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第137話 海上の激戦

「はっはっはっはっは! 良いぞお。もっと頑張ってくれよ!」

「くそ。随分と余裕そうだな」


 俺とヴァーユは何度も斬り合っていた。実力はほぼ互角。この状態なら奴とも戦えるし、六聖天で研ぎ澄まされた目が空気の剣を捕らえる。


「良い剣筋だ。こいつはどうかな!」


 奴が腕を突き出すと、俺の体が固定され、息をするのも苦しくなってきた。


「はあ!」


 俺は体に力を込め、固定された空気を破壊した。どうやら一定以上の力を入れれば破壊できるようだ。


「おっと。空気の固定が役に立たないな。なら!」


 奴が腕を上げると、ナイフのように小さな空気の刃が何十本も現われた。


「落ちろ」


 空の剣が一斉に俺に向かって降り注いだ。


「剣舞・龍刃百華!」


 横に一振りすると、無数の斬撃が空気の剣を弾いた。空気の床を蹴り、一気に距離を詰める。


「剣舞・斬龍剣!」


 刀を上から振り下ろすも、奴はその攻撃を空気の剣で受け止めた。その衝撃によって床にヒビが入り、少しばかりめり込んだ。


「はっはっはっは! なんつう威力だよ。とんでもねえな!」


 奴は俺の刀を弾いて距離を取り、腕を突き出した。


「吹っ飛べ!」


 空気の壁が襲い掛かかり、俺はそれを切り裂いて突破した。


「たく。ポンポン無力化されるなあ。しんどくなるから使いたくなかったけど、やるしかないか」


 奴が指を鳴らすと、背中に生えてた4枚の黒い翼が粉のように舞い、無くなっていった。


「何をした?」

「面白いことさ。俺は六神王の中でも翼の性質がちょっと特殊でな。粉のようにして空中にばらまき、こんなことが出来る」


 奴が空気の剣を作って斬りかかる。その攻撃を受け止めた瞬間、刀にヒビが入ってしまった。


「なに!?」

「驚いたか? これが俺の本当の力だ!」


 奴はそのまま刀を弾き、俺を吹き飛ばした。


「くそっ」

「まだまだあ!」


 今度は奴の手に巨大な空気の槌が造られ、俺の体を上から叩き潰した。その衝撃で空気の床がめりこみ、骨も何本か持っていかれた。


「があ!?」


 さっきまでとは比較にならない。ふざけたパワーをしてやがる。


「ははははは! まだ死んでくれるなよ!」


 空気の槌を消すと、今度は大量の空気の槍を造り、それを放ってきた。


「何度も喰らうかよ。剣舞・龍刃百華!」


 刀を横に一振りして無数の斬撃を生み出し、槍の攻撃を全て弾いた。威力は高くなったが、魔力を刀に集中させ、剣舞で防げば問題はない。


「面白い。ならこいつはどうだ!」


 奴が腕を突き出すと、巨大な壁が襲いかかってきた。刀で防ぐも、それを斬ることは出来ず、大きくふっ飛ばされてしまう。


「ちっ。とんでもないパワーだな」


 足に魔力を集中させ、六聖天の力を使って海面に着地する。


 なるほど。第3解放、少しずつ分かってきた気がする。かなり何でもありな能力になってきてるみたいだ。流石はミカエルの力といった所か。


 前を見ると、奴の姿はいつの間にか消えていた。見失ったが気配を読むことは出来る。


「後ろか!」


 振り返って刀を振ると、奴はその攻撃を空気の剣で受け止め、距離を取った。刀に魔力を集中させれば、ダメージはある程度抑えられるが、長引くのはまずいな。短期決戦で行かないと。


