第193話 最後の六神王
クロノスとヘラクレスの戦いが終わった頃。カイツとアリアが担当する北門付近にて。
Side カイツ
俺とヴァーユもどきの戦い。現在の武器は六聖天の力で生み出した紅い光の剣のみ。最初は不安だったが、奴相手なら十分優勢に立つことが出来た。
「不可解。なぜ押されているのですか。理論上の出力は私はヴァーユよりも遥かに高いはず。このような劣勢は理解不能」
「確かに威力は高い。だが、その力に技術が追いついてないんだよ!」
俺は奴が出してきた空気の壁や剣を全て破壊していく。奴の攻撃は単調で避けやすい。壁や剣もヴァーユのより頑丈だが、今の俺なら簡単に壊せる。苦戦する要素はもうどこにもなかった。
「攻撃魔術発動。空砲!」
奴は空気の砲弾を生み出して放つ。スピードはそれなりにあるが、その砲弾は簡単に見ることが出来た。
「その程度の攻撃など」
俺はその攻撃を躱して奴に斬りかかった。その攻撃は空気の剣で受け止められたが、即座に破壊して奴の肉体を切り裂く。
「理解不能。なぜ私がここまでのダメージを。シュミレーション上では目的を果たすのに十分な力を所持。対象が急激なパワーアップをした様子はなし。なぜなぜなぜ!」
奴は怒り狂ったかのように空気の壁を何発も出していく。スピードは早いが狙いも浅く、目視可能な攻撃なので、避けることは難しくなかった。
本物のヴァーユなら、こんな単調な攻撃ではなく、もっと多彩な攻撃を仕掛けてくる。攻撃もあんなに見えやすいものじゃなかった。
「威力が高いだけのパチモン魔術。おまけに、その魔術を碌に理解出来てないような奴が、俺に勝てるわけないだろ!」
俺は壁の攻撃を全て躱し、剣の射程範囲まで近づく。
「危険信号。この構えは危険と判断。即座に離脱を」
「遅い。剣舞・龍刃百華!」
剣を横に1振りして奴の腹を深く切り裂く。その直後、無数の斬撃が奴の体をズタズタに切り裂いた。
「危険信号。危険信号。生命数値の低下……戦闘続行に大きな支障あり。情報をマスターへと移行する準備を」
「今度は吐き出す隙も与えねえ。剣舞・絶龍怨嗟!」
指を鳴らすと、奴の全身がブクブクと風船のように膨れ上がり、そのまま破裂した。首から下と顔の半分はその衝撃で消し飛び、残ったもう半分の顔が無惨に落ちる。
「次に人の魔術を使うときは、もっと学習しておくんだな。その足りない頭でよく勉強しておけ」
「……学習。今後の戦いに……いか……いかかかかか……」
気味の悪い遺言を残し、奴の瞳から光が消えた。
「たく。無駄な時間を使っちまった。アリアの方は」
アリアの方はまだ水の結界に閉じ込められており、変態女と戦っている。
「さっさとこの結界を壊さないと。剣舞・龍刃百華 凪!」
剣を横に1振りし、無数の斬撃を一点に集中させて叩き込む。少しだけ穴を開けることは出来たが、それはすぐに塞がってしまった。
「くそ。厄介な結界作りやがって」
『流石はガブリエルじゃの。これは壊すのがかなり大変そうじゃ』
ミカエルが感心したようにそう言うが、そんな落ち着いてられる状況じゃない。アリアとガブリエルは激しい戦いを繰り広げているのに。
「やるねえ。第4解放の私とここまでやり合えるとは。アナザー・ミカエルをそこそこ追い詰めただけのことはある」
「そういう褒め言葉は、鬱陶しいだけなんだよ!」
彼女のスピードは第3開放を発動してる今でもやっと見ることが出来るレベルの凄まじいものだった。
だがそれ以上に恐ろしいのはあの変態女。あの攻撃を全て躱すか捌くかしており、一撃も当たっていない。しかもまだ余裕を持っているように見える。
「あれが四大天使の実力というわけか。ウリエルといい、アナザー・ミカエルといい、化け物ばかりだな」
『まずいの。ガブリエルの目的が何かは分からぬが、あのままではアリアがまずいぞ』
「わかってる。けど!」
何十回も剣を打ち込んでいくが、結界は少し穴が空くだけですぐに塞がってしまう。
「くそ。このままじゃアリアが」
俺が破壊しようと攻撃を続けてる間も2人は戦い続けていた。
「流石は神獣というべきか。ここまでとは恐れ入ったよ。少し大人しくしてもらおうか」
奴が攻撃しようとした瞬間、アリアは見たことのないスピードで奴の背後に移動する。
