第204話 限界を超えた戦い 叶えたい願いために
カーリーとカイツの戦い
side カイツ
「うおおおおお!」
地面を強くけり、奴の懐に入り込んで斬りかかるも、その攻撃は受けとめられてしまった。
「全く。本当にしつこいですね。流石の私も疲れてきちゃうんですけど」
「じゃあそのままくたばれよ。その方が助かるからさ!」
俺は連続で攻撃を仕掛けていくが、奴はその全てを余裕そうな笑みを浮かべたまま防いでいく。
「くそっ。剣舞・龍刃百華!」
剣を横に1振りするが、その攻撃は受けとめられてしまった。その直後の無数の斬撃も全て防がれてしまった。
「ふふふふ。無様ですね〜。今の斬撃の数は、精々40発くらいですよ〜♪ そんな鈍った剣で戦おうなんて、お腹痛くなっちゃいますよ〜♪」
奴は背中の紅黒い翼を鞭のように振り下ろし、その攻撃を回避して後ろに下がる。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
無数の紅い光弾を生み出して放つも、奴はその攻撃をすべて翼を盾のようにして防いだ。
「威力が低くなってますね〜。もっと頑張ってくださいよ~♪ 神力解放 灰吹雪!」
奴の身体から灰が撒き散らされ、吹雪のように俺の方に襲いかかる。何発もの龍炎弾を生み出し、灰にぶつけて吹き飛ばす。
「なに!?」
だが、それでも灰は意思を持ったかのように俺に向かい、刃のように俺の皮膚を切り裂き、中にもいくらか入り込んだ。
「ぐっ。だがこの程度の攻撃なら」
「この程度で済みませんよ〜♪ スーパーハイパーインフィニティーイグニッション♪」
ふざけた言葉と共に周囲の灰が爆発した。
「がああ!? このっ」
威力自体はそこまで大きくなかったが、体内の灰も爆破したため、臓器や血管、骨を焼かれ、かなりのダメージを負ってしまった。
「……まだだ……まだ俺は」
「全く。しぶとさは熾天使顔負けですね〜。けどそこまでのダメージを負ったのなら、戦うことすら難しいのでは?」
奴は不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる。このままじゃ間違いなく負ける。何か策がないと。今の俺が奴にダメージを与える方法は。
我らヴァルキュリア家の目的は四大天使の力を作り、人類を進化させることです。
ふと思い出した言葉。確か、俺がヴァルキュリア家の実験体になってた時にプロメテウスが言ってた言葉だ。熾天使は四大天使の力を目指して作られたもの。ならば。
一か八か。どうせこのままじゃ勝てやしないんだ。賭けるしかない。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
何十発もの紅い光弾を地面に放って煙幕を作り、その場から離脱する。少ししか時間を稼げないだろうが、今はそれで十分だ。
「ミカエル……頼みがある」
『なんじゃ。言うてみい』
俺は思いついた作戦をミカエルに話した。
『ずいぶんな無茶を言うのお』
「やっぱり……難しいか?」
『出来なくはない。しかし、お主の体が持つかどうか分からんぞ』
「つまり、ミカエルの方は問題無いんだな。ならそれで良い。後は気合と根性でどうにかすれば良いだけだ」
『……たく。現状はそうするしか無さそうじゃな。妾が全盛期の力を出せれば早かったのじゃが』
「無いものねだりをしても仕方ないだろ。今出来ることをやるだけだ」
『そうじゃな。カイツ、この戦いが終わったら覚えとけよ』
「? 俺、なんか怒られるようなことしたか?」
『現在進行系でしておるのじゃが、まあ良い。来るぞ』
紅黒い翼が煙を突き破って襲いかかって来たので、それを躱して後ろに下がった。
「ふふふふ。カイツちゃんの出方を見るのも悪くなかったんですけど、この後も死んじゃった六神王や実験体の補填とやること盛り沢山ですからね〜。あまり時間かけてられないんですよ♪」
「安心しろよ。もうお前は何もしなくて良い。ここで無様に死ぬんだからな!」
