第208話 それぞれの休息
ヴァルハラ騎士団のメンバーたちは、城にある医療施設で治療を受けていた。
ラルカ、ダレス、メリナ、メジーマはまだ治療中ではあったが、意識は取り戻しており、少しばかり動くことは出来るようになっていた。とはいえまだ安静にしなければならず、ラルカとダレス、メジーマとリナーテは別々の部屋に分けられ、医療用ベッドの上で安静にしている。
「ラルカー。暇だよー。今から戦おうよー」
「戦わん。我らはある程度回復してるとはいえ、まだ安静にしなければならんのだぞ」
戦おうと誘うものの、それはさらりと躱されてしまう。ダレスはストレスをぶつけるかのように手元の枕をバンバンと叩きつける。
「もおおお! すっごく暇だよ! 戦えないし、ブレイクボクシングのビデオとかも見れないし、食事は味が薄いし、肉は少ないし、検査はだるいし、不満しか無い!」
「仕方ないだろう。我らは重症人だし、大人しくするしかないのだ。というか、暇なら本でも読んだらどうだ?」
「あんなの嫌だよ。文字ばかりだしなーんにも面白くないし。バトルシーンは映像で見ないと興奮出来ないし」
ダレスは不貞腐れたかのように枕に顔を埋める。彼女たちは六神王ハデスとの戦いで重傷を負った。ニーアと違い熾天使の力も無い為、治るのも時間がかかってしまうのだ。
「で。ウルは何をしているのだ」
ラルカが目を向けた先には、ミノムシのようにうずくまる赤いメッシュの入った黒髪女性、ウルがいた。ウルやスーパーマンズは魔獣に捕らわれてたこともあり、経過観察のためにここに来ていた。
「みんなに合わせる顔がないのよ〜。せっかく東門で皆を守るために戦ってたのに、いつのまにか眠らされて、気がついた時には戦いが終わってたのよ。しかもほっぺが微妙にベタついてたし、誰かに舐められる気持ち悪い夢を見ちゃったし。気分最悪。カイツも目を覚まさないから儀式も出来ないし」
彼女の周囲からは鬱屈したオーラが漂っており、目に見えて落ち込んでいるのが明らかだった。
「全く。我が右腕の役にも立てず、情けないものだ。部下たちのスーパーマンズを見習ってほしいものだな」
スーパーマンズは簡単な検査を終えた後、王都の復興作業に参加していた。本来ならウルも参加しなければならないのだが、彼女はとある事情で参加していなかった。
「不貞腐れてる暇があるなら、儀式の準備とやらでもしたらどうなのだ。我はどういうものか分からぬが」
彼女はとある儀式をするため、復興作業に参加していなかったのだ。
「準備したくても、私が出来ることは全部終わったのよ。後はカイツが起きないことにはどうにも」
「なら、さっさと準備してこい。カイツならとっくに目を覚ましてるぞ」
ラルカはその声に驚いて視線を声にした方に向ける。視線を向けた部屋の扉の前に水色の髪をなびかせ、顔に剣で斬られたような傷跡を残す赤いブリオーのドレスを着た女性がいたのだ。
「あ、アレクト!? なぜこんな所にいるんだ!」
「あれ。君って確か、騎士団襲撃してきた六神王だよね。なーんでここにいるのかな!」
ダレスが嬉しそうにしながら殴りかかるも、彼女の体は煙のようにすり抜けてしまい、そのままの勢いで壁に激突してめり込んでしまった。
「ぐびゃ!?」
「その名も六神王の地位も捨てた。今の私は没落王女のマリネ・レイフィードだ」
いつの間にか、彼女はダレスの寝ていたベッドに腰掛けていた。
「この!」
「落ち着いてラルカ。今の彼女は味方よ」
攻撃を仕掛けようとするラルカをウルが抑える。
「味方!? 一体どういうことなのだ」
「後で話すわ。それより、カイツが目を覚ましたって本当かしら?」
「ああ。だが今は狐女の時間だ。今行くのは」
「儀式の準備をしてくるわーー!」