「なに!?」
「貰った。獣王剣・天!」
そのまま腕を交差に振り抜き、巨大な斬撃が奴の体を浅く切り裂いた。
「くっ!? しまった」
「壊れろ!」
彼女が指を鳴らすと、ガブリエルの体が一瞬、意識を失ったかのようにふらついた。過去を壊した影響なのだろう。そして、その隙を見逃す彼女ではない。
「獣王剣・華!」
彼女が爪で切り裂こうと攻撃するが、すんでの所でガブリエルは意識を取り戻し、その攻撃を防ぐ。その直後の無数の斬撃も全て弾いた。
「危ない危ない。ちょっと遊び過ぎちゃったね」
「この。うがああああ!」
彼女は奴の腕を掴み、大地を深く抉るような咆哮をはぼ零距離で放つ。しかし、それは簡単に避けられてしまい、距離を取らされてしまった。
腕を掴まれた状態で、あの攻撃を避けるのか。どういう身体能力していやがる。
「びっくりしたよ。まさか急にギアを上げてくるとは思わなかった。わざとスピードを遅くして私の目を慣らし、そこからスピードを上げて不意をつこうとしたわけか。いやー、凄い凄い。流石は古代の神獣。先人から受け継いだ知識は伊達じゃないというわけだ」
奴は煽るかのように笑顔で拍手している。アリアの方は明らかにキレており、拳を強く握りしめている。
「だが、君ならもう分かっているだろう? 君は私を殺せる唯一のチャンスを失った。さっきのような作戦は2度と通用しない」
奴の言う通り、あの攻撃はもう決まらないだろう。アリアのスピードは凄いが、それでもあの変態女を倒すには足りない。
手助けしようと水の結界を攻撃し続けるも、流水のように空いた穴がすぐ塞がり、侵入する隙間がなかった。
「さあどうする? ここで止まっていてくれると、私としても凄く楽なんだけど」
「ざけんな。例え勝つ確率がどれだけ低くても、戦いを諦める理由にはならない。お前みたいな害虫はここで殺さないといけないんだよ!」
アリアの魔力が大きくなり、その力が大地を揺らす。奴はその魔力を目の当たりにしても笑みを崩さなかった。
「ふふふ。威勢が良いね。なら、私もその威勢に答えようじゃないか」
奴が魔力を放つと、急に息苦しくなった。
「なんだ。これは」
「ぐっ……この感じは」
体が重い。それに、水の中に沈められたかのような息苦しさを感じる。どういうことだ。奴は何をしようとしている。
「gエル4oラxqw。さあ。全てを始まりの場所へ」
空中に巨大な青い魔法陣を展開すると、変態女の手の甲に紋様が浮かび上がった。
「ん。この感じは」
奴は急に立ち止まり、その紋様をじっと見つめる。アリアもその妙な行動を警戒したのか、あえて距離を離している。
「……了解。君の指示に従うよ」
そう言って奴は魔法陣と水の結界を解いた。体の重さや息苦しさもそれと同時に無くなる。
「どういうつもり? 私と戦う気なくした?」
「まあそんな所だね。試練の難易度が下がるのは嫌だが、これ以上君と戦ってあっちの契約者の機嫌を損ねるのも困るし」
「契約者というのはロキ支部長のことか? あの人は何を企んでる。なんでお前と契約した」
俺が質問をすると、奴は不気味な笑みを浮かべながら答える。
「今の君には理解できないことさ。あの人の思いも、この世界も」
「どうでも良いよ。あいつの考えもこの世界のことも」
アリアが後ろから攻撃を仕掛けるも、奴はその攻撃を片手で受け止めた。
「くそ」
「君との戦いも楽しかったけど、今回はここで終わり。また会おうじゃないか。古代の神獣、そしてミカエルの器よ」
その言葉を最後に、奴は空高く飛んでどこかに行ってしまった。
「なんだったんだ。あの変態女」
「さあね。でも次に会った時は確実に殺す。あんな奴がいたら色々とめんどくさそうだし」
結局ロキ支部長のことを何も聞き出せなかったが、今は他に対処することが山程ある。
「アリア。ここを任せても良いか?」
「……はあ。どうせクロノスの気配が消えかけてて心配だから、王都に行くって話でしょ?」
「よく分かったな」
「カイツの考えてることなんて余裕で分かるし。さっさと行ってきなよ。何が来たって私1人で十分だからさ」
「すまない。恩に着る!」
俺は彼女に北門の防衛を任せ、王都へと走っていった。
