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第211話 復興作業 潜む陰謀

 ミカエルたちとの儀式を終わった翌日から更に1週間が経過した頃。騎士団メンバーは傷も完治し、動いても問題ないレベルにまで回復することが出来たので、復興作業と祭りの準備に参加していた。


「ふう。復興作業というのはしんどいわね。体が痛むわ。なんでこんなことをしないといけないのやら」


 ウルはそう言いながら、額に流れる汗を腕でふき取る。


「仕方ないだろ。天使祭まで時間がない。開催1週間前には瓦礫とか全部撤去して、建物とかも人が入っても問題ないレベルにまでは直しておかないと。ここは天使祭の中心になるであろう場所だからな」


 ニーアがそう言いながらウルの作業を手伝う。彼女たちは町に積もって道をふさいでいる瓦礫の撤去作業を進めていたが、瓦礫の多さもあって、作業は思うように進んでいなかった。しかし、今日中にこの作業を終わらせなければ、天使祭まで復興させるのが間に合わないため、2人は必死に作業していた。


「天使祭。故郷のスヴァルトアルフヘイムにいた時に参加したことあるけど、豪華で煌びやかだったわね。まるで貴族のパーティーに出席してる気分だったわ。四大天使の巨大な銅像とかも凄かったし」

「種族関係なく参加して楽しむ祭りだからな。規模も期間もそこらの祭りとは段違いだ。しかし、今回は色々と面倒なことがありそうだがな」

「それって、ヴァルキュリア家とか熾天使(セラフィム)とかが原因で?」

「それもあるが、問題は兄様の方だ。天使祭は四大天使の関係者や契約者とかに良い顔をしない奴が多い。兄様は四大天使が1人のミカエルの器であり、どっかの馬鹿サキュバスと一緒に一線超えたからな」

「誰が馬鹿サキュバスよ。でもそう考えると、カイツの立場って複雑ね。いっそのこと、カイツは参加しないという方法も」

「無理だな。ミカエルと兄様のつながりはかなり深い。恐らく祭りの途中でミカエルが兄様を器にしてることがばれるだろうし、仮にばれなくても分かる奴には分かるだろう。祭りに参加する奴らの中には、四大天使と他者の関係を見抜く力を持つ者もいるらしいからな」

「そうなると、カイツが参加するのは確定事項になりそうね。そういえば彼はどこに行ったの? 体のダメージはある程度治ったと聞いたけど」

「兄様は王城で貴族共と会議だ。体は治ったが、まだ作業をさせるのは難しいからな。なんでも、今回の戦いで家や職を失った人たちの支援をしているらしい。確か、橋姫やルサルカがどうとか言ってたな」

