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第221話 任務からの帰還 燻る闇

 side カイツ


 アリアたちも食料を調達して帰還し、無事に任務を終えた俺たちは馬車に乗ってノース支部へと向かっていた。既に外は暗くなっており、星や月明かりが俺たちを照らしてくれている。

 ヨトゥンヘイムに行ったチームはかなり大変だったようで、メリナがぐったりしていたし、メジーマは気絶している。しかも、彼の体は鋭い何かで斬られたかのような傷があちこちにあり、暴風にでも巻き込まれたかのように髪の毛がめちゃくちゃになっている。そんな中、アリアはほぼ無傷で済んでるのだから恐ろしいことこの上ない。


「大丈夫か? メリナ」

「色々な意味で大丈夫じゃない。六神王と戦った時よりも疲れた」

「そこまでなのか。一体何が」

「なんか、色々あった。あと、私に変なキャラ付けが追加された」

「? 変なキャラ付けって」

「前世がどうとか生まれ変わりがどうとかって。まあ、それは良いんだ。あんな戯言を気にしてたら頭おかしくなるし。それよりも、カイツたちはどうだったんだ?」

「数は多かったけど、大変なことは無かったからな。比較的楽に終わらせることが出来たよ」

「それは良かった。カイツがヨトゥンヘイムに来なくてほっとしてるよ。もし来てたら、より大変なことになってた可能性もあるからな」


 本当に何があったんだ。なぜかアリアもめちゃくちゃ不機嫌そうにしてるし、こっちの方をチラチラ見てきて落ち着かない。


「メリナたちも苦労してたみたいだねえ。ふっふっふっふ。にしても、これは凄いよカイツ! スーパーに凄すぎるよ!!!」

「いきなり叫ぶな。何が凄いんだ?」

「だってさ。私たちは2日どころか1日で終わらせて帰還してるんだよ。これはもう、私たちの評価うなぎのぼりすぎちゃうでしょ。いやー参ったなあ。もし他の支部からすかうとされたりサインもとめられたりしたらどうしようかな〜。かっこいい決め台詞とか考えるべきかな。スーパーで無敵なリナーテちゃんとかが良いかな〜」


 これから先の未来が薔薇色と考えてるのか、やたらと嬉しそうにはしゃいでいる。まあはしゃぐのは彼女の自由なのだが。


「虹色未来を妄想してるところ悪いが、リナーテはそこまで高い評価にならないと思うぞ」

「え……なんで? 私すっごく頑張ったんだよ。これだけ頑張ったんなら凄い評価に」

「頑張ったかどうかはともかくとして、俺たちがやったこと自体はそこまで難しくなかったし、俺とアリアを勝手に連れ出したりと色々な問題行動してるからな。マイナス点が多すぎ」

「いやいや。きっと、沢山のマイナスをプラスに出来るくらいのスーパー実績が」

「食料調達に関しても、3割くらいは俺が捕ってたし、評価はかなり低いと思うぞ。良くてプラマイゼロ。悪くて穀潰し扱いだろうな」

「そ、そんなあ……せっかくの私の努力があ」


 まるで親を殺されたかのような悲痛な表情を浮かべ、彼女はその場にへたり込んだ。まあ、今回に関しては同情は出来ない。自業自得だし。

 とはいえ、メリナたちのボロボロっぷりをみるに、もしアリアがいなかったら任務成功どころか無事に帰ってきたかも怪しいがな。そこだけはリナーテに感謝しないと。


「? アリア、どうかしたのか?」

「……何もない」

「そうか。そういや、アリアは大丈夫なのか? ヨトゥンヘイムで色々あったみたいだけど」

「……別に。あの程度の問題なんてどうってことないよ。カイツが気にすることはないから」


 俺のことを見ていた彼女の目、どこか悲しそうに見えたが、ヨトゥンヘイムで何があったんだ。この前にも何があったか聞いてもはぐらかされたし。


「アリア。何かあるなら相談してくれよ。俺はお前の力になりたいんだ。1人で悩むことなんてない」

「ありがとう。でも大丈夫だよ。少なくとも今はね。もしどうしようもなくなったら頼るから、心配しなくて良いよ。これぐらいの問題、私なら余裕で片付けられるから」


 そう言って彼女は笑みを浮かべるが、俺にはその笑みがどうも嘘くさく、仮面を張り付けてるかのように見えてしまった。


 その後、ノース支部に到着したのは夜遅くであり、殆どの人が寝静まってる時間だった。


「さて。私はメジーマを連れて医療室に行くから、カイツとアリアは部屋に戻って休んでくれ。リナーテは後で説教あるからついてこい」

「えー。なんで説教されるのさ〜。私も疲れてるのに」

「メリナ1人で大丈夫なのか? 俺もついて行った方が」

「こいつを運ぶくらいは問題ないさ。いざという時はこの性悪バカもいるしな」


 そう言って、メリナはリナーテの頭をガツンと叩く。洒落にならない音がしたが、大丈夫だろうか。


「それに、カイツもアリアもずいぶんと疲れてるみたいだし、早く休んだ方が良いぞ。ほれ、後は私たちがやっとくから、カイツたちは部屋に帰った帰った」

「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらうよ」


 アリアのことも気になるからな。俺の思い過ごしだと良いんだけど。


 そうして、メリナたちと別れて部屋に戻る道中。


「あれ。カイツとアリアじゃん。どこかお出かけしてたの?」


 声のした方を振り向くと、ダレスがこっちに来ていた。首には汗でびっしょりになっているタオルをかけており、額からも少し汗が垂れている。それに体中泥だらけになっており、相当ハードな訓練をしたのだろうと一目で理解した。


