第197話 蘇る死者たち
デウス・キメラが魔術結界を発動する前。南門にてマリネとニーアの2人が黒い偽熾天使を殲滅し、門の防衛をしていた。
「おいマリネ。こっちに六神王が来ると言ってたはずだが、1人も来てないぞ」
「すまない。どうやら奴らが作戦を変えたようだ。恐らく、私には虚偽の作戦を伝えていたのだろう」
「全く。おかげでこちらの防衛作戦がめちゃくちゃにーー! この気配は」
「まさか」
2人が異質な気配を感じた瞬間、門の外と中で断絶されたかのように、王都の中の世界が変化した。
「ニーア。あれは」
「魔術結界だな。だが、あんな広範囲の魔術結界など見たことないぞ。一体、誰があれほどのものを」
「私のとっておきの切り札、デウス・キメラですよ~」
間延びするほんわかする声と共に、カーリーが地面に降り立った。
「カーリー」
「おや。やっぱり生きてたんですね。アレクト。しかもそちら側に寝返るとは。念のため、嘘の作戦情報を伝えておいて正解でした」
「カーリー、あの魔術結果は何だ。一体何をした!」
ニーアがそう言いながら緑のレーザーを放って攻撃するも、それは背中から生えた黒い翼によって防御されてしまった。
「ふふふ。最高に面白いことですよ。死者と生者を逆転させ、新たなる別世界を作り出す。うまく行ったようで良かったです。すっごーく面白いんですよ。良かったら見ます? 兵士や騎士団が無惨に肉塊になる映像。あれはあれで中々に愉快ですよ〜」
「貴様」
彼女がもう1度攻撃しようとすると、マリネがそれを制する。
「お前は結界の中に行け。この女は私が倒す」
「馬鹿を言え。あいつはお前1人で倒せるような相手では」
「奴を倒す策はある。それに、元々1人で殺す予定だった獲物だ。良いからさっさと行け。恐らくカイツも巻き込まれている。奴に今死なれるのは困るんだ。さっさと結界の主を倒して救出しておいてくれ。こいつは私に任せろ」
「……分かった。死ぬなよ」
「誰に物を言っている。私はこんなところで死ぬつもりはない」
「そうか。それは安心だ」
彼女はそう言って王都へと向かっていき、マリネとカーリーの2人となった。
「面白いことになってますね。それにしても、カイツの味方をするとはびっくりしました。どういう風の吹き回しなんですか? あなたは彼を恨んでいたはずなのに、いつの間にか好き好きちゅっちゅになってますし」
「勘違いするな。カイツのことはずっと嫌いだ。私は彼の作る世界を見届けるため、一時的に一緒に戦っているに過ぎない」
「ふーん。そんな愉快な人間関係もあるんですね~。それにしても見たところ、今のあなたには天誅はないようですが。どこかに捨てちゃいましたか?」
「カイツに砕かれた。刀としては使い物にならない」
「あははははは! それは愉快痛快ですね。まさか天誅もない状態で、この私に勝てるとでもお思いですか? 私の魔術はよく知ってるはずですが」
「貴様もよく知っているはずだ。私の憎しみ、恨み、怨嗟の強さを。それは刀が砕けた程度で消えるものではない。見せてやろう。貴様を倒すために用意した私の力を」
side カイツ
俺はクロノスの腕を肩にのせ、野戦病院へと向かっていた。現在は第3開放を発動しており、何があっても対応できるようにしている。何があるかわからないし、最大限に警戒しておかないと。
「大丈夫か。クロノス」
「ええ。申し訳ありません。カイツ様にこんなことをさせてしまうとは。とんでもない役立たずですね」
「役立たずじゃねえよ。あのヘラクレスを倒したんだ。おかげで戦いがすごい楽になった。後は俺たちに任せてゆっくり休め。もうすぐ病院に着くから」
正直に言うと、病院もそこまで大丈夫な場所とは言い難いが、こんな戦場よりは遥かにマシだろう。そう考えて移動していると、王都のどこかから異質な気配を感じた。
「なんだ。この気配は」
その直後、世界の景色が一変した。空は赤黒い血のような色に染まり、あちこちから死臭が漂う。恐らく魔術結界の類なのだろうが、明らかに範囲が大きすぎる。王都全体を包み込む魔術結界なんて聞いたことないぞ。それにこの感じ。まるで別世界に入り込んだかのような。
「見つけたぞ。カイツ!」
何処かから声が響く。声のした方を見ると、そこには紫のローブを身に纏った骸骨男が立っていた。奴の背中には4枚の骨の翼が生えている。
