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第146話 認めさせるために カイツVSアナザー・ミカエル

 side カイツ


「六聖天・第2開放!」


 背中の翼は2枚に増え、手元に紅い光の剣を生み出す。そして、両手にヒビのような模様が入り、手首まで広がった。アナザー・ミカエルは、そんな俺の姿を見て鼻で笑う。


「ふん。第2開放の時点で体にヒビが入るとは、ずいぶん貧弱じゃな。その感じだと、第3開放は短時間しか使えなさそうじゃな」

「だったらなんだよ?」

「その程度の雑魚は妾の相手にならんのじゃよ!」


 彼女は水の槍を何本も生み出して放ってきた。その攻撃は全て剣で弾き、俺には届かなかった。


「! 貴様」 

「ずいぶんと攻撃のスピードが鈍いな。アリアとの戦いで疲れたか?」

「ふん。多少妾が弱った程度で調子に乗るな!」


 彼女が両手を合わせると、俺の足下に赤い魔法陣が現れた。


「燃えろ!」


 魔法陣から巨大な炎が巻き上がるが、それを躱して一気に距離を詰める。


「剣舞」

「蛆が。妾に近づくな!」


 彼女の周囲から強烈な風が吹きすさび、距離を離されてしまった。どうやら相当近づかれたくないようだ。アリアの言う通り、あいつは俺を怖がっている。だがそれなら、なぜアリアと戦ってる時に攻撃しなかった。その余裕がなかったのか、あるいはほかの理由が。


『カイツ』

「分かってる。考え事する前に、まずは何とかして距離を詰めないとな。六聖天 脚部集中!」


 足に六聖天の力を集中させ、彼女の周りを飛びまわりながら翻弄する。


「ふん。その程度の動きで妾を翻弄できるとでも? 遅すぎて止まって見えるわ」

「なら躱してみろよ!」


 後ろから接近して攻撃を仕掛けるも、彼女は飛んで躱し、青い魔法陣を前に出す。


「死ね」


 魔法陣から無数の水の剣が飛び出す。


「剣舞・龍封陣!」


 刀を突き出し、その切っ先から紅い魔法陣を展開する。それは盾となり、水の剣を防いだ。


「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 いくつもの紅い球体を生み出し、それを彼女に向けて放つ。しかし、彼女は空中を自由に移動し、その攻撃は全て避けられていった。


「腐っても四大天使。そう簡単には当てられないか」


 龍炎弾を撃ち続けるが、彼女は簡単に躱しており、掠りもしない。ならば。


「五月雨龍炎弾 白!」


 周りにある紅い球体が白色に変化する。威力をほとんど0にする代わりに速度特化させたもの。普通はこんなのは使わないが、当てることを優先するためにはこうするしかない。先ほどよりも3倍以上の速度で彼女の元へと飛んでいく。


「! 貴様、面倒なことを」


 どういうわけか、彼女は動くこともせず、白い龍炎弾のほとんどが直撃した。


「があ!?」


 彼女が苦しそうな声を出すと、体の一部が赤い粒子とって空を舞い、俺の方へと向かっていった。


「なんだ!? あの粒子は」


 粒子は吸い込まれるようにして俺の方へ行き、体の中に吸収された。


 なんだ。粒子が入った途端、少しだけ力が回復したような気がした。というかちょっと待て。気になることがあまりにも多すぎる。あの赤い粒子は何だ。それに、なんで彼女は俺の攻撃を避けようともしなかった。いくら速度特化させたとはいえ、あんなに直撃することはありえないと思うが。


『なるほどのお。やはりそういうことか』

「ミカエル。何か分かったのか?」

『ああ。じゃが話してる暇はなさそうじゃ』

「だな」


 無数に飛んでくる水の槍を躱し、俺は彼女と距離を取った。


「ぐう……面倒なことをしてくれたのお。蛆が」


 間違いなく効いてるな。アリアの攻撃を喰らった時よりも苦しそうだ。どういう原理かは分からないが、俺の攻撃は威力に関係なく通用する。

 そして恐らくだが、攻撃を当てれば当てるほど、彼女の力を吸収できる。彼女から漏れた赤い粒子を吸収した時にほんの少し力が回復したし、この推測は間違ってないだろう。


「雑魚の癖に鬱陶しい奴じゃの。それに、その力はかなり危険なものじゃ」

「なら、なんで俺を攻撃しなかった。俺をチラチラと見る余裕はあったのに、攻撃する余裕は無かったのか?」


 そう聞くと、彼女はバツが悪そうに視線を逸らす。


「攻撃できんかったんじゃろ。お主の中におるものを警戒してたから」


 ミカエルがそう言いながら実体化した。


「どういうことだ?」

「あやつはお主の中におる寄生体、ネメシスを警戒していた。じゃから下手に手を出すことが出来んかったんじゃよ。違うか?」

「チッ……半身が余計なこと言いおって」

「ついでにもう1つ余計なことを言ってやろお。お主がカイツを恐れる理由は、六聖天が理由じゃろ? 六聖天は妾たちにとって命とも呼べるほど大切な力。それを持つ者と持たない者では、持たない者が力負けするのは必然とも呼べる」


