表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
220/236

第218話 ヨトゥンヘイムの乱闘パーティー

 3人は次々と襲いかかる巨人族たちの襲撃をなんとかやり過ごした。今は黒い森の中で身を潜めながら、アリアからこの世界のルールについて話を聞いている。


「つまり、このヨトゥンヘイムではあの鐘が鳴ると同時に殺し合いが始まる。殺せば殺すほどポイントというのを貯めることができ、ポイントの数に応じて褒美や勲章を貰うことが出来るということですね」

「ま、大体そんな感じ。そんなルールがあるから、奴らにとって誰かを殺すというのは仕事をするようなものなんだよ。罪悪感も遠慮もありはしない。本能に突き動かされるように誰かを殺していく」


 メジーマとメリナは、それを聞いて苦い顔をしていた。2人は騎士団としての仕事をしてる以上、罪なき人を容赦なく殺すような凶悪犯などの相手をすることもある。しかし、そういった相手は理性が消し飛んでいたり、人としてどこかおかしかったりと異質で異常な存在だった。

 巨人族はそうではない。彼らにはちゃんとした理性があるし、話も出来る。しかし、彼らは躊躇なく相手を殺す。それが当たり前の事だから。異常でも何でもない普通のことだから。


「だから、私達もあいつらを殺す覚悟がないとダメなんだけど、気が進まない感じ?」

「……正直に言えばそうですね。いくらこの世界のルールとはいえ、何の罪も犯していない、ただ普通に生きている者を殺すのは。そんな外道なこと、人を守るべき騎士団のするべきことではありません」

「はあ。そんなしょーもないこと、いちいち気にする必要なさそうだけどなあ。私達もあいつら殺してOKなんだよ?」

「あなたにとってはどうだか知りませんが、俺にとって、どういう存在と戦うのかというのは大事な事なんです。ですから、巨人族を殺すことには気が進みません。例えルールで許されてるとはいえ、犯罪行為を働いた者ならともなかく、何も悪いことをしていない者を殺すなど」

「色んな奴ら殺しまくってるのに?」

「それがこの世界のルールなのでしょう? ルールに従ってるだけの者を殺すなど、騎士団に属する者のすることではありません」

「あっそ。よく分かんないしどうでもいいや。メリナも同意見?」

「私は躊躇する気はないけど、気は進まないかな。今までの魔物退治とは訳が違うし」

「……はあ。どいつもこいつも腑抜けてるね。そんな腑抜けた状態だと」


 アリアが話してる最中、地面から1人の男が飛び出してきた。無精ひげを生やし、目は理性をなくしたかのように血走っている。そして目を引くのはひときわ大きな腕。男の身長自体は2メートル近くだが、腕の大きさは3メートルを超えるほどの巨腕であり、大砲のように太く、鍛え上げられていた。


「アリア!」

「アリアさん。後ろから攻撃です。避けて下さい!」

「もう遅いわ。ポイントゲットだあ!」


 メリナやメジーマ、巨腕の男は間違いなく間に合わないと考えており、メリナたちは絶望の表情を、男は勝利の笑みを浮かべていた。しかし、男の攻撃がアリアに触れる直前、男の腕はいきなり千切れ飛んでいった。


「なにっ!?」

「その程度の奇襲で殺せるわけないでしょ。消えろ」


 彼女の魔術、過去破壊(メモリー・ブレイク)によって男の過去が全て破壊され、男は最初からそこにいなかったかのように消滅してしまった。メジーマはそれを見て、複雑そうに顔を顰める。