「この魔力。まさか六神王か」
「その通りだ。我が名はハデス。カーリー様に仕えし、神聖なる王なり!」
「ハデスだと? そいつなら昨日、ウルたちに倒されたはずだが」
「はーはっはっはっは! 笑えるよな。倒した敵が復活してるなんていうわけわからないジョークはさあ」
今度は草食系男子を思わせるような中性的な顔立ちに黒い髪を真ん中に分けた男、ヴァーユだ。奴の背中にも4枚の天使のような翼が生えている。
「今度はヴァーユ!? なんでお前まで生きてるんだ。あの時消し炭にしたはずだぞ」
「はーはっはっはっは! 死んだからこそ、俺はこの世界で生まれ変わったのさ!」
奴はわけのわからないことを言いながら空気の壁を上空に生み出し、押し潰すような攻撃を仕掛けてくる。俺はクロノスを離し、その攻撃を紅い光の剣で受け止めた。
「くっ!? このお」
そのまま破壊した直後、金縛りにあったかのように体の動きを止められてしまった。骸骨の方に目線を向けると、奴の手から紫の波動が放たれていた。
「悲しいなカイツ。貴様なら、我が楽園で過ごせる力があるというのに」
「はーはっはっは! 楽園確定の奴を殺せるのも笑えるな!」
ヴァーユはその隙を突いて空気の槍を何発も放ってきた。
「カイツ様!」
「大丈夫だ。これぐらいの攻撃ならどうとでもなる。剣舞・五月雨龍炎弾!」
周囲にいくつもの紅い光弾を生み出し、それを一斉に放つ。槍を破壊すると同時に奴らにも何発か当てていった。
「ぐおお!? くっ」
「おっと。これは凄いなあ」
ヴァーユは空気の壁で攻撃を防いだが、骸骨の方は防ぐ術なく何発か被弾し、それと同時に金縛りも解けた。
「よし。なんとかなった。クロノス、動けるか?」
「何とか動けます。カイツ様の負担になることはありません!」
彼女が黒い槍を何本も生み出し、それを後ろに向けて攻撃する。
「のわああああ!」
後ろにいた奴は紅い翼を展開し、その攻撃を防いだ。そいつは金髪の男で色々なアクセサリーを着け、白いシャツに黒のダメージジーンズとチャラそうな男だった。
「ジキルか。てめえまで蘇るとはな」
「カイツ。カーリー様を狂わせた元凶。お前だけは俺がぶっ殺してやる!」
奴が紅い翼を刃に変えて攻撃するが、その攻撃の前にクロノスが立ち、見えないバリアで防いだ。
「あの雑魚は私が殺します。申し訳ありませんが、カイツ様はあの2人を」
「……いけるのか?」
「いくらダメージを負っていても、あの程度の雑魚には負けませんよ」
「分かった。無理はするなよ」
「カイツ様こそお気をつけて!」
彼女は黒い槍を何本も放って攻撃し、ジキルを押していた。
「ぐうう!? くそ女が。邪魔をするなあ!」
奴は紅い翼で攻撃するも、彼女はその攻撃を簡単に躱していた。あの様子なら大丈夫そうだが、それでももしものことがあるかもしれない。さっさとあいつらを倒し、彼女の戦いに合流するとしよう。
「さて」
俺は上空から来た何本もの空気の槍を全て弾いた。その直後に槍が砕け、破片となって襲い掛かる。
「風よ!」
周囲に軽い竜巻を起こし、破片を全て吹き飛ばした。
「はっはっはっは。不意打ちで出されたこいつを捌くとはやるじゃないか。だがこれなら」
奴が攻撃しようとした瞬間、俺は剣が届く間合いまで一気に近づいた。
「なっ。早い!?」
「あの時とは違うんだよ。剣舞・龍刃百華!」
剣を横に1振りする。その直後、無数の斬撃が奴の体を切り裂いた。
「ぐっ!? なんだこの威力は」
空気の壁が邪魔したせいで深くは行けなかったが、それでも動きは止まった。そのまま回し蹴りで奴を吹き飛ばす。
「貴様。よくも美しき友を!」
骸骨野郎が周囲のがれきを次々と浮かばせていく。奴の魔術はおそらく、物質や生物を操るサイコキネシスのようなもの。それを使うには高い集中力が必要。ならば。
「風よ。そして炎よ!」
強烈な突風と炎を織り交ぜた攻撃を奴に向けて放つ。
「ぐっ!? なんだこれは」
ダメージはあまりないようだが、奴の動きを一瞬だけ止め、瓦礫を落とすことはできた。その隙を突いて一気に近づく。
「このおお!」
奴が紫の波動を放つが、それを避けて背後に回り込む。
「なに!?」
「剣舞・斬龍剣!」
刀を上から振り下ろして斬撃を放つ。奴は直撃こそ避けて距離を離したが、腕を多少破壊するくらいのダメージは与えた。
「ぐっ。流石はカーリー様に認められた存在。貴様が仲間であれば嬉しかったのだが」
