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第199話 神獣と天使の反撃

 Side カイツ


 俺はクロノスを守りながら王都で戦っていたが、状況は絶望的だった。

 現在の相手はプロメテウス3人、ハデス3人、ヴァーユ3人と異常な数の六神王たちを相手にしており、完全な防戦一方。反撃に出る隙すらなかった。

 しかもどういうわけか、俺達の体調がどんどん悪くなっている。クロノスの方は、今にも死んでしまいそうなほどに衰弱していた。急いで野戦病院に連れていきたいが、あの六神王たちを引き連れていくわけにもいかないし。


「面倒なことになってきたな。体の調子も異常に悪いし。このままじゃ」

「……カイツ様、私を捨ててください……足手まといになるくらいなら」

「馬鹿言うな。仲間を見捨てるなんてできねえよ」


 六聖天の第3開放を発動し、地面から生えてくる巨大な蔦の攻撃を紙一重で躱し続けていた。もっとスピードを出したいが、そうすると彼女の体が保たない。今はこの速度でどうにかしないと。


「逃がしませんよ。カイツ!」


 プロメテウスは大砲のような植物をいくつも生み出し、毒液の塊を吐き出していく。その攻撃を避けることは不可能と判断し、彼女を守るため、自分の背で全て受けきっ。


「ぐっ……があああああ!?」

「カイツ様!」

「大丈夫……問題ない」


 きついな。この刺すような痛み。背中の肉が焼け焦げてるし、筋肉の一部が露出している。だが彼女は守れた。まだなんとかなるはずだ。


「はっはっはっは! 女守ってやられて無様だな。カイツ!」

「はっはっは! 行くぜえ!」

「俺たちの攻撃をくらいやがれえ! うひゃはははは!」


 複数のヴァーユがうるさく叫びながら隙を狙い、雨のように空気の槍を空から振り下ろす。


「くっ。すまない。クロノス!」


 彼女を抱えたまま攻撃を守ることはできないと判断し、空気の槍の範囲外へと投げ飛ばす。その直後に首にかけてるマフラーを網のように伸ばして優しく受け止める。しかし、それによって空気の槍に対処することが出来ず、何本もの槍に体を貫かれてしまった。


「がはっ……大丈夫か……クロノス」

「カイツ様。私のせいで……早く、私を見捨ててここから離脱を。このままで貴方が」


 彼女は涙を流しながら、苦しそうにこちらに手を伸ばす。悲しませて申し訳ないが、俺の答えは変わらない。


「そんなことしないって言ってんだろ。それに、この程度で俺は死なねえよ」


 仲間の1人守れず、弱者に虐げられない世界を目指すなんて不可能だ。それにこんな所で死んだら、マリネにもう一回殺される。絶対に生き延びてやるんだ。


「優しい男だな。カイツ。君のような男こそ、我が楽園に相応しい。だからこそ、連れていけないのが本当に残念だよ。どうして、どうして君は我やカーリー様の理想を理解してくれないんだ。誰も死ぬことのない楽園を創ろうとしているのに。その理想の素晴らしさをなぜ理解できないんだ」


 ハデスが涙を流しながら後ろに立つ。


「はん。弱者を不当に痛めつけ、自分のことしか考えないようなお前らの理想に賛同するくらいなら、ここで死んだ方がまだマシだ」

「……そうか。ならば殺すしかないのか。うおおおおおん! 悲しい。悲しいぞ。せっかく楽園に連れていける者がいるというのに。殺さなくてはならないとは。悲しいが、カーリー様の理想に賛同しないお前はこの世にいらない。死んでもらうぞおおおお!」


 奴は涙を滝のように流してギャンギャン喚きながら、周囲の建物に紫の波動を放つ。それによって周囲の建物がいくつも空中に浮かび上がっていった。

 まるで隕石のような攻撃。だが、あの攻撃が俺に当たることはない。そう確信できる理由があった。


「ふふ。俺も運が良いね。まさかこのタイミングで助っ人が現れるとは」

「何を言っているのだ? とうとうおかしく」


 奴が話し終える前に、自身の両腕がいつの間にか斬り落とされていた。まるで何かで消えたかのように錯覚するほどの恐ろしいスピード。第3開放の俺でも見逃しちゃうね。


「……は?」


 俺が見切れて無いんだ。奴が目で追うことなど不可能であり、そのことに対して疑問を持つ頃には、その肉体は粒子のようにバラバラになって消滅した。こんな化け物じみた事が出来る人間は、俺が知る限り1人しかいない。


