第21話 反撃
「これで、最後だ!」
俺は目の前にいた2体の骸骨兵士を斬り殺した。少し時間がかかったが、周囲にいた骸骨兵士は全員片付けることが出来た。
「ふう。やっと終わったし。数多すぎてめんどくさいし」
「確かに。だがこれで終わりだし、ようやく館の方に集中できー!?」
館の方を振り向くと、ダレスが窓から落下していた。
「ダレス!」
俺が叫ぶと、彼女はこっちを振り向いた。
「お、カイツ。君もこっちにいたんだね」
彼女は軽そうに返事をしながら壁を蹴り上げ、近くに着地してきた。彼女の身体には何かに貫かれたような跡があり、血が流れている。
「お前! その怪我」
「ちょっと無理しちゃってね。心配ない。動く分には問題ないから」
どう考えても問題があるようにしか見えないが。本当に大丈夫なのだろうか。
「私の心配は良いから。それより、餓鬼のことなんだけど」
「ああ。あの分身みたいな奴のことか」
「さすがはライバル。もう理解してたんだね」
ダレスも既に理解しているようだが、橋姫は理解できてないようで、きょとんとしている
「? えっと……どういうことだし?」
「奴はこう言ってた。自分は館そのものだと。そこから導き出せるのは、この館自体が餓鬼だということだ」
「……ごめん。何言ってるかよくわからないし」
「この館は、餓鬼にとって体のようなものということだ。館の内部は体内といった所だろう。そして、その中にいる餓鬼は、分身のようなもの」
「……え。じゃああの館は、私たちにとっての皮膚とか骨とかに近いものだって事だし?」
「そうだ」
「……はああああああああ!? そんなのどうやって倒すし! この館が体とか、絶対に勝てないし!」
橋姫が大声で騒いでいると、それを聞きつけたのか、新たな骸骨兵士が多数現れた。
「ぎゃあああああああ! また来たしいいいい!」
「くそ。こいつらどっから湧いてくるんだ」
「全く、本当にめんどくさいね」
応戦しようとすると、骸骨兵士たちの背中を、雷を纏った1本の矢が貫いた。
「ほとばしれ」
その声が聞こえた瞬間、骸骨兵士達の体に雷撃が包み込み、その体を焼いていく。ほんの数秒もしないうちに、奴らは炭になった。
「たく。なんだか置いてかれた気分だわ。祭りはもう終わりかしら?」
ウルがふてくされたような顔をしながら、俺に聞いてくる。橋姫は先ほどの光景に驚いたのか、口をあんぐりとしている。
「ウル。お前、あの結界をどうやって」
「ぶちぬいてきたのよ。それより「カイツーーーーーー!!」」
彼女の言葉を遮り、アリアが俺に抱き着いて来た。
「心配したですよーーー! いつ戻って来るか不安で怖かったです!」
「悪い。心配かけちまったな」
俺は彼女を抱き寄せ、頭を撫でる。
「2人とも。いちゃつくのは後よ」
「いちゃついてはねえよ。それよりアリア、ダレスの体を治してくれ。かなりの重傷なんだ」
「いや。私は大丈夫だって。そんな心配しなくても「黙って治療を受けとけ。そんな状態で大丈夫と言われても説得力ない」むう」
「分かりました。ダレスの治療は任せるです。ダレス、そこに座ってほしいです」
「……はあ。はいはい。座りますよ。全く。どいつもこいつも心配性なんだから」
彼女はふてくされながらもそれに従う。アリアは体を震わせながらも、両手を突き出した。
「癒やすです。治癒妖精!」
彼女の手から2対4枚の羽根が生えた、緑色の小さい人のようなものが現れた。それがダレスの体にくっつくと、傷ついた体が緑色の光に包まれる。アリアはまだ震えてはいるが、少し慣れてきているようだ。傷も治ってきてるし、あれなら問題なさそうだな。
「ダレスの傷はしばらくしたら治りそうね。それで? 今どういう状況なのかしら?」
「簡単に言うと、あの館を破壊すれば勝利だ」
俺がそう言うと、ウルは館を見渡す。
「……嘘でしょ」
「マジだ。あれを破壊しないと事態が収束しない」
「いや、あんな館。さすがに破壊不可能でしょ」
「そのとおりね。私は館そのもの。この館が餓鬼であり、館の中は私の体内。だからこそ、私はこの世界で最強の幽鬼族なのね! あんたたちは、私には勝てないのね!」
館から声がすると、館から顔が生えて来た。とてつもなく気持ち悪い見た目をしているな。
「カイツ。あの気持ち悪い顔してるのが、私たちの敵かしら?」
「ああ。あの気持ち悪い顔してる奴が敵だ」
「お前らうるさいのね! どいつもこいつも気持ち悪い言いやがって。これでもくらうね!」
奴が大きく口を開けると、骸骨兵士がぽんぽんと飛び降りてくる。口から出てくるというのは、変な光景だな。気持ち悪くてシュールだ。
「たく、めんどくさいことになったわね。さっさと片付けてあげるわ」
彼女が弓を構えると、矢に雷がほとばしる。
「撃ち抜け。サンダーショット!」
雷の矢が放たれ、骸骨兵士の体を貫き、雷撃の檻に捕らえた。
「がびゃ!?」
「プラス、サンダートランス!」
