第220話 食糧調達完了
「ほおほおほお。これはまた面白い人間が来たものだや。1人はいくつもの過去を継承しているフェンリル族。もう1人は生まれ変わった旧世代の人間か。これは面白いものだや」
「旧世代? あんたはなんの話をしてるんだよ」
「ん? お主は理解しておらぬか。今どき珍しい……なるほど。かっかっかっか。これは本当に珍しい人間だや。そんな幼い年で生まれ変わりを経験してるとは凄いだや」
「おい。勝手に納得するな。旧世代ってのは何なのかを教えてくれ」
「しかし、そんな年で生まれ変わるとは奇跡に近いだや。これも天使様の御業。いや、天使様にさえ操作できない運命というやつの御業かもしれん。かっかっかっか。こんなにも面白い運命というのも珍しいものだや。私は今初めて、運命というものを信じてるかもしれんだや。かっかっかっか」
勝手に納得して笑っているユミルの姿はかなり不気味なものであり、メリナはドン引きしていた。
「なんなんだよあいつ。どこにあそこまで笑う要素が。つか人の話を聞いてねえぞ」
「他人の話を聞くタイプじゃないからね。勝手に相手の人生を見て爆笑して。気持ち悪いったらありはしない」
「どういう奴だよ。というか、あいつと会うのが目的だったみたいだけど、何か意味があるのか?」
「あいつがアウズンブラの子供を管理してるからね。力ずくで子供を取り上げても良いけど、そんな実力行使に出たらあんたらは確実に死ぬし、負担もエグい。楽に任務をこなす為には、あいつと話をする方が楽なんだよ」
「今のところ、あいつが勝手に納得して勝手に笑ってるようにしか見えないんだが」
「あれで問題ないよ。奴は他人の過去や生き様、前世とかを見ることが出来る特殊な目を持っていてね。その目で他人の人生を見るのが大好きなんだよ。中でも一番好みなのは、メリナみたいに前世があるような奴かな。前世と言って良いのかどうかは議論が別れるけど」
「前世。自分が生まれる前に経験した人生ってやつか。そんなの本当にあるものなのか? 眉唾物としか思えないんだけど」
「あるよ。まあ、メリナが想像してるような前世とは少し違うんだろうけど。メリナのように前世を持つ人間のことは旧世代って呼ばれてるんだ。そしてその旧世代こそ、あいつの大好物。だからああいう風に興奮して、舐めまわすように見てる」
「な、なるほど。まあ、何となくは分かった……かな? にしても、随分と色々知ってるんだな。ここに来たことあるのか?」
「過去にフェンリルの力を持ってたやつの記憶だよ。どうやら、ユミルと随分親しい仲だったみたいでね。色んな話をしていた記憶があるよ。といっても、あいつが勝手にしゃべって勝手に大笑いしてるものばかりだけど」
「む? 私の話をしてるようだが、そこのフェンリル少女は私を知っておるのか? 会ったことは……なるほど。お前はガレアンの知識を持つ者か。だから私のことを知ってるというわけだ。かっかっかっか。本当に面白い奴らばかりで最高だや」
「ガレアン? 誰のことだ」
「私の持っているフェンリルとしての力と知識。それを私の前に継承していた男。巨人族の中でもトップクラスの力を持っていたんだよね。そいつの記憶や知識があるからこそ、私はここにも詳しいんだよ」
「なっ!? 巨人族がフェンリルの力を持っていたのか!」
「別におかしなことではないよ。フェンリルの力はどの生物に宿るか分からないんだから。まあ、そんなことはどうでも良いとして。ユミル、こいつはあんたのお眼鏡に叶ったかな? 答えてくれると嬉しいんだけど」
「にしても、幼い年の旧世代は興奮するだや〜。知らぬが故の無垢。これが汚されて必死に抗い、最後に終わっちまうを見るのは面白そうだや。けどそれよりも、フェンリルたるあんたの人生の方が面白いだや」
「やっぱり話は聞かないか。てか、なんで私の人生の方が面白いのかね」
「いやー、見れば見るほど、負け組女のテンプレ人生そっくりだや〜。負け組のテンプレ人生はいつ見ても面白いものなのだや。フェンリルの人生は碌なものが待ってなさそうだや。振られて終わるかそこらのブサ男に襲われて終わるか。後者の末路の方がフェンリルに似合いそうだや。かっかっかっか。想像するだけで爆笑だや」