「ざけんな。お前にどんな目的があるか知らないが、どういう事情があっても味方になることはありえねえよ」
「はーはっはっは! 手ひどく振られてるな! 可哀想に」
鬱陶しい笑い声が聞こえた直後、上空から空気の壁が襲いかかってくるが、それを剣で砕いた。その直後、奴が空気の剣で斬りかかってくるも、それを受けとめて弾き飛ばす。
「ちっ。本当に厄介な奴らだな」
「はっはっはっは! それはこっちのセリフさ。俺が死んでる間にめちゃくちゃ強くなってるじゃねえか。ハデス、これは気を引き締めないとやばいぜ。はっはっは!」
「そのようだな。楽園に来る気もないようだし、ここで殺すとしよう」
「気を引き締めようが殺す気で行こうが自由だが、これに気づけないようじゃ終わりだぞ」
俺が指を鳴らすと、骸骨の片腕が吹き飛び、ヴァーユの体は深く切り裂かれた。
「ぐお!?」
「がっ! はっはっはっは。流石はミカエルの器。やるじゃないか。いつの間にこんなダメージを」
「わざわざ教える気はない。とどめだ。剣舞・絶龍」
攻撃しようとしたその瞬間。
「はーはっはっは! 俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
後ろから声がしたかと思ったら、横から来た空気の壁に突き飛ばされ、建物に叩きつけられた。
「がっ!? 馬鹿な。この気配は」
前を見ると、建物の屋根にヴァーユが2人立っていたのだ。それだけでなく、骸骨ももう2人いるというわけのわからない状況になっている。
「どういう冗談だよ。これは」
「はっはっはっは! これは冗談ではない。現実だ!」
3人のヴァーユが空気の槍を雨のように降らしてくる。そこから避けると、紫の波動が襲いかかってきた。俺は自身の前に炎の壁を作り、その波動を防ぐ。
「くそ。何がどうなってやがる。なんで六神王が増殖してるんだよ」
しかも俺がやられてる間に、斬りつけた骸骨どもの中に入れた魔力も排出されてる。これじゃ絶龍怨嗟は使えない。どうする。
「きゃあああ!?」
「!? クロノス!」
彼女の方を見ると、壁に叩きつけられていた。その先にはジキルだけでなく、プロメテウスも立っていた。
「ぐっ……魔力さえ全開ならば……こんなのに」
「どうやら、ずいぶんとダメージを負ってるようですね。これで終わりです」
奴が地面から巨大な蔦を生やし、それで攻撃しようとする。俺は彼女が襲われる前に横抱きに抱いて助け出す。
「一旦退かせてもらう。剣舞・五月雨龍炎弾!」
紅い光弾を地面に無差別にぶつけまくって大爆発を起こし、煙が舞い上がる。奴らが目をくらましてる隙に、戦況を立て直すため、その場を全速力で離れた。
「大丈夫か。クロノス!」
「うぐ……申し訳ありません。不覚を取りました」
「気にするな。それより、あれはどういうことなんだ。なんでヴァーユや骸骨が増えている。変身の魔術か何かか?」
「いえ。奴らの魂は本物でした。つまり、何者かが六神王の魂を複製しているかと。でも、そんなことが出来る者なんて」
「いるんですよね。これが」
後ろから声がした瞬間、巨大な蔦が地面から飛び出してきた。間一髪でその攻撃を躱し、声のした方を見る。どういうわけかプロメテウスも3人に増えていた。
「お前まで増えてんのか。悪い冗談ならすぐに覚めてほしいぜ」
「残念ですが現実です。今頃、他の私たちもあちこちで暴れまわってますよ」
奴がそう言うと、王都のあちこちで巨大な蔦が何本も飛び出すのが見えた。まずい。このままじゃ被害が増える一方だ。恐らくこの事態の原因は魔術結界を作った奴だ。そいつをどうにかしないと。
「くそ。本当にめんどくさい」
王都は大混乱に陥っていた。復活し、増殖した六神王によって多くの騎士団メンバーや王国の兵士たちが虐殺されていた。
「うわあああ! い、今すぐ増援を!」
「く、来るなああああ!」
「嫌だ。こんなところで……死にたくないいいい!」
阿鼻叫喚の様相を呈する王都。彼女はその中心の広場に立っていた。
「あはははははは! 最高の気分だな。もっと、もっと私に悲鳴を聞かせてくれ!」
カーリーの用意した最後の六神王。存在しないNo.0、デウス・キメラ。裂けていた口や無くなっていた片方の耳は完全に治癒されており、話し方もハキハキとしている。目の焦点もきちんと合っており、以前のような歪な感じはどこにも存在しなかった。背中からは血のように紅い翼が2対4枚生えている。