 なるほど。だからあいつは俺の攻撃を喰らわないように距離を取ってるわけか。それが分かれば後は簡単だ。奴に攻撃をぶつけて力を取り込む。


「弱点が分かった程度で調子に乗るな。いくら弱くなろうと、弱点が理解されようと、貴様程度に負ける妾ではないわ。それに我が半身がそちらにいる今、お主の中におる寄生体を恐れる理由も無い!」


 彼女は両手を広げると、無数の魔法陣が現れた。そこから大量の水が噴き出し、8匹の巨大な龍へと変貌していく。


「食らいつくせ。ヤマタノオロチ!」


 8匹の龍が大口を開け、こちらに襲いかかってくる。


「うおっ!?」


 横に飛んで回避するも、龍たちは俺を食らおうと追いかけてくる。


「しつこいな。剣舞・龍刃百華!」


 横一閃に光の剣を振るうと、無数の斬撃が龍たちをバラバラに切り裂く。しかし、奴らはすぐに再生して再び襲いかかってきた。


「やはり駄目か」

「無駄じゃよ。そやつらは水で出来た存在。物理攻撃は一切通用せぬ。これで終わりじゃ」


 ま、水を剣で斬ることなんて出来ないからな。なら別の方法で始末するだけだ。


 8匹の龍全てが大口を開け、俺の視界を覆い尽くす。何もしなければ、あと1秒もしないうちに俺は奴らの腹の中だろう。


「ここだ。剣舞・龍烙波動!」


 体にありったけの魔力を込め、それを灼熱の衝撃波にして放つ。水の龍たちはその熱によって蒸発していった。


「ちっ。面倒なことしてくれるのお」

「一気に終わらせる!」


 距離を詰めるために飛び出そうとすると、足元に魔法陣が出現し、次の瞬間には俺の視界が反転していた。


「!? これは」


 いつの間にか俺は空中に投げ出されていたのだ。恐らくこれは、彼女の転移魔術。俺を空中へと転移させたのか。突然のことに戸惑ってしまい、そこを突くようにアナザー・ミカエルが動く。


「これで終わりじゃ!」


 彼女が指を鳴らすと、炎の龍が俺に襲いかかり、俺の体を焼いていく。その炎は俺の中まで焦がすかと思うほどの高熱で、体中が悲鳴を上げた。


「ぐああ……こんなところで……負けられるか。剣舞・龍刃百華!」


 横一閃に剣を振るって無数の斬撃を放ち、斬撃による風圧で炎をかき消した。だがダメージは大きく、無理に過去を書き換えたことも影響して膝をついてしまった。視界がぼやけてるし、今にも意識が落ちそうだ。


「ふん。もう限界か。やはり弱い奴じゃのお」

「くそ……流石にきついな。だけど!」


 俺は足に六聖天の力を集中させ、全力のスピードで彼女の背後を取る。攻撃しようとしたが、彼女は一瞬で姿を消してしまった。


「遅いわ。その程度のスピードでは妾には追いつけぬ」


 声のした方を見ると、彼女はいつの間にか上空に立っていた。


「ほら。そこにおったら危ないぞ」


 彼女がそう言うと、俺の足元に赤い魔法陣が現れ、床を大きく抉るほどの大爆発が俺を襲う。


「がああ!?」


 爆発の炎と衝撃波に襲われ、壁に叩きつけられてしまった。


「くそ……面倒なことしてくれるな」


 多彩な手札に強力な攻撃。まるで相手にならない。どうしたものか。このまま距離を取られ続けると勝てそうにない。どうにかして距離を詰めようにも、俺のスピードは奴に見切られてる。


「そろそろ終わりにしてやろう。身の程知らずに相応しい罰を与えてやる」


 彼女は巨大な赤い魔法陣を展開する。とてつもない魔力の圧だ。恐らく、あれで勝負を決めるのだろう。何か、何かないか。彼女に対抗するための武器。


『! 貴様、面倒なことを』


 そういえば、彼女は白い龍炎弾が直撃していた。あれはなんで避けられなかった。攻撃が見きれなかったわけでもないだろうし……まさか!


「悪いが、俺は負けられないんだよ!」


 俺は手のひらに白い光のナイフを3本生み出した。攻撃力を0にする代わりに剣を伸ばす速度を上昇させたもの。本来ならこんな剣は何の役にも立たない。だが今は。


「行け!」


 俺がそれを彼女に向けて投げると、彼女はそれを避けることもせず、腹と足に突き刺さった。


「ぬう!? 貴様……まさか」

「思ったとおりだ。この攻撃は当たる!」


 アナザー・ミカエルの体から赤い粒子が血のように流れだし、それが俺に吸収されていく。


「くそ。鬱陶しい剣じゃの!」


 彼女の周りに強烈な風が吹きすさび、ナイフは吹き飛ばされてしまった。攻撃力のないナイフだとあんなものか。だが。


「ぐうう……力が」


 明らかにダメージを受けている。そして彼女の弱点がもう1つ分かった。


「お前。視力が低下してるんだろ。恐らく、白いものが見えにくくなっている。アリアとの戦いで負ったダメージが原因だな?」


 過去を破壊されたことで彼女の身体能力や五感の機能が低下しているんだ。だから白い龍炎弾や白い剣を避けることが出来なかった。少しではあるが、希望が見えてきた。この希望は絶対に活かす。彼女を俺のものにするためにも。