「死んだのですか。あの男は」

「見たら分かるでしょ。こんなしょーもないことを気にしてたら、食料取るどころじゃなくなるよ?」

「分かってますよ。それでも」

「……たく。本当にめんどくさいな。グダグダ悩んでばかりでさ」


 彼が何かを言いたそにし、アリアがそんな彼を睨む中、メリナが口を挟む。


「えっと……アリア。それよりも気になることがあるんだけど。さっきの奴は何なんだ? やけに腕がでかかったけど」

「さっきの奴も巨人族だよ。あんたらが最初に戦った奴よりも魔力操作に秀でていたみたいだね。魔力操作が得意な奴らは、ああやって自分の体型を好きに変えられるんだよ」

「へー。それは凄いな。巨人族ってそんなことも出来るんだ。恐ろしい奴らだ」

「この程度のことはあんたでも知ってるだろうに……まあ良いや。行くよ」

「どこに行くんだ?」

「アウズンブラとラタトスクのいる所。奴らを捕獲してさっさとこの世界を出る」


 メジーマたちはアリアについていきながら、黒い森の中を歩いていた。空気はお世辞にも良いとは言えず、重苦しいものが漂っていた。


(気まずい。アリアの奴は大して気にしてなさそうだけど、メジーマはさっきから顔が暗いし、会話も無くてしんどい)


 そう考えたメリナは、とにかく何でも良いから会話をすることにした。


「あ、アリア。質問があるんだけど」  

「……何?」

「えっと……さっきから巨人族の襲撃がないけど、乱闘パーティーはもう終わったのか?」

「そんなわけないでしょ。まだ鐘が鳴ってないんだから。襲われてないのは、ここが比較的安全な場所だからだよ。私たちは背丈の問題でなんともないけど、背丈がでかい巨人族にとっては、あれは猛毒だからね」


 そう言って、彼女は上にある黒い木々を指差す。


「あの黒い木が何か関係あるのか? 確かに葉っぱとか鋭そうで、当たったら痛そうだけど」

「痛いなんてレベルじゃないよ。あの葉に当たると致死性の猛毒が一瞬で体内を巡るから、図体のでかい巨人族は簡単に侵入できないんだよ」

「なるほど。私たちみたいな小さい存在にとってはありがたい場所だな。おかげで巨人族たちの襲撃をやり過ごせるんだから」

「ただ、いくつか例外もある。別世界から来た奴らでありながら、乱闘パーティーに参加してる異常者。もう1つは」


 アリアが話してる最中、いきなり姿を消してしまった。


「アリア?」


 メリナが不審に思って周りを見渡すと、アリアが大木に体をめり込ませているのを発見した。


「……は? 一体何が」

「もう1つは、俺のように魔力で体型を自在に変えられる巨人族だな~的な」


 後ろから発せられた声を聞いた瞬間、メリナとメジーマの背中に、氷柱で刺されたかのような悪寒と、何本もの剣で突き刺されるような殺気が襲いかかった。


「外からとんでもない化け物が来てると聞いたんだけど、さっきのケモミミ女は違うみたいだし、お前たち2人の内のどちらかなのかな〜的な?」


 振り返ると、そこには1人の男が立っていた。黒い髪を肩まで伸ばしており、子供のように幼い顔つきで、いかにも生意気そうなクソガキといった見た目だが、その鋭い眼光は大人顔負けだ。全身には幾百もの古傷や火傷痕、何かで貫かれたような痕もあり、どれだけの修羅場をくぐってきたのかを如実に表している。そして男の纏う殺気。メリナたちが戦った強敵、六神王のハデスに勝るとも劣らないと言えるほどの強いものだった。メジーマは震えを抑えながら質問する。


「何者ですか。あなたは」

「おっと。そういや自己紹介がまだだった的だな。しくった〜。これじゃ、さっきの女を倒した分のポイント貰えないじゃん……まあ良いや。俺の名はタイタン。見ての通り巨人族の1人だ~的な」

「見ての通りと言われましても。巨人族にしては、ずいぶんと小さい体格ですね。俺たちと殆ど背丈が変わらないじゃないですか」

「そりゃ、こんな所で元の大きさになったら上にある毒まみれの木で大変なことになるからな~的な。それに、あんたらみたいなちびっ子と戦うには、同じくらいの大きさのほうがやりやすいんだ。それより早く名乗ってくれよ。名乗ってくれないと、倒してもポイント貰えないからさ~的な」

「では、俺達がこのまま名乗らなければ、あなたは見逃してくれるのでしょうか?」

「残念だけど、そういう小狡い手は通用しない的な感じだよ。ネームフォッグ、オープン!」


 彼がそう言って指を鳴らすと、メリナたちの頭上に小さな霧の塊が出現した。その霧には形を変化させていき、自分たちの名前の文字の形になったのだ。


「おいおい。なんだこりゃ!?」

「なんですか。この不気味な霧は」

「その霧は面白い性質をしていてな。普段は透明なんだが、ちょいと魔力を流して名前を知りたい相手をイメージすると、そんな風に名前を出してくれる~的な。この世界では、こういう風に相手の名前を知る手段がいくつかあるんだよ。さてさて、女の方はメリナ・エンピシー、男の方はメジーマ・グレイスか。よし。お互いの名前も知れたし」


