第222話 カイツたちの休日 前編
side カイツ
リナーテに無理矢理連れてこられた任務を終えた翌日、俺はアリア、小さいミカエルと一緒に朝風呂に入っていた。昨日は疲れ果てて入る余裕もなかったが、今日は休日なので、こうして風呂でゆったり出来る。本当は1人で入りたかったのだが、最初はアリアがどうしても一緒に入りたいとおねだりし、次にミカエルが。
『それなら妾も共に入ろう。どこぞの肉食娘にカイツが喰われたらたまらんからのお』
と言ってきて2人に詰められ、根負けする形で一緒に入っている。今は彼女たちと一緒に湯船に入っており、アリアは俺の背中にもたれかかりながら座っていた。ミカエルは膨れた顔でそれを見ながら、俺たちの前にいる。
「ふ〜ふ〜ふふ〜ん♪ ふふ〜ふ〜ん♪」
「むー。じゃんけんに負けなければ、妾が一緒におったというのに」
アリアは嬉しそうに鼻歌を歌い、たまにミカエルの方を見下したように見つめては鼻で笑う。一方のミカエルは自分の手とアリアを交互に見ながらほっぺを膨らませて睨みつけている。
「ふ〜ふふ〜ふ〜ん♪ 良い気分だね。あんたの目の前で、カイツにこうしてべったりくっつくというのは。その風船のようなほっぺを見るだけで、今日あった嫌な事全部忘れられそうだよ」
「ふん。まあ良いわ。お主は経験が無く、カイツの男らしさを全く知らぬチェリー娘じゃからな。この程度のことは譲ってやらんと可哀想じゃ」
「……へえ。言ってくれるじゃん。サキュバス女と一緒になってカイツに襲いかかった淫乱売女の天使様は言うことが違うね〜」
「言ってくれるのお。物騒な腕力しか取り柄のない狼風情が」
2人の間にかなり重苦しい雰囲気が漂っているが、俺はそんなことを気にしてる余裕がなかった。彼女の白い肌となびく白髪、美しく整った体に隠されてない小ぶりな胸や下半身。それを見ると妙な気分になってくるし、ウルやミカエルとやったような儀式を、彼女に無理矢理したいという外道な考えが湧いてくる。
その考えを辞めるようにミカエルを見ても、今度は彼女の体に妙な気持ちが湧き上がってくる。小さな体に可愛らしい羽、美しく揺れる白髪が気分を昂らせる。更には、この前の儀式が昨日のことのように思い出してしまい、無理矢理にでも儀式をしたいという考えが更に強くなってしまう。一体どうすれば良いんだか。
「温かいね。カイツ」
「あ、ああ……そうだな」
そして身体から伝わる彼女の背中の感触。何かがガリガリと削られていくような変な感じだ。しかも俺を見てくる目が妙に美しいというか、魅入られる気分になってくる。
「ん……ふふふふ。これは嬉しいなあ。私の体も捨てたもんじゃないってことか」
彼女が俺の身体をさすりながら下の方を見ると、やぜか嬉しそうな笑みを浮かべてそんなことを言い出す。それを聞いたミカエルが俺のことを睨みつけてきた。
「ぐぬぬぬぬぬぬ。カイツの節操なしが」
ミカエルに睨まれ、アリアが手を握ったり体をさすったり顔をスリスリしたりと妙だけど可愛らしい事をしてくる変な状況の中、アリアが何かに驚いたような顔をし、突然立ち上がった。
「? どうした。アリア」
「この感覚……なんでこの力が」
彼女が1人でぼそぼそと呟いてると、ミカエルも何かに気づいたかのように扉の方を見つめ、風呂場から飛び上がる。
「ミカエルも。いきなりどうしたんだよ。何か気になることでもあるのか?」
「……カイツ、妾についてきてくれ!」
「え? ちょ、ちょっと待ってくれ!」
そう言うと、ミカエルたちは風呂場を出ていった。俺は何がなんだかわからず、言われるがままについて行って脱衣場で急いで服を着た。
その後は部屋を出て、ミカエルたちについて行って目的地らしき場所にたどり着いたのだが。
「ここって。ウルの部屋じゃないか」
着いたのはウルの部屋の扉の前だ。なぜここに来たのか質問しようとした瞬間、部屋から漏れ出る気配や魔力を感知した。しかもそれは。
「これ……ミカエルの力に似てる? でも、なんでそんなのがウルの部屋から」
ウルは四大天使や熾天使の力を持っていなかったはずだ。それなのになぜ
「あら……カイツ……そこにいるのね」
苦しそうな声を出しながら、ウルが扉を開けた。彼女の背中からは白い天使のような羽が1対2枚生えており、存在感を出すように神々しく輝いている。それだけでなく、強い魔力も放たれている。それに反するようにウルは顔色を悪くしており、扉に手を辛そうにしている。この感じだと、もしかして羽に魔力を吸い取られているのか?