「鬱陶しい奴じゃの。そうまでして妾が欲しいのか?」

「ああ。今の俺には力が必要だ。だからお前が欲しい」

「貴様は妾の力を得て何を為したい? 身の丈に合わぬ力をそこまで求める理由は何じゃ?」

「弱者の虐げられない世界を作るためだ。そのためにミカエルの力が必要なんだよ」

「笑わせるな。弱者の虐げられない世界などこの世にありはしない。弱肉強食。それがこの世の真理なのじゃよ。どれだけお主が頑張ろうと、その真理は変えられはせん。そんな夢みたいな理想はガキの頃に卒業しとけ」

「だからなんだ。お前がどう思うかは知らねえが、俺はこの理想を諦めるつもりはないし、必ず叶える。この世には弱者を食い物にする外道が多すぎて吐き気がする。だからそいつらを全員皆殺しにして、この世界を変える!」

「……ふん。どうやら妾が思っていた以上に馬鹿みたいじゃな。そんな強い瞳で夢みたいな理想を語る大馬鹿は初めて見たわい。妾の力を得たとして、本気で世界を変えれると思うのか?」

「変えるさ。お前たちには新しい世界を、楽園を見せてやるよ! 弱者が虐げられず、人々が幸せに暮らせる世界を!」


 そう言うと、彼女は顔を下に向け、表情が分からなくなる。


「新しい世界、楽園か。真顔でそんな馬鹿らしいことを言うとは。心はまるでガキのようじゃ……く、くふふふふふ。くははははははは!」


 彼女は涙を流すほどに大笑いしており、呆気にとられてしまった。


「くははははは! 笑いが、笑いが止まらんわ。ははははははは!」


 どれだけ笑ってるんだ。俺の理想を聞いてここまで大笑いした奴はいなかったぞ。


「くはははははは! 腹が痛くて仕方ないわ。なるほどのお。我が半身がお主を器に選んだ理由、少しだけ分かった気がするわい。じゃが、妾は半身ほど甘くはない」


 彼女は自身の手に巨大な赤の魔法陣を展開させた。魔法陣からは今まで感じたことがないほどの膨大な魔力が集まっており、大地が揺れていた。凄いな。ここまで強大な魔力を操れるとは。


「この攻撃をノーガードで耐えられたなら、お主のことを認めてやろう」


 ずいぶんとえげつない条件だな。生半可な肉体じゃ即座に消し炭だ。


「魔力で肉体を強化することは許してやる。お主が出来る最高の肉体強度で受けるが良い」

「良いだろう。お前を手に入れるためにも、必ず耐えきってやる。禁忌・第3解放!」


 全身に激痛が走り、意識が朦朧としてくるるが、まだ大丈夫だ。少しずつではあるが体が慣れてきている。そんな俺を見かねたのか、ミカエルが呆れたように呟く。


『全く……当たり前のように第3解放使っとるのお』

「短時間なら問題ないだろ」

『問題ないわけではないんじゃが……まあいいじゃろ。全力でやれ。妾がなんとかしてやる』

「サンキュー。そういうところ大好きだよ。ミカエル」

『惚気てる暇があるなら構えろ。来るぞ』

「ああ」


 俺は光の剣を消し、ノーガードの体勢を取る。


「準備が出来たようじゃな。ゆくぞ!」


 魔法陣から巨大な炎が放たれ、俺を飲みこんだ。






 アナザー・ミカエルの放った巨大な爆炎はカイツを飲みこみ、城を貫いて空の彼方へと飛んでいく。その炎の威力はとてつもないもので、射線上だけでなく、射線の近くにいる生物も一瞬で灰にし、空に浮かぶ大地を溶かし貫くほどの高熱を持っていた。


 城は炎の熱によって半分が融解しており、100℃近くの熱気に包まれていた。常人なら即死するような環境だが、アナザー・ミカエルもボロボロになってるアリアも特に問題なく過ごしていた。


「さて。雑魚は簡単に灰に出来る技じゃが、お主はどうじゃろうな。カイツ・ケラウノス」


 炎が消えると、カイツはそこに立っていた。全身に酷い火傷を負っており、片足と片腕が炭のように黒焦げになっており、一部が灰になって空を舞っている。普通なら立つことも儘ならない状態であり、意識も既に消えているが、彼はそれでも膝をつくことなく立っていた。


「ほお。意識が消えてもなお、倒れることなしか。何が何でも妾を手に入れたいという欲を感じるわ。くふふふふ。合格じゃ! お主に力を貸してやろう。カイツ・ケラウノス!」

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