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第201話 最終決戦 カイツVSカーリー

 上空からの攻撃を防がれた後、カーリーは紅い翼を槍のように伸ばして攻撃してきたので、それを回避して距離を取り、マリネに駆け寄る。


「大丈夫か。マリネ!」

「心配……するな。この程度……どうということはない」


 明らかにこの程度とかいうレベルの傷ではないが、意識があるなら良かった。とはいえ、ここに置いておくわけには行かない。


「アリア。彼女を病院へ連れて行ってくれ。治療も頼む」

「いいの? あいつはカイツ1人じゃ大変だと思うけど。私なら確実に殺せるよ?」

「それなら、お前がマリネを守ってくれる方が助かる。それに、奴を殺すのは俺だ。誰にも邪魔をさせるつもりはない」

「……はあ。分かったよ。間違っても死なないでよね」

「こんな所で死ぬわけ無いだろ。この戦いが終わった後もやることは大量に残ってるんだからな」

「その言葉。信じてるから」


 アリアはそう言ってマリネを横抱きし、王都にある野戦病院へと向かって行こうとすると。


「待て……カイツ」

「どうした。マリネ」

「貴様に……渡すものが……ある」


 そう言うと、彼女は収納用の魔石を1つ取り出し、そこからある物を出す。


「これは」


 それは刀だった。柄や鍔、鞘は夜のように黒く、刀は氷を思わせるかのような青い色だ。


「クーデター前……テルネが私のために……買ってくれた刀だ。私には使えなかったが……お前にならこれを託せる……その刀で、さっさとあの女を殺してこい」


 テルネの形見。これを彼女が渡してくれた意味を察せられないほど俺も馬鹿ではない。


「分かった。必ずあいつをぶっ殺す」

「それと……これもだ」


 彼女は手のひらに小さな幽霊を生み出し、それを俺の頭の中に入れ込んだ。その瞬間、頭の中にある映像が流れ込んできた。カーリーとマリネが戦った時のものであり、まるで自分が体感したかのように感じ取ることが出来た。


「ありがとう。これは凄い武器になるよ」

「……終わったら、話が……ある。逃げるなよ」

「逃げはしねえよ。お前こそ、間違っても死ぬなよ」

「舐めるな……私はこの程度で死なない」

「はいはい。さっさと行くよ」


 そう言って、アリアは王都の方へと走っていった。不思議なことに、カーリーはそれに対して何もすること無く、見送るだけだった。


「ずいぶん素直に行かせてくれたな」

「あの失敗作は用済みですし、下手にフェンリルと事を起こすのもだるいですからね〜。そ・れ・よ・り♪」


 彼女は誇示するかのように紅と黒の翼を広げる。


「この玩具であなたと遊びたいんですよ〜。この翼が、ミカエルの器にどこまで届くのかを知りたいですからね~」


 あの紅い翼。ネメシスが使っていたものと似てるな。この世界の物とは違うような異物感。一体何なんだあれは。


『へえ。あの女も面白いことをするわね』


 後ろからの声に振り返ると、そこには銀髪の女性がいた。体は下に行くにつれて体が薄くなっており、足の部分は消えてしまっている。雪のように白い肌を持ち、目は血のように赤く染まっている。


「あら。お久しぶりですね。ネメシス」

『久しぶりね。カーリー。まさかその翼を実現させてるとは思わなかったわ』


 あいつにもネメシスが見えているのか。同じ紅い翼を持っているが故の副産物みたいなものだろうか。


「お前。一体何しに来たんだ」

『ふふふ。少し気になる物があってね。にしても、あの女も面白いことをやってるわね。いざというときはあの子の中に逃げるつもりだったけど、あれをスペアにするのも良いかもね』

「? なんの話をしている。あの子とは誰のことだ」

『あなたがよく知ってる人よ。ほら、私たちと一緒にいた』


 話してる間に彼女の首が突然刎ね飛ばされた。刎ね飛ばしたのは、いつの間にか後ろに立っていた大人バージョンのミカエルだ。


「アナザー・ミカエル!」

『何を考えておるか知らぬが、わっちらがいる時に好き勝手はさせぬぞ。とっとと自分の部屋に戻れ』

『レディーの会話に割り込むなんて無粋ね。しかも、私みたいなか弱い女の子の首を撥ねるなんて』

『お主の会話なんて聞いとったらカイツの耳が腐るし、か弱い女子(おなご)なぞここにはおらんよ』


 彼女は止めをさすように顔を踏みつぶした。


『酷いことするわね~。まあいいわ。見たいものは見れたし、あとは好きにしなさいな』


 そう言って、ネメシスの姿は完全に消えてしまった。奴が何を考えてるか気になるが、まずはカーリーをぶっ倒すのが先決だ。刀に魔力を籠め、熱を纏わせる。これで奴の体にもダメージを与えられる。


