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第219話 地獄の戦場を突破せよ!

 アリア、メジーマ、メリナの3人は薄暗い森の中で焚き火をし、夜を過ごしていた。アリアは大して疲労していないが、メジーマとメリナは度重なる戦闘やらとんでもない出来事の多くに体力や精神をかなり消耗していた。そんな状態で夜の森を移動するのは大変だと判断し、野営を取ることにしたのだが、アリアはめちゃくちゃ不満を持っており、メジーマたちを見るたびに舌打ちしながら見張りを続けている。最初は交代で見張りをしようという案もあったのだが。


「あんたらみたいな役立たずが見張りをしたって意味ないよ。私が1人でやった方が早いし楽だからさ。勝手に休んでて。特にメリナはしっかりね。死なれるとちょっと困るし」


 と言われてしまい、メリナたちは気まずい思いをしながら焚き火のそばで座り込んでいた。


「……はあ。情けないものですね。騎士団団員が見張りすら出来ずにのんびりしてるのですから」


 彼は目に見えて落ち込んでおり、表情も暗かった。


「ま、まあ……疲れを癒す良い機会だと思えば良いじゃねえか。私たちの疲労はやばかったし」

「その疲労も、俺たちがもっと強ければ、無かったと思うのですがね……悔しいですね。俺は過去にあれだけのことを経験していながら、何も学習出来てない愚か者だったのですから」


 彼がボソリと呟いた言葉を彼女は聞こえていたが、あえて聞かない振りをした。表情からして楽しい話でないことは分かりきっているし、彼にそんな辛そうなことを話させたくなかったのだ。


「別に愚か者ではないだろ。お前はしっかり騎士団の団員として戦えてると思うぞ。少なくともあいつよりはマシだしな」


 彼女は腹立たしそうにアリアを指差しながらそう言う。


「そりゃ、実力だけはあいつの方が上だけど、性格とか諸々含めたら、お前のほうが圧倒的に上だよ。あいつと一緒に行動するくらいならお前と行動する方がまだマシだ。一番はカイツと行動することだけどな」

