第212話 戦勝祝いと復興祝いのパーティー
職に困ってる人たちへの支援も何とか終わった夜。俺は戦勝祝い兼復興祝いのパーティーに参加していた。主催者は王都ヴァルハラに住んでる都民たちで、守ってくれたお礼ということで俺達をもてなしてくれているらしい。参加しているのは騎士団メンバーと主催者である都民たちで、総人数は100人以上。騎士団メンバーと都民たちが一緒にご飯を食べ、踊り場で踊り、お祭り騒ぎのようになっていた。
「にしても、どうやってこんな大きさの会場を用意したのやら」
俺はシャンパンを口に含みながら呟いた。会場の大きさはかなりのもので、200人くらいは余裕で入りそうなくらいの広さ。奥にあるステージでは楽団が音楽を奏でており、心地良い音楽が会場に響き渡っている。天井にあるシャンデリアや飾りつけも豪勢なもので、まるで王族御用達のようなものだ。主催者が言うには避難所を活用した質素なものらしいが、全くそんな風に見えなかった。そういえば、彼女はどこにいるのだろうか。先ほどから姿が見えない気がするが。
「凄いパーティーよね。王都に住んでる人たちのガッツを感じるわ」
俺がある人を探していると、ウルが俺に話しかけ、腕にくっついてきた。服装は胸元が少しばかり露出している真っ赤なドレスであり、綺麗なダイヤのネックレスを身に着けている。
「ウル」
「やっほーカイツ。体はもう大丈夫かしら?」
「ああ。普通に動く分には問題ないよ。それよりそのドレス、すごく綺麗だな。まるでお姫様みたいだ」
「あら。貴方がそんな風に褒めてくれるなんて嬉しいんね。お礼にこれをどうぞ」
彼女はそう言ってお酒の入ったグラスを渡してきた。ほんのりと甘い味で度数もそこまで強くない。これならいくらでも飲めそうだ。
「ありがとう。飲みやすくて美味しいよ」
「どういたしまして。ふふふ……関節キス。初めてやったけど、興奮するわね。ちょっとまずいかも」
「? 何か言ったか?」
「何でもないわ。気にしないで」
少し顔が赤くなってる気がするが、彼女が何でもない言うのなら追求しない方がいいだろう。そう思ってると、彼女が話題を変えるように話す。
「それにしても、最高のパーティーよね。ご飯は美味しいし、色んな催しがあって楽しいし。戦いや復興の疲れが癒されるわ」
「だな。ここ最近は忙しかったけど、ようやく色々と終わったんだなあと実感出来るよ」
俺はそう言いながらくっついてる彼女を見る。彼女を見ていると、なぜか露出している胸元に視線がいってしまう。なんだかそれが悪い気がして、視線を逸らす。どうにも変な気持ちが湧き上がってしまうし、気恥ずかしくなってしまうな。なんでこんなことになってるのだろう。儀式とやらの影響なのか?
「どうかしたの。カイツ」
「いや、なんか……ちょっと」
彼女はそれを気になったのか、俺の視界に入ってくる。また胸元に視線がいってしまう気がして、俺は彼女を視界から外した。どういうわけか、彼女は何度も俺の視界に入ってこようとするので、回転するように回りながら視界から外していく。
「……へえ。一線超えただけのことはあるみたいね。そんな可愛い姿初めて見たかも」
彼女は舌なめずりすると、妖しい笑みを浮かべながら俺に近づき、体を押し付けてきた。顔も少しばかり赤くなってるように見える。
「う、ウル。何を」
「カイツ。今ここは、人の目がそこまで届いてないわよね」
「そうだな。大体の人はステージとか食事に夢中だし、俺たちを見てる人は殆どいないと思う」
「でしょ? だから、こういうことしても大丈夫じゃないかしら?」
そう言うと、彼女はドレスの胸元部分を引っ張り、俺に見せつけるようにしてくる。それだけでなく、ドレスの裾部分を少しだけたくし上げた。
「ウル!? 一体何を」
「ごめんなさいねカイツ。一線超えた影響なのか、あなたの匂いを嗅ぐだけで昂っちゃって」
「えっと……あのさ。俺はこういうのよくわからないけど、こんな場所でやるのはまずいんじゃないのか?」