彼女が指を鳴らすと、雷撃は周りにいる骸骨兵士たちに伝っていき、1体も余すことなく雷撃の檻に捕らえ、その体を焼き尽くしていく。数分もしないうちに、全ての骸骨兵士たちの体が炭のようになった。橋姫は口を大きく開けて唖然としている。
「な、何て奴だし。あれだけの数の骸骨兵士を簡単に倒しちゃったし」
「へえ。少しはやるみたいね」
「この程度の雑魚なら、1000体だろうと1万体だろうと簡単に殺せるわ。問題は、あの館ね。あれはどうやって潰せばいいのかしら?」
「それは問題ない。あれは俺が潰す」
そう言って俺は刀を抜き、前に立つ。
「ふん。お前なんかが私を破壊できるわけないね。仮に破壊出来る力があったとしても」
地面がいきなり揺れ始めたかと思うと、巨大な骨の腕が地面から飛び出した。
「攻撃が届くことなんて、絶対にありえないのね」
骨の腕は、上から俺たちをつぶそうと襲い掛かる。俺はアリアとダレスを両脇に抱え、ウル、橋姫と共にそれを躱した。奴の攻撃はそれで終わることなく、腕を広げるように振って来る。この状態じゃ、剣で受けとめることは出来ない
「六聖天・第1解放 脚部集中!」
俺は六聖天の力を足に集中させ、腕の攻撃を避ける。このままじゃまずいし、一度退くしかない。俺たちは腕の攻撃をなんとか躱していきながら、攻撃が届かないところまで避難していく。骨の腕は思ったよりも大きく、かなり距離をとらされてしまった。ウルと橋姫は無事に避難出来たようだ。傷などはどこにも見当たらない。
「くそ。面倒なもの出してくれるな。ダレス、アリア、大丈夫か?」
「はい。カイツが助けてくれたおかげで、何ともないです」
「私も問題ない。塞がってた傷口も開くこと無かったし。凄いね。咄嗟に私たちを抱えつつも、負担が無いようにするとは。さすがは我がライバルだ」
「ありがとう……ぐっ!?」
アリアたちを降ろすと、足にナイフで抉られるような激痛が襲う。
「カイツ! その足!」
「心配するな。この程度、何とかなる」
「全く。私のことをとやかく言えないね。本当に大丈夫なのかい?」
「大丈夫だって。余裕で何百回もジャンプしたり踊ったり出来るよ」
足から血が流れ、ズボンにいくつもの血の染みが出来る。やっぱり、一部に集中させたときの負担は大きいな。けど、これぐらいなら問題ない。俺は館を見ながら、どうするべきかを考える。館に攻撃を当てられたら何とかなるんだが、あの骨の腕をかいくぐって攻撃を当てるのは、1人では難しいだろう。そう思ってると、ウルと橋姫が近くにやってきた。
「ダレスとアリアは無事みたいね。あなたは……無事とは言えなさそうだけど」
「俺は問題ない。それよりウル。あの骨の腕を倒すことは出来るか?」
「難しそうね。あれだけでかいと、かなりの耐久力がありそうだし、私の魔術もそんなに効かないと思うわ」
ウルでも倒すのが難しいとなると、どうやってあれを掻い潜るべきか。
「そんな時こそ、私の出番だし!」
彼女は嬉しそうにしながら、黒色の棒を見せつける。
「なんだ。その変な棒は」
「こいつはスモークスティック。強い衝撃を受けると白い煙を吐き出すね。そしてその煙は、幽鬼族の体をボロボロにするのね! ただ、問題は棒を当てる手段だし。餓鬼だって警戒するだろうし、そう簡単には当てられないし。どうやって当てるべきか」
「それなら問題ないわ。当てるのは私に任せて」
そう言って、ウルが矢を手に取った。
「ダメージを与える手段があるなら、あとは当てればいいだけ。とっても簡単な仕事だわ」
「やれるのか?」
「任せなさい。絶対命中の狙撃手と呼ばれた私の実力、見せてあげるわ」
「それは頼もしいな。橋姫。ウルの作戦は聞いてたか?」
「当たり前だし。この距離で聞こえてなかったら病気だし」
「……え。でもお前、女が嫌いだから話は聞かないって」
「それは人間の女限定だし。こいつは人間じゃないから、別に嫌いじゃないし」
なんだその理屈は。だったらダレスのことも嫌わないでくれると助かるが、今はそんな話をしている場合ではないな。ウルは話についていけてないようで、きょとんとしている。
「? えっと。どういうことかしら?」
「後で説明する。それより、館を壊すのは俺がやろう。破壊できそうな技があるしな」
「大丈夫なの? 足から血が出てるけど」
「そうだし。ここは私や他の奴に任せて、あんたは安静にするべきだし」
「問題ないと言ったろ。この程度は傷の内に入らない。それに、俺以外に突っ込める奴がいないだろ。ダレスは傷が治ってないし、アリアやウルも行くことは出来ない」
「私は? 私はどうだし?」
「お前が行っても良いけど、あれを破壊する手段あるのか?」
「そんなのあるわけないし」
「だと思った。なら俺が突っ込むしかないな。ウルは援護を頼む」
「分かったわ。私がバッチリ援護してあげるから、あなたはただまっすぐに突っ込みなさい」
「了解」
俺は彼女を信じ、館へと走り出した。いい加減、あいつをぶっ倒さないと気が済まない。ここで決着をつける。