「ほんと、カイツって色んな人に優しいよね。その優しさが大好きで……大嫌いだ」
その頃。とある場所にて。
そこは喫茶店のような場所であったが、普通の喫茶店とは違う所がいくつかあった。まず、店員が1人もいないこと。もう1つは、窓から見える景色は真っ暗な闇に覆われてるという点だった。
そこに座ってるのは2人の人間のみ。1人は桜色の髪を膝下ぐらいまで伸ばしている女性。髪はボサボサで手入れされていない。身につけてるシャツとスカートもサイズが合っておらず、ダボダボのだらしない恰好である。名はイドゥン・レーシス。ヴァルハラ騎士団ウェスト支部支部長である。
もう1人は騎士団の服を来た女性である。黒い髪を腰まで伸ばしており、大人っぽく妖艶な見た目をしている。手の甲には青い紋様が刻まれていた。名はロキ・エターナル。ノース支部支部長である。彼女は手の紋様の輝きを見ながら話す。
「よし。これでガブリエルは撤退した。奴が介入することはないはずだ」
「助かるわ〜。あんな化け物がいたんじゃ〜、王都防衛どころじゃないからね〜。あなたが断ったらどうしようかと思ったわ〜」
「私は別に、騎士団の敵というわけじゃないし、ガブリエルのあの介入は、私にとっても望ましくないものだったからね」
「……その言葉は、本音と考えて〜、良さそうね〜」
ロキは机の上にあるコーヒーを飲みながら考え事をする。
(全く。あの馬鹿が勝手に動いたせいで、こっちの予定が台無しだ。おまけにイドゥンにはめちゃくちゃ疑われるし。せっかくの改良品の天使も、勝手にカイツにぶつけて無駄にして。ああいうのを防ぐためにミルナに手綱を握らせてたのだが、やはりあいつでは操りきれんかったか)
ロキが不満げな顔をしながらコーヒーに舌鼓を打っていると、イドゥンが質問をする。
「何を〜、考えてるのかしら〜?」
「人生は上手くいかないということを考えてた。ガブリエルが馬鹿やらかしたおかげで、私は気まずい事になってるからね」
「それは〜、不幸なことね〜」
イドゥンはロキの言葉を聞きながら彼女の気持ちを探っていた。己の敵かどうかを見極めるために。
「それにしても、君はこんな所で私とお茶をしてて良いのか? 部下たちが必死に戦ってるというのに」
「私の仕事は〜、あなたを足止めすることにあるわ〜。あなたが不用意な行動をしないように、監視するのが私のお仕事〜」
「やれやれ。仲間同士で腹の探り合いか。今の騎士団の体にメスを入れてる余裕はないというのに」
「それでも〜、目に見えてる腫瘍らしき物体を放置するわけにも行かないでしょ〜。下手したら、命に関わるのかもしれないのだから〜」
「……まあ、それもそうだね」
互いの一挙手一投足が己の生死に関わるかもしれない話し合い。2人は慎重に言葉を選んでいた。
王都ヴァルハラの西門にて。
西門防衛担当のバルテリアの戦い。その戦いは圧倒的という他なかった。彼の前に配置された何体もの巨大な金色の鋼鉄人形。それらは腕からガトリングを乱射したり肩から巨大な砲弾を発射して殲滅したりと大暴れして何十体もの黒い偽熾天使殲滅していた。兵士たちはその光景に唖然としている。
「ば、バルテリア様。これは?」
「こいつは対戦争用超巨大人型兵器、タイタン。別世界の知識を基にして生み出したものさ。昨日は時間がなかったから作る余裕はなかったが、今回は作る余裕がきっちりあったからな。全部の門に配置することはできなかったが、まあ上出来だろ」
「すごいですね。これがあれば、ヴァルキュリア家もウリエルも簡単に倒せますよ!」
「……いや。そう簡単にはいかないようだ。離れてろ」
彼が兵士を下がらせると、何本もの巨大な蔦がタイタンを貫いていく。その蔦が光りだすと、タイタンの体がどんどんと腐り始め、動きはどんどん鈍くなっていく。最後には体が完全に腐り落ちてしまった。
「たく。玩具のように壊してくれちゃってさあ。造るのも楽じゃねえんだぞ。陰湿眼鏡」
彼が忌々し気に視線を向けた先には眼鏡をかけ、スーツを着た茶髪の男が立っていた。
「六神王も残るは私だけ。こうなってくると、あの鬱陶しい笑い声やイカれた惚気話も愛しくなりますね」
「安心しろよ。お前もすぐに後を追わせてやる。美しき百合の楽園を汚した罪。たっぷり支払ってもらおうか」