「大丈夫。一瞬だけ。一瞬だけ。ほんの少し、ちょびっとやるだけだから。だからお願い。私を」
彼女が俺に手を伸ばした瞬間。
「こんな所でなにしてるのさ」
「ぎゃふん!?」
後ろから首を叩かれて気絶してしまい、誰かに抱きかかえられた。その人は。
「ダレス!」
「久しぶりだねカイツ。体はもう大丈夫なのかな?」
騎士団の仲間、ダレス・エンピシーだった。会うのがずいぶんと久しぶりに感じる。両手には、ジョッキを2つに大きい骨付き肉を器用に抱えており、美味しそうに食べたり飲んだりしている。
「体の方はそこまで問題ない。というか、ウルを気絶させたけど」
「良いんだよ。こんなところで発情する女なんて気絶させたほうがみんなのためさ。それより、このお酒どうぞ~」
そう言って、彼女は赤い飲み物が入ったジョッキを渡してきた。香りをかぐと、とてつもなく強いアルコールの香りが鼻を刺す。
「ダレス。これなんなんだ。かなり度数高そうだけど」
「天使殺しって名前のお酒でね。アルコール度数が80超えのお酒なんだって~。結構ピリッとするけど、この辛さと喉越しの良さが良いんだよ。いやー、王都にこんな美酒があるとは思わなかった」
彼女はそう言いながら、ジョッキに入った天使殺しを一気飲みで飲み干した。どう考えても一気飲みして良い酒じゃないと思うが、大丈夫だろうか。ぶっ倒れたりしないと良いけど。
「そんな勢いで飲んで大丈夫か?」
「せっかくのパーティーなんだもん。色々と思うところもあるし、はっちゃけたいんだよ」
「思うところ?」
「うん。聞いたよ。六神王の1人とかカーリーとかをたった1人で倒したんだってね。私なんて複数人でハデスって奴を倒すのがやっとだったというのに。その強さは羨ましい限りだよ。王都での決戦前と比べてめちゃくちゃ強くなったんだなというのが見ただけで分かるしね。ニーアやアリスたちにも勝るとも劣らないかもしれない。入団の頃とは桁違いの強さだ。戦った頃が懐かしいな〜」
「そういえば、入団試験の担当をしたのはダレスだったな」
「今の私じゃ、全力で戦っても10秒も持たずに負けるだろうね。ほーんと、その圧倒的な強さは羨ましい限りだよ。うっかり酒に逃げちゃうくらいには」
そう言いながら酒を飲む彼女の顔は、どこか暗い影を飛び出るように見えた。しかし、それはすぐに消えて明るい表情に戻る。
「なーんてね。せっかくの祝いなんだし、暗い話ばかりしてたって仕方ない。それに、君が強くなったのなら私も強くなれば良いだけの話だ。カイツ、すぐに追いつくから覚悟しててよ」
「お前が追いつくなら、俺ももっと強くなるだけだ」
「ふふふ。それは楽しみだ」
彼女は笑いながら3杯目の神殺しをジョッキで一気飲みした。
「ダレス。顔が赤い気もするけど、本当に大丈夫なのか?」
「うひひひ。大丈夫だよ。私はウルを近くで寝かせたら別の酒を堪能してこようかな。カイツも楽しみなよ~。こんなに美味な酒や食事を好き放題堪能できる機会なんてそうないからね」
ウルを抱え、彼女はその場を去っていった。妙に足取りがふらついてる気もするが、あれならギリギリ大丈夫ではあるだろう。俺はそう考え、その場を移動した。
あちこちを歩きながらパーティーの料理に舌鼓をうちつつ、人探しをしていた。しかし、探していた人が見つからなかったので場所を変えようとすると。
「カーイツー!」
後ろから誰かに抱き着かれた。抱き着いてきた人の正体は、顔を真っ赤にしたリナーテだった。ギルドにいた頃からよく知っている。こうなったリナーテはとてつもなく面倒だということを。
「リナーテ。また浴びる程飲んだのか。顔もリンゴのように真っ赤になってるぞ」
「ひっく。そんなに飲んれないわよ~。それよりカーイツは飲んでりゅ~?」
「まだ嗜むくらいしか飲んでないかな」
「にゃんとお~。それはよくないな~。せっかくのパーティーなんだし、酒飲まないとみょったいにゃい。わらしの酒を飲みたまえ~」
