第214話 支部への帰宅 直後に任務
王国でのパーティーも終え、復興作業もようやく一区切りがついたので、俺達はノース支部へと帰還することになったのだが。
「なんでお前もついてきてるんだ。バルテリア」
「ご挨拶だな。ロキ支部長に用事があるからついてきてるだけさ。ついでに、お前が百合の花園を破壊しないように監視しないといけないからな」
奴は俺を親の敵でも見るかのように睨みつけていた。しかも、肩に小さな大砲のような武器を装着してこちらに狙いを定めてる始末だ。ヴァルキュリアとの戦いでの疲労がまだ取れてないし、こういうことされるのは困るのだが。
「なんか、王都に行った時よりも危ないことになってる気がするんだが」
「そりゃそうだろ。お前は複数の女を無責任に食い散らかし、泣き寝入りさせたという噂がある。つまり、百合の花園をいくつか破壊した可能性もあるということだ。もしこれが本当だとしたら、お前をぶち殺さないといけない。だからこそ、いつでも殺せるように準備してるだけさ」
女性を泣かせた覚えもないし、食い散らかしてもいない。パーティーで聞いた噂よりも酷いことになってる気がするな。どうにかして誤解を解かないと。
何か良い方法はないか、どうすべきか考えていると、奴が話しかけてきた。
「そういえば、確かお前だったな。ヴァルキュリア家当主のカーリーを倒したのは」
「それがどうした。何か言いたいことでもあるのか?」
「あるさ。ありがとうな。カーリーを倒してくれて。おかげで百合の楽園は守られた。あのカーリーとかいう化け物は、これまでにいくつもの百合の花を破壊しまくっていたからな。これで少しではあるが、百合の花達が安心して暮らすことができる。その点はお前に感謝してるよ。俺ではあいつを倒せたかはわからなかったからな。とはいえ、お前が百合の花をぶち壊していたのが真実だとしたら、カーリーを倒した意味は無くなるのだがな」
俺は奴からの言葉に少し驚いてしまった。
「意外だな。お前から礼を言われるとは思わなかったよ」
「どんな相手であれ礼儀を弁え、紳士な行動を心がける。それが俺の信条だ。紳士な行動が出来ない百合の守護者など、存在価値のない愚物だからな。お前を信頼してるわけではないから、勘違いはするなよ」
「信頼されてないことぐらい、この現状を見るだけで余裕で分かる」
全く。色々と面倒な相手に出会ってしまったものだ。早く支部に帰りたい。
その後、バルテリアの殺気と圧に胃を痛め、ストレスを貯めこみながらも何とか、支部へと無事に到着する。入り口前ではロキ支部長が俺たちを出迎えてくれた。
「やあやあみなさんお疲れ様! 色々と大変だったねえ。君たちの頑張りのおかげで、面倒なヴァルキュリア家は全滅し、とりあえずは一件落着。犠牲も大きかったが、得たものも大きい。本当にありがとう」
彼女はそう言って俺たちに頭を下げる。彼女の目的は分からないし、俺たちを裏切ってるかどうかも分からないが、今言った言葉が本心から出たものだということは分かった。
「バルテリアもありがとう。君が来てくれなかったら、王都はやばかったかもしれないからね」
「俺は百合の楽園を守るために動いただけだ。感謝されるほどのことでもない。にしても、今回は尻尾を出さなかったみたいだな。てっきり、俺たちを裏切ったり状況をひっかきまわしたりするかと思ってたが」
「そんなことするわけないだろ。何があろうと、私は君たちの味方だ。裏切る気など一切ない」
「どうだかな。あんたみたいに腹に一物抱えてる奴の言葉は、どうにも信用しにくい。まあなんにせよ、あんたの化けの皮が剝がれるまで待っておくよ」
「そう言うと思って、部屋は用意してある。302の部屋を使ってくれ。それなりの物は用意してあるが、足りないものがあれば言ってくれ。私が手配しておく」
「ありがたいね。遠慮なく使わせてもらい、あんたを監視することにするよ。忠告しておくが、俺は百合を汚す者が相手なら、女子供でも容赦はしない。そこんとこ理解しておけよ」
「頭の隅には入れておこう」
「そうかい。じゃ、俺は本部長に報告することが大量にあるんで、これで失礼するぜ」
話が終わると、奴は支部の中へと入っていった。しばらくはあいつが居座るのか。色々と面倒なことになりそうだ。そう思ってると、今度はクロノスが話しかけてきた。
「ロキ支部長。聞きたいことが山ほどあるのですが」
クロノスの問いには圧が籠っており、殺気も感じられた。しかし、ロキ支部長はその殺気を受けても笑みを崩さなかった。
