表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/236

第165話 偉大なる魔術師になるために

 我はとある町で母様と2人暮らしをしていた。父は我が物心着く前に行方不明になり、どこにいるのか分からない。噂によると愛人を作って駆け落ちしたとのことだが、そんなのはどうでも良い。母様は女手1つで愚痴も吐かず、弱いところも見せずに我を育ててくれた。我が最も見本にしたいと思う強い人である。


 家事と仕事を両方こなすことがどれだけ大変なことなのかは幼い頃でも容易に理解出来た。我がいる分、余計に支出も増え、仕事の合間に家事もしなければならない。母様は多くのお金を稼ぐため、大人の男を癒やす水商売と呼ばれる仕事をしていた。それを嫌に思ったことはないし、むしろ申し訳なく思っていた。我がいなければ、母様はもう少し楽に暮らせたというのに。

 少しでも楽をさせたいと思い、我は勉学に励み、体を鍛え、母の手伝いをしていた。生まれつき身長が低いから色々と大変だったが、それでもめげずに努力した。早くお金を稼げように。少しでも母様を楽させるために。ただ、そんな我を周りの人たちは。


『あの子っていつも本読んでるよね。なんかガリ勉みたいできもーい』

『うわあ。あの子の髪の毛ぐちゃぐちゃじゃん。きたなー』

『服もぼろぼろだわ。女としてあれは落第点ね』

『てか聞いたか? あいつのお母さんって体売ってるらしいぞ』

『うーわなにそれ。ただのビッチじゃん。あの子ってもしかしてそこらへんの男と出来た子だったりして〜』


 罵詈雑言の言葉ばかり浴びせた。別に誰かに褒められたいと思ってやったわけではないから、褒められないのは苦では無かった。だが陰口、罵倒、誹謗中傷しか言われないというのは思った以上に辛かった。服がぼろぼろと言われても、新しい服を買う余裕などありはしない。髪の毛も手ぐしで多少整える程度しか出来ない。周りの女はメイクやら流行のファッションやら着ており、男共が見惚れるほどに美しかった。中身は醜かったが。

 嫌でもわかる奴らと我の格差の違い。持つ者と持たざる者。その差を埋めることなど、当時の我では不可能だった。


『ラルカ。あなたは私のようにならないでね。強い存在になるのよ。敵を踏み潰し、全てを掻っ攫えるような強者に! それこそがあなたにとっての幸せ!』


 母様は我が勉学に励んでる姿を見るたびにそう言ってきた。母様の望む強い存在。敵を踏み潰し、誰にも罵詈雑言を浴びせられない存在、だがどうすればなれるのか、それが具体的にどういう存在なのか分からなかった。


『強い存在というのは、男を離さず、強大な武力と頭脳を持つ存在よ。どんな困難をも破壊して突き進み、決して折れることのない存在。それこそが強い存在。ラルカ、あなたはそんな存在を目指すべきなのよ!』


 強い存在がどういうものかという我の質問に、母様は同じ答えで返していた。具体的には誰なのか、どういう人が強い存在なのかは教えて貰えず、何年もがむしゃらに勉学と身体強化に励んだ。当時の我はそうするしかほかに方法が無かったのだ。歴史書を読んで偉人なども調べてみたが、なぜかどれもしっくり来ず、我が参考にしたいと思える者はいなかった。そして、13歳になったそんなある日のこと。

 我は散歩をしていた。理由は少しばかりの息抜きだ。母様からの期待を込められた視線や周囲からの罵詈雑言が少しばかり苦になり、息抜きをしたいと思って散歩をしていた。そんな時にあるものを見かけた。か弱そうな少女が数人の屈強な男たちに囲まれていたのだ。その男たちは当たり屋として有名であり、わざと当たって言いがかりをつけ、金や物を奪い取る悪質な奴らだ。


『おいクソガキ。お前のせいで俺のネックレスが落ちて汚れたじゃねえかよ。どう責任取ってくれるんだあ?』


 奴の言葉から察するに、少女にわざとぶつかってネックレスを汚した言いがかりをつけているのだろう。少女はおびえて声も出せない様子で、周りの人は自分に火の粉がかかるのが嫌なのか、見て見ぬふりをしている。


『黙ってれば帰れるなんて思うなよ。落とし前つけるまでは絶対に帰さねえからな』


 1人の男が少女の腕をぐいっと掴み、どこかに連れて行こうとする。


『いや、離して! 離してよ!』

『離すかよ馬鹿が。とりあえず、2時間くらいは相手してもらうからな。そのあとは弁償代としてどっかに売り払うかねえ』

『ぎひゃひゃひゃひゃ! それいいな。賛成』

『助けて! 誰か助けて! 誰かあ!』


 彼女は泣いて周りに助けを求めるが、それに応えるものはいない。それも仕方のないことだろう。奴らはそれなりの腕っぷしがあるし、威圧感や殺気も半端ではない。下手に介入すれば大怪我は確実。他人より自分の命の方が大切だと思うのは、人として普通のことだ。そのまま彼女が路地裏に連れ込まれるかと思った瞬間。


