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第207話 戦いの後始末

 ヴァルキュリア家との戦いが終結してから数日後。ニーアはクロノスと共に痛む体にむち打ち、瓦礫をどかしたり救助活動を行っていた。


「全く。なぜ私がこんなことを。まだ回復しきってないというのに」

「文句を言うなクロノス。今の王都はとにかく人手が必要なんだ。多少体が痛む程度で休む余裕は無い」


 ニーアは熾天使(セラフィム)の力で他よりも傷は回復しているが、ダメージはまだ残っていたため、体を動かすのも一苦労だった。しかし、今も寝込んでいる兄様、カイツのために彼女は張り切って復興作業をしていた。

 クロノスは真の力を使った反動こそ無くなってはいるが、傷は完全に癒えておらず、気怠さも抜けてないため、面倒くさそうに復興作業をしていた。


「はぁ……最近はこんな作業ばかりで、カイツ様の見舞いにも行けなくて嫌になりますよ。あの没落王女をカイツ様の傍に置いて大丈夫ですか? 私は事情をよく知りませんが、またカイツ様に刃を向ける可能性があると思うんですけど」

「マリネのことか? その点は安心しろ。奴が兄様に刃を向ける可能性は0だ。もう二度と敵対することは無い」

「なんで言い切れるんですか? 脅しでもかけたんですか? それともなんらかの契約を?」

「どちらでもない。兄様の人誑しスキルが発揮されただけだ」

「……ああ。そういうことですか」


 クロノスは全てを理解すると、呆れたようにため息を吐いた。


「全く。カイツ様の人誑しにも困ったものですね。私のような善人も没落王女や犬っころのような悪人も分け隔てなく愛し、虜にしてしまうのですから。本当に困ったものですよ」


 ニーアは、クロノスも悪人の部類に入るだろうと思ったが、口には出さず黙って作業をしていた。


「そういえば、あの犬っころはどこにいるんですか? 私達の中では一番軽傷みたいですし、あいつにも手伝わせた方が良いでしょう」

「奴は別の場所を担当させている。力の残ってる奴にはそれ相応の仕事をさせないとな。それに、今のあいつは」


 突然黙りこくったニーアに、クロノスが不審に思いながら質問する。


「あいつは、なんですか?」

「……いや。何でもない」


 ニーアはそう言って作業を続ける。


(今のあいつはどこか様子がおかしい。ずいぶんと苛立っていたし、やたらと考え込むことも増えた。あの状態でクロノスとかと一緒に作業させれば面倒事になる可能性もある。何かあるなら解決しておきたいが、あいつが話さない事には出来ることがないからな。ひとまず、大量の力仕事でもさせて気を紛らわせつつ、自分から話すようになるまで待つしかないか)



 彼女がそう考えていることをクロノスは読めなかった。しかし、その魂の揺らぎを見て、何かを隠していることは理解した。


「隠し事と不安の揺らぎ。なるほど。ヴァルキュリア家は全滅しましたけど、全部解決のハッピーエンドというわけではなさそうですね。」




 アリアは内に鬱屈とした何かを抱えながら、巨大な瓦礫をどけたりしていた。


「ちっ。あのクソブラコン女。人使いが荒いんだからさ」


 彼女は愚痴をこぼしながら巨大な瓦礫をどけたり粉微塵に砕いたりしている。作業中、彼女の脳裏にはフードを被った女の言葉が反響していた。


『もし同盟を組む気があるなら、その手紙にあなたの血を垂らしてください。そうすれば、鬱陶しいオルタ……ではなくクロノスとかニーアとか、その他諸々を殺すための力を、貴方に授けましょう』


 それを振り払い、苛立ちをぶつけるように瓦礫を粉微塵に砕く。


「ざけんな。あんな誘いにのってたまるか。カイツを奪う奴らは全員殺す。あのフード女も例外じゃない」


 彼女はすっと唇に指を当て、あの時の感触を思い出していた。タルタロスにてカイツがキスしてくれた感触、抱きしめてくれたあの感触を。


「あれは私だけのもの。誰にも奪わせはしない」




 Side カイツ


 目を覚まして最初に写ったのは、きらびやかに彩られた金色の天井とシャンデリアだった。医療施設のようだが、かなりの高級感がある。ベッドのフカフカ感がすごいし、周りにある医療用魔道具も高そうな物ばかりだ。そして、すぐ隣に座っているマリネに気がつく。


「……マリネ」

「やっと起きたか」


 彼女の体は包帯だらけになっており、俺よりも重傷なのではと思えるほどだった。なぜか俺の頭を優しく撫でており、表情も穏やかで優しく、撫でてくれる手から暖かさを感じた。彼女のそんな表情を見ることになるとは思わず、つい見惚れてしまった。


「? なんだ」

「いや、なんでもない」


 気恥ずかしさに俺は視線を逸らす。その視線の先には机があった。飲み物の入ったコップと皿があり、俺の刀も立てかけられている。皿の上には一口サイズにカットされた果物がいくつかのせられていた。

