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第125話 ミカエルとの契約

 しばらくして目を覚ますと、俺は雨が降りしきる森の中にいた。自分の景色が信じられなかったが、周りを見て現状を把握することが出来た。周りの床が焼け焦げており、壁や部屋の設備が消し飛んだり炭になったりしていた。そこから先は隕石が落ちたかのような巨大で深いクレーターがあり、底が見えなかった。俺を中心にして小さな足場があるということが分かった。


「なんで……こんな……?」


 腕を動かそうとした俺は、その時になってようやく自分の状態に気づいた。半身が消し飛んでおり、右腕が無くなっていた。


「くそ……ネメイツたちも守れずに……このザマかよ」


 痛みはなく、ただ意識がゆっくりと消えていくような感覚。何も考える気が起きず、ただ死ぬんだということだけが理解できた。


「ネメイツ、ニーア、テルネ……ネメシス……俺は、お前たちを守るために」


 そう決意したはずなのに誰も守ることも出来ず、全てを失い、ネメシスに刺されて恨まれる始末だ。こんな馬鹿な奴が誰かを救うなんて、滑稽も良いところだ。


「そんな俺には……相応しい結末かもな」


 雨に濡れていると、少し先に見える森に淡い紫色の光が見えた。その光は徐々に近づいて行く。それは紫色の球のようで、森を抜けて俺の前に現れた。


「誰だ……お前」

「妙な気配を追って来てみれば、どえらいことになっとるのお。この爆発はお主が原因じゃな?」

「さあ……多分そうなんじゃないか」

「……まともに会話する気なさそうじゃの。しかし、人間がここまでの力を持ってるとは思わんかった」

「人間……てことはお前は、人間じゃないのか」

「ほお。そんな状態なのに頭の回りは早いんじゃな。凄いもんじゃ。くふふふ。少し興味が湧いてきたわ。お主、生きたくないか? 妾の力なら、お主の体を完全に治す事が出来るぞ」

「俺の体を……治せるのか?」

「ああ。損傷が酷いが、妾の力ならその程度の傷は簡単に治せる。妾は最強にして崇高なる精霊。全盛期より力は劣るものの、人間の修復ならちょちょいのちょいじゃ」


 ずいぶんと大言壮語な精霊だな。だが、彼女の言ってることが本当なら。


「それなら……ネメイツとテルネ、ネメシス、ニーアを生き返らせてくれ!」

「誰じゃそいつらは?」

「大切な人たちだ……彼女たちを殺した俺に生きる価値はない……だから頼む……その力は俺じゃなくて、彼女たちを生き返らせるのに使ってくれ! あいつらには元気でいてほしいんだ!」

「それは構わぬが、妾が他の者たちの治療に専念しとったら、お主は死んでしまうぞ。それでも良いのか?」

「そんなことはどうでもいい! 俺はあいつらを守れずに殺してしまった……ならせめて、生き返らせて自由を与えたいんだ……頼む!」

「……面白い男じゃな。そんなボロボロになっても、自分のことなど気にせず、他人を助けると。なぜそこまでする。お主にとって、そやつらがなんだというんじゃ」

「大切な人たちだ。俺に優しさや愛情、ぬくもり。数え切れないほどの多くの物をくれた。だから俺は、そいつらを助けたいんだ……彼女たちが死ぬのは嫌だし、恩返しも出来ないままに別れるなんて嫌だから」

「ふむ。なるほどのお。くふふ。くふふふふ、ほんとに面白い人間じゃ。気に入ったぞ」


 そう言うと、紫の光の球が変化し、ある形へと変わっていく。天使を思わせるような羽が3対6枚生えており、髪は俺と同じ銀色。髪は腰まで伸ばしており、美しくなびいている。頭からは狐のような耳が生えている小さな少女だった。まるで人形のようだが、彼女はちゃんと生きている人間ではないなにかだ。


