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第226話 支部長たちの思惑 眺める観測者

「ミカエルの器、カイツ・ケラウノスを殺すか、それとも番として生贄にするか、あるいはそれ以外の別の案にするか。どういう結論にするにせよ、今回の会議で結論とこれからの段取りを決めておきたいわ」 


 カオスの発したその言葉に、メジーマは驚きを隠せなかった。ちなみに幸か不幸か、メリナとリナーテは気絶していて聞いていない。


「イドゥン支部長、どういうことですか。なぜ、こんな議論が。カイツを殺す? なぜそんなことを」

「仕方のないことなの。彼がミカエルの器である以上ね。天使祭は四大天使を奉るお祭り。四大天使の一柱であるミカエルを宿してる彼は、天使祭にとっても色々な不穏分子。そして、ミカエルを崇拝する人にとっての敵対対象。あの人のようにね」


 困惑する彼を余所に、最初に声を発したのはアマテラスだ。


「うちは殺す方に賛成ー。偉大なるミカエル様がどこの馬の骨とも知らんやつを器にしてるとかありえんわ。それに報告書によると、ミカエル様はカイツを器にし、中途半端に融合してるせいで全盛期の力を取り戻されへんって話やないか。ミカエル様の成長を妨げるカイツなんて奴は殺すべきや。他のミカエル様信徒もきっとそう言うはずやで」

「私としては反対だな。カイツを殺されては困るんだよ」


 アマテラスの言葉にロキが待ったをかける。


「彼は我がノース支部の切り札とも言える存在。そんな男を殺されたら、私の支部はあっという間に終わる。そもそも今の騎士団に、有能な奴を間引く余裕は無いだろう」

「俺もそれに賛成だな」


 エフェメラルがロキの意見に同意を示した。


「報告書によると、カイツはあのヴァルキュリア家当主であるカーリーを倒した。しかも、入団当初から様々な実績を積み上げている。それだけの強い奴を間引く馬鹿はいねえだろ。当初の予定通り、ミカエルの番にして事を収めるべきだ」

「はあ? んなこと認められるわけあらへんがな。ミカエル様が不浄の男と交わるとか想像するだけで死んでまうがな」

「相変わらずミカエルミカエルうるせえちび女だなあ。寝るだけしか能のないお子様は黙っててくれよ。議論が進まねえんだからさ」

「うるさいなあカビの生えた臭いしかしない豆粒妖精はさあ」

「誰が豆粒だ。殴るぞてめえ!」


 一触即発の状態になり、今にもお互いが殴りかかりそうだったが。


「エフェメラル、アマテラス。落ち着きなさい。あなたたちが争うのは時間の無駄でしかないわ。それとも、また会議室を重くしたいの?」


 カオスの言葉により、2人は渋々といった感じで矛を収める。


「全く。問題児2人は血の気が多くて困るわね。イドゥン、あなたの意見は何かしら? カイツを生かして番にするか、殺してミカエルを完全復活させるか。どちらでも良いわよ」

「私は、彼を殺したくありません。恩がありますし、今の騎士団に彼は必要な存在ですから」

「あらあら。あらあら。さっきとは状況が変わったわね。今度はアマテラス支部長が孤立したわ」

「むむむむ。みんなおかしいわ。ミカエル様の完全復活を妨害してる害虫やで。なんでそんなに肩を持つんや。ロキ、お前良からぬことのためにミカエル様を使おうと思っとるんやろ。やからカイツを殺す案に反対してる。違うか?」

「確かに色々と考え事はしてるが、ミカエルは関係ないし、カイツは私のお気に入りだから反対してるだけだ。お気に入りを傷つけられるのは誰だって嫌だよ。お前だって、ミカエル様のグッズとかを傷つけられるのは嫌だろう? それと同じだ」

「ぬぬぬぬ。じゃあイドゥンはなんで庇うんや。あんたがあいつを庇う理由はなんやねん」

「彼はメリナとリナーテちゃんの愛する人なの。もしカイツがいなくなったら彼女たちが悲しむわ。それに、彼には私個人としても色々な恩があるし、殺すのは賛成できない」

「そもそも、アマテラスはさっきからミカエルがカイツを嫌がってるというような前提で話してるが、もしミカエルがカイツを好意に思ってた場合はどうするんだい。彼女の思いを無視して君はカイツを殺すのかな?」