 足元を見ると、小さな空気の足場を作ってるのが見えた。浮き輪のようなものか。ずいぶんと器用なことをしやがる。


「やるねえ。にしても、 海の上に立つとはなかなか面白い技を使うじゃないか。もっと色んなものを見せてくれよ!」


 奴が腕を上げると、海中から何本もの空気の剣が飛び出して襲いかかってきた。厄介だが、剣が飛び出す際に海面が弾けるから、さっきよりも躱しやすい。


「この程度の攻撃なら。剣舞・双龍剣」


 飛んでくる剣を避けながら奴との距離を縮めていく。


「剣舞・爆龍「甘いな」」


 奴が指を鳴らして身を屈めた瞬間、背中に大量の何かで刺されたような痛みが襲いかかる。


「があ!?」


 なんだこの痛み。まるで、刀の破片が入り込んできたような。


「隙だらけだぞ」

「しまっ!?」


 回避どころか防御する余裕もなく、奴の空気の剣で体を右肩から左斜め下に深く切り裂かれた。


「もういっちょ!」

「させるか!」


 奴が攻撃する前に間に龍炎弾を生み出し、無理矢理距離を開けた。


「おっと」

「ぐ!」


 多少の火傷は負ったが、何とか距離を離すことが出来た。だが今の攻撃は何だ。あいつは何をしたんだ。


「驚いてるようだな。せっかくだし、種明かししてやるよ!」


 奴は俺の周囲に何本もの空気の剣を作り出した。


「何をする気だ」

「まあ見てなって。弾けろ」


 その瞬間、空気の剣が砕け、四方八方から無数の刃の破片が襲いかかる。


「剣舞・龍封陣!」


 周囲に紅い魔法陣を展開し、その攻撃を防いだ。


「おっと。流石に防がれるか」

「驚いたよ。まさかそんなえげつない攻撃をしてくるとはな」

「そこら辺の雑魚と違って、魔術を鍛え上げてるから出来るんことだ。そら行くぞ!」


 奴は俺との距離を詰め、2本の空気の剣で斬りかかってくる。その勢いは凄まじく、防御に専念するだけで手一杯だった。こいつ、さっきよりもスピードが上がっている。


「はっはっはっは! だいぶ温まってきた。どうした? 反撃しないのか?」

「うるせえ。その隙を伺ってたんだよ」

「そいつは悪かったな!」


 奴の猛攻は尚も続き、どんどん捌くのが難しくなっていく。


「このお」

「ははははは! 良いねえ。ここまで骨のある戦いは久しぶりだよ。お前がヴァルキュリア家にいてくれたらどれほど良かったか!」

「ざけんな! あんな人殺し一家の元にいる気はねえんだよ!」

「それは否定しないが、そんなのが気にならなくなるくらい、あの家は楽しいぜ。でっかい理想持った奴とか、マゾヒストとか真面目眼鏡とか個性派が多くて毎日お祭り騒ぎだ。こんなにも素晴らしい一族をなんで否定するのさ?」

「てめえとは話が合わないということが理解できたよ。個性派だのお祭り騒ぎだの関係ない。弱者を食い物にするてめえらの行動が許せないから、俺はお前たちを潰すんだ!」

「そうかい。それは残念だ。ならここで死にな!」


 その言葉と共に、奴の攻撃が更に激しさを増していく。少しずつ切り傷がついてきてるし、刀のヒビが大きくなってる。このままだと確実に負けるし、どこかで隙を見つけないと。


 この状態で試したことは無いが、いちかばちかやってみるか。


「剣舞・龍烙波動!」


 体にありったけの魔力を込め、それを灼熱の衝撃波にして放つ。


「ちっ」


 奴もこれは喰らいたくなかったようで距離を離した。


「六聖天 脚部集中!」


 足に六聖天の力を集中させ、一瞬で奴の背後に回り込む。その際に足から血が噴き出したが、そこまで問題はない。


「はや!?」

「剣舞・爆龍十字!」


 2本の刀で十字型に奴の体を切り裂く。しかし、その攻撃は空気の鎧に阻まれ、体まで届かなかった。


「あぶねえ。けど残念だったな。攻撃は届かない」

「それはどうかな。受け取れ!」


 切り裂いた部分が爆発を起こし、空気の鎧を破壊してダメージを与えた。


「ぐ!? このお」

「やっと攻撃が届いた!」


 このチャンスを逃すわけには行かない。もっと攻撃を叩き込む。


「剣舞・四龍戦禍!」


 2本の刀で4つの斬撃を高速で放ち、奴の体を切り裂く。


「がふ!?」

「剣舞・双龍百華!」


 2本の刀で龍刃百華の2倍以上の斬撃を放ち、奴をズタズタに切り裂いた。傷の大きさも深く、確かな手ごたえを感じる。


「ぐう……まさかここまで」

「剣舞・五月雨龍炎弾!」


 無数の龍炎弾を奴にぶつけ、大爆発を起こす。奴は全身を焼かれながら大きくふっ飛ばされた。


「ごはっ!? はははははは! やるじゃねえか。俺をここまで追い詰めるとはな!」


 奴は体勢を立て直し、また海面に着地した。


「だが、お前はここまでだ!」


 奴が腕を振り下ろすと、何本もの空気の剣が降り注いできた。


「剣舞・龍封陣!」


 頭上に紅い魔法陣を展開し、降り注ぐ剣を防いでいく。


「はははははは! 良いねえ。もっと耐えてみせろお!」


 奴が両手を合わせると、周囲にいきなり黒い粉が出現した。その濃度はかなり濃く、視界が遮られるほどだ。


「これは!?」

「ふふふ。なあ知ってるか? 粉塵爆発ってやつを」

「!? てめえまさか」

「ははははは! 自分の末路に気付いたようだな。お前はここで終わりだ!」


 前方に小さな火の明かりが見えたかと思った瞬間、視界が真っ赤な炎で染まった。それと同時に、無数の刃の破片が襲い掛かって来るのも見えた。






 爆炎がカイツを包み、ヴァーユは笑みを抑えきれなかった。粉塵爆発による爆発と同時に放った刀の破片の無差別攻撃。確かな手ごたえも感じており、彼にダメージを与えてるという確信があった。