「……全く。それって褒められてると言えるのですかね?」

「褒められてると思っとけ。私がカイツ以外の男を褒めるなんて滅多に無いんだからな」

「なら、ありがたくその褒め言葉を受け取ってもらうとしますからね」


 彼は呆れた笑みを浮かべてそう言う。表情の暗さはまだ消えてなかったが、幾分かはマシになったように見えた。


「たく。ようやく辛気臭い顔がマシになったな。タイタンと戦ってから、ずっと暗かったからな。大変だった」

「……否定しきれないのが辛いですね」

「それに、アリアもどういうわけか、妙に苛ついてるみたいだからな。火消し役も楽じゃない」

「苛ついてる? いつもあんな感じに見えますが。それに、彼女は無理矢理ここに連れてこられたのですから、苛つくのも仕方ないと思うのですが」

「……それだけだと良いんだがな」


 高い木の上で見張りをするアリアを観ながら呟く。アリアの表情もどこか暗く、どこか思い詰めているようにも見えた。




 夜を過ごした後、一行は食料調達向けて再び歩を進めた。メリナは額に伝う汗を拭いながらつぶやく。


「そういや、まだ乱闘パーティー終了の鐘は鳴らないのかよ。もう1日経ってるっていうのにさ」

「乱闘パーティーは1週間は続くからね。任務期間内に終わることはまずないよ。こういうのが嫌だから、パーティーが始まる前に蹴りをつけたかったんだけどね」

「それにしても、一体どれだけ歩くのでしょうか。もう数時間は歩いてる気がしますが」

「安全策をとって遠回りしてるのもあるけど、それ以上に遠いんだよね。でも、そろそろ森を出る頃だよ」


 アリアが指差した方向には光が広がっており、森の出口だということを如実に表していた。


「おお。やっと出口か。ここ最近は暗い森の中ばっかりだったから疲れたな」

「ここから更に疲れますけどね。アウズンブラやラタトスクを合計300匹も狩らないといけないのですから」

「獲物に関しては問題ないよ。絶対に手に入るから。最も、手に入れるまでが大変なんだけどね」


 出口に出ると、2人はその光景に絶句するしか無かった。


「うおらああああ! 死ねやこのクソボケがあ!」

「よっしゃあ! これで500ポイント。あと少しでトップ層だ」

「てめえなんかに負けるかよ。さっさとくたばりやがれ!」

「てめえこそさっさと倒れろ! ポイントにならねえだろうが!」


 何百体もの巨人族が四肢をもぎ取り、臓物をさらけ出し、相手の頭を棍棒でミンチになるまで叩き潰し、血で血を洗うような凄惨な戦いを繰り広げていた。その戦いの酷さは王都でヴァルキュリア家と戦った時とは比較にもならない。絶対に相手を殺す。勝ち残るという執念が地獄のような戦場を生み出していた。メジーマはそのむごい光景に心を痛め、メリナは込み上がる吐き気をこらえながらアリアに質問する。


「おいアリア。これは……なんなんだよ」

「なに変な顔してんの。乱闘パーティーの起きたヨトゥンヘイムじゃ、この程度は日常茶飯事だよ」

「これで日常茶飯事か。森の中とはえげつなさが段違いだな」

「アリア。これからどうするのですか? まさか、この中を突っ切って行くとは言いませんよね?」

「雑魚にしては察しが良いじゃん。あそこにある金色の森。あれを突っ切り、メリナか私のどっちかがそこまでたどり着けば、食料調達の任務はほぼ完了。簡単でしょ?」


 そう言って指差した森は豆のように小さく、相当な距離があることは明白だった。


「どこがだ! あんなイカれた戦場をどうやって突破してあんなとこまで行くんだよ。というか、なんで私かアリアのどっちかが着けば任務完了なんだよ。あの森に食料が保存でもされてるのか? だとしたらメジーマが着いても任務完了だと思うけど」

「いや、メジーマは駄目だね。こいつみたいな平凡な人生じゃ、あれは満足しない。私でギリギリ。メリナならほぼ確実に行けると思うよ」


 メリナはその言葉を理解できなかった。どう考えても自分よりもアリアの方が波乱な人生を送っていると思ったし、そもそも人生が任務完了にどう関係あるのか分からなかったからだ。それはメジーマも同意見のようで、理解できないと言いたそうな目で見ている。


「どういうことですか。メリナに何かとんでもない秘密でもあるというのですか? 仮にあるとして、それが何になるというのですか」

「ま、ある意味そうとも言えるかもね。メリナは面白いタイミングで生まれ変わってるようだし。何になるかは行ってみれば分かるよ。あいつはメリナみたいな奴好きそうだし」

「生まれ変わってる? なんの話だ。それにあいつって誰のことを」

「気が向いたら説明するよ。それより、さっさとここを突破しちゃお。こんなくだらない任務、とっとと終わらせたいし」

「ですから、あの戦場をどうやって」


 その質問を無視し、アリアは2人を抱えて空高く飛び上がり、そこから巨人族の頭を踏み台にして更に高く飛び、戦場を横断する。


「ぎゃああああああ!? アリア、アリア! こんな高いところにいたらららら」

「ピーピーうるさい。舌噛むよ」

「!? アリア、向こうから棍棒が来ます!」

「分かってるよ。いちいちうるさい」


 彼女は後ろから飛んできた棍棒を足場にして更に高く飛び、戦場の上を飛んでいく。その後吹き飛ばされた腕や頭を足場代わりにして常に高いところを飛び続け、メリナたちは傷一つ負うことなく無事に森の方へと近づいていった。