「くだらんこと言うなや。万が一にもそんなことはありえんわ。あの方は誰にも体を許さぬ世界一美しき処女。どこの馬の骨とも知らん男に体を許すわけあらへんがな。洗脳でもされん限り、あの方はどこぞの男に処女を捧げることは絶対に絶対に絶対に絶対にありえへん! あの方は誰にも抱かれないし、誰かを愛して依存することもない孤高にして最強の存在なんや!」

「やれやれ。信仰もここまでいくと病気だね。じゃあ仮定の話になるけど、億が一の確率で、ミカエルがカイツ君のことを愛しているとしたら?」

「……絶対にありへんやろうけど、もしそんな仮定があるとしたら、認めたくないけど、そんな奴がおると仮定したら、それはミカエル様が真に心を許し、未来をともに歩むと誓ったお人や。けど、それは絶対にありえへん。あの方が誰かに心を許すなんてことは天地が10回転してもありえへん。もしそんな人がおるとするなら、一度見てみたいもんやわ。ミカエル様の信徒として、うちには確認する義務があるからな。最も、そんな奴がおるとしたらと仮定したらの話やけど」

「ふふふふふ。いつもは支部長会議に参加しても寝てばかりだというのに、ここまで猛烈に語る君は初めて見たよ。ミカエル信徒だということは知ってたが、ここまで重症とはねえ。ウリエルとは別ベクトルで危ない奴だ。ミカエル信徒ってのは、君のように危ない奴らばかりなのかい?」

「ざけんな。うちは普通の敬虔なミカエル信徒や。ミカエル様を手籠めにしたいとか襲いたいとか妊娠させたいとか、そういう危険な考えは一切持っとらん尊い信徒やがな。ミカエル様に害を為す可能性の高いカイツはいてこましたくてしゃあないけど」

「怖い怖い。私が評価すると贔屓と取られそうだが、彼は優しくて誠実で立派な人だよ。間違いなく、ミカエルに害を為す人間ではないと断言出来る。なんなら、私の命を賭けても良いくらいにはね」

「んなわけあらへんやろがい! うちはミカエル信徒として活動し、人間の醜さを何億回も見てきた。人間はほんまに愚かやわ。神たる存在である四大天使の力を己の利己的な理由のためだけに望む奴が多いこと多いこと。中にはくだらん目的叶えるために、信徒を偽ってうちらに近づいたクソ野郎もおったわ。更には四大天使の器を作ったり、その力を手に入れるために人体実験する馬鹿共もおった。ロキもそういうのに心当たりあるやろ。例えばヴァルキュリア家とかな」

「確かに私も、そういう心の腐った奴らには心当たりがいくつもあるが、カイツもそれと一緒だというのかい?」

「むしろ、一緒じゃないと考えるあんたが異常やわ。あいつは元ヴァルキュリア家の人間やぞ。偉大なるミカエル様に邪なる野望や醜い欲望を向けていてもおかしない。どう考えてもカイツは殺すべきや! あいつはミカエル様の力を悪用しようとする外道。このままほおっといたらミカエル様が不幸になり、最悪は世界が滅ぶ。うちにはミカエル信徒としてそれを止める義務があるんや。他の支部長たちもそう思うやろ。ていうか思えや!」


 その怒号に対し、ロキは呆れたように肩を竦める。エフェメラルは興味がないのか話を聞いておらず、鼻くそをほじっていた。


「やれやれ。思い込みというのは本当に怖い。いつもはグータラなお寝ぼけ支部長さんでも、思い込みでここまで豹変するのだから。というかカイツを殺すだの言ってるけど、彼が君程度に負けるとは到底思えないな。どう考えても返り討ちに合うのが関の山だよ」

「さっきから、ずっと舐めた口聞きおって。そんなにふざけたこと言う奴には」


 アマテラスが机に足を乗せた、腕を上げて何かをしようとした瞬間、カオスが話しかける。


「アマテラス。論点がずれてるわよ。今論じるべきはミカエルの器たるカイツをどうするべきか。彼の人格面とかミカエル信徒云々はどうでも良いわ」

「けど!」

「けども何もない。とりあえず、今は矛を収めてちょうだい。ここでそんな技を使ったら洒落にならないし、さっきから話がまともに進まなくて困ってるの。私からのお願い、聞けないのかしら?」

「……ぬう。分かったわ。ここは退いたる」

「アマテラスが良い子で私は嬉しいわ。そしてロキ支部長。あなたもあまり煽らないでちょうだい。アマテラスは実力や頭脳はともかく、メンタルは短期な子供そのものなのよ。その辺を考慮して言葉を選んでくれると嬉しいわ」

