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第215話 食料捕獲のミッションへ

 Side カイツ


 俺は王都の疲れを癒すため、アリアを抱き枕のようにして一緒に寝ていた。彼女の毛並みはフワフワで触り心地も良く、ぐっすりと安眠することが出来た。

 だが次に目を覚ました時には、俺とアリアはだだっ広い馬車の中に拉致されていた。そして、その中にはウェスト支部のリナーテと申し訳無さそうにしてるメリナとメジーマがいた。アリアは大切なものを失ったかのように落ち込んでおり、膝を抱えて隣で俯いている。なぜか尻尾を俺の腕に絡めていたが。


「えっと……とりあえず、状況を説明してくれ。俺は部屋で寝ていたはずだが、なんでこんな所に」

「ふふふふ。それは私が教えてしんぜよう!」


 恐らく、この事態の元凶と思われるリナーテがどや顔しながら解説してくれた。

 彼女たちウェスト支部のメンバーたちは騎士団の支部に有能さをアピールするため、任務をこなして実績を積む必要があるらしい。そして、今回の任務は天使祭に出す食用の魔獣を狩ること。狩った魔獣は、ロキ支部長が用意してくれた収納魔石を使って回収することになっている。彼女達がやることは理解した。しかし。


「それは分かったが、なんで俺たちを連れてきたんだ」

「ふっふっふっふ。天才で天災のリナーテ様は思いついたのよ。カイツやアリアは私なんかよりも遥かに強い。だからこそ、私たちの代わりに任務をやってもらい、私たちの実績にすれば有能アピールができるんだということに! それに気づいた私は、ぐっすり寝ているカイツたちをこっそり馬車に運んできたのさ!」

「……まさかこの私がこいつ程度の気配に気付けないほど寝込んでたとはね。最悪の気分だよ」


 アリアがぼそっと呟く中、胸を張りながら誇らしげに語るリナーテの言葉に、俺は頭が痛くなった。突っ込みどころが山のようにあるガバガバ作戦。そりゃあメリナやメジーマが頭を抱えるわけだ。


「あのなあリナーテ。仮に俺たちが代わりに任務をやったとしても、それはお前たちの手柄にならないと思うぞ」

「なんでよ。支部長には私たちがやりました~って嘘つけばいいだけの簡単なお仕事じゃん。私たちの仕事が誰かに見られてるわけでもないんだし」

「いや。見られてると思うぞ。騎士団には、団員の仕事ぶりを監視する奴がいるって聞いたことあるしな」

「えっ。でもそんな気配はないし、誰かに見られてるって感じもしないけど」

「推測だが、何らかの魔術か魔道具で、察知できないくらいの超遠距離から監視してるんだろう。だから、俺たちが代わりに任務をやっても、お前たちの手柄にはならないと思う」

「俺も同意見です。というかウェスト支部にも、騎士団員の仕事を監視する者はいましたし、ノース支部にもいると考えるのが普通でしょう」

「え、ウェスト支部にそんなのいたの!?」


 リナーテが驚いたように聞くと、メジーマは呆れたようにため息を吐く。


「……はあ。初日に説明したはずなんですが、まあそれは良いでしょう。とにかく、あなたの作戦は絶対に成功しませんよ。素直に俺たちがやる方が後々のためになります。」

「そんなああ……良い案だと思ったのにい」

「全く。くだらないことにカイツやアリアを連れ回して。そもそもリナーテ。貴方には騎士団の一員として働くことの責任や意識というものがまるで足りていません。今回のことでもそうですが、他者に対する遠慮や礼儀というのがまるでなっていない。そんなことだから、ウェスト支部でも厄介者と言われてたんですよ」

「え!? 私、厄介者扱いされてたの!?」

「当然ですよ。貴方はウェスト支部ころか騎士団の中でもトップクラスに性格が悪いですからね。そもそも貴方の行動はいつも問題ばかりで」


 そこからメジーマの説教がくどくどと続くこととなった。そんな中、メリナが申し訳無さそうに俺に謝罪する。


「すまないなカイツ。変なことに巻き込んでしまって」

「……言いたいことは大量にあるが、今は飲み込んでおくよ。それで? 今回狩る魔獣たちはどんな奴らなんだ?」

「まずはこの先の村、ダンホロ村の近くを飛んでるグリーンバード700匹、そしてヨトゥンヘイムに住むラタトスクを200匹と牛の魔獣、アウズンブラの子供を100匹。これを2日間でこなさないといけない」

「鬼畜すぎるな。しかもヨトゥンヘイムって巨人族の住む世界だろ。まさかそんな所に行くことになるとは。おまけに狩る獲物にアウズンブラが入ってると。罰ゲームでももう少しマシだぞ」