「気になることはありますが、今は器ちゃんとの楽しいお遊びを優先しちゃいましょう♪ さあ、戦いましょうか。最高に愉快で楽しいバトルを!」

「決着をつける。今ここで!」


 俺は奴の背後に一気に回り込んだ。


「剣舞・紅龍一閃!」


 そのまま居合切りを放つが、その攻撃は空を切る。前を見ると、奴はいつの間にか離れた場所に立っていた。マリネが見せてくれた記憶にあったやつだな。だがその程度のことは既に想定している。俺が手を突き出すと、奴の周囲にいくつもの紅い光弾が現れる。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 そのまま一斉に直撃して大爆発を起こす。手ごたえはある。それなりにダメージは与えたはずだ。煙が腫れると、奴は体のあちこちを火傷していた。


「やりますねえ。ならば」


 奴が神力開放を使う前に一気に距離を詰める。


「!? 速い」

「剣舞・龍刃百華!」


 横に剣を1振りし、その腹を引き裂く。その直後、無数の斬撃が襲いかかった。多少は防がれたものの、それでもかなりの斬撃を叩き込むことが出来た。


「があ!?」

「死ねええ!」


 そのまま突き刺す攻撃を仕掛ける。攻撃は黒棒で防がれるも、大きく吹っ飛ばして奴は地面を転がっていった。

 どういう仕組みか分からないが、距離を開けたり武器を転送したりする便利魔術。だが連続で発動する際はタイムラグがある。直線の移動しかできないようだし、対処は可能。教えてくれたマリネに感謝だな。

 そしてこの刀。まるで長年所持していたかのように俺についてくるし、デュランダルよりも遥かに手になじむ。これなら戦える。


「全く。カイツもプロメテウスもマリネも私を憎んで。あちこちの人間から恨まれる私は可哀想ですね~」


 奴は土ぼこりを払いながら面倒くさそうに言う。


「お前がふざけた人体実験をしなければ、恨まれることも、テルネたちが死ぬこともなかったんだよ」

「ぶーぶー。たかが人が死んだ程度で恨まれるなんて~、カーリーちゃんは不満だぶ~」

「たかが人が死んだ程度だと?」


 奴のふざけた話し方に怒りが爆ぜ、一気に距離を詰めて斬りかかるが、その攻撃は黒棒で受け止められる。そこから何度も全力で斬りかかるも、奴は全て防いでいった。


「お前は何を考えているんだ。多くの人を傷つけ、殺して、その果てに何を望んでいる。骸骨野郎が言ってた理想の世界を作ることか?」

「骸骨野郎。ああ、ハデスのことですね。嫌ですね~。なんであんなカスで無能な奴の望みを叶えないといけないんですか。そんなめんどくさいこと嫌ですよ~だ♪」

「貴様あああ!」


 俺は怒りのままに刀を振るおうとするも、奴は紅い翼を鞭のように叩きつけようと攻撃してくるので、それを躱して距離を取った。


「お前は六神王たちに、ついてきたヴァルキュリア家の奴らに思うことはないのか。あいつらは外道だが、お前への忠誠心は本物だった奴らも沢山いた。それなのに!」

「勝手に忠誠誓って、勝手に死んで終わってるだけじゃないですか~。役に立つならまだしも、つまらない動きしか出来ない無能なんていりませんよ。大体、あの程度の代わりなんていくらでも補充できますし~♪ この世界には、使っても使いきれないほどに沢山の生物がいますからね~。あれらがどうなろうと悲しむ理由はありませんよ~♪」

「お前は……お前はどこまで腐ってるんだよ。人の命をそんな風に見るなんて!」

「腐ってるなんてひでぶ~」


 奴がそう言うと、いきなり距離が遠く離れた。さっき見せたやつか。距離を取って翼で攻撃するつもりだろうが。


「逃がすかよ!」


 首に巻いてるマフラーから、白い布を鎖のように放つ。さらに布に炎を纏わせて奴の腕を縛り付ける。


「ちっ」

「剣舞・鎖龍爆破!」


 マフラーを伝って俺の魔力を流し、大爆発を起こした。奴は腕が焼け焦げながらも、即座に煙から飛び出し、紅い翼から何発もの槍を放ってくる。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 その攻撃を避けながら紅い光弾を何発も放つが、奴は黒い翼で自身の身を覆ってその攻撃を防御する。