「了解。次から気をつけますよ」

「よろしい。では話を戻しましょう。エフェメラル、ロキ、イドゥン支部長はカイツを生かすべきだと判断し、アマテラス支部長は殺すべきだと判断している。バルテリアはどうかしら? せっかくだし、あなたの意見も聞きたいわ」

「俺個人としては、あいつは殺すべきだと思っている。あいつは百合の破壊者であり、メリリナカップリングやウルダレカップリングという聖域を汚そうとする悪魔だからな」

「では、アマテラスと同じ意見かしら?」

「そいつと一緒にしないで下さいよ。個人としては殺すべきだと考えてるが、私情を抜いた場合の意見としては生かすべきだと考えている。ミカエルはカイツに好意的なようだし、下手なことをすると彼女が怒り狂って世界が滅ぶ可能性がある」

「そんなことありえへんわ! ミカエル様がそんなにも好意を示す相手がおるわけあらへんやろ!」

「アマテラスは黙っててくれよ。話が進まないから。とにかく、カイツに変なことをすれば天使祭どころか世界が終わる可能性もある以上、当初の予定通り、番にするのが一番良いでしょう。番なら起こる変化は予測出来るし、ミカエル信徒が暴走しようがどうとでも対処できる」

「なるほど。フォルテスも同じ意見かしら?」

「ああ。俺としても器であるカイツを殺すのはあまり本意ではない。変なことが起きても困るし、多くの実績を持つ彼を失えば、騎士団はますます大変になる可能性が高い」

「なるほど。審判者(ジャッジメント)の貴重なご意見感謝するわ。さて、多数決で決めるならカイツは番にすることが決まっている。しかしアマテラスの意見を蔑ろにするのは悲しい。悲しいことよ。だからこうしましょう。イドゥン、あなたにはしばらく、サウス支部の支部長代理を頼むわ」

「え。それはどういうことですか!」 

「言葉通りよ。あなたにアマテラスの代わりをお願いしたいの。天使祭の準備とか根回しとか終わって、今は結構暇でしょ?」

「それはそうですけど、アマテラスの方はどうするのですか?」

「ここからが面白いことよ。アマテラス、あなたに独自行動の権限を与えます。騎士団のルールから逸脱しない限りは、どう行動しても構わないわ。そして、カイツ・ケラウノスを殺す場合は第3条のルールは適用しないこととする」

「何だと!?」


 ロキはその言葉に驚き、その場から思わず立ち上がった。

 騎士団には第1条から第50条までのルールが定められており、そのルールを破れば処罰を受け、最悪は処刑になることもある。

 第3条のルールは簡単に説明すると、騎士団に所属する人々は同士討ちをしてはいけないという事。

 例外になる事態はあるが、基本的に騎士団に所属する人間は、同じく騎士団に所属する人間を殺すことを禁じられている。しかし、アマテラスがカイツを殺す場合だけ、このルールを守らなくても良いということは、彼女は目の敵にしているカイツを殺すことが可能ということ。

 流石にイドゥン支部長も立ち上がり、声を上げる。


「待って下さい! そんな権利を認めたらカイツ君を番にする計画は」

「問題無いわよ。ロキ支部長の話では、カイツはアマテラスを返り討ちに出来るくらい強いのでしょう? なら大丈夫よ。仮に弱くても、殺される事はないし、計画が台無しになることもないわ」

「それは、どういう根拠が?」

「ここでは控えさせてちょうだい。アマテラスがまた怒っちゃうと困るから。とにかく、計画が台無しになることはないでしょうし、仮に台無しになってもセカンドプランがある。何の問題もないわ。それに、アマテラスの意見を無視して事を進めるのは悲しい。悲しい事だわ。私は仲間の意見を無視することなく会議を進めたいの」

「ですが」

「良いじゃねえかよイドゥン」


 イドゥンの話をエフェメラルが遮る。先程とは違って笑っており、楽しそうにしていた。


「カイツがどれだけ戦えるのか気になるし、悪くない案だと思うぜ。強い奴が意見を通せるって感じで面白いしな。それに、アマテラスに殺される程度の実力じゃあ、天使祭で他のミカエル信徒にぶっ殺されて番にするプランは結局おじゃんになるだろうよ。天使祭ってのは、それくらいに危ない祭りだ。てめえもその程度の事は分かってるだろ。それに、カオスが問題ないと言うなら、この案に反対する理由もねえだろ。カオスはちっと頭のおかしいところはあるが、先を読んだりプランを作ったりする能力はバカみてえに高いんだからな」

