第154話 神王の集結
とある館。壁や天井が真っ赤に塗りたくられており、肋骨を模したような骨の飾りがあちこちにある。そこには長い茶色の髪や黒い水で胸や股付近などを隠し、大人しめな顔つきと垂れた目の女性、カーリーが立っていた。彼女の隣には1人の少女が力なく横たわっていた。左目が赤く光っており、そばかすがあり、耳が片方ない。それに加え、口が裂けていて歯も気味の悪い青色になっている。口を大きく開け、目の焦点も合っていない。服は片腕をシャツの袖に入れていない、ズボンも片足入れていない、明らかに何かが歪だというのは誰の目にも明らかだった。
そこに2人の男がやってくる。スーツ姿の茶髪の男、プロメテウスとアロハシャツの男、ヘラクレスだった。
「その女、相変わらず馬鹿みたいな顔して寝ていますね。いや、寝ているという言葉すら相応しくないですね。そいつは寝ることさえ出来ないのですから」
「可愛いじゃないですか。なんの意思も持たずに倒れることしか出来ない存在。愚かで可愛らしいです」
「ま、そいつのことはどうでも良いです。アレクトはどこにいるのですか?」
「あそこにいますよ」
彼女が指さした先には1人の女性が座っていた。真っ赤で袖の大きいブリオーと呼ばれるドレスを着ており、真っ黒な刀を腰に掲げている。水色の髪をなびかせており、右のおでこから左下にかけて剣で斬られたような傷跡が残っていた。不機嫌そうな顔をしており、その目は底の見えない闇を抱えているようだった。
「よおアレクト。お前なんで勝手に撤退したんだよ。そのせいであと少しで満足できそうだったのにできなかったんだぞお! この渇きはどうすれば良いんだ」
「アレクト。自分の目的を果たすのも結構ですが、こちらの指示には従ってください。あなたは六神王の1人なんですから」
「ここに入る際、やりたいようにやらせてもらうと言ったはずだ。お前の指示に従う義務はない。私の目的は知ってるだろ」
「……はあ。カーリー様、六神王の人選、もう少しどうにかならなかったのですか?」
「ふふふ。楽しい人ばかりで良いじゃないですか」
「問題点がある人ばかりなんですが」
「おいおいプロメテウス。俺たちのどこに問題があるというんだ!」
そう言って現れたのは1人の男だった。金髪の髪にネックレスやイヤリングなど色々な飾りを着けており、白いシャツに黒のダメージジーンズを履いている。鎖を持っていて、その鎖の先には1人の少女が繋がれていた。青髪の少女で黒の袖なしワンピースを着ており、四つん這いで歩いている。どちらも左目が血のように真っ赤に染まっている。
「あなたたちのことですよ。ジキル、ハイド」
「おお、久しぶりだなジキル。ハイドは羨ましそうなことされてるなあ! 痛みによる満足も良いが、そういう屈辱による満足も良さそうだなあ!」
ヘラクレスが羨ましそうな目で鎖に繋がれた少女を見ている。プロメテウスはそんな様子を見てため息を吐く。
「今度は何のプレイをしてるんですか?」
「ふふふ。聞いて驚け。なんとお散歩プレイだ! いつかは裸で歩かせようと思っている。ついでに前にやったタコプレイとお散歩プレイも合わせたいと考えている」
「……くだらないですね。ハイドはそれに不満はないのですか?」
「うん。私はジキルが喜んでくれることをするのが嬉しいの。私は誰かのために何かをするのが一番大好きだから」
「ありがとうハイド。君のような美しい人がいて私は幸せだよ」
「私も君が喜んでくれて幸せ。何かしてほしいことがあったら言ってね。力になるから。私はあなたの、みんなの助けになることが一番の幸せだから」
「ああ、君はなんて美しい心を持った存在なんだ。美しすぎて目を開けられなくなりそうだよ。可愛いね、ハイド」
「ジキルもかっこいいよ。いつも誰かのためを思って行動して、恥じることなく自分をさらけ出している。そういうところがかっこよすぎて惚れ惚れしちゃう。」
2人はうっとりとした表情をしており、完全に2人だけの世界に入っている。
「美しい。美しいぞ! 素晴らしくうっとりした2人の世界! これこそが生きとし生ける者が生み出す芸術!」
そんな熱弁をしながらまた1人現れた。肉も皮膚もない骸骨人間であり、紫のローブを身に纏っている。