「厄介なものですね。なら」


 俺は何か嫌な予感を感じ、とっさにその場から離れる。その直後、初めからそこにあったかのように兵士たちの槍が何十本も現れた。完全に躱しきることはできずに腕を掠めたが、その程度で済んだのは幸いだった。


「あぶねえ。一歩遅れてたら串刺しだったな」

「ふむ。マリネから情報を受け取っただけあって、めんどくさいですね~。ならば」


 奴が何かしようとする前に。


「させるか。剣舞・双龍剣」


 刀を2本に増やし、奴との距離を詰める。しかし、斬りかかろうとする前に奴は液体に変化して距離を離した。その後に実体化し、奴の前に風が渦のように吹きすさぶ。


「神力開放 黒嵐撃(こくらんげき)!」


 放たれた竜巻が俺の元へ高速で地面を抉りながら襲い掛かる。その攻撃を躱し、紅い光剣を投げナイフのように何発も放つ。


「神力解放 白金壁(しろがねへき)!」


 しかし、その攻撃は突然現れた銀色の壁で攻撃が防がれてしまった。


「それそれそーれ!」


 奴は紅い翼から触手を何十本も生やし、叩きつけるように攻撃してくる。縦横無尽に襲い掛かるその攻撃を躱しながら距離を詰め、刀の届く範囲へと近づいた。


「剣舞・双龍」

「させませんよ!」


 攻撃しようとすると、俺の腹や両腕に兵士の槍が突き刺さる。


「がっ!?」

「急所は外しましたか。ですがこれなら」

「負けるかよ。剣舞・双龍百華!」


 2本の刀を一振りし、奴の身体を切り裂こうとするが。


「神力解放 白氷装(はくひょうそう)!」


 白い氷が鎧のように纏われ、その攻撃を防がれる。その直後に襲いかかる龍刃百華の2倍以上の斬撃も防御するが、流石に全てを防ぎ切ることは出来なかったようで、鎧を破壊して腕や腹を深く切り裂き、魔力を流し込むことが出来た。


「ぐっ。この鎧を破壊するとは」

「終わりだ。剣舞・絶龍怨嗟!」


 奴の上半身がブクブクと風船のように膨れ上がり、そのまま破裂するかと思ったが。


「生憎ですが、それの対策は済ませてます!」


 奴は俺の魔力を吐き出すと同時に自身の魔力も合わせて巨大な衝撃波を放ち、それのせいで大きく吹っ飛ばされた。


「そう簡単には行かないか」

「大した実力ですね~。流石はミカエルの器。テルネとかネメイツとかもあなたぐらい有能だったら使い道があったんですけどね~」

「あいつらはてめえのためにいたわけじゃない。それぞれの人生があったんだ。彼女たちだけじゃない。これまで犠牲になってきた無数の命。貴様はそれらの果てに望むものはなんだ!」

「ふふふふ。子供ならだれもが夢見ることですよ。この世で最も強い力を。世界を思うがままにできる力を手に入れたいという夢。私はそんな純粋な心を持ったまま大人になっちゃっただけですよ~」

「つまり、お前の願いは世界最強の力が欲しいということか?」

「イエス。そのためならどんな努力でもしちゃいますよ~♪ 私はものすんごい努力家ですからね~」

「そんな力を手に入れて何をやりたいんだ。世界征服か?」

「何をやりたい……むむむ、そこまでは考えてませんでしたね~。カーリーちゃん、力を手に入れることに必死になりすぎてうっかりしてましたよ~。まあ何もないというのもあれですし、この世の全ての男の視線をくぎ付けにしたいとか言っときますね~。やだ、これって私がビッチみたいですね~。カーリーちゃんは純潔を大事にする乙女なのに~♪」

「……ふざけんな!」


 俺は怒りのままに何十発もの龍炎弾を放ち、奴はその攻撃を躱したり防いだりしていく。


「そんなくだらないことのために、彼女たちを犠牲にしたのか!」

「くだらないなんて言わないでくださいよ~。私にとってはガチの中のガチですよ~。でなきゃ熾天使(セラフィム)の研究なんてしませんって~。そして今、この紅い翼のおかげで、その夢がようやく手の届く範囲に近付いた実感がありますよ~。ネメシスには感謝感激ですね~。他のカスどもとは大違いですよ♪」

