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第163話 偽物

 side カイツ


 俺とウリエルの戦いはほぼ互角ではあったが、少しばかりこちらが優勢ではあった。俺は奴から距離を離し、自身の周囲に青い球体を生み出していく。


「剣舞・五月雨龍水弾!」


 放たれた青い玉は奴のそばを通りすぎ、周囲の地面に着弾して爆発を起こしていく。第3解放で威力が上がってるとはいえ、さすがに爆風程度では奴にダメージを与えられなかった。


「どこを狙ってる。目が壊れたか?」

「壊れてないよ。俺が狙ったのはこれだ。剣舞・龍水剣!」


 俺が剣を突き立てて、龍水弾が着弾した場所に魔力を流す。すると、奴の周囲の地面から何本もの水の剣が飛び出して襲い掛かる。


「なに!? くっ!」


 奴はとっさに飛んで躱したが、足を深く切り裂かれた。メリナの真似事だが、思ったよりもうまく行ったな。


「ちっ。本当に鬱陶しい塵だな!」


 奴は再び蹴りを繰り出し、空気の斬撃を浴びせてくる。しかしその威力は低く、剣で弾くことができた。


「威力が大幅に落ちたか。ならば!」


 奴は一気に距離を詰めて後ろから攻撃してくるが、足にダメージを負ったことが影響してるのか、そのスピードは遅く、簡単に目で追うことができた。俺は後ろに蹴りを繰り出すが、奴は間一髪でその攻撃を躱す。だが。


「逃がさねえよ。剣舞・龍刃百華!」


 俺が横に剣を振ると、奴は間一髪で俺の剣の射程範囲から逃れた。


「惜しかったな。あと少しで剣が当たっていたのに」

「いや。これで十分だ」


 俺の言葉に奴が疑問を持った瞬間、無数の斬撃が奴の体をズタズタに切り裂いた。


「があ!? なぜ……斬られ――!?」


 奴は気づいたのだろう。周囲を舞う風に。


「貴様……風の力を」

「当たりだ。俺が扱えるのは水だけじゃないんだよ」


 風の力を剣に纏わせ、剣の射程範囲を上げた。水や炎を纏わせるよりは風の方が切れ味も上がって便利だな。そして、今の攻撃で魔力は大量に流し込んだ。


「これでとどめだ。剣舞・絶龍怨嗟!」


 指を鳴らすと、奴の体から血が吹き出す。口や目からは血を流しており、右腕が千切れかけている。内部からの爆発攻撃。これを2度も喰らったんだ。いくら四大天使といえど流石に限界のはず。