「……へえ。ずいぶんと面白いこと言うね」
アリアの魔力が大きくなっていき、木々や大地を揺らし、彼女を中心に強い風が巻きあがる。
「くっ!? ちょ、ちょっとアリア!」
「ん? なんか知らん間に勝手に怒って魔力をまき散らしてるな。にしても、あの怒りっぷりに鋭い目つき。負け組女のテンプレ性格とか表情そのままだや。このままブサ男に負けて屈服されることになったら100点満点ではあるが、今はそれを見るのは無理そうだや」
「ずいぶんと他者を見下したり馬鹿にするのが大好きなんだね。しかもこっちの話を全く聞いていない。記憶で見ていたからある程度覚悟はしてたけど、ここまでとは思わなかったな」
「かっかっかっか。なんか知らんが、負け組が勝手に必死になって怒ってる姿というのは愉快だや〜。怒ってる理由も意味不明過ぎて面白いんだや。カイツとやらに恋をしているようだが、惨めな人生を歩んでて性格も悪い、変な女から粉かけられてるみたいで、もう負け組一直線の人生。面白すぎて2年は笑えそうだや。かっかっかっかっかっか!」
「……今からでも実力行使して良いかな」
「落ち着けアリア! お前が暴れたら大変なことになるから! 落ち着け!」
メリナは必死になってアリアを抑えつけようとする中、彼はそれを気にせず話を続ける。
「時に、あのメリナとかいう女は負け組ではなさそうだや。生きてきた人生も、旧世代であることを除けば平凡で陳腐。思い人へのアプローチも普通。負け組のテンプレではないが勝ち組のテンプレでもない至極普通。旧世代の癖にこんな人生というのは一周回って面白いんだや」
「褒め言葉と受け取っとくよ。てか、負け組とか勝ち組はどうでも良いから、私たちの話を」
話してる最中、アリアが突如として腕を振り回す。それと同時にガキン、と硬い何かが弾かれたような音が響いて地面に落下した。落ちた物は銀色のナイフであり、1本だけでなく、10本近くあった。もしアリアが防がなければ、確実に刺さって死んでいたであろう事実にメリナは戦慄した。
「……は? なんだこれ」
「危なかったね。もしあのまま刺さってたら死んでたよ」
「ちぇー。うまくいかなかったのだや。流石はフェンリル族。動体視力がえげつなくて驚きなのだや」
「……おい待て。お前、いきなり何してんだ! なんで攻撃してきた!」
「う~む。普通の人生から唐突に負け組になるのを見たかったのだが、流石に短絡的すぎたのだや。それによくよく考えてみたら、こんなことしたら絶滅危惧種である旧世代が減ってやばいんだや。このアイディアは良くなかったのだや。フェンリルが防いでくれて助かったのだや。せっかくの旧世代がいなくなるのは悲しいのだや」
「おい。いい加減に話を聞け。私たちは天使祭のための食糧を調達する為にお前と話を」
「むむむ? そういえば、なんで人間がこんな所に来てるのだや? あまりにも面白い人生に夢中になってて、その疑問を持つのを忘れてたのだや。ヨトゥンヘイムの門を開けっぱなしにしてることはまずないから、迷い込んだ可能性はほぼ0。何かしらの目的で来たと思うのだや。しかし、この時期に来る目的とは」
「ああもう! だからさ、人の話を聞けと言ってるだろうが!」
ユミルの態度に怒りを爆発させたメリナは、収納魔石や持ち運んでる瓶に残っていた水を全て外に出し、錬成して大量の剣や棘付き金棒、槍を生み出した。
「さっきの攻撃のお返しだ。喰らえ!」
そのまま生み出した武器を一斉に放つ。ユミルはその武器に目もくれず考え事をしていたため、攻撃はモロに直撃したが、頑丈な皮膚がすべての攻撃を弾いてしまった。
「なっ!? 私の攻撃が……あれって魔力で体質を変化させて」
「違うよ。あれはあいつの素の強度。相変わらず馬鹿みたいに頑丈だね。メリナの作る武器じゃ傷1つつかないと思うよ。にしても、まだ考え事してるみたいだね」
ユミルはメリナの攻撃を全く気にしておらず、自分だけの世界に浸っていた。