 巨人族。彼らは狂暴なことで有名であり、様々な種族に敵対する狂人種族で知られている。巨人族の体には大量の魔力が流れている様で、魔力を用いた戦闘技術は並みの魔術師が持つ技量を遥かに上回るらしい。騎士団のメンバーも脅威に感じている者は多く、日夜、彼らの対応に頭を悩ませているとか。

 アウズンブラは巨人族の象徴のようなものであり、神とも呼べる存在。子供とは言え、そんな存在を100匹も狩るとなると、巨人族からの反発が凄そうだが。


「色々と問題はありそうだが、その辺は大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないから憂鬱なんだよ。ロキ支部長曰く」

『いやー。ほんとは巨人族とある程度話し合いをしてから狩りを進めるべきなんだが、どの種族も門前払いを食らって一言も会話することが出来なくてね。ま、巨人族の態度の悪さについてはいつものことなので、例年通り勝手にヨトゥンヘイムに行って勝手に狩ることになったのさ。まあ安心したまえよ。私が指定する場所なら、きっと悪いことにはならないだろうから』


 酒でも飲みながら考えてたのか。そんなことしたら戦争勃発不可避だろ。下手すると天使祭どころじゃなくなるぞ。しかも例年通りってどういうことだ。去年も一昨年もそんなことをやってたのか。頭が痛くなってくる。


「はあ。お前たちが受けた任務というのは、かなりのハードミッションのようだな」

「ああ。カイツ達には悪いけど、リナーテが連れてきてくれてほっとしてる自分がいるよ。私達だけだと失敗する可能性が高かっただろうからな」


 まあ、こう思うのもなんだが、彼女たちだとアウズンブラを含めた魔獣を1000匹も討伐するのはかなりの難易度だろう。何かあっても嫌だし。


「はあ……仕方ない。乗りかかった船だし、最後まで付き合うよ。アリア、付き合ってくれるか?」

「……ま、カイツの頼みなら引き受けるよ」

「悪いな。今度、何か奢るよ……はあ」


 彼女はため息を吐きながら馬車の窓から外を見る。


「どうした」

「いや。なーんか色々あったっていうのに、体を休める日がないと思ってな」


 そういえば、メリナたちはまともに体を休める余裕もなかったのか。病室じゃ休まらなかっただろうし、その後は復興作業に駆り出されてたらしいからな。


「ほんと、デートの約束もいつの間にかうやむやになってるしさあ」

「そういえば、その約束もまだ果たせてないな」


 暗闇神社に行く前にしたあの時の約束。忘れたわけではないが、色々ありすぎて、とてもそれどころじゃなかったからな。


「カイツ。天使祭の時は私と一緒に回ってもらうぞ。それでデートの約束はチャラにしてやる」

「分かった。メリナと回るのを楽しみにしてるよ。そのためにも、任務頑張らないとな」

「だな……本当に頑張らないと。天使祭でカイツとデートして、もっと先に進んだ関係に。なんか私、めちゃくちゃ出遅れてる気がするし」

「? メリナ。何か言ったか?」

「いや、なんでもない」

「そうか。なら良いけど」


 そうして話してると、少し尻尾の力が強くなったような気がした。心なしかアリアが怒ってるように見えるが、気の所為だろうか。


 目的地に着いた後、俺達は2チームに別れて魔物狩りを行うことになった。2日で1000匹を狩らなければならない都合上、別れて行動しないとどう考えても間に合わない。ダンホロ村に行くのはリナーテと俺の2人、ヨトゥンヘイムに行くのはメジーマとアリアとメリナの3人。馬車は繋ぎ場に停めておき、夜寝る時の寝床代わりとして利用する。


「なんで私があんなのと一緒なの? カイツと一緒に行きたいんだけど」


 アリアが不機嫌そうな顔をして質問する。


「俺とお前が一緒だと実力のバランスが悪いだろ。それにもしもの時は、お前の方がメジーマたちを逃がせるくらいの実力がある」


 アリアの実力は間違いなく俺より上だし、スピードもかなりの物だ。それになんだかんだ言いつつも仲間を助けてくれるし、信頼はできる。


「なんで私はアリアやメジーマと一緒なんだよ」


 今度はメリナが不機嫌そうな顔をして質問する。


「逃走する際はお前やメジーマの能力が役に立つからな。それにリナーテの魔術はアリアだと合わせるのも難しいだろうし」

「……まあ良いさ。リナーテ、カイツの足を引っ張るなよ」

「大丈夫大丈夫~。私のスーパーパワーでカイツはきちんと守るし、イチャイチャしておくからさ~。メリナは狼と生真面目野郎の重りお願いね~」


 リナーテは俺の腕に抱き着きながら、挑発するようにそう言った。メリナは拳を強く握りしめており、青筋が浮かんでいた。心なしか、アリアもこちらを睨んでいるように見えて怖い。