 タイタンは一気にメリナたちとの距離を詰めた。


「殺し合いしようぜ的な!」


 そのままメリナに殴りかかろうとすると、彼女の口から飛び出してきた何本もの針が顔めがけて命中した。針は、彼女が口の中にあらかじめ含んでいた水で錬成したものであり、いざという時の敵襲に備えていたのだ。


「メジーマ!」

「了解です。大地よ。彼を包みこんで圧殺しなさい!」


 メジーマの詠唱により、タイタンの周囲の地面がうねりをあげ、彼を球体に包みこんでどんどん収縮し、彼を押し潰していく。


「これもルールだし、悪く思うなよ。潰れちまえ!」


 メリナは収納魔石から大量の水を取り出し、自分たちの何十倍もの大きさのある棘付き鉄球をタイタンの頭上に作り出し、そのまま落下させて押しつぶした。


「とどめだ!」


 更に、メリナは棘付き鉄球の2倍以上の鉄塊を大量の水から作り出し、それを棘付き鉄球の上に落下させた。鉄塊はその重さで、棘付き鉄球が地面に深くめり込ませた。


「……はあ。あまりいい気分ではありませんね」

「仕方ないだろ。あの感じだと手加減する余裕もな かったからな。もし私かお前のどちらかが手を抜いてたら、私たちは確実に死んでいただろうぜ」

「分かってますよ。殺したくない、罪なき人を守るために戦いたいと思った所で、力が無いとどうしようもありません」

「それに、これがこの世界のルールなんだ。慣れていくしかない」

「……そう言われても、俺は」

「おいおい。この程度の攻撃が手加減せずの攻撃なのかい? ちょっと失望しちゃった~的な」


 上からした声に2人は驚き、咄嗟に上を振り向いた。そこには鉄球で押し潰したはずのタイタンが空中に浮かんでいたのだ。


「馬鹿な。あの攻撃を避けたってのか!」

「おいおい。あの程度の攻撃なんて簡単に躱せるんだよ~的な!」


 タイタンの腕が巨大な槌となり、2人に襲いかかる。メリナたちがその攻撃を避けて遠く離れる。その直後、叩きつけられた槌から何本もの鎖が飛び出し、メリナたちの体を雁字搦めに縛り上げる。


「なっ!?」

「くっ……風よ。刃となりて鎖を斬りなさい!」


 メジーマの詠唱で、風の刃が鎖を切り裂くも、少しの傷をつけることしか出来なかった。


「馬鹿な。この鎖を斬れないとは」

「残念だったな~的な。俺の鎖は、その程度で千切れねえよ的な!」


 鎖から高圧電流が流れ、2人の体を焼き焦がしていく。


「ぐっ!? がああああああ!」

「うあああああ!? この……錬成!」


 メリナは収納魔石に残っていた水をすべて吐き出して錬成し、巨大な剣を2本作った。その2本の剣で、自分とメジーマを縛っていた鎖を斬り落とした。


「おっと。これは意外とやるじゃーん的な?」

「うるせえ野郎だ。メジーマ、とっとと片付けろ!」

「分かってますよ。剣よ。吹雪のように舞い散り、敵を切り裂きなさい!」


 メジーマの詠唱で、剣は粉々に砕け、その破片が四方八方から一斉にタイタンに襲いかかる。


「思ったよりも良い攻撃で驚いた的な。だが!」


 タイタンは変化していた自分の両腕を元に戻し、体の色を鋼のような色に変化させた。その体は鋼よりも何倍も硬く、襲いかかる破片の攻撃では傷1つ付けることが出来なかった。