「お主の体を修復して、契約してやろう」

「契約? そんなのどうでもいい! 早くネメシスたちを」

「残念じゃが、妾が治せるのは、生きている存在のみじゃ。死人を蘇らせることはできん」


 彼女から告げられた一言に、俺は絶望する。つまり、彼女の力があってもニーアたちを生き返らせることはできない。その事実が刃のように俺の心に突き刺さる。


 最悪の気分だ。せっかく、彼女たちが蘇るかもしれないと思ったのに。彼女たちが生き返らないなら、俺はどうすれば良いんだ。何をすれば。


「……そうか。最強で崇高なる精霊も、案外大したことないんだな」


 何もかもどうでも良くなったせいか、そんな酷いことを言ってしまった。しかし、彼女は特に気にしてないようで、申し訳無さそうな顔をする。


「それを言われると辛いの。じゃが、お主に力を与えることは出来るぞ」

「……力。それはどんな力だ? 嫌いな人間を殺せる力か?」

「そんなちっさいものではない。妾の力は、世界を壊し、作り変えるほどのものじゃ。お主が欲しいなら、その力を貸してやるぞ」


 彼女の言葉に、俺は目を見開く。世界を壊して作り変える力。こいつがそんな力を与えてくれる。それだけの力があれば、ヴァルキュリア家の奴らを皆殺しにできる。


「くふふふ。ずいぶん食いついとるのお。殺したい敵でもおるのか?」

「ああ……この手でどうしても殺したい奴らがいる」


 俺がやろうとしてるのは、ただの八つ当たりなのかもしれない。だが奴らを殺す以外に、俺が彼女たちに出来る償いが見つからなかった。

 ヴァルキュリア家の奴らを殺せるなら、俺は悪魔にだって魂を売る。それしか、彼女たちに出来る償いは無いのだから。


「だから力を寄越せ! 俺と契約しろ!」

「くはははははは! 殺意と生への欲望がえらく強くなったの。やはりお主は面白い。良いじゃろう。契約成立じゃ。お主の野望のため、妾がこの力を貸してやる!」


 彼女はそう言って俺に手をかざす。すると、紫色の魔法陣が現れ、優しい光が俺を包み込む。光の中はとても暖かく、俺の体を修復していった。みるみるうちに体は修復していき、数分も経つ頃には完全に治って立つことも出来るようになった。


「さて。後はこうするだけじゃ!」


 彼女は再び紫色の球になり、俺の体の中に吸い込まれるようにして入っていった。その瞬間、体の中から力が溢れるような感じがした。


「これが……お前の力か」

『ミカエル。それが妾の名前じゃ。お前と言われるのはなんか嫌じゃからそう呼べ』

「ミカエル。分かった」


 この力。薬を打ちまくったあの時よりは小さいけど、鍛え方次第ではあれを遥かに超えるということは理解出来た。この力があれば、ヴァルキュリア家を殺せる。けどその後は何をすれば良い。何のために生きれば。


【私はこの世界を変えたい。弱者を踏みにじり、ふざけた奴らがいないような世界を作りたい】


 そんなとき、テルネの言葉を思い出した。そうだ、彼女は弱者が踏みにじられないような世界を作ろうとしていた。俺が彼女を殺したから、その望みを断ってしまった。ならば。


「ミカエル。俺は、弱者の踏みにじられない世界を作る。ヴァルキュリア家のようなふざけた奴らがいない世界を」

『ほお。大きく出たのお。しかし、そのぶっ飛び具合はなかなかに面白い。ええじゃろう。お主の理想を叶えるため、妾が全力で支援する』

「ありがとう。ミカエル」

『にしても、お主は大変じゃな。こんな化け物を体の中に飼っておったとは……いや、寄生されてるという方が正しいかの?』

「? 何か言ったか?」

「なんにも。とりあえず、人のいるところに行くぞ。何をするにしても、それなりの準備が必要じゃ。お主の服も新調せなあかんからの。ここから南に数キロほど行けば、村があるはずじゃ。まずはそこに行くぞ」 

「了解……テルネ、お前の望みは俺が叶える」


 俺は弱い。弱いから彼女たちを守ることができず、死なせてしまった。彼女たちは俺が殺したも同然だ。

 彼女たちに報いるためにも、俺は強くならないといけない。強くなってヴァルキュリア家を滅ぼし、テルネの夢を叶える。それが俺のやるべきことだ。

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[一言] >「……そうか。最強で崇高なる精霊も、案外大したことないんだな」 その大したことない奴にすがって生き延びようとしたり力を得て増長してる、 他力本願のお前は一体何なのよ?
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