第202話 激戦! 熾天使の脅威
カイツがカーリーと戦っていた頃。
アリアはマリネを野戦病院へと運んでいた。本来なら1分もしない内に到着できるが、彼女のことを考えてスピードをかなり落としている。それに加え、遠回りになっても出来る限り平坦な道を走っていたため、通常よりも何倍も時間がかかっていた。
「お前のせいで予定がめちゃくちゃだよ。本当にめんどい」
「……すまなかったな……私のせいで」
「そう言うなら、さっさとくたばって死ねと言いたいけど、カイツに免じてちゃんと運んでやるよ」
無事に野戦病院へと運び終えたアリアは、早急にカイツの元へ行こうとすると。
「アリア。こんな所にいたのね」
ウルがニーアを抱えながら病院へとやってきた。ニーアの体はボロボロになっており、明らかに戦える状態ではないことはひと目でわかる。
「はあ。まだブラコン女は回復してないんだね。カイツを幸せにするとかほざいてた奴が世話ないよ。サキュバス女、騎士団で戦える力が残ってるのは誰なの?」
「えっと……私とあなたと、あとは」
「私達もいるぞ!」
その声と共に、4人の騎士団メンバーが決めポーズを取って現れた。
「赤き炎は正義の印。スーパーレッド!」
赤いリボンを付けた活発そうな女性。
「青き水は正義の印。スーパーブルー」
青いリボンを付けたほんわかした女性。
「黄色い土は正義の印だべ。スーパーイエローだべ!」
黄色いリボンを付けた、ぽっちゃりめの女性。
「黒い風は正義の印。スーパーブラック」
黒いリボンを付けた、恐ろしいほどに無表情の女性。
「「「「スーパーマンズ! 今ここに参上!!」」」」
騎士団の中でも一際浮いてる妙な軍団が集合した。
「……ま、いないよりはマシか。いざというときは肉盾にできるし。じゃあここにいるメンバーでカイツの応援に行くよ」
アリアがカイツの元へ行こうとして走り出すも急に立ち止まり、建物の屋上へと飛び乗った。
「アリア、どうかしたの?」
呼びかけるウルの声も無視し、気配の探知に集中して耳を研ぎ澄ませる。わずかではあるが無数の生物の足音が聞こえており、その音はどんどん大きくなり始めていた。そして感じる気配。
「ちっ。面倒なタイミングで来てくれたね。私たちが疲弊してるタイミングを狙ってきたのか。お前ら、今すぐ東門の方に集合」
「え? でもカイツはどうするのよ」
「そっちよりもこっち優先。早く!」
それだけを言い残して彼女は東門の方へと飛んで行ってしまい、ウルたちは置き去りにされた。そんな中、スーパーマンズのスーパーレッドが質問する。
「おいウル。どうするんだ?」
「気に食わないけど、言うとおりに動くわよ。あいつはカイツが生き延びることを何よりも優先する。その本人が東門に行くよう命じたということは、何かやばいことが起きようとしてる可能性があるわ。急ぐわよ!」
アリアは一足先に東門の外に出ており、はるか先に舞い上がる土煙を見ていた。
「この気配。やっぱりケルーナってのが生み出した獣たちか。ほんと、やなタイミングで投入してきたもんだね」
彼女が愚痴を吐いてると、アリアが巨大な3メートルくらいの巨大な人型兵器に乗り、上空から飛んでやってきた。
「遅い。ていうかその変な人形は何?」
アリアの言葉にスーパーレッドが反論する。
「変な人形とはなんだ! これは私たちスーパーマンズの新たな切り札、マキシマム・ジャイアントだ。1国の軍隊にも匹敵する気がするような力を持ってるのだぞ!」
「あっそ。まあその玩具でどこまでやれるか知らないけど、ちょっとは役に立ってよね」
「貴様、アルフヘイムの時と比べて、ずいぶんと性格が悪くなったな」
「2人とも喧嘩しない。それより、状況はどうなってるの?」
「向こうに魔獣の群れが大量に来ている。どれくらいかは知らないけど、5万は確実」
「5万!? そんな数どうやって相手にすればいいのよ!」
「殺しまくれば良いだけだよ。私たちの目的はただ1つ。カイツが戦いに集中できるようにすること。死んでも侵攻を阻止するよ」