「助かったよ。アリア」

「これぐらい、礼には及ばないよ」


 俺の前には、1人の少女が立っていた。白い毛で身を包んだフェンリル族の生き残り。アリア・ケットシー。家族のように大切な仲間。


「貴様、一体いつからそこに!」

「ははははは! なんか面白いことになってきたなあ。こりゃ楽しくなりそうだぜ!」


 プロメテウスが突然の出現に怒り、ヴァーユは高らかに笑いながら、空気を固定して彼女の動きを拘束しようとする。しかし、その前に彼らの目の前から、彼女は姿を消した。


「!? どこに」

「遅すぎるよ」


 奴らが探そうとする瞬間には、既に彼女は後ろに立っており、その首を狩っていた。


「待っててカイツ。5秒で終わらせるから」

「ははは! 面白い。5秒で終わらせられるなら、終わらせてみろ!」

「とんでもない化け物が紛れていたようですね。排除させてもらいます!」


 残りの六神王たちが一斉に攻撃しようとするが。


「だから遅いんだって。獣王剣・華」


 彼女が腕を横に1振りした直後、無数の斬撃が六神王たちをバラバラに切り裂く。ご丁寧に顔を重点的に狙っており、もはや元の顔が分からなくなるほどの酷さである。


「はいおしまい」


 そう言って指を鳴らすと、奴らは断末魔をあげる暇もなく、バラバラになって消滅した。


「いやー。強すぎるだろ」


 彼女が強いのは知ってたけど、まさかここまでとは。あの六神王の集団をあっという間に全滅させやがった。


「カイツ、大丈夫?」

「俺は問題ない。けどクロノスが」


 彼女は更に衰弱しており、話すことすら困難になっていた。どういうことだ。ダメージが酷いとはいえ、ここまで急に衰弱するとは考えにくいんだが。


「……はあ。本当はお前なんか助けたくないけど。カイツ、一瞬だけ我慢して」

「え?」


 俺が了承を得る前に、彼女は俺とクロノスの薄肌を切り裂いた。その直後に激しい頭痛が襲いかかり、意識が朦朧とする。


「がっ!? これは」


 しかしその痛みはすぐに収まり、次の瞬間には先程感じていた不調は消え去っていた。クロノスの方は意識を失ってはいるが、先程と比べて顔つきは良くなっており、命に別状も無さそうだ。


「アリア。一体何を」

「この魔術結界。元の世界の法則を色々と乱してるみたいなんだよね。死者を蘇らせたり、生者に死を与えたり」

「生者に死を。じゃあ、俺たちが急に不調になったのは」

「この魔術結界に長い事入ってたからだね。だから私の魔術で結界に入ってた過去の時間を破壊し、ダメージを減らしたんだ。野戦病院にいる奴らにも同じ処置を施しといたから、しばらくは大丈夫じゃないかな……間違えて内蔵掠めちゃったけど、その過去は破壊してるしセーフセーフ」

「待て。最後なんて言った。なんか聞き捨てならないワードが聞こえた気がするんだが」


 俺の追求を逃れるように、彼女は空高く飛んで建物の屋上へと登って行った。


「とりあえず、私は復活したゾンビ共を狩り続ける。カイツも避難しときなよ。後は私とブラコンクソ女が全部片付けるからさ」


 それだけ言い残し、彼女は颯爽と駆けて行った。色々と言いたいことはあるが、まずはクロノスを病院まで運ばないとな。魔術結界を展開してる奴や六神王ゾンビのことはアリアたちに任せよう


「頼んだぞ。ニーア、アリア」








 Side ニーア


「くそったれがああああ! なんで、なんでこんなにも状況が悪くなってんだよ!」


 そばかす女、デウス・キメラは怒り狂ったかのように紅い翼を剣に変えて縦横無尽に振り回す。しかしその攻撃はかなり乱暴で、近づくのはまだしも、避けるのはそう難しいことでもなかった。


「ずいぶんと荒れてるな。自信のあった戦法を破られたのがそんなにショックか?」

「ちっ。うるせえぞ白髪女あ!」


 奴は紫の波動を周囲の建物に放とうとするが。


「させん。崩衝滅魔!」


 奴の足元に緑の魔法陣を展開すると、巨大な光の柱が出現する。しかし、奴はその攻撃を避けて私の方へ迫って来た。


「同じ技を何度も喰らうかよ!」

「そうか。ならばこの技はどうだ?」


 私が指を鳴らすと、奴の横に緑の魔法陣が飛び出し、そこから放たれた光の柱が奴の体を焼いていく。


「ぐっ!? があああああ!」


 柱が消え去ると、致命傷こそ与えられてないが、その体はかなり焼け焦げていた。ガキのような思考で動いてくれるおかげで、動きが格段に読みやすくなった。


「クソが。ならこいつで殺してやる!」


 奴が指を鳴らすと、私の周囲に何体もの黒い偽熾天使(フラウド・セラフィム)が現れた。


「うひひひひひ! こいつの痛みは知ってるよなあ!」

「もちろん知ってる。その弱点もな」


 奴が復活した天使をエネルギーに変える直前、放たれた細いレーザー攻撃が肉体に穴を開けた。


「!? しまった」

「エネルギーに変える死体が欠損すると、どうなるんだったっけ?」


 天使たちは塵となり、奴の腕に大きな裂傷がいくつも出来上がって血が噴水のように吹き出す。あれが魔力が逆流したことによるダメージか。なんとも情けないものだ。


「いぎゃあああああああ!? て、てめえ! なんて卑怯な真似を。こんな下衆なことをするなんて」

「ベラベラと弱点を喋る貴様が悪いだろ。それにしても、ずいぶんな慌てようだな。カーリーの切り札が聞いて呆れる。お前程度でも切り札になれるなら、そこら辺の雑魚でも、それなりに良い地位をもらえそうだ」