彼女は手に持ってる酒の入ったグラスを無理やり押し付けてくる。
「おい。やめろ」
「ほりゃ~飲め飲め飲め~。そしてわらしを押し倒して既成事実つくれ~。あんらには私と子供作って生活する権利があるにょに〜。なーんでウルやミカエルに浮気して無責任に抱いて私をぷげ!?」
突然、彼女は後頭部に鉄球をぶつけられてそのまま気絶した。
「たく。カイツに迷惑かけんなっての」
鉄球が飛んできた方向からはメリナが呆れた顔をしてやってきた。
「メリナ」
「久しぶりだなカイツ。馬鹿が迷惑かけて済まない」
「それは良いけど。それより、メリナたちの体は大丈夫なのか? ハデスの戦いでかなりやられたって聞いたけど」
「カイツに比べたら軽傷だし、問題なく動けるよ。にしても、最近のこいつは」
彼女は呆れた顔をしながらリナーテの頭をつかんだ。
「なんか知らんが、ここ1週間くらい、毎回酒を浴びるように飲んでてな。そのたびにカイツやウルとかミカエルの愚痴を言ってるんだが、何か心当たりないか?」
「心当たりと言われてもな」
そもそも病室にいたときはリナーテとは全く話したことがないし、退院した後も難民支援の手続きとかで話す暇はなかったし。特に何かをしたというわけでもないんだが。
「いや。ないかな」
「だろうな。となるとミカエルたちと何かあったのかね。だとしてもここまで荒れるのは少し珍しいんだが」
「本当に何もないのですか?」
声をかけてきた方を見ると、メジーマが来ていた。
「メジーマ。それはどういうことだ?」
メリナの質問に彼が答える。
「噂レベルの情報ですが、カイツが不純異性交遊をしたと耳にしましたね。もし本当ならヴァルハラ騎士団として恥ずべき事であり、罰を与える必要があるのですが」
不純異性交遊。聞いたことはある。後先とか責任とか考えず、欲望のままに女性と遊んだりして最後は女性を捨てたり責任から逃げたりする最低な行為。俺はミカエルやウルを捨てるつもりなんて微塵もないし、儀式の責任は必ず取る。生涯をかけて守り、一緒に生きると決めてるんだ。多分、不純異性交遊には当てはまらないと思う。
「いや。そういうことはしてないよ」
そう言うと、彼は疑うような目で俺を見てくる。
「騎士団の誇りに誓ってそう言えますか?」
「言えるよ。俺はそんな最低なことは絶対にしない」
「メジーマ。心配しなくてもカイツなら大丈夫だろ。こいつは女遊びをするような奴じゃない。お前だってそれぐらいのことはわかるだろうに。何を疑ってるんだ」
「色々あるから疑ってるんですが……まあいいでしょう。カイツ、一応忠告しておきますが、絶対に不純異性交遊などしないでくださいよ。俺たちヴァルハラ騎士団は悪を倒し、弱き人たちを守るために戦い、常に高潔な精神を持つことが求められます。恋愛禁止とまでは言いませんが、騎士団に泥を塗るような愚行はしないようにお願いします」
「分かった。心がけるよ」
「よろしい。では、俺はそこで伸びてる女性を近くの休憩所に運んできます。いつまでもここに放置するわけにもいきませんからね。2人とも。パーティーを楽しむのは結構ですが、羽目を外さないようにしてくださいね」
彼は気絶してるリナーテを抱え、俺たちにそう忠告して場を去っていった。
「さてと。私はステージの方に行って音楽聞くけど、カイツはどうする? 一緒に行くか?」
「いや。俺は少し外に出るよ。夜風に当たりたい気分だし」
「そっか。じゃあまた後で」
「ああ。また後で」
俺はメリナと別れ、バルコニーの方へと向かった。
「やっと見つけた。ここにいたんだな」
「……カイツ」
バルコニーに出ると、綺麗な白い髪をなびかせる獣耳の少女、アリアが肉を食べながら空に輝く星を見ていた。俺は彼女の隣に並んで一緒に空を見上げる。
「どうしてここに?」
「アリアと一緒にいたくなってさ。ほら、ここ最近会うことも話すことも出来てなかったから」