「いい気分だ。死者もどんどん増えてきている。もっと。もっと死者を増やそうじゃないか。そいつらの魂を代価に、もっと六神王を増やしてやる。あははははははは!」
高笑いする彼女を、数キロ先から観察している女性がいた。赤いメッシュが所々に入った黒髪に桜色の目をした豊満なスタイルの女性、ウルである。
「あいつがこの結界の主。これ以上被害を拡大させるわけには行かないわね。カイツも大変なことになってるみたいだし」
彼女は弓を構え、雷を纏った矢を静かに放った。長いことチャージした強力な一撃だったが、キメラはその攻撃を素手で掴んで受け止めた。
「なっ……あの攻撃を素手で!?」
さらには、掴んだ矢をウルのいる方向へと投げ飛ばした。その速度は放たれた矢よりもはるかに速い。間一髪で躱すも、その風圧だけで、彼女の頬は切り裂かれてしまった。
「うそでしょ。投げただけでここまでの威力を」
「この程度の攻撃なんぞ、受け止めるのは余裕なんだよ」
いつの間にか、キメラは彼女のいる高台に近付いてきていた。
「しまった。サンダー」
「遅い」
そのまま顔を殴られ、地面に叩きつけられた。その衝撃はクレーターのような跡が出来るほどであり、血反吐を吐いてしまう。
「がはっ……この、化け物が」
「全く。ずいぶんと不躾なことをする狙撃手様だな」
キメラが紅い翼を剣に変えて攻撃するも、その攻撃は避けられて距離をあけられた。
「さっきのが効かないのなら、これで!」
彼女が4本の矢を投げると、矢は彼女の前でくるくると円を描くように回り始め、雷を貯めていく。彼女はその中心に弓を構える。
「放て。サンダーブレイク!」
矢を放って円の中心を通すと、雷のエネルギーが纏われ、巨大な矢となって放たれる。しかし、その攻撃は空気の壁によって防がれてしまった。
「!? その技は」
「ふん。この程度の魔力で私に刃向かうとはな。痛めつけても良いが、今の私は仕事があって忙しいんだ。お前の相手はこいつにしてもらう」
キメラが指を鳴らすと、紅い翼からハデスが現れた。
「久しぶりだなあ雷女。貴様に痛めつけられた恨み、たっぷりと返してやるぞ」
「また六神王が。どういう魔術なのよ」
「ふふふ。さあ行くぞ!」
彼は周囲の瓦礫を浮かせ、それを矢のように放っていく。ウルはその攻撃を避けながら雷の矢を何発も放つが、その攻撃は全て紫の波動で止められてしまった。
「無駄だ。見えていれば、その程度の攻撃など当たらん」
「くっ。私1人でこいつを倒すってのはなかなかハードね」
彼女がハデスと戦う中、キメラは戦闘を彼に任せてその場を離れようとすると。
「貴様か。この妙な結界を作ってる奴は!」
緑色のレーザーが雨のように降り注いできたので、翼を盾のように展開して防御する。
「お前は」
前に降り立った新たな乱入者。真っ白な髪に血のように真っ赤で、大きくつぶらな瞳。そして右目に眼帯をした綺麗で大人っぽい顔をした女性、ニーアだった。
「ニーア。どうしてここに? マリネはどうしたの」
「訳あって別行動だ。それより、そこにいるのは」
「ほお。まさかお前がここに来るとはな。お前と戦うのも楽しみにしてたのだよ。カーリー様に敵対し、裏切者となった愚か者の貴様は、我の手で殺したかったからな!」
ハデスが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間。
「あなたの相手は私よ!」
雷の矢が後ろから放たれ、それが彼の体を貫き、強力な雷撃が彼の体を焼いていく。
「ぐおお!? この……雑魚が!」
「ニーア。こいつの相手は私がやる。あなたはそこのそばかす女を!」
「了解だ。負けるなよ」
「そっちこそ!」
ウルとハデスが戦う中、ニーアとデウス・キメラの睨み合いが続く。
「お前。確かイシスって奴だったか?」
「その名は既に捨てた。今はニーア・ケラウノス。兄様の妹であり、障害を切り裂く剣だ。悪いが、お前にはここで死んでもらう」
「ははははは! こいつは最高だな。あんたとは1度戦ってみたいと思ってたんだ。カーリーはあんたのことをべた褒めしてたからな。その実力がどれほどのものか、確かめさせてもらうぜ!」
「来い。とっとと終わらせて、この結界を破壊する!」