「ちっ。厄介な特性をしていますね」

「ふっふっふっふ。俺を貫きたいなら、もっと強くなるしかな」


 彼が話しながら着地した瞬間、その上半身が突如として消し飛んだ。消し飛ばしたのはアリアであり、鋭い蹴りを背後からお見舞いしたのだ。


「もう消えて良いよ。色々と理解できたし」

「アリア!? お前、生きてたのかよ。なんで私たちに加勢して」

「黙ってて。まだ戦いは終わってないんだよ」

 

 殺気の籠もった強い口調にメリナが思わず口をふさいだ後、アリアは下半身だけになったタイタンを蹴り飛ばした。メリナたちは、なぜそんなことをしたのかわからず、ただ戸惑うばかりである。


「くだらない狸寝入りしてないで、そろそろ元に戻りなよ。もうとっくにバレてるんだからさ」


 彼女がそう言うと、残っていた下半身が煙のように消えてしまう。次に下半身があった所に大量の煙が集結し、それが人の形を作っていく。形が完成すると、上半身を消し飛ばされたはずのタイタンが、五体満足の姿で現れた。


「嘘だろ!? なんであいつの体が無事なんだよ。さっき上半身を消し飛ばされたはずじゃ」

「……まさか、己の体を空気に変えて、アリアの攻撃を防いだのですか」

「ぽんピーン。メジーマ君だいせーかい! 頭の良い子は理解が早くて助かる的な〜」

「ですが、信じられません。アリアの攻撃はとてつもなく速かった。あの攻撃の前に己の体を変化させるなど」

「確かに速かったけど、ギリギリ避けられる速度ではある。これでもたーくさんの修羅場をくぐり抜けたからな。その経験が役に立った的な〜。とはいえ、一瞬だけ意識を失ったときはマジにビビったな〜。どういう原理かは知らないけど、そこの狼ちゃんの魔術は接触して発動するものであり、能力は俺の中の何かを削るタイプと見た的な〜」


(奴の上半身が空気になる前に触れることが出来てたのか。だから私の魔術が発動した。とはいえ傷はつけれてないみたいだから、破壊できた過去は0.1秒もないだろうけど。にしても、ほんの僅かにしか発動してないのに、あそこまで私の魔術を理解できるってのは怖い奴だな)


 アリアが考え事をしながら構える中、タイタンは話を続ける。


「にしても恐ろしい女だ。メジーマ君やメリナちゃんとは比べ物にならない強さ。本当にびっくりした的な〜」


 タイタンのその言葉に、メジーマの顔が歪むが、タイタンはそれを見てないのか、あるいは気にしてないのか、話を続ける。


「てわけで〜、俺はここで手打ちにしたい的な〜。あんたと戦ったら後がヤバそうだしな。それに、あんたらの目的は恐らく、ポイントを貯めることじゃない的な感じがする。ここで消耗するのは避けたいだろうし、承諾してくれるかい的な?」

「……良いよ。さっさとどこか行きな。3秒以内に私の視界から消えないと殺す」

「うわーお。それはめちゃくちゃ怖いね。早く逃げないと、的な〜」


 そう言うと、タイタンはどこかに飛んでいって姿を消してしまった。


「気配が遠くなっていく。これなら大丈夫そうだね」

「あいつを逃がして良かったのか? また襲われたりしたら」

「私たちの目的はあいつを倒すことじゃないからね。向こうが手出しをしてこないなら戦う理由はない。それに、あいつに触れて過去を閲覧したけど、まだ本気を出していなかった。1対1なら勝てるけど、あんたらみたいなお荷物がいたら、多分負ける。戦わないのならそれが一番だよ」


 お荷物と言われ、メリナたちは浮かない表情になる。薄々分かっていたことではあるが、2人はこの世界で生きるにはあまりにも力が足りないのだ。もしタイタンがあのまま戦いを続けていたら、自分たちは確実に負けているだろうと2人は心のどこかで理解していた。


「時間を無駄にし過ぎたね。さっさと行くよ。もしかしたらカイツ達はすでに仕事を終わらせてるかもしれないし、急がないと」

「あ、ああ。そうだな……行こう。メジーマ」

「……そうですね。彼らを待たせるわけにも行きません」


 こうして3人は、再び食糧調達のために歩き出した。アリアは気にしていなかったが、空気は先ほどとは比べ物にならないほどに重く、メリナもその空気をどうにかしようという気力は失われていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