「了解……最後の最後にえげつないもの出てきたわね。でもカイツのためにも、そして私の結婚のためにも、こんな所で負けてられない。全員に風穴開けてやるわ」
「5万か。とんでもない数だ。だが正義の味方たるスーパーマンズ、どんな試練にも屈するつもりはない。皆の者、罪なき人々の明日を守るためにも、我らの命の炎燃やし、蛮族の侵攻を阻止するぞ!」
「「「了解!」」」
レッドの掛け声にほかのスーパーマンズのメンバーが気合を入れて返事をする。状況は絶望的だが、それでも諦めたり絶望したりしている者は、騎士団の中に1人もいなかった。
東門では大きな魔力のぶつかり合いが起きており、激しい戦闘が繰り広げられていることが容易に想像できる。だが、今俺がやるべきことは。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
周囲に紅い光弾を何十発も生み出して一斉に放つ。奴がその攻撃を紅い翼で防御してる間、俺はマフラーから白い布を鎖のように飛ばして吹き飛ばされた腕をつかみ、それを強引に断面にくっつけて再生する。
「剣舞・双龍剣!」
刀を2本に増やして一気に距離を詰め、背後から斬りかかる。奴はその攻撃を黒棒で受け止めた。
「私に集中してて良いんですか? 東門が大変なことになてますけど」
「俺がやるべきことはお前を殺すことだ。向こうの方はアリアたちを信じて任せる!」
そこから連続で斬りかかっていく。奴は必死にその攻撃を防いでいたが、腕1本が欠けてること、神力解放や距離を操る魔術を使用したことによる疲労が重なっているのか、明らかに動きが鈍っていた。
「そこだ!」
「ちっ」
奴の黒棒を吹き飛ばし、無防備な隙を作る。
「この程度。神力解放 黒炎波!」
奴と俺の間に黒い球体が現れ、黒炎を吐き出しながら大爆発を起こした。俺はダメージを受けながらも刀を地面に突き刺し、それと同時にマフラーから白い布を何本も放出し、固定するように地面に突き刺した。そのせいで爆発の威力をまともに喰らったが、距離は離さずに済むことが出来た。
「なっ!? あの攻撃を受けて」
「ぐっ……死ね。剣舞・四龍戦禍!」
2本の刀で4つの斬撃を高速で放ち、奴の体に十字架のような傷をつける。魔力を流し込むことはできなかったが、かなりのダメージになったはずだ。
「がはっ……あれをまともに喰らったのに、すごい耐久力ですね。しかし」
いつの間にか、奴は遠くに移動した。距離を詰めようと走り出した瞬間、黒い翼が刃となって地面から現れる。致命傷は回避したが、左足を斬り落とされてしまった。
「くっ……無防備に突っ込みすぎたか」
「ふふふ。足1本貰っちゃいました~♪ いえーいぱちぱちぱち~♪」
「負けるかよ……この程度の痛みで!」
そうだ。こんなところで負けられない。俺の命は尽きていないんだ。まだ戦える。足をくっつける余裕はなかったため、切り裂かれた断面から紅い光の刃を生やして足代わりとする。今はこれで十分。
「六聖天 脚部集中! 風よ!」
奴はかなり弱っている。ぶっ殺すためにも、この機を逃すわけには行かない。足に六聖天の力を集中させ、風の力も利用して一気に距離を詰めた。力を集中させすぎた影響か、残った足から血が噴き出すが、今の俺はそんなことどうでも良かった。
「はやい!? こんなスピードを出せるなんて」
「うおおおおおおお! 剣舞・双龍百華!」
2本の刀を交差するように降りぬく。その攻撃は避けられたが、その直後に襲いかかる無数の斬撃は奴の体をズタズタに切り裂いた。
「があっ……まずい。この感覚は」
「喰らえ。剣舞・絶龍怨嗟!」
俺が流し込んだ魔力により、奴の全身がぶくぶくと膨れ上がっていく。
「対策は済んでると言ったはずですよ!」
奴は自身の魔力を傷口から放出し、俺の魔力を吐き出しながら強烈な衝撃波を放つ。その衝撃波で吹き飛ばされてしまうが、それでも何とか体勢を立て直し、一気に奴の背後に回り込んだ。