「お前は、どれだけの命を犠牲にしたと思ってる。多くの人を殺して、なんでお前は平然としてられるんだ。ネメイツやテルネだけじゃない。お前のせいで、多くの者が苦しみ、人生を狂わされた。なのに、なんでお前は!」

「だって人なんて、いつかは勝手に死んじゃうじゃないですか~。私がやってるのは人の命の寿命をちょ~っと早めてるだけ。どこに罪悪感を抱けばいいんですか~。あなたはうっかり踏みつぶしてしまった虫たちにいちいち罪悪感抱いちゃうんですか~? わお、カーリーちゃんもびっくりな命大事にする主義♪ カイツ君かっこうぃ~」


 奴のふざけた言動に対して、もう怒る気すら起きなかった。ただ1つだけ理解したことがある。こいつは、俺とは価値観が違いすぎる。こいつにとって命というのはそこら辺の石ころのような存在なんだ。だから非道な扱いをすることに躊躇がない。なんの躊躇いも罪悪感もない。なんでここまで狂った生き方をしてるのか知らないが、俺とは生きている世界が違うんだ。


「もういい。お前はしゃべるな。そのふざけた言葉を聞いてるだけで、耳が腐りそうだ!」

「あら残念♪ 嫌われちゃいましたね~。もう少し楽しいトーキングをしたかったぴより~ん」

「悪いが、お前と話すことはもうないんだよ。とっとと死ね!」


 俺は怒りのままに刀を振るい、奴の黒棒を弾き飛ばした。


「くっ。神力解放 黒炎波!」


 攻撃する直前、俺たちの間に黒い球体が現れた。この攻撃はやばい。


「ちっ。剣舞・龍封陣!」


 咄嗟に紅い魔法陣を展開して防御するも、玉から放たれた爆発は威力が大きく、殺しきれずに大きく吹っ飛ばされ、黒い炎が俺の体を焼いた。


「くそっ。至近距離とはいえ、なんて威力だ」


 並の魔術を遥かに超える威力。これをポンポン出せるとかどう考えてもイカれてるな。一体何をすればこんなことを。いや、今はそんなこと考えてる余裕はない。


「神力解放 水縛鎖(すいばくさ)!」


 地面から何本もの鎖のような形をした水が飛び出し、こっちに襲い掛かる。上空からは紅い翼が鞭のように来ている。


「六聖天 脚部集中!」


 足に六聖天の力を集中させ、先程の2倍以上のスピードで攻撃を避けていく。水の鎖は分裂を繰り返しながら襲い掛かるが、攻撃の軌道自体は読みやすい。


「当たりませんね~。ならばこれで」



 水の鎖が分裂を繰り返し、四方八方から包み込むように襲い掛かる。これは流石に躱せないか。そう判断し、鎖がこちらに来るのを待つ。そして、俺に突き刺さろうとしたその瞬間。


「剣舞・龍烙波動 焔!」


 体にありったけの魔力を籠め、そこに炎の力を混ぜた熱の波動を放つ。水の鎖は熱で全て蒸発して消え去った。


「ありゃま。本当に強いですね~。それに逃げ足も素早い。そんな相手にはこれが一番ですね~。神力解放 白雷天!」


 空から白い稲妻が雨のように降り注ぐ。この攻撃は見たことがある。攻撃の速度は速いが、1度見た攻撃ならば躱すことは可能だ。そう考えてると、周囲に何本もの鉄の棒が現れ、俺の周囲を包みこんだ。


「これは避雷針か!?」

「ビンゴ〜♪ 刺激的な痛みをたっぷり味わいなさい」


 雨のように降る雷が鉄棒に引っ張られ、一斉に俺の元に降り注いだ。


「がっ!? あああああああ!?」


 雷は俺の身体を焼き、尋常じゃない痛みが襲いかかる。避雷針となっていた鉄はドロドロに溶け、余波だけで地面を塵に変えていくほどの攻撃力。今まで喰らったどんな攻撃よりも痛く、全身どころか中の臓器も焼かれていく痛みに意識が飛びそうになる。それでも。