俺は刀を構え、猪突猛進に突き進んでいく。
「ふふふ。煙幕まで出して考えたのがそれですか。ダメージを受けすぎて馬鹿になったみたいですね。そんなお馬鹿さんは」
奴は紅黒い翼をいくつもの頭を持つ龍へと変化させる。
「これで終わりです」
龍は四方八方から俺を喰らおうと攻撃してくる。今の俺ではこの攻撃を回避することは不可能だが。
「ミカエル!」
『分かっておる!』
俺の体は、いつの間にかカーリーの背後に移動していた。
「なっ!? この魔術は」
アナザー・ミカエルがアリアとの戦いで使用した転送魔術。それを利用して俺の体を瞬間移動させたのだ。一瞬の隙は作れた。勝負はここからだ。俺は奴が驚いた隙を突き、首の肉を骨ごと深く嚙み千切った。
飲み込んだ直後、激しい痛みと炎に炙られてるかのような熱さが中から襲いかかるが、俺はそれを無視する。
「ぐっ!? 私の肉を」
「まだだ!」
それだけで終わらず、俺は刀で斬りかかるが、その攻撃は黒棒で受け止められる。しかし、奴は少しばかり苦しそうな顔をしていた。それにこの感覚。間違いない。
「野蛮なことしますね。離れてください!」
いつの間にか、奴との距離は大きく開いていた。だが問題はない。俺は一気に奴の懐まで近づいた。
「なっ!? 早い」
「剣舞・龍刃百華!」
剣を横に一振りするが、その攻撃は黒棒で受け止められる。だが、直後の無数の斬撃は奴の体を深く斬り裂く事が出来た。
「馬鹿な!? なぜこれほど急激に強く」
「一か八かの賭けだったが、俺は運が良い。賭けに勝てたんだからな! 剣舞・斬龍剣!」
刀を上から振り下ろす。奴は咄嗟に回避して致命傷は与えられなかったが、腕を斬り落とすことが出来た。
「くううう!? 神力解放 黒炎波!」
俺と奴の間に黒い球体が現れ、黒炎を吐き出しながら大爆発を起こした。その攻撃は避けるのが間に合わず、多少の火傷と爆発のダメージを負ってしまったが、この程度なら大した問題はない。
「くそっ。流石に攻め込み過ぎたか」
「! その模様。それに、その左目は」
奴は俺の体と放たれる魔力に驚いていた。模様というのが気になって体を見てみると、俺の両手にヒビのような模様が入っており、それは首元まで伸びていた。それに放出される魔力も少し変化している。左の視界が妙に赤いし、奴の言葉から察するに、俺の左目はヴァルキュリア家の奴らのように赤くなっているだろう。
「……なるほど。そういうことですか。私の肉を喰らい、パワーアップしたというわけですね」
腐ってもヴァルキュリア家当主というべきか。理解するのがずいぶんと早いことで。
「ああ。お前たちの熾天使は四大天使の力を目指して作られたもの。なら四大天使であるミカエルの力を持つ俺なら同じことが出来るかと思ったが、どうやら予想以上の大当たりを引いたようだ」
「うふふふふふ。素晴らしいですねえ♪ 流石はミカエルの器に選ばれた男。そうでないと張り合いがありませんね! 神力解」
奴が技を使う前に、俺は刀を鞘に収めて懐に潜り込んだ。
「馬鹿な!? いくらなんでもこの速さは」
「何か勘違いしてないか。剣舞・紅龍一閃!」
そのまま居合い切りを放ち、奴の体を逆袈裟に切り裂いた。
「ぐっ!?」
「俺が速くなったのもあるが、それ以上にお前が遅くなってるんだよ!」
そのまま刺し殺そうとするが、いつの間にか大きく距離が空いていた。
「神力解放 黒皇陣!」
足元に魔方陣が出現する。そこから放たれた漆黒の光が空を貫き、俺の体を焼き尽くしていく。だがその威力は先程よりも低い。
「剣舞・龍炎弾!」
紅い光弾を地面に放ち、魔法陣を破壊した。
「なるほど。確かにあなたが早くなってるのではなく、私が遅くなってる。もっと正確に言うなら、私は弱くなってますね」
奴の肉を喰ってパワーアップした影響なのか知らないが、カーリーの身体能力、魔術や神力解放の発動速度が明らかに落ちていた。それだけでなく、俺の体は徐々に治り始めている。