「いや、任務に出ていてな。今帰ってきたんだ」

「あれ? カイツたちって今日は非番だったと思うけど」

「リナーテに無理矢理連れてこられたんだよ。おかげでせっかくの休みがパーだ」

「あはははは! そりゃ災難だったね」

「そういうダレスは鍛錬してたのか?」

「まあね。本当は誰かと戦いたかったけど、誰も誘いに乗ってくれなくてね〜。1人で朝からずっと鍛えまくってたよ」

「凄いな。そこまで続けられる体力は恐ろしいよ」

「ま、あんまり鍛えられた実感は湧かないし、この程度じゃニーアたちに届かないだろうけどね〜。あれは私程度が努力で追いつくレベルなのか分かんないけどさ。カイツたちが羨ましいよ。熾天使(セラフィム)だったりミカエルだったりフェンリルだったり。強い奴には特別な何かがある。強い人ってのは凄いねえ……今カイツとやり合っても10秒も立ってられる自信がない。凡人でしかない私が恨めしいよ。私にも特別な何かがあればなあ」


 彼女は少し悲しそうに、自虐するかのようにそう呟いた。


「ダレス、大丈夫か?」

「ん? 全然問題ないよ。カイツたちがどれだけ強くなっても、私は必ず追いつくからさ。凡人だって天使に追いつく力があることを見せてあげるよ。なんせ、人の可能性は無限大だからね。いつか追いついてぶっ飛ばしてやるから覚悟しな」

「いや、そういう話じゃなくて」

「さてと。私はプロテイン作ってくるから、これにて失礼するよ。カイツたちもゆっくり休んでね。いやー、明日も鍛錬だから大変だ。プロテイン作ってストレッチして、明日に備えないとなー」


 彼女はそう言って、そそくさと自分の部屋へ戻っていった。大丈夫なのだろうか。何か思い詰めてないと良いんだが。今からでも彼女の部屋に行くべきか?

 でも、いきなり行ったりしたら邪魔だろうし、下手に干渉するのも悪手だろうし。


「カイツ。早く部屋に戻ろうよ。私疲れちゃったし」

「あ、ああ……そうだな。部屋に戻るか」


 とりあえず、しばらくダレスのことを気にかけておこう。いきなり部屋に突撃するのは色々とまずいだろうし、明日にでもウルに相談してから行動する方が良いかもしれない。そう判断し、俺はアリアと一緒に部屋に戻って行った。




「はー。やっと休めるよ。疲れたー」


 部屋に戻って早々、アリアはベッドにダイブして寝転がる。俺もそれにつられて寝転がると、彼女は尻尾を足に絡めて抱きついてきた。


「どうした。アリア」

「別に。こうしたい気分だっただけ」


 彼女は俺の首元に顔を埋め、聞こえるくらいに大きな鼻呼吸をし始める。


「ふう。カイツは良い匂いするよね。泥棒猫の匂いが付着してるのがムカつくけど、まあこれぐらいなら我慢は出来る」

「そうか。ま、良い匂いと言われて悪い気はしないな」


 頭を撫でると、猫のように俺の頬をスリスリしてくる。こうして接してくれるというのは、凄く嬉しい。出来ることなら、ずっとこんな風に人と触れ合える日々を過ごせたら嬉しいんだがな。


「カイツ。カイツは私から離れないよね?」

「当たり前だろ。お前が離れたいって言わない限りは絶対に離れない。ずっと一緒だ。アリアと一緒に過ごせないのは寂しいからな」

「……なら良い。でも」


 彼女は急に起き上がり、俺の上にのしかかってきた。


「離れたら、私は何するか分からないから気をつけてね」


 そう言うと、彼女は俺の首元に噛みつき、強く牙を立てる。そのせいで肌が裂け、首から少しばかり血が流れる。


「了解。肝に銘じておくよ」

「それなら良いんだけど。カイツは理解してるのかしてないのかよく分からないところがあるし」


 彼女は自分の着ているシャツを脱ぎ、俺の胸元に手を置く。もしかしてこの感じ、ミカエルやウルとやった儀式なんじゃ。そう思ってると、手を置いてる部分が少しだけ光り輝き、白い羽が出てきた。


「……はあ。今は良いや。こんことしても意味ないだろうし、女狐天使に邪魔されそうだし」


 服を着直して俺の傍に座り直し、俺の手を握る。そして、尻尾を俺の頭の上に置く。


「アリア」

「今はこれで良い。いつか必ず、私のものにする。神様が邪魔しようとね」


 一瞬だけ、その瞳に光が灯ってないように見えた。夜の闇よりも黒く濁ってるかのように。しかし、それは見間違いだったようで、彼女の瞳は濁ってるわけでもないし、ちゃんと光っていた。


「カイツ。これからもよろしく。一緒に騎士団の仕事頑張ろうね。カイツの理想のためにも」

「ああ。よろしくな。アリア」

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