「この!」
奴の攻撃を躱し、再び死角に回り込む。そのまま何回か動き回って奴を翻弄する。明らかに俺のスピードについていけておらず、攻撃ものろまになっていた。
「ちょこまかと虫のように!」
奴はいちいち振り向くのが面倒になったのか、黒い翼と紅い翼を鞭のように振り回して攻撃する。だが攻撃はでたらめ。おまけに速度も遅くなっている。そんなしょぼい攻撃が当たるわけもなく、俺は後ろに回避して避けた。
「そこです!」
6枚の翼が剣の形となって襲い掛かる。その攻撃を躱して距離を詰め、奴の背後に回り込んだ。絶龍怨嗟では時間がかかりすぎてダメージを与えるのは難しい。ならば。
「しまった」
「剣舞・爆龍十字!」
奴の背後に回り込み、2本の刀で斜め十字に切り裂く。
「がはっ!?」
「受け取れ!」
切り裂いた部分が爆発を起こし、後ろに大きく吹きとばした。奴は受け身を取ることもできず、地面を跳ねながら転がっていった。今のはかなりのダメージになったはずだ。
「ほんと、恐ろしい男ですね。倒すのも一苦労ですよ!」
俺は奴が何をするのか察知してその場から離れる。その直後、何本もの槍や剣が、先程俺のいた場所に突如として現れた。
「なんとなく読めてきたよ。その妙な魔術をどうやって会得したか知らないが、距離を操る魔術だな」
俺は話しながら奴に斬りかかり、奴もその攻撃を受けとめる。
「剣舞・龍炎弾!」
それと同時に零距離で龍炎弾を放つが、奴は紙一重で躱した。
「恐らくは2つ以上の物体や生物を指定し、それらの間にある距離を縮めたり遠ざけたりするものだ。だからこそ、さっきのように突然槍とかが現れたり、俺とお前の距離が空いたりする」
「へえ。結構把握してるじゃないですか。恐ろしいものですね。怖すぎて泣いちゃうぺろり~ん♪」
ふざけたことを言った後、俺と奴との距離が離れ、同時に翼が鞭のように襲い掛かる。それが当たる直前、奴の背中が突如爆発し、その攻撃は中断された。
「ぐうう!? これは」
奴の背中が爆発した理由は簡単。先程躱した龍炎弾だ。避けられたあれを遠くで配置し、奴が距離を開けたときに不意打ちでぶつけられるよう準備しておいた。
「その魔術の弱点も把握した。1つ目は連続で使用するにはタイムラグがあること。2つ目はやってること自体は単純だから、対策も取りやすいこと。3つ目は体力の消耗が大きいこと」
「ふふふふ。本当に恐ろしいですねえ。私の魔術の弱点をこんなにも把握されるとは。しかもそれだけのダメージを負いながら、動きも素早い。年を取った私には辛いですよ~」
「この程度のダメージなんざ、へでもないんだよ。お前程度が相手なら、ちょうどいいハンデになるくらいだ」
と息巻いてはみたものの、正直言ってかなり限界が近い。視界は霞んでいるし、体は何十キロもの重りでも背負ってるかのような感覚で、気を抜いたら一瞬で倒れてしまいそうだ。
「仕方ないですね~。このままでは負けそうですし、ちょっと頑張りますかね~。出来れば実験を終えるまではやりたくなかったのですが」
突然、奴の頭上に何体もの黒い偽熾天使が現れた。
「まだ残してたのか。だがその程度の雑魚など」
「ふふふふ。これの役目は戦わせることではありませんよ」
奴は紅い翼から何本もの鞭を生み出し、縦横無尽に攻撃してくる。隙を突いて懐に潜り込もうとしたが、あまりにもめちゃくちゃな攻撃で潜り込む隙はなく、距離を離した。奴は何をするつもりだ。
「見せてあげますよ。この紅き翼の真の力を」
奴は黒い翼を巨大な手のような形に変え、頭上にいた黒い偽熾天使を包み込み、林檎でも潰すかのように、そのまま握り潰した。
「!? 何を」
握りつぶした手から、滝のような量の黒い血が奴の全身に浴びせられる。それと同時に、紅い衝撃波が放たれ、異質な魔力が周囲を満たす。
「ぐっ!? なんだこの嫌な感じは」
「dq0フィqowaのqぃzbx、起動せよ!」
「あの言語はアースガルズの。ミカエル、これは一体」
