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第164話 六神王との激戦

 side カイツ


 倒したと思ったウリエルは偽物だった。かなり衝撃的なことだったし、本物の奴がどこにいるのか気になるが、今はそんなことよりも。


「早くアリアたちの元に行かないと」


 彼女たちの待機場所へ走ろうとすると、強大な魔力と地響きが城を揺らす。


「なんだこれ!?」

「恐ろしい魔力じゃな。一体誰が」


 地響きのせいで床や壁、天井に亀裂が走り、一部が崩落し始めている。


「くそ。一々下に下りるのも面倒だし、ショートカットするか」


 俺は床に水を纏った剣を突き刺し、水を床の内部へと流し込んでいく。


「ミカエル。アリアたちがどの辺にいるか分かるか?」

「大雑把ではあるが、気配である程度の場所は把握できる。ここから数十メートル先のところにおるぞ」


 ならうまいこと床を破壊すれば、彼女たちを巻き込まずに済みそうだな。


「剣舞・水龍破壊剣!」







 カイツがウリエルの偽物との戦いを終え、アリアたちの元へ行こうとする少し前。


 ハイドの放った拡散型カウンターバーストは床を崩落させて壁を破壊した。辺りは土煙が舞っており、騎士団やケルーナの姿は見えない。


「ヘラクレスに教えたカウンターバーストの改良版、拡散型カウンターバースト。ここまでのダメージを吐き出せたのは初めてだよ。流石はフェンリル族だね。攻撃力が桁違いだ」


 土煙が晴れた先にはアリアが立っていた。彼女はラルカとケルーナを抱えており、あちこちを負傷して血を流している。


「アリア、お前」

「なんともない?」

「ああ。我は大丈夫だ」

「わっちも大丈夫やで。まさかあんたにあんたに助けられるとは思わんかったわ」

「もとより助けたつもりもないよ」


 彼女はそういってラルカたちを投げ飛ばした。


「ぎゃ!?」

「ぐえ」


 2人は素っ頓狂な叫びを出して地面に叩きつけられた。アリアは彼女たちに目も向けず、ジキルとハイドをにらみつけている。


「ふふふ。あのカウンターバーストをその程度で抑えるとは。恐ろしい俊敏性だな」

「だけど、もう私たちの勝利は見えたね。あんたができるのは私たちにダメージを提供することだけ。死なない私たちに勝つことは不可能。詰みってやつだね」

「ヴァルキュリア家の夢を何度も妨害して人類を不幸にした罪。きっちりと償ってもらうぞ」

「何言ってるか意味不明だし、勝利宣言されてるのもムカつくな。ほんとヴァルキュリア家のカスどもって、私の神経を逆なでするのが得意だよね」


 アリアは一瞬で距離を詰めてハイドたちに攻撃を仕掛ける。ラルカとケルーナは魔術も魔力も封じられ、高い身体能力もないため、ただ見ていることしかできなかった。


「くそ。何もできることがないな。我にもあの女のような身体能力があれば」

「悔しいのお。あんたらを助けるつもりやったのに、助けられてばっかり。ふがいなくて死にたくなるわ」

「……ここ最近、こういう無力感にさいなまれてばかりだ。非常に腹が立つ」


 ラルカは爪が食い込むほど手を強く握りしめる。


「これでは、崇高なる魔術師として失格だな。我は一体何のために」






 アリアは何度もハイドの体をバラバラに切り裂く。しかし、どれだけ攻撃しても体が再生してしまい、彼女は背中から炎の翼を生やした。


「無駄だって。あなたは私たちに勝つことは不可能。不幸をもたらす悪は、幸福をもたらす正義に勝てないのだよ!」


 翼による攻撃をアリアは飛んで躱し、そのまま背後に回る。首を落とそうとすると、紅いナイフが何十本も襲い掛かってきたので、それを避けて距離を詰める。


「ほお。ダメージを負ってるというのに動きが全く衰えない。神獣とは恐ろしいものだな」

「これぐらいのダメージなんて大したことないんだよ!」


 アリアはジキルの首を刈り取るが、彼はそれをなんとも思わないように翼で攻撃し、彼女はその攻撃を避けて距離を離した。首は即座に再生し、そのダメージをハイドが肩代わりして首が落ちるが、それもすぐに完治した。


「はあ、ほんとに厄介だなあ。どっちを攻撃してもすぐに再生して攻撃するばっかで。ほんとムカつく」

「戦いは強い者が勝つのではなく、最もタフな者が勝つ。この戦いでタフなのはお前ではなく俺たち。つまり、勝つのは俺たちだ!」


 紅い翼からいくつもの竜が飛び出し、アリアを喰らおうと襲い掛かる。彼女はそれらを爪で破壊していき、一気に距離を詰めてジキルの首を刈り取る。そのダメージはハイドが肩代わりし、彼は攻撃を仕掛けていく。


「ちっ。本当にめんどくさいな。けど少しずつ分かってきた」


 紅い翼の攻撃を全て弾いていきながら、彼女は2人の敵の能力を観察しながら言う。


「攻撃を肩代わりしてる間は、そこのゾンビ女は動けなくるんだね。つまりお前を攻撃し続ければ、ゾンビ女は実質拘束状態にできるというわけだ」

「この短時間でそこまで解明するとはな。だがばれたところで問題などありはしない」

「あんたが負けることに変わりはないんだからね!」


 再びハイドの両手に魔力が集まり始める。


「ちっ。あの技か」


 アリアはその攻撃を阻止できないことは分かっていたため、即座にラルカとケルーナを抱える。その直後。


「行くよお。拡散型カウンターバーストおおおおお!」


 ハイドの両手から真っ赤な巨大ビームが放たれ、それが無数に分裂し、四方八方から襲いかかった。その攻撃を必死に躱していくが、彼女は誰かを守るということに慣れておらず、そのせいで動きにブレが出てしまった。


