でも報告書によると、バルテリアは六神王の1人、プロメテウスに辛勝したってあったにゃんよね。その後は戦線離脱してるにゃんし。審判者がそれくらいの実力なら、支部長もそこまで強くにゃさそうだし、きっとカイツでも対処出来るにゃんよ!」
「そうだな……奴があの戦いで、本気を出していたと仮定すればの話だが。そんな希望的な仮定が当たるかどうか」
ボソリと呟いた言葉は馬車の音にかき消されて聞き取れなかった。
「? 何か言ったにゃん?」
「何でもない。ま、アマテラスの件に関しては手は打っておく。対処する方法はあるしな。奴が殺しを許されてるのはカイツのみ。他の団員は許されてない。ならば」
翌日。ロキはクロノスとニーアの2人を支部長室に呼び出していた。
「で? 一体何の用ですか? 私も暇じゃないんですけど」
クロノスが心底不機嫌そうな顔をしながら尋ねる。彼女の目には隈が出来ており、その目は殺気を込めてロキを睨んでいる。ちなみに彼女がここまで不機嫌なのには理由がある。
カイツやアリアがやる予定だった任務が彼女にのしかかり徹夜で任務に明け暮れることになってしまったからだ。
なぜそんなことになったかというと、リナーテがカイツたちを無理やり連れていき、食料調達任務を手伝わせたから。つまり元凶はリナーテである。ちなみに、ニーアも同じ理由で徹夜で任務をこなしていたため、多少寝不足気味である。
「お休みのところすまないね。だが、事は一刻を争う非常事態だ。なんせカイツが殺されるかもしれないからね」
その言葉に、2人の頭は一瞬で冴え渡る。
「どういうことですか。カイツ様が殺されるって」
「昨日の会議で決定したことなんだが」
ロキは支部長会議での出来事を2人に話した。クロノスは拳を強く握りしめ、魔力が怨念のように漏れ出て大気を揺らしていた。
「ずいぶんと馬鹿な女ですね。まさかカイツ様を殺そうとする不届き者とは。相変わらず、ミカエル信徒は鬱陶しい奴ばかりで辟易しますよ。私達の仕事は、その女を殺すことですか?」
「仮にも支部長の人間を殺せと命じるわけないだろ。君たちにはカイツの護衛をしつつ、アマテラスを追い払ってほしいんだ」
「兄様を守るのは良いとして、そのアマテラスとやらは、殺さないように手加減して勝てる相手なのか?」
「お前たちなら問題はないだろう。アマテラスはカイツを殺すことは許可されてるが、他のやつを殺すのは許可されていない。お前たちが相手だと、奴も殺す気で行けず、手加減することになる。お前たちレベルの実力者なら、十分渡り合えるはずだ。カイツやアマテラスとかの行き先や場所に関しては、ミルナが詳細に報告する。お前たちはこれでやりとりしながら、カイツにバレないように護衛してくれ」
ロキはそう言って、胸元に手を突っ込み、青い星の飾りが付いたイヤリングを2つ取り出した。
「これはバルテリアが製作した小型遠距離通信魔導装置、名前は通信出来ーる君。ちなみに私が命名したのだ。良い名前だろう」
「……ああ。そうだな」
ニーアは、内心ダッサイ名前だと思いながら、気になったことを質問した。
「そういえば、なぜ兄様にはバレないように。巻き込まないためか?」
「それもあるが、ミカエルの器であるカイツが関わるとややこしい事態になる可能性があるからな。出来る限り、カイツには内密で仕事してくれ」
「なるほど。了解した」
「元よりカイツ様に打ち明けるつもりもありません。あの方も忙しい身ですし、私が隠密に殺して終わらせますよ」
「念を押しておくが、間違っても殺すなよ? そうなると私にもとんでもない被害が来るし、笑えない事態になる」
「……善処します」
「ニーア。クロノスを監視しておけ。こいつの善処するという言葉は信用できない」
「了解した」
そんな話をしながら、2人はイヤリングを受け取って耳に着けた。
『にゃっほー。聞こえてるにゃんか?』
「ミルナか。ちゃんと聞こえているぞ」
『お。その声はニーアにゃんね。上手いこと機能してるみたいで良かったにゃん。カイツ護衛の任務はもう聞いてるにゃんよね?』
「ああ。お前は索敵係をするのだったな」
『そうにゃんそうにゃん。てなわけで、早速索敵係であるにゃーからの報告にゃん。アマテラスとお付きの騎士様1人が、ノース支部に来てるにゃんよ。アマテラスはぐっすり寝てるにゃんけど、お付の騎士は怖い顔してるし、結構やばそうにゃん』
「……ロキ。ミルナからの良くない知らせだ。アマテラスが騎士を1人連れて、こっちに来ているとのことだ」
それを聞いたロキは目を少し大きく開き、明らかに動揺していた。
「参ったな。カイツはまだ支部にいるというのに。普段はぐーたらでサボり魔の癖に、ミカエル関連のことだと本当に行動が速くなるな」
「どうするんですか? 支部前で迎え撃ちますか?」
「そんなことしたら町が滅ぶ。お前たちもアマテラスもえげつない技を大量に持ってるからな。仕方ない。まだ話したいことがあったが、そうも言ってられないな。アマテラスは私が抑えておくから、お前たちはカイツを連れてできるだけ遠くに行かせろ。ただし、間違ってもカイツにバレないようにしろよ。バレたら面倒臭い!」
「了解だ」
「……はあ。初っ端から思いやられますね」