マリネが話し終わる前に、ウルはさっさと部屋を出てカイツの元へ向かって行ってしまった。
「……はあ。人の話は最後まで聞いてほしいんだが」
マリネがラルカの方に視線向けると、ラルカは警戒するかのように睨みつける。
「なんだ」
「聞きたいことがある。なぜ、ヴァルキュリアを裏切って我らの味方をする。お前は我の右腕、カイツを憎んでいたはずだが」
「勘違いしないでほしいが、私はヴァルキュリア家を裏切ったつもりはないし、お前たちの味方をしているつもりもない。私は奴が作る世界を見届けると決めたからここにいる。それだけのことだ」
「右腕の作る世界?」
「あの男はテルネが望んだ世界。弱者が不当に虐げられることのない世界を作ると私に豪語し、見届けてほしいと言って勝利し、どうしようもない私にも救いの手を差し伸べた。あんなにも優しくて強く、理想を叶えようと邁進する男なら、見届けるのも悪くないと思ったのさ」
「……なるほど。貴様にも色々あったというわけか」
「ああ。それに、あいつの傍にいるのは、悪い気分ではないからな」
「ふむ。確かに右腕の傍にいるの……え?」
ラルカが驚いてマリネの顔を見ると、少しばかり頬が赤らんでいた。
「なんだ」
「……お前。まさか右腕のことが好きなのか?」
「!? 勘違いするな! あいつの傍にいるのが心地良いと言っただけだ。好きとかそういう感情はない!」
そういう彼女の顔は真っ赤になっていた。
「ふむ。お前も右腕の虜になった人間か。全く。我が右腕の女誑しスキルにも困ったものだな。我だけの右腕だというのに」
「だからそういうのはないと言ってるだろ! それより、私に殴りかかってきた女の方はほっといて良いのか?」
「強引に話題逸らしたな。そういえば、さっきからダレスが静かだが」
ダレスのいる方を見ると、彼女は体中の傷口が開いて血を流しており、気を失っていた。
「うわあああああああ!? ダレスがあああ! おいマリネ! お前の熾天使の力で治せ!」
「そんな力はない。早いこと医者を呼ばないと、あれはやばいぞ」
「な、ななななナースコールだナースコール! 急いで医者を呼ばないと! えとえとえと、ナースコールするには」
その後、ラルカが急いで医者を呼んだことで、ダレスは何とか一命をとりとめた。ちなみに、この件は彼女にとって色々と堪えたようで、これ以降は傷が完全に治るまで大人しくするようになった。
ちなみに、ヴァルハラ騎士団ウェスト支部メンバーのメリナとメジーマは特にトラブルも無く、落ち着いた時間を過ごすことが出来ていた。
「ふう。リナーテがいないと、とっても静かで心地良いものです」
メジーマは温かいお茶を飲みながら、窓の景色を見てのんびりしていた。
「だな。色々ありすぎたし死にかけたし、しばらくはこうしてのんびりしたいもんだ」
「そういえば、カイツが目を覚ましたらしいですよ。あなたは行かなくて良いんですか? 彼のこと心配でしょうに」
「五体満足で生きてるらしいし、今はそれを知れれば十分だよ。確かに今すぐにでも会いに行きたいけど、まだ全快してるわけじゃないからな。今あいつに会ったら、色々と不安にさせちまいそうだし、きっちり傷を治してから会いに行く」
「真面目ですね。リナーテもあなたの真面目さを100分の1でも学んでくれたらありがたいんですが」
「無理だろ。あいつは真面目の対極に位置するような奴だし」
「それもそうですね」
その後は特に会話することもなく、2人とも窓の景色を見てのんびりしていた。ふと、メリナが口を開く。
「どうなるんだろうな。私達」
「? どうなるとは」
「いや。私達の支部無くなっただろ。だから、これからどうなるのかと思って」
「残ってる支部のどこかに配属することになるでしょうね。俺達が離れ離れになる可能性もあるでしょう」