「しかし、アマテラスが彼を襲うのを黙って見てるわけには」

「知らねえよ。それは騎士団じゃなくてめえの問題だ。てめえでどうにかしやがれ。良い機会だし、見せてもらおうじゃけえか。ミカエルの器にして、カーリーを倒した男の実力。アマテラス相手にどれだけ戦えるかねえ」

「エフェメラルが賛成してくれて嬉しいわ。ロキも問題無いかしら?」

「……はあ。だめと言っても意味がないだろう? ま、構わないさ。アマテラスが返り討ちにされる光景を楽しみにしているよ」

「よろしい。では、天使祭で彼をミカエルの番にするプランだけど、後で資料を渡しておくから確認しておいてちょうだい。今渡したら、アマテラスが暴走しそうで怖いから」

「カオスはうちをなんやと思っとんねん。そんな危険人物みたいな扱いしおって」

「実際に危険人物だもの。あなたがここまで暴走するとは予想外だったし、色々と練り直さないといけないわね。では、これにて会議は終了。みなさんお疲れ様」


 こうして、支部長会議は終了となった。支部長やメジーマたち団員が席を立ち上がろうとすると。


「ああ。大事なことを良い忘れてたわ。どうやら変なストーカーがいるみたいだから、帰りに気をつけてね。ストーカーはとーっても怖くて強いから」


 メジーマはその言葉の意図を理解出来てなかったが、支部長や審判者はその言葉の意図を理解していた。






 騎士団センター本部の上空。高度5km以上の場所に2つの存在があった。1つは海を思わせるような青い髪の女性であり、貝殻水着という大胆な格好をしている。背中には3対6枚の水の翼を生やしていた。四大天使が1人にしてロキが契約した水を司る天使、ガブリエル。

 もう1つは黒いローブを身に纏った不気味な存在。正体不明の女性、ルリアスだ。どういうわけか、彼女は背中から黒く歪な翼を2枚生やしていた。


「やれやれ。人をストーカー呼ばわりとはずいぶんと礼儀知らずな人間だね。親の顔が見てみたいものだよ」


 ガブリエルが悲しそうにそう言うと、ルリアスが呆れたように突っ込む。


「あなたは立派なストーカーですよ。人に試練を与えるためとか言って、色んな人を追いかけ回して、遂にはこんな上空から覗き見ですか? あなたがガブリエルの名を持ってるというのは恥ずかしい限りですよ」

「仕方ないじゃないか。これは試練を観測したり難易度調整するために必要なことなんだよ。人類が試練を乗り越える姿を見るためには、あっちこっち行ったり、こういうとうさ……じゃなくて観察も必要なのさ」

「盗撮って言いかけましたよね。それで? カイツがアマテラスとかいうのに殺されそうになってますけど、手出ししなくて良いんですか? あれ、結構強そうですけど」

「必要ないさ。予想外のことではあるが、これも彼にとって必要な試練。この程度の試練も乗り越えられないなら、天使祭のサプライズに挑む資格も無いしね。ま、試練を乗り越えられなかった場合はネメシスの1人勝ちという大変つまらない結果になるから頑張ってほしいものだけど。そういえば、そのネメシスはどこにいるんだい? てっきり君と一緒に来ると思ってたんだけど」

「覗き見には興味がないとか言って、バリアスシティに行っちゃいましたよ。何か用事があるとか言ってましたけど」


 ルリアスのその答えに、ガブリエルは少しだけ眉をひそめる。


「バリアスシティってノース支部のある町だよね。一体何をしに行ったのかな。いくら気配が弱くなってるとはいえ、そんな所に行ったらミカエルに探知されそうだけど。用事の内容、君は何か聞いたりしてないのかい?」

「さあ。私も別に、あの女と仲良しこよしというわけでもないですし。あいつは自分の考えを他人に話さないですから」

「ふむ。なーんかコソコソと怪しいことしてそうだけど、ひとまずは置いておくか。じゃ、支部長会議も終わったみたいだし、そろそろ帰ろうか。いつまでもここにいると居場所を探知されそうだし、そうなると色々面倒臭いし、ネメシスに怒られちゃうからね」

「ですね。もうここには用がないですし、去るとしましょうか」


 その言葉を最後に、2人は水になってその場を去っていった。

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