「これなら勝てる。お前のくだらない野望も終わりだ」
「あははははは! 本当に面白いですねえ。流石は私が目指した四大天使の力。だからこそ頑張りがいがありますよ!」
いつの間にか、奴は刀の届く範囲にまで近づいており、振りかぶる黒棒の攻撃を刀で受け止める。
「ぐっ!?」
その威力は受け止めただけで骨にヒビが入るほどのもので、さっきとは明らかに違っていた。
「カイツ、あなたは最高に面白いですよ! もっと、もっと私に四大天使の力を見せて下さい。それを全部見て、上から叩き潰してあげますから!」
奴は隠していた力を解放したかのように、凄まじい速度と力で黒棒を振り回す。まるで暴れ馬のようにでたらめで強い攻撃。受け止めるのも一苦労だった。しかもよく見ると、奴の腕から血が少しずつ噴き出し始めている。
「あははははは! 素晴らしいですね。これだけ酷使しても致命傷を与えられないとは。四大天使というのは本当に素晴らしい。六神王とかいうゴミとは次元が違いますよ!」
「てめえ。そんなことをすればどうなるか分かってるだろ」
「うふふふふ。ミカエルの器であるあなたを超えられるのなら、肉体なんていりませんよ。修復する術なんていくらでもありますしね!」
黒棒を剣のように振るい、その攻撃を刀で受け止める。追撃するように翼が襲いかかり、それを背中の翼で受け止めて距離を離す。
「剣舞・五月雨」
「させませんよ!」
龍炎弾を放とうとする俺を接近して阻止し、そこから四方八方様々な方向から攻撃していく。まるで腕や武器が何本も増えてるかのように錯覚するほど、あまりにも滅茶苦茶な攻撃。躱し、防ぐのが大変で、反撃しようにも動きの隙が見えない。
肉体の限界を超えた動き。こんな動きを続ければどうなるかは分かってるはず。それでも奴は一切の躊躇がない。まるで理性を無くした獣の如く襲いかかる。
「なんでそこまでして」
「あなたと同じですよ。叶えたい願いがあるから、無理してでも頑張っちゃうんです! あなたは弱者が虐げられない世界を作るため命を賭けて戦う。私も同じです。四大天使の力を超え、このおもちゃ箱の世界で遊ぶために命を賭けて戦うんですよ!」
突如、俺と奴の間に小さい火の玉が現れた。退避しようとするが出来なかった。地面に落ちた奴の血が生物のように蠢き、俺の足を掴んでいたのだ。
「しまっ」
「神力解放 赤滅波!」
「剣舞・龍封陣!」
放たれた炎の衝撃波は黒炎波とは比べ物にならないほどの威力で、地面を黒焦げにするほどの炎が俺に襲いかかる。紅い魔法陣を展開して盾にするも、それは紙きれのように破られて俺の体を焼き尽くした。
「があああああ!?」
その威力で一瞬だけ意識を失ってしまい、気がついた時には空を見上げており、王都から数キロは離れていた。
「くそっ……まずい!」
奴が上から攻撃してきたので、地面にいくつかの仕掛けを施し、起き上がってそれを回避する。離れると同時に奴が俺のいた場所に爆発したかのような跡を作って降り立つ。
「剣舞・龍炎弾!」
奴が着地すると同時に、地面に仕掛けていた数個の龍炎弾が爆発する。
「ぐっ!? ですがこの程度」
「誰がこの程度で済ませると言った。水よ!」
第2の仕掛け。地面から飛び出したいくつもの水の刃が肉体を裂き、刺し貫いた。
「くっ……やるじゃないですか。しかし!」
足元から紅黒い翼が竜巻のように襲いかかり、俺の体を引き裂いていく。
「風よ!」
周囲に突風を巻き起こし、翼を無理やり打ち消した。
「くそ。まだこんな攻撃出来るとはな」
手応えはある。龍炎弾と水の刃による不意打ち攻撃。その前にも攻撃をぶち込みまくったが、倒れる気配は微塵も感じられない。熾天使の力があるとはいえ、あの耐久力は異常すぎるだろ。
「うふふふ。ここからは気力が尽きた方が負けの根気勝負ですね♪ さあ、どちらがこの世界を遊ぶのに相応しいか決めようじゃないですか!」
「そんなのに興味はない。弱者が虐げられない世界を作る。その理想のため、お前を倒すだけだ!」