「しまった」

「チャンス。死ねええええ!」


 何発もの攻撃が彼女に当たって大爆発を起こし、辺り一帯が煙に覆われる。


「さすがはハイド。あの一瞬の隙を見逃さないとはな。実に素晴らしい。それに、あれだけの攻撃を正確にコントロールする技術には惚れ惚れするよ。そういった技術はカーリー様よりも確実に上だろう。こんなにも可愛くて最強な女性の隣に立てるなんて。俺は幸せ者だよ」

「もうジキル。ほめすぎはダメだって言ってるでしょ。そういうの慣れてないんだから」

「おっと。それは悪かったな。でもこんなにも可愛い子の戦いを見てると、ついほめたくなるんだよ。それに、君は六神王最強だと俺は思ってるからな。どれだけダメージを喰らっても絶対に死なないそのタフさ。それを生かしたカウンターバースト。まさに最強と呼ぶにふさわしい女性だよ」

「ジキルったら。そんなに褒めても何もできないよ?」

「何もできないことはないさ。そうして微笑んでくれることが、俺にとって最高の褒美なんだから」


 2人は自分だけの世界に入ろうとすると、それを邪魔するかのように巨大な斬撃が2人の体を真っ二つにする。しかし、そのダメージは即座に再生した。


「まだ戦いは終わってないんだよ。気持ち悪いもの見せないでくれる?」


 アリアは口に溜まった血を吐き捨て、強い目でにらみつける。その体には先ほどよりも多くの傷が刻まれており、額からも血を流していた。


「ほんとめんどくさいな。魔術を使えたら一発で終わるのに」


 彼女はそういいながらラルカの方を見つめる


「? なんだ」

「あんたの魔術ってさ、いろんな鎖を出せる魔術だよね。封魔の首輪と同じ性能の鎖だったり炎の鎖だったり。そして、そういった属性を付与した鎖を生み出すには、その属性に長く触れ、解析しなければならない」

「よく知ってるな。どうやって調べた」

「過去を覗き見たんだよ。それより聞きたいことがあるんだけど、このフィールドに適応した鎖とか出せる?」

「無理だ。このフィールドは魔術の使用どころか魔力すら封じている。魔術が使えなければ解析などできぬし、鎖も出せん。そもそもフィールドを解析するなどやったこともないしな」

「ふーん。役立たずだねお前」

「貴様ああ」


 ラルカが彼女をにらんでいると。


「何をペチャクチャ話してるんだい?」


 紅いナイフが何十本も放たれる。彼女はケルーナを投げ捨て、ラルカを抱えたまま攻撃を避けて空中高く飛び上がる。


「何を話してるか知らないが、作戦会議をさせる余裕は与えない!」


 再び何匹もの紅い竜が喰らいつこうと襲い掛かってきた。


「獣王剣・楓!」


 腕を横に振ると、暴風のような風が彼女たちを包み込み、竜の攻撃を防ぐ。


「まあもしかしたらという可能性もあるし、いちかばちかでやるか」

「おい。一体何の話だ? お前は何をしようとしている」


 ラルカは猛烈に嫌な予感がし、顔を真っ青にする。アリアはまるでボールを投げるかのような体勢となり。


「必殺。人間ロケット!」


 抱えてたラルカをジキル達めがけて投げ飛ばした。


「ぎゃあああああああああ!?」


 ラルカは大量の涙を流しながら悲鳴を上げており、ジキル達はそんな彼女を面白そうに見ている。


「おいおい。まさか仲間を道具のように投げ飛ばすとはね。酷い悪党もいたものだ」

「でも、これはラッキーだね」

「そうだな。これで悪を1人、滅ぼすことができる!」


 ジキルは紅い翼を巨大な槍に変え、それを放ってきた。空中で投げ飛ばされてる彼女はそんな攻撃を避けることなどできず、魔術や魔力も使用できないので防御も不可能。


(まずい。この攻撃は避けられない。死ぬ、死んでしまう……我はまだ死ねない。崇高で偉大なる魔術師になるために)


 脳裏に浮かぶ過去の記憶。母が虐げられ、無残な生活を歩んできた悪夢が彼女の眼に映る。


『お前のかあちゃん水商売してるんだって? おっさんにべたべた触られながら仕事してるんだろ? きったねー』

『ラルカちゃんって服ぼろぼろだよねえ。もっと良い物買ってもらいなよ』

『おいおい無茶言うなよ。こんなのがそんな高尚な服着れるわけないだろ』

『なんせラルカ・ボンビーだもんなあ』


 聞こえないはずの声。いないはずの少年と少女。敵の攻撃が眼前に迫ってるにもかかわらず、脳を支配するのは過去の記憶と幻影ばかりだった。


(あの世界を変えるためにヴァルハラ騎士団に入ったんだ。あんな惨めな思いをしないために、偉大で崇高な魔術師になると決めたんだ。なのになぜ……なぜ我はこんな)

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