『おい。その手を離せよ』


 白髪の少年が少女を掴んでる男の肩に手を置きながらそう言った。そいつは刀を携えており、年は我とほぼ同い年だった。だが、その強い瞳はとても同い年には見えず、男たちよりも強い圧を放っているように見えた。

 少年の正体はカイツ、未来で我の右腕となる男だったのだ。恐らく、研究所でのあれこれが終わった後に旅をしていてこの町に偶然来たのだろう。この時は、こいつが右腕になるとは思いもしなかったが。


『おい少年。痛い目を見たくないなら手を離しな。今なら顔面一発で済ませてやるからよ』

『そんなので済ませる気ないだろ。仮にそれで済ませるとしても、離すつもりはないが』

『そうか。じゃあ死ね!』


 そこからはほとんど一瞬の出来事だった。男たちが襲い掛かったかと思いきや、右腕はあっという間にそいつらを倒してしまった。彼は助けた少女の頭をなでながら慰めており、少女の方はよほど怖かったのか、抱き着いてわんわんと泣いていた。周りの人はぱちぱちと拍手したり、右腕のことをほめたたえたりしていたが、その時の我にはどうでもよかった。

 我は右腕と男たちの戦いで、強者というのがどういうものなのかを学んだ。当たり屋の男たちが好き勝手出来ていたのは、強いのもそうだが、あの威圧感があったからだ。右腕も男たちよりも強い威圧感を放っていた。そして、その威圧感を裏付けする武力。この2つこそが強者にとって必要なものなのだと我は学んだ。そこから我はさらなる猛勉強に励んだ。威圧感を出すための特訓、性格の改革、身体強化、様々なことをこなし、それから1年後、ギルドに加入して我は沢山の依頼を引き受けた。評価はうなぎのぼりで上がっていき、ギルドのみんなからは崇められ、ヴァルハラ騎士団にもその実力を見込まれてスカウトされた。


 その時はうれしかった。このままいけば、我は母様のいうような強者になれると思った。しかし、その自信はあっという間に打ち砕かれた。クロノスやアリアなどの強大で恐ろしい仲間、六神王やヴァルキュリア家などの敵。我は井の中ではしゃいでいた蛙だということをいやというほど思い知らされた。


 挙句の果てには槍のようにアリアに投げ飛ばされ、バカップルの敵に殺されようとしている。あまりにも情けない弱者だ。これでは強者になる夢など。


『なれるさ。ラルカならきっと偉大な魔術師になれる』


 その時に思い出したのは右腕の言葉。あいつは我の夢を馬鹿にせず、キラキラとした瞳で応援してくれていた。


『ラルカは一見偉そうに見えるかもしれないけど、誰よりも仲間のことを考え、仲間を守るために動くかっこいい奴だ。それにいろんな策を考えられるほどに頭が良い。それだけ凄い奴だ。きっと夢を叶えられるさ。俺が保証する』


 優しくてかっこよくて、理想のために猪突猛進。そんなところが我は好きになった。初めて会った時も、あいつは我のことを馬鹿にしたりイラついたりせず、我の望む反応をくれた。そんなあいつだから右腕にしたいと思った。好きになったんだ。


「そうだな右腕。我はこんなところで負けられぬ。我には叶えるべき夢がある」


 だから答えろ。我が魔術よ。この鬱陶しいフィールドを突破できる鎖を、力を我によこせ。偉大なる我の偉大なる魔術なら、この程度の苦難など乗り越えろ。死ぬ気でこのフィールドに適応しろ!


 我はがむしゃらに願い、魔術と魔力を制限するふざけたフィールドに適応する鎖をイメージし、そのために何が必要なのかを必死に思考した。なぜかわからないが、不思議と脳が活性化し、普段の何倍も頭が良くなったかのような気分になれた。そして。


「うおおおおおおおお!」


 我の袖口から何本もの鎖が飛び出し、敵の巨大な槍を防いだ。


「なにいいいいい!? なぜ魔術を使えるんだ!?」

「ありえない! ジキルの作った世界は完璧なはず。それなのにどうやって魔術を」

「ふん。我のことをなめすぎだぞ。我は偉大なる魔術師になる者。この程度の縛りで我を封じれると思うな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