「負ける……わけにはいかない。女神のためにも! あの方のためにも!」


 傷だらけの体でも奴の勢いは衰えず、俺の方に殴りかかってきて、その攻撃を剣で受け止める。


「おいおい。それだけのダメージでまだ動けるのか」

「天使を舐めるな。塵とは頑丈さが違うんだよ!」


 奴のパワーは、満身創痍の者が出してるとは思えないほどに強い。奴の思いがここまでの力を出してるとでもいうのか。だとしたら恐ろしい。


「ミカエルへの思いは大したものだよ。でも、俺はこんなところで負けるわけには行かない」

「黙れ。貴様のような外道の塵が死ぬ場所はここだ!」


 奴は何度も殴りかかり、その攻撃を剣で受け止めていく。そして奴が剣を掴んだ瞬間、俺は風を纏わせてその手と腕をズタズタに切り裂いた。


「ぐう。こんなものでえ!」


 奴はそれでも手を離すことなく、俺を遠くに投げ飛ばした。その勢いは殺すことができず、俺は壁に強く叩きつけられた。壁はその衝撃でいくつもの亀裂ができるほどだった。


「があ!?」

「終わりだ。死ねえええ!」


 奴のこちらに接近して一撃を入れようし、俺は水を纏った剣を地面に突き刺す。


「剣舞・龍水剣!」


 水の刃が地面から飛び出し、殴りかかってきた腕を斬り飛ばした。


「ぐあ!? 馬鹿な……俺の腕を」

「終わるのはお前だ。剣舞・斬龍剣!」


 剣を上から振り下ろし、斬撃が奴の体を深く切り裂いた。斬撃はさらに遠くまで飛んでいき、向こうの壁まで届いた。


「馬鹿な……この俺が……塵ごときに」


 奴はその言葉を最後に倒れた。こっちだけ魔術を扱えるアドバンテージがあるというのに、ここまで苦戦するとはな。四大天使、本当に恐ろしい奴だ。


「まあいい。これでこっちは終わった」


 急いでアリアたちの元へ行かなければ。そう考えて彼女たちの待機場所へ行こうとすると。


「申し訳……ありません……ウリエル様」


 後ろから聞こえた声に俺は衝撃を隠せなかった。


「待て。お前はウリエルのはずだ。なんで自分に謝ってるんだ!」


 振り向くと、そこに倒れていたのは逆立つ炎のような髪の男ではなく、短いオレンジ色の髪の女性だったのだ。服装も白いローブの服に変わっていた。


「ウリエル様……あなた様の命令を遂行できぬ愚か者で……すいませんでした」


 その言葉を最後に、彼女は涙を流して絶命した。


「どういうことだ。俺が相手してたのはこいつじゃなかったはず。一体何が」

「やられたのお。これは影武者じゃな。妾の目を欺くとは大したものじゃ」


 小さい方のミカエルが実体化して現れた。


「影武者ってどういうことだ」

「そのままの意味じゃよ。こやつはウリエルの姿をした影武者だったんじゃよ。ほら、妾も何回か服を変えたり、ヘルヘイムでお主の顔を変えたりしたことあるじゃろ。あれを応用したものじゃろ」

「ならあの炎はなんなんだ。あれはニーアが言ってたウリエルの力にそっくりだったぞ」

「おそらくこやつの魔術は、他者の魔術をコピーするというものじゃろう。何かしらの条件はあるじゃろうし、出力はそこそこ落ちるみたいじゃがな。妙に炎の温度が低いと思ったが、そういうことだったんじゃな」


 あれで出力落ちてる方なのか。いや、今はそんなことはどうでもいい。


「じゃあ、本物のウリエルはどこに行ったんだ!」






 カイツ達のいる場所から遠く離れたケルーナの住処。そこにはウリエルとストリゴイが酒を酌み交わしていた。ウリエルは楽しそうに話を振ってるが、ストリゴイは無表情で相槌を打っており、彼がウリエルとの話をつまらないと思ってることは誰の目にも明らかだった。


「お前は良い酒を造るな。ここまでの美酒はどの世界でも稀だろう。さすがは我が見込んだ男だ」

「そうか。それより、君の部下が死んだみたいだが良かったのか? あれは君のことを愛していたんだろ。捨て駒のように扱うなんて、酷いことをするものだ」

「ふん。あの程度の人形などいくらでも作れる。あれがいなくなったところで何も変わりはしない」

「冷たい発言だな。あれを捨て駒に使った理由は何なんだ? ヴァルハラ騎士団の実力を見るためか?」

「あんなのはどうでもいい。俺が見たかったのは六神王だ。玩具レベルとはいえ、奴らは天使の力を人工的に生み出しているからな。その実力を見ておきたかった。面白いものも見れたし、比較的満足しているよ。それより、貴様こそ良かったのか? 部下のケルーナに六神王のことや人形のことを伝えなくて。下手したら、お前の可愛い部下が死んでしまうぞ?」

「どうでもいい。あれがどうなろうと俺の食生活になんら影響ないからな。多少は手間暇が増えるが、その程度のことだ。俺は人間の血(食料)さえ減らなければ、他人がどうなろうと興味ないんだよ」

「だから、人形に関する情報や六神王のことも伝えなかったと? 酷い奴だな。ケルーナはお前を慕っていたというのに。あまりにも冷たい対応で泣いてしまいそうだよ」

「あれが勝手に慕ってるだけだ。どう対応しようと俺の自由だろ。それに、騎士団のやることに介入しないことはあらかじめ伝えている。俺が情報を出し渋ろうと文句を言われる筋合いはない」

「ははははは! ほんと、お前は面白い奴だよ。そこまで変わった幽鬼族は見たことがない」


 ウリエルは楽しそうに笑うが、ストリゴイはそれに対して不快そうに眉をひそめる。


「うるさい奴だ。それより例の件、本当なんだろうな」

「ああ。そう遠くない未来、良質な家畜がお前の元に来るだろう。その代わりとして」

「俺の人形を貸せというわけか。その良質な家畜というのはなんだ。どこから出てくる?」

「聞いて驚け。ヴァルハラ騎士団さ」


 そう言うとストリゴイは涎を大量に垂らし、嬉しそうな笑みを浮かべる。ボトボトと床に落ちてるが、彼はそのことを全く気にしていなかった。


「それは良い。強い人間ほど血は美味しいからな。楽しみにしているよ」

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