『まずいのお。この肌を突き刺す感覚。200年前のあれとそっくりではないか』
ミカエルは何やら焦ったようにつぶやいており、俺の質問も聞いていないようだった。
奴の身体はその間にもどんどん変化していく。真っ白に輝く両腕は人間味を感じない化け物のようであり、両手の甲には3対6枚の黒い翼のような模様が刻まれた。
顔の半分の肉は削がれ、代わりに黒い炎が皮膚のように包み込む。背中の3対6枚の翼は黒に近い紅色と変化した。
「ふふふふふ。理論値を遥かに超える力。これは素晴らしいですね〜」
異常とかいう次元じゃない。ウリエルやガブリエルにも匹敵するんじゃないかと思えるほどの圧倒的な魔力と圧。近くにいるだけで意識を失いそうだ。
『カイツ。あやつの力は』
「分かってる。今の俺よりも遥かに格上だ。けど逃げるわけにはいかない。あいつを倒さないと騎士団のみんなが危ないし、テルネやネメイツのように、罪のない人が犠牲になる。もうあんな犠牲を生み出さないためにも、こいつは絶対にここでぶっ殺す!」
「あははははは! 強気ですねぇ。それがどこまで保つか楽しみですよ。神力解放 黒風斬!」
奴から放たれた無数の巨大な風の刃が襲いかかる。
「風よ!」
強力な突風で風の刃を崩そうとするも、俺の出した風はあっという間に無力化されて向かってくる。必死に避けようとするが、右足と腹を深く切り裂かれてしまった。
「があっ!? なんて……威力だ」
「まだまだ〜♪ 神力解放 青雷剣♪」
青い雷を纏った巨大な剣が、空から雨のように降り注ぐ。一撃一撃が隕石でも落ちてきたかのような威力であり、直撃を避けても強烈な衝撃波が身体を痛めつけた。
「ぐっ!? くそっ……こんな所で」
「あははーはー♪ 脆いね脆いねカイツきゅーん。トドメですよ」
そう言うと、奴と俺の距離が一瞬で詰められてしまった。
「神力解放 黒炎波!」
俺と奴の間に黒い球体が現れ、黒炎を吐き出しながら大爆発を起こした。その威力は、先程とは比較にならないほどに凄まじく、遠く離れた王都の壁に叩きつけられてしまった。
「がはっ!?」
その衝撃で王都の壁は巨大なクレーターが出来上がり、今にも壊れそうになっている。
「まずい……このままじゃ」
『どうするのじゃカイツ。このままでは嬲り殺しじゃぞ』
「分かってる……けど」
「あははははは! 思考する暇は与えませんよ!」
奴は紅黒い翼を鞭のように振り回して攻撃してくる。その攻撃は先程とは比較にならないほどの速さと重さであり、紙一重で躱すのが精一杯だった。
「くそ……本当に厄介な奴だな」
「まだそれほどのスピードで動けるとは。でも、そろそろ決着をつけましょうかね♪ この力も結構しんどいですし~」
奴がそう言った瞬間、俺は咄嗟に横に回避する。その直後、俺のいた場所に何本もの槍が出現した。安心したのもつかの間、俺の足下に黒い魔方陣が出現した。
「!? しまった」
「面白いくらいに引っ掛かりましたね。神力解放 黒皇陣!」
魔方陣から放たれた漆黒の光が空を貫き、俺の体を焼き尽くしていく。
「ぐあっ……こんな所で、負けるわけには」
そこから抜け出そうとするもまるで金縛りにあったかのように動くことができず、炎の中にいるかのような熱さと痛みが襲い掛かる。魔方陣が消えるころには体はボロボロになって全身が焼け焦げており、視界も霞み、意識もほとんど無いに等しかった。
「あらあらすごいですね~♪ この一撃を受けてもたっていられるとは。カーリーちゃんびっくりぽよよ~ん♪ でも、さすがにもう限界のようですね」
「はあ……はあ……まだ、俺は」
それでも負けるわけにはいかない。こんな所で死んだら、マリネに失望される。それにこいつを倒さなければ、またネメイツやテルネのような人間が生み出されてしまう。あんな悲劇を繰り返さないためにも、奴はここで倒すんだ。
「お前に……勝つまで……倒れるつもりは……ない」
俺は決意を新たにし、刀を強く握りしめた。