「このクソ女が……舐めてんじゃねえぞお!」


 奴は紅い翼を剣に変えて攻撃してくるが、その攻撃はあまりにも直線的で、簡単に躱せる。


「どうした? 魔力が尽きて疲れてきたのか?」

「ぐぬぬぬぬ。もう許さねえ。六神王のゾンビなぞいらない。この私自ら、てめえ等を全員ぶっ殺してやる! 手始めにてめえだ。白髪クソ女! てめえはプロメテウスの魔術で、ミンチにしてやるよ!」


 奴の怒りに同調するかのように、巨大な蔦が何十本も飛び出し、絡み合って巨大な拳のような形となる。それが振り下ろされ、私に直撃する寸前、突然、蔦は煙のように消滅した。


「はあ!? い、一体何が」

「やれやれ。ようやく効果が出始めたようだな」

「クソ女、一体何をしやがったんだ!」


 紅い翼を威嚇するように空高く上げるが、その翼も煙のように消滅した。


「なっ!? 私の翼も……ぐっ!」


 奴は突然苦しそうに胸を押さえ、その場にひざまづいた。


「はあ……はあ……何が、どうなってやがる。なんで魔力がこんなに。クソ女。てめえ、どんな小細工を」

「悪いが私は貴様のように、一々解説してやるほど優しくないんだ」


 私の魔術、消滅(デリート)はあらゆる物を消滅させる。それは肉体だけでなく、この魔術を浴びた者の魔力や魔術でさえも。私の魔術を喰らった生物は魔力を失い、何度も浴びれば魔術も消滅して使用不可能となる。

 魔術師キラーともいえるこの力こそが、消滅(デリート)の本当の力だ。

 あと20秒もしない内に魔力が枯渇して魔術結界も維持できなくなるだろうが、私は気が短いので、そこまで待つことはできない。


「ま、待て。私を殺さないでくれよ。い、いいい生かしてくれたら、カーリーの弱点とか教えるからさあ! こんなところで死にたくない。私はもっと、もっともっと生きたいんだよ。せっかく自由に動けるのに、こんなくだらないことで死にたくないんだ! 頼む。今なら何でも言うこと聞くから、助けて。助けて助けて助けて! どうかお慈悲を!」 

「悪いが、貴様のくだらん命乞いに付き合ってる暇はない」


 自分の前に巨大な緑の魔法陣を複数展開し、それを重ね合わせる。


「死ね。崩衝光波!」


 魔法陣から巨大な緑のレーザーが放たれた。


「い、嫌だああああああ! 誰か助けてくれ……カーリー様ああああ!」


 奴は無様な断末魔をあげながら、レーザーで灰も残らずに消滅した。同時に魔術結界も解除され、あちこちに漂っていた六神王の気配もなくなった。


「やっと……くたばったか」


 奴が死んだのを確認すると、急に体が動かなくなり、その場に倒れ込んでしまった。流石に無茶をしすぎたか。立ち上がることさえ儘ならない。


「だが、まだカーリーが」


 あの女を殺さない限り、この戦いに終わりはない。戦ってるマリネのことも気になる。必死に身体を動かそうとするも、今の私ではミノムシのような速度で動くのが精一杯だった。


「たく。サイコパス女もあんたも無様なことになってるねえ」


 見下すような言い方にムッときて、声のした方を睨みつける。恐らくサイコパス女というのは、クロノスの事だろう。


「アリアか。兄様は?」

「カイツはサイコパス女を抱えて野戦病院に移動中。兵士側の被害はえげつないことになってるけど、騎士団の方はそこまでじゃないし、ノース支部メンバーやウェスト支部に所属してるメンバーは誰も死んでない」

「そうか……それは良かった。なら後は」

「カーリーだけでしょ? 私がぶっ殺しておくから、あんたはそうやって不様に、地面をペロペロ舐めてなよ」


 そう言って彼女は颯爽と建物の屋上へと飛んでいき、そのままマリネのいる方へと向かっていった。

 言い方はかなりムカつくが、今は彼女に任せるしか無いか。クロノスも重症のようだし、私もすぐに動ける状態ではない。審判者(ジャッジメント)もかなりのダメージを受けてるようで気配が弱くなってる。ウルは生きているようだが、あの女程度の実力では援護すら出来ないだろう。


「情けない話だ。兄様を守るために……私は力をつけてきたというのに……肝心な所で役に立たないのだから」 


 だがこうなった以上、後は兄様とアリアに全てを託すしか無い。王都の、人類の命運は彼らに委ねられた。


「頼んだぞ……2人とも……間違っても死ぬなよ」


 その言葉を最後に、私の意識は闇に落ちた。

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