「君の聞きたいことは多少理解してるよ。だが、それは後にしてくれるとありがたい。私も色々あって疲れたからねえ。君も少しは体を休めたいだろう」
「……まあ、良いでしょう。後できっちり聞かせてもらいますから」
「ああ。私の知ってることはちゃんと話すよ。さて。みんなは部屋に戻ってゆっくり休んでくれたまえ。ただし、ウェスト支部の3人組は支部長室に来てくれ。色々と話したいことがあるからね」
その後、俺はウルたちと別れ、アリアと一緒に部屋に戻ってベッドに身を投げた。アリアも俺と一緒にベッドに身を投げて抱き着いてくる。
「はあ。流石に今回は疲れたな。まだ体の重みが取れない」
「私もクタクタだよ。流石に何万もの魔獣の相手は疲れちゃった……ん。この過去」
彼女はなぜかムッとした後、俺に頬ずりし始めた。
「アリア?」
「ほんと、どいつもこいつも。油断も隙も無いね。まさか、あの没落王女が仕掛けるとは思わなかったよ」
「なんの話だよ」
「カイツは私だけ見てれば良いって話。私が誰よりもカイツを愛してるのに。本当にもう。カイツもカイツだよ。色んな女に愛想ふりまきすぎ。そんなんだから、ヘンテコローブの女に目をつけられたりするんだよ」
「? ヘンテコローブって誰のことだ」
「……カイツが知らなくて良い相手。私の敵だってことだけ覚えておけば良いよ」
そう言うと、彼女は尻尾を俺の足に巻き付けてくる。
「ふう。こうしてカイツに抱き着いてると安心するよ。こういう時間がいつまでも」
アリアが何かを言おうとすると。
「右腕ー! 元気にしてるか!」
ラルカが扉を開けて押し入ってきた。
「ラルカ」
「いやー、やっと右腕に会えたな。退院した後は訓練漬けで会う暇も……って何してるんだああああ!」
彼女が俺たちを指さし、こちらにやってきた。
「な、なんでアリアが右腕に抱き着いておるのだ!」
「私がそうしたいからそうしてるだけだよ。あんたにどうこう言われる筋合いはない」
彼女はまるで見せつけるかのように尻尾の巻き付ける力や抱き着く力を強くし、覆いかぶさるように動く。
「アリア!? 一体何を」
「悪いけど、あんたが入り込む隙間はないよ。今は私専用だから。チビは自分の部屋に戻ってジュースでも飲んでなよ。私はこれから忙しくなるからさ」
「誰がチビだ! というか不埒だぞ。そ、そそそんなに距離を近付けて。お前は右腕の恋人でもなんでもないだろうに!」
「別に恋人じゃないからってしてはいけないなんてルールはないでしょ。ていうか、この程度で不埒とか言ってたら、サキュバス女のやってたこと聞いたら気絶しそうだね」
「なっ……ど、どういうことだそれは!」
「ふふふ。自分で考えてみなよ。サキュバス族の体質と、カイツとウルが何をしてたのかちゃーんと考えてね。そういえば、ウルの左手ってなんか変化してたよね~。あれって何が原因なんだろ」
ラルカはそれを聞いて少しした後、顔を真っ赤にし、頭から煙を吹き出し始めた。
「えっと……右腕、1つ聞きたいのだが、王都にいたとき、ウルと……何をしていた」
「王都で? えっと……俺が寝込んでた時にミカエルと一緒に儀式って言われるのをやって……そのあと気絶して。そういえば、ウルの左手に変化が起きたのは儀式の後だったな。やっと愛を取り込めたとかなんとか言ってた気がするが」
「そうか……そういうことか」
「ラルカ? 一体どうしたんだ」
「右腕の……破廉恥やろおおおおおおお!」
彼女は短い鎖をボールのように投げまくり、ダッシュでその場を去っていった。
「な、なんだったんだ。一体」
「ふん。せっかくのカイツと一緒にいれる時間。邪魔しないでほしいもんだよ」
その頃。リナーテ、メリナ、メジーマのウェスト支部メンバーが支部長室の机の前に集合していた。ロキ支部長は椅子に座り、机の上に足をのせている。
「さて。まずはウェスト支部のメンバーたちに現状を伝えておこう。現在、イドゥンが色々と奔走しているが、ウェスト支部の現状はよくない。支部は潰れた上に団員はほぼ全滅。とても再興できる状況ではない」
「となると、俺たちは別の支部で働くことになるのでしょうか?」
「まあね。ただ問題なのは、どこの支部が引き取るのかということだ。ヴァルキュリア家との一件で、どこもてんやわんやで、名前も実力も有能か無能かも分からない君たちを受け入れる余裕はない。もちろん、ノース支部にもない。こっちも100人単位で団員がなくなってる上にバルテリアという厄介な監視もいる。戦後の処理もまだまだ終わってないし、君たちの面倒を見るのはほぼ不可能だ」