「ウル! どうしたんだよ一体」
「この翼のせいで……ちょっと体の調子が良くなくてね。おかげで……魔力がすっからかんだし、体もフラフラよ」
「ふむ。どうやら、妾の力にうまく適応出来ておらぬようじゃな」
「どういうことだ。ミカエル」
「王都でやった儀式。あれを通じて妾の力が少しばかりこやつに流れたんじゃよ。じゃが、こやつは妾の力にうまく適応出来ておらぬ。故に羽が暴走し、この女の魔力を吸い取っておるんじゃ。このままでは死ぬとまでは言わぬが、日常生活に支障をきたすじゃろうな」
「それは……困ったわね。まさかあなたと一緒に行為してこんな事になるとは思いもしなかったわ……とんだ貰い物ね」
「ミカエル。どうすれば助けられるんだ。ウルをこのままにはしておけないぞ。このままじゃ彼女が」
「そうじゃのお。解決する策が無いとは言わぬが」
彼女はアリアを見つめ、考え込むような仕草を取る。
「ふむ。まあ一か八かでやってみるかの。反応も気になるし。カイツ、ウルにキスをしろ」
ミカエルがそれを言った瞬間、アリアの目つきが鋭くなり、ウルは嬉しそうに顔をほころばせる。
「え、なんで」
「キスをして、ウルの中にある魔力を吸い出すんじゃよ。お主がこやつとキスするのは気に食わぬが、今のお主が魔力を吸い出すにはそれ以外に方法があらぬからの」
「なるほど。でも、ウルが俺とキスしても良いのかどうかを確認しないと」
「私は良いというか、むしろばっちこいなんだけど」
ウルは申し訳無さそうにアリアの方を見る。
「えっと……良いのかしら? 私がキスしても」
「好きにしなよ。カイツが色んな女と遊ぶ所なんて既に見慣れてるし、あんたとキスしたくらいでどうとも思わないから」
特に気にしてない風に装う割には、爪がくい込むんじゃないかと思えるほどに握りしめていたが、大丈夫なのだろうか。
「……一応、許可は貰えたわね。じゃカイツ。お願いするわ。深くて楽しいキスをお願いね」
ウルは嬉しそうに微笑み、両目を閉じる。そんな彼女の肩を掴み、俺は彼女に口づけをする。俺の中に魔力が流れ込む感覚が襲いかかり、彼女の背中に生えていた羽が少しずつ小さくなっていく。
「カイツ……んっ、んちゅ……んう」
彼女は俺の首に手を回し、舌を口の中に入れて暴れまわるように舐めまわす。お互いに舌を絡ませ、深いキスを続けていく。
「ちゅ……んむっ、じゅる……カイツ。もっとして」
既に魔力の吸い出しは終わっており、彼女の背中に生えていた羽は手のひらよりも小さくなっている。顔色も良くなっていて問題なさそうだが、それでも彼女は唇を離さない。俺も彼女とのキスをもっと味わいたい、もっと一緒にいたいと思って。
「いつまでしておるんじゃ。この色ボケ共」
ミカエルが俺の頭を掴み、無理矢理引っ張ってキスを中断された。
「のわっと!」
「やんっ……もう。あと10分くらいはやりたかったのに」
「中にある魔力はもう心配ないじゃろ。あと数時間でまた増幅するじゃろうが、それでもさっきよりは少ないじゃろうし、日常生活は問題なく送れるはずじゃ。戦いで使いこなせるかどうかはお主次第じゃ」
「はいはい。使いこなせるように頑張るわ。それにしても」
ウルはびくびくしながらアリアの方を見る。アリアは俺を少しだけ睨みつけてるようだ。それに圧も強い。
「あははは……ちょっと遊び過ぎたわね」
「気にしなくて良いって言ってるでしょ。別にこの程度のことでどうこう言う気はないから。それよりカイツ、私お腹空いたし、一緒にご飯食べに行こうよ」
そう言って、彼女は俺の手を掴んでズカズカと歩いていく。
「ちょっ……引っ張るな。歩きにくいって。ウルと話したいこともあるんだが」
「後にしてよ。お腹空きすぎて倒れそうなんだよ。ほら歩いて」
「分かった、分かったから。ウル、また後でな! ダレスのことについて話したいこととあるし!」
「了解! また会えるの楽しみにしてるわ!」
「……やれやれ。やはりこれはまずかったかのお。もう少し考えるべきじゃったかもしれん。カイツの恋路にも困ったもんじゃ」
ミカエルは呆れたようにそう言い、紫の小さな玉に変化して俺の服の中に入っていった。
「はあ。本当に嫌になるし吐き気がする。周りにいる女、全員殺したいくらいにムカつくよ」
「? アリア、何か言ったか?」
「……何でもない」
ボソリと何かを呟いたように聞こえたが、何を言っているかは分からなかった。ただ、あまり良くないことであろうことは察したので、しばらく彼女を甘やかして笑顔にしようと心に誓った。思い詰めたような表情を見るのは嫌だからな。
「アリア。明後日、どこか遠いところに出かけよう。一緒に行きたいところもあるし。久しぶりに2人でゆったり過ごしたい」
「良いねそれ。すっごく楽しそう」
「準備は俺の方でやっておくからさ。アリアは弁当の手配とかを頼む」
「了解。カイツが満足出来るような肉弁当を用意しておくよ」
良かった。まだ暗いところはあるけど、少し笑顔になってくれた。やはり彼女は笑顔が似合う。ダレスの問題も解決しないといけないし、明後日の準備も色々とやらないといけないし、今日も大変な1日になりそうだ。
その後、アリアと一緒に食堂へと行き、彼女の注文した黄金牛ステーキのドカ盛り500gをあーんで食べさせた。その頃には彼女の機嫌も治っており、いつもどおりの笑顔を見せてくれるようになってくれたので安心した。