「ここで……負けられないんだよ!」


 足元の地面に龍炎弾を何発も放ち、避雷針となっていた鉄の棒をふっ飛ばす。それのおかげで、雷の軌道を逸らすことが出来た。


「流石はミカエルの器。ですが」


 俺は何か嫌なものを感じ取り、咄嗟にその場から退避しようとする。だがその動きは間に合わず、突然現れた兵士の剣が俺の左腕を斬り落とす。


「ぐっ!?」

「とどめです!」


 チャンスとばかりに、紅い翼を剣の形に変え、俺の方に振り下ろす。しかし、その動きは先程よりも明らかに遅く、簡単に躱す事ができた。


「あれだけのダメージを受けてまだ動けるとは」


 やはりそうだ。奴の神力解放は強力だが、その分消耗も激しい。だから動きが鈍っているんだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。一気に距離を詰めて。


「ま、だからなんだって話ですが」


 突如、地面を突き破って現れた黒い竜巻が襲いかかる。竜巻の風や中に混じった石つぶてが俺の体を容赦なく切り裂いていく。


「ぐううう!? これは」


 黒い竜巻。まさか。


「ふふふ。なんのために半分黒色にしてると思ってるんですか。こういう消耗しまくったときには、こっちの翼で攻撃する方が楽ですからね~」


 奴は黒い翼を地面に潜り込ませ、このチャンスを待っていたのだ。


「がっ……風よ!」


 周囲に突風を巻き起こし、竜巻を無理矢理吹き飛ばした。だがダメージは大きく、俺の体はズタズタに切り裂かれていた。


「はあ……はあ……くそ」

「へえ。これだけのダメージを受けてもまだ死なないとは。ほんと、ミカエルの器も大したものですね~。ですがこれで」


 奴の前に風の渦が現れる。あれはさっき見せた黒嵐撃。だがその威力は明らかに落ちており、渦の速度も遅かった。


「そこだ!」


 紅い光の剣を何本も生み出し、それを奴に向けて放つ。


「なっ!?」


 奴は何本か躱すも、腕に突き刺さってしまった。


「剣舞・絶龍怨嗟!」


 突き刺さった腕から俺の魔力を流し込んでいき、ブクブクと膨れ上がっていく。


「ちっ」


 奴は咄嗟に腕を切り離し、被害を最小限に抑えた。切り離された腕は風船のように破裂して塵となる。


「ずいぶんと疲れてるようだな。力をつかいすぎじゃないのか?」

「やれやれ。まだ攻撃できる余裕があるとは思いませんでしたよ。これは、徹底的にやる必要がありそうですね。四肢を飛ばしても安心できませんよ」


 まだ希望はある。体よ。今だけは持ちこたえてくれ。奴を倒すためにも。痛む体に鞭打ちながら立ち上がる。攻撃しようとした瞬間、遠くの方で大きな魔力のぶつかり合いを感じた。


「これは」

「……へえ。向こうも指をくわえて見てるだけというわけではなさそうですね」


 あっちは東門の方向。クロノスが防衛担当をしていた場所だ。それにこの気配は。


「まさか!?」






 王都ヴァルハラ。その東門から遥か遠くにある場所で、1人の少女が果物を食べながらソファの上に寝そべっていた。そばには青い林檎が山のように積まれている。その少女はケルーナであり、彼女の前には何万もの魔獣たちが並んでいる。彼女は林檎を栄養源にし、自身の魔術で魔獣を生み続け、貯めこんでいたのだ。

 彼女の後ろには炎の羽衣を纏ったボディービルダーのような体格の男、ウリエルともう1人の男が立っていた。

 その男は銀色の髪に宝石のように綺麗な赤い瞳を輝かせている。顔立ちは草食系といった感じで温和な雰囲気があり、金の装飾があちこちに散りばめられてた赤いコートを着ていた。彼はケルーナの主人であり突然変異の幽鬼族、ストリゴイだ。彼の目的は騎士団の人間を家畜にし、その血を食料にする予定だったのだが、それがうまく行ってないように感じられ、少し苛立っていた。


「ウリエル。本当に騎士団の奴らの血を取れるのか? どうも、事がうまく進んでないようだが」

「心配するな。全てとはいわないが、俺の想定通りではある。騎士団もヴァルキュリア家も瀕死に近い状態。ガブリエルも介入する気はないようだし、今がチャンスだ。ケルーナ、8万体の魔獣全てを侵攻させろ。騎士団の人間は殺すなよ。瀕死の団員がいる場合は魔封じの首輪を着け、動けないように縛り上げてから回復させろ」

「はーい。ごめんなあカイツ。虐殺になってまうけど、これもストリゴイ様のためなんや。行きなはれ。わっちの可愛いペットたち」


 彼女のその号令で、無数の魔獣たちが侵攻を開始する。その圧倒的な数はまるで1国の軍隊のようだった。絶望的なまでの戦力が王都へと進んでいく。

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