「ちょっと待ってください。では、俺たちはどうすればよいのですか。それでは任務の消化どころか仕事すら」
「儘ならなくなるな。だが解決策は簡単だ。他の支部にスカウトしてもらえば良い」
「? なに言ってるんですか。他の支部は受け入れる余裕がないんですよね。スカウトなんてしてくれるわけがないじゃないですか。支部長、暑さのせいで頭おかしくなりました? それとも疲れで頭のねじ外れましたか?」
リナーテがとんでもなく失礼なことを言うが、ロキは気にせず続ける。
「今言っただろ。名前も実力も有能か無能かも分からない君たちを受け入れる余裕はない、と。他の支部が受け入れを断っているのは君たちの情報がないからだ。こういう忙しいときに、どういう人間なのかよくわからない奴なんて受け入れたくないだろうからね。だが、もし君たちが有能な団員だと知らしめることが出来れば、喜んで門戸を開くだろう」
「つまり、私たちがやるべきことは実績作りということですか」
「正解だメリナ。私がアピールしてもいいが、それでは効果が薄いだろうからね。馬鹿でもわかるようにするには、君たちが実績を積み上げる方が良い」
「え、でもそれなら私達。すぐにアピールできるじゃないですか。なんせ、あの六神王の1人、ハデスをぶっ殺したんですからね。他の有象無象共よりすごい実績だと思いますよ!」
リナーテはドヤ顔し、胸を張りながらそう言うが、メリナとメジーマの表情は暗かった。
「あのなあリナーテ。あれじゃ私たちは有能だとアピールできないだろ」
「なんでよ。六神王だよ。あの化け物クラスの実力を持つ六神王を倒したという実績は馬鹿でも有能だと分かるくらいの」
「だが、6人がかりでようやくだろ」
「うぐっ……でも!」
反論するリナーテの言葉をロキが遮る。
「確かに六神王を倒した実績は素晴らしいが、6人がかりで、しかも倒した後は自分たちはダウンしてましたとなると、他の支部は有能だと思ってくれにくいだろう。なんせうちには、六神王を1人で倒したクロノス、六神王より上の実力を持つデウス・キメラとやらを1人で倒したニーア。極めつけはヴァルキュリア家当主、カーリーを1人で倒したカイツ。彼らと比べれば、君たちのハデス討伐の実績なんてゴミみたいなものだ」
「それは比較対象が悪いですよ! カイツたちは化け物みたいな実力を持ってるじゃないですか。あんなのと比べられたら誰だって」
「だが、その化け物と比較されても大丈夫なくらいの奴でなければ、他の支部はスカウトしてくれないだろう。どこも穀潰しを雇うなんてことはしたくないだろうからな」
リナーテが悔しそうに歯軋りする中、メジーマが質問する。
「それで? 具体的にはどう進めるのですか?」
「まず、天使祭が終わるまでの間に、君たちはノース支部で預かり、任務を与える。その任務で有能をアピールし、他の支部にスカウトされればOKだ。ただし、どこの支部からもスカウトされなかった無能さんはクビにする」
「はあ!? なんでですか。そんな酷いこと許されるわけが」
リナーテが胸倉をつかみそうな勢いで食って掛かるも、ロキは冷静に答える。
「こっちも余裕がないと言っただろう。穀潰しを雇う余裕がないのは私も同じなんだ。どうする。諦めて退職するという選択もあるが」
「ぐぬぬぬ……やってやりますよ! こうなったら私の活躍をあんたの眼球に塗り込んで、ノース支部にいれてもらいますから!」
「あははははは。それは楽しみだ。他の2人はどうする?」
「当然やりますよ。ヴァルハラ騎士団の団員として戦い、罪のない人々を守ることこそが俺の使命。他の支部が俺のことをよく知らないなら、知ってもらうために努力するだけです」
「私もやる。リナーテが抜け駆けするようなことあったら嫌だし、私もここの配属になりたいからな」
「良いね。では、そんな君たちに早速任務だ」
「はあ!? いきなり任務ですか。すこし休ませてくれても良いじゃないですか~」
「天使祭まで時間がないんだ。しばらくは休みとは無縁の生活になると覚悟しておけ」
「うそ……でしょ」
リナーテがショックで膝から崩れ落ちるが、ロキは気にせず続ける。
「まず、君たちには天使祭の食糧調達のため、食用の魔物や動物を1000匹ほど狩ってもらう。期限は2日しかないから、死ぬ気で取り掛かれよ」