 とりあえず起き上がろうとするが、体中に走る激痛のせいで、指一本動かすこともままならなかった。


「ぐっ!? この痛みは」

「無理をするな。まだ傷が回復したわけではないのだから」


 彼女は呆れたように言いながら俺をベッドに寝かせ、一口サイズの果物を1つ取り出して俺の口元まで持ってくる。


「ほら。これでも食え」

「ああ」


 彼女から差し出された果物を口に入れた。ほんのりした甘みが口の中を満たす。


「ふう。少しだけマシになったよ」

「それなら良かった。飲み物はいるか?」

「いや、今は大丈夫だ。ありがとうな。お前もボロボロなのに、俺の看病してくれて」

「礼などいらない。貴様には、妹が目指した理想を実現してもらわないといけないからな。死なれては困る。それに、私はこの程度で倒れるようなヤワな鍛え方をしてないんだ」


 そうは言うが、明らかに大丈夫そうには見えない。少しふらついてるし、今にも倒れそうで心配だ。それなのに、俺の看病を


「なんでそこまでしてくれるんだ。看病もそうだし、あの刀を渡してくれたのも」


 あの刀はテルネの形見だと言っていた。カーリーとの戦いの時は聞く余裕が無かったけど、なんで渡したのか気になっていた。刀を渡した意味は分かる。けれど、そうしようと思った理由が分からない。戦った時は、あんなにも恨まれていたというのに。


「貴様に渡すべきだと判断したから渡した。それだけのことだ」

「……そうか」


 どうやら、具体的な理由を話す気はないようだ。まあ理由は何にせよ、形見を渡しても問題ないと思われるくらいに信頼されてるのは嬉しいことだ。俺の思い込みである可能性もあるが。


「そういや、他の騎士団メンバーはどうしてるんだ。まだ寝込んでるのか?」

「ニーアとフェンリル、ツインテールの女は復興作業に従事している。他の奴らは知らん」


 フェンリルはアリア、ツインテールの女はクロノスのことだろう。アリアとニーアは知らないが、クロノスはあれだけボロボロになってたのに、復興作業に従事しているのは凄いな。他のメンバーは大丈夫だろうか。体が動くようになったら様子を見に行かないと。

 そう考えてると、彼女が俺の隣に座り、本を読み始めた。じっと見ていると、彼女が質問してくる。


「? なんだ」

「いや、えっと……ずいぶんと距離が近いなあと思って」

「嫌か?」

「嫌じゃないよ。こういう風に接してくれるのは信頼してる証だろうし、とても嬉しい。けど、少し意外だったからさ。お前がこういうことするとは思わなかったから」

「勘違いするな。お前を信頼してるわけではない。こうしたい気分だっただけだ」

「そ、そうか」

「それに」


 彼女は本から視線を外し、俺の頭を撫でる。


「こうして傍で見ておかないと、いつ悪化するか分からんからな。妹の理想のためにも、こんな所で死なれては困る」


 どうやら信頼してるから距離感が近いというわけではないようだ。彼女の頬が緩んでるようにも見えるが、勘違いなのだろう。女心って難しい。けど、彼女なりに心配してくれてるというのは伝わるし、すごく嬉しい。


 その後は特に話すこともなく、空と彼女の後ろ姿を見ながら時間を過ごしていた。こういう静かな時間は嫌いではない。思えばヴァルキュリア家との戦いでは働きづめだったし、こうして何もせず、ただのんびり過ごしても罰は当たらないだろう

 そうして2時間ほど過ごしていると、ピロロロロと音が鳴るのが聞こえた。音の鳴った方を確認すると、時計からその音が出ていた。彼女はそれを見ると、不機嫌そうな顔になる。


「もう時間か。早いものだな」


 彼女はそう言ってベッドを離れる。


「マリネ?」

「色々と不満はあるが、今はあの天使に譲ってやるさ。約束だからな」


 そう言って彼女は病室を出てしまった。なぜ出たのか不思議に思ってると、俺の服から紫色の玉が現れ、ちっこいミカエルが現れてベッドの上に乗りかかる。


「ミカエル」

「ようカイツ。今回はずいぶんと無茶したのお」


 ミカエルはニコニコと笑いながら俺の頭を掴んだ。


「ミカエル。その……怒ってる?」

「ははははは。妾の気持ちも察せぬほどにお主は落ちぶれたか?」


 まずい。間違いなく怒ってる。それも今までにないほどに。


「ほーんと、お主は無茶してばかりじゃのお。己の命を顧みずに無茶な特攻ばかり」

「……すまない」

「お主、妾との、妾たちとの約束を覚えておるか?」

「ああ。戦いが終わったら、番になるって話だったよな」

「一応、意思確認をしておく。妾の番になることに抵抗はあるか?」

「番って家族の事だよな。それなら抵抗はないよ。お前と家族になれるのは凄く嬉しい。ていうか、一緒にいる時間も長いし、ほとんど家族みたいなものだしな」

「……まあよいじゃろ。とはいえ、今のお主は色々とボロボロじゃし、番のための儀式は難しいじゃろう。なので」


 彼女が俺の額に指を当てると、手の甲に金色の紋様が浮かび上がる。


「これは?」

「妾の男ということを示す印みたいなものじゃ。さて」


 彼女は顔を近づけてキスをする。舌を絡め合い、苦しくなるほどに長くキスをしていた。


「お主の事もあるし、妾もこの体で儀式の本番は出来ぬが、それでも味見くらいは出来る。食わせてもらうぞ」

「えっと……お手柔らかに?」

「ふふふ。それはお主次第じゃ」

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