「あら。ずいぶん懐かしい名前が出てきたのね」

「知り合いか?」

「ええ。騎士団の任務の関係で、彼らのいる世界に行くことになってね。橋姫はヘルヘイムで、ルサルカはアルフヘイムで知り合ったのよ」

「ヘルヘイム。確か幽鬼族のいる世界だったな。アルフヘイムは妖精族のいる世界」

「そして、そのアルフヘイムはヴァルキュリア家がしっちゃかめっちゃかにした世界よ」


 ウルが皮肉るようにそう言うと、ニーアは少しバツが悪そうな顔をした。


「すまなかったな。あの時はお前たちにも迷惑をかけた」

「謝るなら、私たちじゃなくてルサルカたちに謝りなさい。時間が出来たら、彼女たちの場所を教えるから」

「分かってる。ヴァルキュリア家とのごたごたもようやく終わったし、時間をかけて償うつもりだ」

「一生をかけて償うではないのね」

「そうしたら兄様と結婚できないだろ。私はそこまでするつもりもない」

「……あなた。実はそんなに反省してないでしょ。はぁ……アリアやクロノスがマシに見えるだけで、あなたも大概な人間ね」

「兄様をたぶらかして一線を越えた淫乱サキュバス女には言われたくないな。その左手は、一線を越えた証のようなものか?」


 ニーアはそう言ってウルの左手を見る。彼女の左手は肌がピンク色になっており、爪の色は紫色になっていた。手の甲には金色の天使の羽のような模様が浮かんでいる。


「このピンクに変色した肌はその通りね。サキュバスが男と交わると、こんな風に肌の色が変色して魔力も大きくなったり質も変わったりするのよ」

「なるほど。確かに、少しばかり変化しているようだな」


 ニーアが熾天使(セラフィム)の力を使ってウルを見ると、その魔力が変質しており、大きくなっていることも確認できた。そして、わずかに感じる四大天使の力も。


「けど、この模様はサキュバスには関係ないのよね。ミカエルと一緒に行為をしちゃった副作用かしら?」

「恐らくそうだろうな。お前の中からわずかに四大天使の力を感知した。兄様ほどではないだろうが、お前もミカエルの力を少し使えるんじゃないのか?」

「へえ。それは使うのが楽しみね。時間が出来たら、誰かと模擬戦してみようかしら」

「ま、誰かと模擬戦するにしても」


 ニーアは、あたり一面に散らばってる瓦礫だらけの王都を見渡しながら話す。


「この惨状をどうにかしないとな」

「確かにそうね」






 side カイツ


 俺は貴族たちとの会議を終え、自分の部屋に向かって歩いていた。あの話し合いは苦痛だった。


『市民を救う前に、まずは俺たちを助けるべきだろ。貴様らが無能だったせいで俺の家はめちゃくちゃになったんだぞ!』

『低所得の市民なんざいくらでも生えてくる。だが我らのような選ばれた貴族が死ぬことは、世界の損失なのだぞ。我らを優先的に助ける案を考えたまえよ』


 どいつもこいつも自分のことばかり考えていて、人のことを考えるという思考回路が欠落してるようにしか思えなかった。幸い、カーリーを倒した実績とかを利用したごり押し、そして。


「先程はお疲れさまでした。カイツ」

「そちらこそお疲れ様です。アクア様」

「……もう。こんな所で敬語は良いですよ。普通に話してくださいな」

「……分かった。これで良いか?」

「ええ。やはり敬語ではない方が嬉しいものですね。気楽に話すことが出来ますし」


 俺に話しかけてきた青い瞳の女性、アクアのおかげで俺の案を通すことが出来た。美しい白のドレスを身に纏い、頭にはティアラが飾られている。凛とした顔立ちや美しさは、人為的に作ったのではないかと思えるような雰囲気があった。この国の第1王女、アクア・リグラード。ウルを王城から脱出させる手助けをしたり、俺の案を通せるように色々やってくれたりと。ほかの貴族や王族に比べると、俺たち騎士団に対して友好的のように見えるが、俺はどうも信用できなかった。


『儂は何も悪くない! あの腹黒娘がすべてやったことじゃ。それに、弱き国が強き国に滅ぼされるのは世の理。儂には何の非もないわ!』


 決戦前、王城に行った時に国王が言ってたあの言葉通りなら、レイフィード王国を滅ぼした主犯はこいつということになる。そしてマリネの記憶を見たとき、こいつは民衆を先導してクーデターを起こしていたし、国王の言ってることは事実で間違いない。


「カイツの案は素晴らしいですね。職や家を失った者たちを支援するため、他の異世界の者たちに協力を求めるとは」


 俺は今回の戦いの被害者たちを助けるため、橋姫やルサルカたちに協力を仰ぐことにした。ミカエルの力で彼らのいる世界のある門へと行き、門から異世界に入ってルサルカたちと出会い、難民を助けるための協力を要請した。橋姫たちのいる場所を選んだ理由はいくつかある。1つ目は職に困らないだろうという事。

 あいつらのいる世界を調べてみた結果、どうやら多くの働き手を欲しているらしい。どの仕事も人を欲していたし、あれなら職に困るという事はないだろう。ルサルカたち妖精族は、人間を嫌ったり差別したりする事はない。ヘルヘイムは人間をペットにしていた前科はあるが、今は橋姫が世界を統治しているため、そのような問題もない。実際にヘルヘイムに行った際も、ペットにされていた人間たちには手厚い支援がされていた。あれなら問題ないだろう。

 今回の戦いで多くの人が住む家もなく困り果てている。他の町もある程度は受け入れてくれるだろうが、それでも限界はあるだろう。どうにか救えないかと思って橋姫たちのいる世界に飛んでみたが、人を欲してるようで本当に助かった。これならなんとかなりそうだ。


「それにしても、どうしてカイツは、我が国の人にここまでしてくれるのですか?」


 考え事をしていると、アクアが質問してきた。


「あなた、この国の人ってわけではないんですよね。それなのに、王族や父上以上に国民のことを考えてくれて支援もしている。何があなたをそこまでさせるのですか?」

「弱者の虐げられない世界を作ることが俺の夢だ。その夢のためにやった。それだけのことだよ」

「へえ。すごい夢ですね。弱い人たちが虐げられることなく幸せに暮らせる世界。そんな世界が出来たら、とっても楽しそうです。私の父は、馬鹿馬鹿しい、子供の絵空事と言って切り捨てそうですが」

「ま、そう言われるのも仕方ないさ。道は遠くて険しいし、やることも多い。」

「それでも、諦めるつもりはないと?」

「当たり前だ。もう2度と、俺のような人を生み出さないためにも、絶対に夢を叶えてみせる」

「素晴らしい心意気ですね。私の父上や王族の者たちも、あなたくらいに立派な人だと良かったのですが。いっそ、カイツが王族になってくれれば、この国も更に良くなりそうなのですが」

「血を引いてないから、それは難しいな。だから、俺は自分にやれることをやって、夢を叶えるよ」

「がんばってくださいね。微力ながら、私も応援してます」

「ありがとう。この国の王女様が応援してくれると、気持ちがみなぎるよ」

「ふふふ。お世辞が上手ですね。では、私はここで」


 そう言って、アクアは別の方へと歩いて行った。話してみた感じ、特に妙なところはないし、他の貴族や王族のように、下の人を見下している感じはない。人と争ったりする性格には見えないし、冤罪をなすりつけて人を陥れるとも思えない。本性を現していないのか、あるいは別の理由があるのか。どちらにしても。