「お前なあ。後で叩き潰すから覚悟しておけよ」

「物覚え悪いから忘れてるかもね~」

「たく……じゃあ行ってくるよ。怪我しないように気をつけろよな」

「メリナたちも。危ないことはしてくれるなよ」

「カイツに言われても説得力ねえなあ」


 彼女たちはヨトゥンヘイムの門のある場所へと向かって行った。


「さて。俺達も行くぞ。リナーテ。時間もあまりないし、ぱっぱっとやっていかないと」

「りょーかーい」


 俺たちはダンホロ村の近くに行き、指定された魔獣たちを狩り始めた。狩るのは食用鳥であるグリーンバード。全身が緑色で1メートル近くの大きさがある。空を飛んではいるが、そこまで動きが素早いわけでもないので、六聖天の第1解放の龍炎弾で簡単に撃ち落とすことが出来た。仕留めた鳥たちは収納用の魔石の中に入れている。


「おおお。流石はカイツ。ポンポン仕留めていくね~」


 そう言う彼女は、なぜか寝転んでお菓子をボリボリ貪っていた。実績を積まないと騎士団を追い出されるとか言ってたはずだが。何も考えてないのか、あるいはめんどくさがっているのか。


「お前も手伝えよ。元々はお前が引き受ける任務だろ。なんで俺任せにしてるんだ」

「いやー、あの程度の魔獣ならカイツ1人で何とかなるかなーって」

「そんな風にサボってたら、騎士団追い出されるぞ」

「大丈夫大丈夫~。いざというときは、そこらへんにいる凶悪な犯罪者ぶっ飛ばして実績積めば良いだけだからさ~」

「もし犯罪者がいなかったら?」

「大丈夫だよ~。カイツがいるんだから絶対に何か問題が起こるはずだし~」


 なんの根拠もない妄想でしかないんだが。というか凶悪な犯罪者がそこら辺にいるわけないだろ。そもそも俺のことをなんだと思ってるんだ。いつもならなんだかんだで甘やかすのだが、今回は話が別だ。俺は刀を収め、彼女のもとに近づく。


「ふえ? どうしたのカイつつつつつうううう!?」


 そのまま彼女にアイアンクローを炸裂させて持ち上げる。


「痛い痛い痛い痛い!? くくくく首が、首が千切れりゅうううう!?」

「しょうもない妄想に浸ってないでお前も手伝え! さっきも言ったが、今回の任務はお前の担当だろ! サボるな!」

「わ、分かった分かった分かった分かった分かった! 手伝う! 手伝うからあぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃがががが!」

「初めからそう言えば良いんだよ。じゃ、残り500匹のグリーンバードよろしく」

「はいはい分かったよ。いつまでもダラダラしてられないし、私も頑張るよーん。アタックコマンド、P4QA!」


 すると、俺たちの足元に青い魔方陣が出現する。


「な!? おいリナーテ!」

「あーこれはやばいかも。スプラッシュサークル!」


 直後、粘度たっぷりの気味の悪い液体が洪水のように噴き出して襲いかかってきた。




「酷い目に合った」

「ご、ごめん。私のせいで……うう、臭いよー」


 俺は六聖天の力で水をシャワーのように出して体を洗っていた。しかし、水は出力がそこまで高くないため、粘度の高い液体は中々取れなかった。体中がべたべたで気持ち悪いし、異常なくらいに重い。しかも臭い。鼻や目が潰れそうだ。


「くそ。六聖天の力じゃ足りないな。川で洗い流すとかしないと」

「それなら、私の魔術で洗い流すとかは」

「ランダム性が高すぎるから駄目だ。また変な魔術でも出されたら大変だからな。この近くには村があるはずだし、川もあると思うんだが」


 話をしながら森の中を歩いてると、水の流れる音が聞こえてきた。


「カイツ。この音!」

「ああ。どうやらビンゴのようだな」


 音のする方へ俺たちは走っていった。音はどんどん大きくなっていき、ついに川を見つけたのだが。


「……え。なに……この笑えない光景は」

「どういう冗談だ。これは」


 川は真っ赤に染まっており、人の腕と思われる部分や顔のようなものや骨の欠片が大量に浮かんでいたのだ。


「誰が……こんなことをやりやがった」

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