「分かってはいたことですが、凄まじい身体能力ですね。こんなとんでもない芸当が出来る団員は、そういませんよ」

「だなあ。さすがはフェンリル族というべきか。基礎スペックが桁違いだ」


 2人がその能力の高さに感心する中、アリアは唐突に呟く。


「あ、これまずい」

「? 何がまずいんですか。アリア」

「この先に足場に出来そうなのがない。このままじゃ落下する」

「はあ!? どうすんだよ。それじゃあの地獄の場所に落下したら即死だぞ」

「そうだね〜」


 アリアはメジーマと戦場をチラチラ見始め、彼は猛烈に嫌な予感を感じた。


「メジーマ」

「……なんですか?」

「最低限の補助はしてあげる。後は頑張って」

「それは一体――!?」


 アリアはメジーマを真上に高くぶん投げた。


「ちょっ!? アリア何してんだよ!」

「これが1番良い方法だからね。獣王剣・龍」


 腕に魔力を込めて数回転すると、巨大な竜巻が彼女たちの中心に現れ、戦場を荒らしていく。


「どわあああああ!? なんだこの風は!」

「ぎゃあああ!」


 巨人族たちが巻き込まれて肉体がズタズタに切り裂かれていく。アリアはその竜巻に上手くのって上空へと高く飛んでいったが、メジーマは竜巻に吹き飛ばされてどこかに飛んでいってしまった。


「ちょいちょいちょい! メジーマがどこかに行っちまったぞ!」

「多分大丈夫だよ。それより、さっさとあそこにある森の方へ行くよ!」


 彼女は同じくらいに高く吹き飛ばされてきた巨人族を足場にし、空を駆ける流星のように黄金の森へと飛んでいった。


「ひぎゃああああああ!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」

「うるさい。本当に舌噛むよ?」


 アリアが呆れながら注意し、メリナが甲高い声で絶叫しながら森の中にある白い池の中へと突っ込み、大きな白い水柱が巻きあがる。巻きあがった水柱はあっという間に池に戻り、バケツを引っくり返したかのような勢いの大量の水が2人に降り注いだ。


「あびゅびゅびゅびゅびゅ!?」 


 メリナが溺れた動物のように藻掻く中、アリアは涼しい顔をしている。水が元の状態に戻ると、メリナは必死に中に入った水を吐き出していた。


「はぁ……はぁ……あぶ……酷い目にあった。てか、なんだこの水。白くてベタつくし、妙に甘ったるい味がするし」

「この池。これは幸運だね。思ったよりもショートカットすることが出来た」

「? どういうことだ。いや、今はそんなことよりもメジーマを」

「あいつは後回し。まずは任務を終わらせるよ。ついてきて」

「ちょ、待てコラ!」


 メリナは先に進もうとするアリアを追いかけて森の中に入っていく。先に進むにつれて森は生きているかのように不規則に揺らめき、どこからか声が聞こえてくるようにも感じた。


「なんだここは。それに、この気味悪い感覚は一体」

「……へえ。向こうから来たんだ。よっぽどメリナに興味があるみたいだ」

「何を言って……!? なんだ」


 突如として感じた不気味な気配。それはかつて対峙した偽熾天使(フラウド・セラフィム)や六神王のものに少しだけ似ていたが、本質的な何かが明らかに違った。

 困惑するメリナの前には、いつの間にか人間らしき男性が1人現れていた。背丈は3メートル弱。濃く大量の口髭を携え、真っ黒に塗られたような瞳がこちらを興味深そうに見つめている。尖った鼻や少し裂けた口は威圧感を与えており、黒い腰みのしか纏っておらず、上半身からびっしり毛の生えたその体はまるで不審者だ。その男は値踏みをするようにアリアたちをみると、嬉しそうな笑みを浮かべて舌なめずりした。


「……アリア。あの変な奴は一体」

「この世界で一番最初に生まれた巨人であり、巨人族全ての母とも呼ぶべき者。原初の巨人、ユミル。かつては天使にも喧嘩を売ったと言われてるとんでもない化け物なんだよね」

「原初の巨人……ユミル」

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