彼女は復興の手伝いに駆り出されていたようで、俺が入院してる時も来ることはなく、俺が退院した後も会うことはできなかった。色々とあったし、彼女のことが心配だったので、1度会いたかったのだ。
「そう……それは嬉しいな」
彼女は笑みを浮かべながら俺の肩に寄りかかり、俺は彼女の頭を優しくなでた。
「ウルたちから聞いたよ。何万もの魔獣たちを相手に奮闘して、撤退まで追い込んだって。アリアのおかげで俺はカーリーとの戦いに集中できたし、王都の人たちを守ることができた。感謝してもしきれないよ」
「ふふふ。なら、もっと私の頭を撫でて」
「了解だ」
彼女の髪はとてもサラサラでとても心地よく、撫でる度に彼女が嬉しそうな顔で微笑んでくれて幸せになれた。
「カイツ、知ってる? フェンリルは愛する人以外に体を触らせたりすることはないんだよ。カイツが私の頭を撫でても許してる理由、ちゃーんと理解してよね」
「ああ。分かった」
彼女が俺を愛してくれる。そのことがとても嬉しい。俺も彼女を愛している。何が何でも彼女の、彼女たちとの生活を守りたい。そう考えてると、彼女は俺の腕に抱き着き、爪を立ててくる。薄皮を斬られるようなちくっとした痛みが襲いかかると、彼女は驚いたような顔をした。
「へえ……私が苦労してる間に女狐たちが……ほんとムカツく」
何か呟いた後、向かい合わせで俺の膝の上に座ってきた。
「アリア?」
「カイツ、私はカイツのことが大好き。世界で一番愛してる。ずっと一緒にいたい。他の女に渡したくない。だから、もう変なことはしないでよ。フェンリルは嫉妬深いから、あんまり他の人たちに触れ合いすぎてると、喉笛嚙みちぎって監禁するかもね」
「怖いな。そうならないよう気を付けるよ」
「……色々と怪しいけど、まあ信じてあげるよ。他の女と寝た過去があったとしてもね」
そう言うと、彼女は俺の首に嚙みついてきた。牙が肌の中に刺さり、血が少しだけ流れていく。
「くっ!? 何を」
「これは私にとっての印。絶対にこの痕は消さないでね。変に消そうとしない限りはずっと残り続けるから」
「……分かった。残しておくよ」
理由はわからないけど、これは消してはいけないような気がした。すると、彼女は俺のことを強く抱きしめる。絶対に離さない、自分のものだと誰かにアピールするかのように。
「本当に嫌になるよ。どいつもこいつもハイエナのように。私だって、カイツとの愛が欲しいのに」
「アリア」
彼女の言葉はとても悲しそうで、俺は彼女を強く抱きしめ返した。
「アリア。俺はどこにも行かない。大切な人を悲しませることはしたくないから」
「……優しいね。浮気者だけど、そんな貴方だから私は」
彼女は肩から顔を離し、唇を近づける。
「アリア」
「カイツ。これが私の愛の大きさ」
重ねたのは一瞬だった。だがその一瞬は、永遠にも思える程に長く、幸せな時間に感じられた。
パーティーが続く最中、クロノスは遠くからカイツとアリアの様子を眺めていた。
「はあ……相変わらずカイツ様は浮気性ですね。ま、今は仕方のないことかもしれまんせんがね。いつかは私だけのカイツ様になってもらう予定ですが、先は大変そうです」
彼女はそう呟きながら、手元に黒いナイフを何本も出現させる。
「で? さっきからコソコソと覗いてる変態さんは誰ですか!」
そのナイフを何もないはずの空間に投げつける。ナイフがただ通り過ぎるだけかと思われた瞬間、何かに弾かれてしまい、空間の一部が水面のように波うち、黒いローブを身に纏った者が現れた。
「流石ですね。この程度の潜伏は簡単に見抜いちゃいますか」
「誰ですかあなたは。どうも嫌な気配がするんですけど」
「ふふふふ。あなたなら分かるんじゃないですか。私の正体が」
そういうと、ローブを纏った者の手の甲に青い紋様が浮かび上がった。
「!? その紋様、それにその魔力。まさかあなたは」
「悪いんですが、私の計画に邪魔なので、あなたには消えてもらいます」
青い紋様が強大な魔力を放ちながら強い輝きを放ち、クロノスはその光に飲み込まれてしまった。