「はははは。はははははは! さすがにこれで死んだだろ。いくらミカエルの器といえど、あれだけのダメージを受けて無事なわけがない。ははははははは!」


彼は勝利を確信し、高笑いをあげる。今まで会ったことのないレベルの強敵を倒したという爽快感が、彼の心を満たした。


「にしても、疲れたなあ。ミカエルの器とはいえ、ここまでやるとは思わなかったよ……ぐ!?」


 彼は痛みに苦しんで膝をついた。カイツとの戦いで負ったダメージは大きく、熾天使(セラフィム)の力を維持するのもやっとだった。


「はぁはぁ……こりゃ、イシスを倒すのはまた今度だな。今日はここで退散するか。奴との戦いはまた今度にしよう」


 帰ることに決めた彼は、疲れを少しでも減らすために体の力を抜き、身に纏っていた空気の鎧を消した。



 その直後、何本もの雷の矢が彼に突き刺さった。


「……なに?」


 彼が矢が放たれた方に視線を向けると、遠く離れた距離、家の屋上からウルが笑みを浮かべていた。


「やっと隙が出来たわね。待った甲斐があったわ。このまま内部を焼いてあげる。サンダーフロー!」


 矢から流れる電流が彼の肉体を内部から焼いていく。


「がああああ!? しまった……狙撃手がいるのを……忘れてた。だが……この程度の攻撃なら」


 熾天使(セラフィム)の力を使い、雷をむりやり抑え込んで威力を弱めた。ウルの迎撃に行こうとしたが、彼は爆発があった場所をちらりと見ると、妙な違和感を感じた。


「あれは、鎖の破片?」


 粉塵爆発のあった場所には、鎖の破片が散らばりながら海に沈んでいた。


「まさか、あの角女が生きてるのか? ならまずはあいつを」


 標的を変え、彼がラルカの元へ行こうとした瞬間、嫌な気配を感じ、即座に後ろを振り返った。そこには倒したはずのカイツが今にも攻撃しようとしていた。彼の傍にある海面には、トンネルのように開いてる穴があった。


「なっ……なんでお前があ!」

「うおおおおお!」


 カイツの攻撃を防ごうとしたが、体に流れる電流のせいで魔術を上手く扱えず、片腕を切り落されてしまった。


「ぐ!? しまった」

「吹っ飛べえええ!」


 カイツの蹴りが顎にヒットし、彼は空中にふっ飛ばされてしまう。


(まずい……はやく熾天使(セラフィム)の力を使わないと)


 焦る彼だが、電流のせいで体を上手く動かせない。そしてその間に、カイツは最後の攻撃の準備を整えていた。


「魔力解放 剣舞・神羅龍炎槍!」


 空高く飛び上がり、炎を纏った刀がヴァーユを貫いて空高く上がっていく。


「があああああああああ!?」

「うおおおおおお!」


 炎はまるで龍のような姿となり、灼熱の炎はヴァーユの体を灰と化すまで焼いていく。


「馬鹿な!? 六神王の俺が……こんなところで……こんなところでえええ!」

「これで本当の終わりだ。消し飛べえええええ!」

「があ……あああああああああ!?」


 炎は更に勢いを強め、ヴァーユの体を焼き尽くした。彼のほぼ全身が炎によって灰になっており、かろうじて残った部分も、今にも風に舞って散ろうとしていた。


(くっそお。こんなところでおしまいかよ……まあ良いさ。最後までそれなりに楽しめたからな。後はお前らヴァルハラ騎士団が六神王に虐殺されるのを、地獄で眺めるとするか。はっはっはっは! 想像するだけで笑いが止まらねえよ。ま、笑う口はもうないんだけどな。はっはっはっはっはっは!)


 彼は脳内で高笑いしながら、その命を終えた。カイツの方は精根尽き果て、六聖天の力も既に解除されて地上に落下していた。


「終わった……ようやく1人。苦労したなあ……それに」


 彼は持っていた刀だったものを見る。六聖天の力によって刀も燃やされて灰となり、空に舞っていた。


「無茶させすぎたか……お気に入りだったけど、まあ仕方ないか。新しいの調達しよ」


 限界を迎え、彼の意識はそこで途絶えた。力なく地上に落下していると、それを抱えて救出する者が1人。真っ白な髪に、血のように赤い瞳。そして右目に眼帯をし、黒い翼を3対6枚生やして空を飛ぶ女性、ニーア・ケラウノスだった。

 彼女は聖母のような笑みでカイツに微笑んでいる。


「お疲れ様、兄様。よく頑張ったな。後で私がなでなでしてやる」

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