「ふむ。やはり戦争目的で来たとは思えないだや。となるとやはり、祭りの食料調達か。その理由なら珍しい旧世代が来た理由も分かる。おい、メリナちゃんとフェンリルの女!」
「いきなり何だ? ていうか、私の名前をちゃん付けで呼ばないんでほしいんだが」
「今すぐ私と一緒に来るだや。お前たちは素晴らしい仕事を果たしてくれた。良い仕事には良い報酬を与える。それが私の主義だや。さあ、早く来るだや」
彼はそう言ってずんずんと先に進んで行く。
「……アリア、どうするんだ?」
「ついていくよ。私たちが来た理由を察してくれたみたいだし、ついていった方が仕事が楽になる」
「でも、あんなのについていって良いのか? 色々とやばそうなやつだけど。それに、メジーマのことも」
「あいつを殺せる程度の力はあるから大丈夫だよ。メリナがどうなるか知らないけど。メジーマは多分生きてるから大丈夫。上手いこと戦場から離してるし。ほら、さっさと行くよ」
「ちょっと。待てアリア!」
その後、3人は森の中を進んで行た。メリナはこの森の中に自分たちが調達する食料があると思っていた。しかし彼女の予想を裏切り、一行は森を出て氷の大地へとたどり着いた。ほぼ全てが氷に覆われた大地であり、生物の気配は微塵も感じられない。冷たく閉ざされた真冬の世界。森から流れる川の殆どが凍っていたが、白い水の流れる川だけは凍っていなかった。川は氷の大地から森に向かって流れているようである。先ほどとはあまりにも違う世界の景色にメリナはただ混乱していた。
「おいアリア。ここはどこなんだ? どこもかしこも氷に覆われてるけど。明らかに雰囲気とかも色々と変わってるし」
「ヨトゥンヘイムは少し特殊な場所でね。ここみたいに氷に覆われた場所、灼熱の炎に囲まれた場所、乱闘パーティーがあった場所みたいに、普通に生活できる場所と3種類のエリアがある。そして、この氷のエリアにいるのが」
話してる最中、一行は氷の霜を舐めている巨大な黒い牛の前にたどり着いた。牛の大きさは城を遥かに超える大きさであり、空の雲にも匹敵するほどの大きさがあった。巨大な牛の下には1メートルほどのサイズの牛が大量にいた。その周囲には尻尾の先っぽが宝石のように輝いているリス、ラタトスクが何百匹もいる。
「で……でけえ。なんだよこの大きさは。こんな生物見たことないぞ」
「周りにいるリスはラタトスク。あんたらが調達したい食料だや。そしてあの大きなお牛様こそ我らの神、アウズンブラ様だや。アウズンブラ様は私が巨人族を生むために必要な栄養を川にして流してくれるのだや。全ての巨人族にとっての創造主であり、母とも呼べる偉大過ぎて勝ち組過ぎる存在なんだや」
そう言って、彼は白い水の流れる川を指さす。川の源流はアウズンブラの乳から流れており、それが川のようになって森へと流れていたのだ。
「えっ……ユミルが巨人族を産んでる? でもあいつは男だし……ああでも、繁殖方法が人間と同じとは限らないし……何がどうなって」
「メリナ。今はそんなことどうでも良い。重要なのは、創造主ともいえるアウズンブラの子供を私たちが貰うってこと」
「そうだや。お前たちが貰うのはアウズンブラ様から分裂する子牛。子牛はただの食料に過ぎないが、それでもアウズンブラ様の一部。それを貰うという意味をしっかりと考えて調達してほしいんだや」
「ああ。それはちゃんと理解してるよ。こっちの勝手な事情で神様の一部を貰うんだからな。色々と酷い目にはあったけど、こうしてアウズンブラを調達させてくれるのは感謝してる。ありがとう」
「かっかっかっか! 礼はしなくて良いだや。私はあんたらの仕事に見合った報酬を差し出してるだけだや。旧世代のあんたの人生は面白かったし、そこのフェンリルは無様な末路へ一直線な負け組人生で最高だったし、とっても満足だや。かっかっかっか!」
ユミルが陽気に笑っていたが、アリアは強い殺気と圧を込めて彼を睨んでおり、メリナは生きた心地がしなかった。その後はユミルやアリアの助けを借りながら、収納用の魔石にラタトスクを200匹、アウズンブラの子供を100匹収納し、無事に食料調達任務を終わらせることが出来た。