「……今は何もしないのが正解か」


 彼女の本性が何にせよ、今は俺の敵というわけでもないし、理想の障害になってるわけでもない。マリネの国を滅ぼした事については言いたいことが山ほどある。だが、それを問い詰めても意味はないだろうし、下手に敵対すれば、不要な恨みを買うことになる。悔しいが、今の俺には何もできない。せめて、あいつが他の王族とかと同じくらい分かりやすく、民を見下していたらやりようはあったんだがな。そう考え、俺は部屋に向かって歩を進めた。





「ふふふ。カイツ・ケラウノス。噂には聞いてましたが、あれは魔性の男ですね。かっこよくて優しくて、心がフワフワしてしまいます」


 アクアはカイツと別れた後、ルンルンとスキップしながら廊下を歩いていた。やがて自分の部屋に着いて扉を開けると、そこには2人の人物が立っていた。1人は黒いローブを身に纏った者。もう1人は。


「彼の印象はどうだった? アクアちゃん」


 貝殻水着の天使の女性、ガブリエルがいた。


「かっこよかったですわ。ガブリエル様やネメシスが気に入る理由もわかります。私も惚れそうになっちゃいましたし~」


 彼女は王女としての気品を捨てたかのように身に纏っている衣装やアクセサリーを投げ捨てていき、ベッドにダイブした。服を脱いで露わになった彼女の肌は水のように揺らめいており、周囲の景色を鏡のように映している。


「すごいですわね。彼は。ガブリエル様が用意した試練を乗り越え、ミカエルの器として更なる成長を遂げている。おまけに、1度試練に敗れてしまった負け犬の女も闇から救い出した。ガブリエル様がお熱になっちゃうのもわかりますね」

「だろ。彼は本当にすごいよ。常人なら100回は死んでるであろう試練を乗り越え、更なる強さを手にして夢に1歩近づいた。マリネは試練を乗り越えられず闇に落ちたというのに、彼は乗り越えて光を手に入れた。2人の違いが一体何からくるものなのか。とても興味深いね~」


 アクアの正体はガブリエルに仕える天使であり、王族たちの記憶をいじって自分が王の娘だと騙しているのだ。そうする理由は、ガブリエルが用意する試練のためのお膳立て。マリネの時は自らが民を率いてクーデターを先導し、試練を与えた。今回の騒動では城に捕えられた騎士団メンバーを解放し、ヴァルキュリア家との戦いという試練に誘導し、彼らの行く末を見届けていたのだ。


「ふ~。やっぱり服を着るのは合いませんわね~。人間は大好きですけど、この服を着るという行為だけは、いつまで経っても理解できませんわ~。みんな、ガブリエル様のように貝殻水着になったらよろしいのに」

「ふふふ。ま、人間には色々あるんだよ」

「そういうものですか。それにしても、イミテーションがここにいるとは珍しいですね。なんの御用ですか?」


 アクアがそう聞くと、フードを被った者は不機嫌そうに答える。


「その名で呼ばないでください。私にはルリアスという名前があるんです」

「あなたの名前なんてどうでもいいですよ。人間もどきの名前なんて覚える気しませんし~。それで? あなたが来た理由はなんなんですか?」

「ちっ……あの女とガブリエルに呼ばれたからですよ。そうでもないと、あなたのようなガブリエルの腰巾着に会いに来ませんよ」


 次はアクアが不機嫌になり、拳を強く握りしめる。


「全く。ガブリエル様の言う通り、人間でない者はいけませんね。礼儀が全くなっていませんよ」

「あらあら。相変わらず仲が良いのね」


 その声と共に、1人の女性が壁をすり抜けて入ってきた。下に行くにつれて体が薄くなっており、足の部分は消えてしまっている。雪のように白い肌を持ち、目は血のように赤く染まった銀髪の女性、ネメシスだった。


「あら。お久しぶりですね。ネメシス」

「久しぶりね。アクア。ルリアスも久しぶり。元気そうでうれしいわ」

「どうも」

「ガブリエルも変わりなさそうね」

「君は相変わらずスケスケだね。それで? 私たちを集めたという事は、時期が来たのかな?」

「ええ。邪魔なヴァルキュリア家も消え、カイツが強くなってくれたおかげで私の力も少しずつ戻ってきた。天使祭といううってつけのお祭りも始まるし、そろそろ私たちも動こうと思って」


 ネメシスがそういうと、アクアやガブリエルが嬉しそうな笑みを浮かべる。


「やっと来ましたね。私たちが待ちに待ったエキサイティングな試練が」

「ああ。ようやく時が来た。この試練、カイツや君がどういうエンディングを迎えるか楽しみだよ」

「うふふふ。あなたたちの期待に応えられるよう、私たちも頑張るわ」

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