「だよなー。これからがめちゃくちゃ不安なんだけど。人間関係とか大丈夫かな」
「どこに配属されようと、俺達のやることは変わらないですよ。罪のない人々を守ることこそがヴァルハラ騎士団の使命。その使命を果たすために俺達は戦い続ける。それだけのことです」
「はえー。私のことを真面目とか言うけど、お前のほうが何倍も真面目じゃねえかよ。いつも思うけど、お前の使命のために頑張るところとか凄いよな。なんでそこまでやるのさ」
「……別に。大した理由もありませんよ。ヴァルハラ騎士団の人間なら、正義のため、罪のない人を守るために行動するのが当たり前。そう考えているだけです」
そう言うメジーマの顔は明らかに何かありそうな雰囲気ではあったが、メリナは追求しようとは考えなかった。
「そうかい。まあ、話したくないならそれで良いさ」
彼女はそう言うと、視線を窓の景色に戻した。
「あなたは、別の支部に配属されたらどうするんですか?」
「支部でやるべきことをやりつつ、カイツにアタックできるチャンスがきたらアタックする。環境にもよるだろうけど、私のやることも多分変わらない。そもそも私がヴァルハラ騎士団に入ったのは、カイツに近づくためなんだからな。ノース支部に配属になったら、アタックするのも楽になるんだけどなあ」
「相変わらずの恋愛脳ですね。先ほど真面目と言ったのを撤回したいくらいですよ」
ヴァルハラ騎士団ウェスト支部メンバーの生き残り、リナーテは六神王ハデスとの戦いで大ダメージを負っていたが、受けたダメージはラルカやダレスたちに比べてマシな方だったため、復興作業に強制参加させられていた。
「あ〜しんどい。なんで私は参加しないといけないのさ。メリナやメジーマはだらだらしてるのに〜」
彼女は大量の汗をかき、愚痴を吐きながら過ごしていた。
「ニーアの奴めー。私をこんな作業に参加させやがって。早くカイツに会いたいー!」
途中、彼女は何十回も抜け出そうしたが、その度に兵士に止められたり、カイツのことを考えて嫌われたくないと思って踏みとどまったりしてきっちり、作業終了時間まで作業していた。
「疲れたあ。やっと……作業が終わったよ」
リナーテはすっかりクタクタになり、壁に手をついて歩いていた。作業があまりにも過酷だったせいで彼女の体力は既に限界であり、今にも倒れそうになっていた。それでと必死こいて歩いていたのは。
「あと少しで……カイツに会える。カイツのいる治療施設に」
必死こいて城の中を歩いていると、彼のいる治療施設の扉が見えてくる。死んだ魚の目のようになっていた彼女の目に光が灯った。
「カイツのいる……治療施設。あそこだあああああ!」
彼女が必死こいて部屋の扉を開け、その視界に映ったのは。
「……は?」
全裸で寝ているウル、カイツ、大きいミカエルの3人。ベッドはめちゃくちゃに乱されており、酷い臭いが漂う。明らかに何かをした後だというのが分かった。なんらかの結界を張ってるようで、それのおかげで臭いは部屋の外に漏れていなかったが、今のリナーテにはそんなことはどうでも良かった。
「ん……誰かおるのか」
ミカエルが寝ぼけた眼をこすりながら、上半身だけ起き上がり、美しいバランスの取れた体や胸が露わになる。リナーテの方を見ると、少しばかり驚いたような声を出した。
「おっと。妾たちとしたことが、うっかり鍵を閉め忘れてしまったわい。せっかく結界を張っておったのに。まあ、バレたからなんだって話じゃが」
「……が……時に」
「? 何か言うたか?」
「人が大変な時に、何をやってんだこの色ボケどもがああああああ!」
彼女は泣き叫びながら、大きいミカエルめがけて怒りのジャンプキックを放った。