「2人だけのうっとりした世界。誰も立ち入ることの許されない楽園! こういうものこそ私は見ていたいのだ。しかし悲しいかな。生きとし生ける者には終わりがある。つまりこの楽園もいつかは消えてしまう。まるで咲き誇る花たちが枯れていくように。うおおおおおん!」
彼はいきなり膝をつきながら泣き出してしまった。眼球がないはずの彼の眼から涙が洪水のごとく流れている。ヘラクレスはそんな彼を見て高らかに笑う。
「はっはっは! 相変わらずハデスは面白いなあ。いきなり泣き出すしどこからそんな量の水分が出てるのやら」
「うるさいだけでしょう。相変わらずの泣き虫ですね」
「泣き虫言うなよおお! お前も俺と同じ立場になればきっとわかる。このような楽園がいつか消えることを想像すると、頭がおかしくなりそうなんだよおおおお!」
彼が尚も泣き続けてると、カーリーが彼の頭を撫でる。
「よしよし、辛いですね。でも大丈夫ですよ。私たちの計画が成就すれば、楽園は永遠のものとなります。貴方はもう悲しむ必要などないのです」
「そうだな。そのためにも、我はバンバン働くぞおお! 生きとし生ける者がみんな幸せでいれるようにするために!」
「頑張ってくださいね。さて、これで六神王みんな揃いましたね」
その発言にジキルが疑問を持つ
「みんな? ヴァーユはどうしたんだ? あいつはまだ来てないが」
「残念ながら、彼は殺されました」
「なんだって!? 悲しいなあ。あいつとは性癖の話で盛り上がっていたというのに。俺の性癖の唯一の理解者だったのに」
「うおおおおおん! ヴァーユが死んだとは悲しいぞおおおお! あいつの見せてくれる楽園は好きだったのにいいい!」
ハデスがまたわんわんと泣き、プロメテウスが鬱陶しそうに耳をふさぐ。
「悲しい。ヴァーユも幸せになってほしかったのに。殺した人は許せないよ。人が幸せになるのを邪魔する奴は、絶対に許さない」
「俺も許せない! 殺した奴は報いを受けさせてやる!」
「ふふふ。やる気を出してくれて嬉しいですね。我らの計画が叶えば、皆さんの願いもきちんと叶い、人類みんな幸せになれる。ですが、そのためには排除しなければならない敵がいます。それも複数」
それを聞き、ジキルとハイドは驚いたような顔をする。
「なるほど。ヴァーユを殺したのはその敵か。一体何者なのだ!」
「ヴァルハラ騎士団ですよ。その中でも最も警戒すべきなのは、イシスの名を与えられたニーア、ミカエルの器にして、呪われた男カイツ」
「カーリー様、その2人って確か、ヴァルキュリア家の裏切り者なんですよね?」
「ええ。彼らは私たちの理念に賛同できず、裏切った愚か者です」
「そうなんだ。理解できないよ。ヴァルキュリア家のやることは人類のためになるのに、どうして裏切るなんて馬鹿なことが出来るんだよ。ヴァルハラ騎士団にしたってそうだ。私たちの計画を邪魔して、みんなを不幸にしようとするなんて」
「その理由は、本人に直接聞いてみるとよいでしょう。どうやら彼らは、ウリエル討伐のためにルテイス地方に行くみたいです。メンバーはカイツ、クロノス、アリア、あとは雑魚の鎖人間。誰か行きたい人いますか? ちなみに、ヴァーユを殺したのはカイツです」
「なら参加する! 仇を討ちたいんだ!」
「私も行く。ヴァーユを殺した奴は絶対に許せない」
手を挙げる人は3人いた。ジキルとハイド、そして先ほどまで無干渉だったアレクトであり、それにジキルが興味深そうに見る。
「おや、君も参加するのか」
「ああ。討伐メンバーの中に殺したい奴がいる」
「そうか。ハデスはどうするんだ?」
「やめておくよ。我は人を殺すのは嫌いだし、痛い目に合わせるのも嫌だ。たとえ敵であろうとね。我の愛は全ての生きとし生ける者に与える。依怙贔屓などできない」
「では、これでメンバーは決定ですね。あ、六神王候補のあの男も連れて行ってください。もういらないですし、適当な捨て駒にして構いません」
「分かった。準備するぞ、ハイド。アレクト、30分後に集合だ。きっちり準備を整えろよ」
「了解」
「……私に命令するな。不愉快だ」
ジキルとハイドが一緒になり、アレクトと別れて散り、出発のための準備をしに行った。
「ふふふふ。楽しい余興になりそうですね。期待していますよ。私が求めた美しき器、カイツ・ケラウノス」