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第116話 カイツの始まり

 side カイツ


 もうかなり昔の話になるな。これは俺が8歳の頃の話だ。俺は家族と一緒に暮らしていた。父さんと母さんの3人暮らし。両親はいつもよくわからない液体を混ぜたり、書類を書いたり、俺の血を抜いてそれを調べたりしていて、相手してもらえることはほとんど無かった。今から思えば、あれもセラフィムに関係することだったのかもしれないな。


「パパ。一緒に遊ぼう」

「1人で遊んでろ。父さんは忙しいんだ。この研究成果があれば、私も神の名を与えられるはず。絶対に失敗するわけにはいかない。カイツはそれなりの傑作だ。こいつを鍛え、天使の力を」


「ママ、ちょっと聞きたいことが」

「黙ってな。あんたと話してる暇はないんだよ。あたしは忙しいんだ。人形と喋ってな」

「……ねえ。僕外に出たい。色んな人と友達になりたい」

「だめだよ。あんたはずっとここにいなきゃならないんだ。下手に外に出して失うのももったいないからね」


 とまあこんな風に、まともに相手されることなんて無かった。両親と顔を合わせたことは片手で数えても足りる。しっかり話せたことは1回も無かったかもな。少なくとも、俺は両親とまともな会話をした記憶はない。それに加え、俺は外を出ることを許されなかった。ま、鍵のかかったドアやら鉄格子やらのせいで、出たくても出られなかったんだが。


「見ろお前。カイツのデータだ」

「素晴らしいわ。これだけの素質を持つ人間を差し出せば、きっと褒めてもらえる」

「それだけではない。上手くいけば神の名ももらえる。そうすれば、さらなる研究資金の援助も期待できるし、特権も使える」

「なら頑張らないといけないね。もう少し健康に配慮した食事にしなければ」



 誰とも触れ合うことができず、人形やおもちゃで毎日を過ごし、決められた時間に決められたものを食べる日々。好物や嫌いなものがあるとかそんなの関係ない。


「ちゃんと食べろ! お前は健康に生きなければならないんだ。食べれないなら俺が食べさせてやろう!」

「あんたは優秀な人間だ。食事もきちんとしたものじゃないと意味がないんだよ! じゃないと、私たちは神の名を与えられないんだ!」


 好物とか嫌いな物とか関係ない。食わなければ殴られるだけ。どんだけ食いたくなくても食うしかない。奴らが与えるのは暴力と実験動物をあつかうのような管理。物心ついた頃からそんな生活だったから、とにかく辛かったよ。世界の全てが灰色に見えて、何もかもつまらなかった。




 そんな生活が続いていたある日のことだった。あの事件が起こったのは。

 その日は父さんの仕事部屋だった場所に呼び出されていた。そこには白衣を着た研究者らしき人が2人いた。


 部屋の中はとても散らかっていたことも覚えている。何に使うのかわからない機械やら薬が入った瓶が大量に置いてあった。正直気味悪かった。父さんもやけに興奮したような感じだったし、研究者たちは値踏みするように俺を見ていた。

 彼らの後ろには大きな檻があって、ボロ布を着た子供が何人か閉じ込められ、眠らされていた。子供ながらにしてあいつらは危険だと思った。


「パパ。この白い服の人たちは?」


 怯えを隠しつつ尋ねる。すると父はニヤリとした笑みを浮かべて言った。


「この人たちは、お前の新しい飼い主だよ。檻の中にいるのは、お前の友達だ。嬉しいだろ? お前はずっと友達を欲しがってたからな」


 何を言ってるか意味が分からなかった。俺があいつの言葉にただ困惑してると、次の瞬間、腹に強い衝撃を感じた。気がつくと吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。そのときになって初めて、俺は奴に殴られたんだと理解した。


 意識が消えそうになる中、奴は研究者たちと話していた。


「これがこの子の能力値や調査結果となります」

「ふむ。中々良い数値だな。これなら良き天使を作れそうだ」


 それからの記憶はあまりない。ただ必死に逃げようと手足を動かしていたように思う。だがすぐに捕まり床に転ばされた。その後頭部を踏みつけられる感覚を最後に、俺は意識がきえそうになりながら、奴らの会話を聞いていた。


「あの。この素体が有益な結果を出した暁には」

「ああ。貴様たちに神の名を与え、資金援助もしてやる」

「おお。ありがとうございます!」


 奴は嬉しそうに高笑いし、俺はそのふざけた笑いを聞きながら、気絶した。




 目を覚ますと、俺は真っ白な部屋の中にいた。一面真っ白な壁で、白い棚だけがある無機質な部屋。あるのはお手洗いや風呂の部屋に続く扉だけ。色合いは違うが、あれは牢獄と同じようなものだな。俺の服は真っ白な服に588と番号が書かれていた。周りにいるのも俺と同じような服を着たような奴が2人いて、興味深そうに俺を見ていた。

 1人は今ここにいるニーア。小さいころのこいつも可愛い姿だった。真っ白な髪に雪のように白い肌。大きくつぶらな瞳で、色は青色だった。当たり前だが、身長やら体のあちこちが小さかった。

 もう1人はニーアの姉、ネメシスだ。ニーアに瓜二つの顔、肌の色も同じ。違うのらは彼女の目の色が赤色で狐を思わせるような妖しげな目をしていたということだ。彼女たちの体には無数の傷跡や痣があった。


「あ、起きた。起きたよ姉さま」

「初めましてカイツ君。私はネメシス。こっちは妹のニーア。あなたと同じ実験体よ。これからよろしくね」

「え……実験体って……え?」

「姉さま。この人混乱してるよ。まずはちゃんと説明しないと」

「そうね。いきなりこんなことを言われたら混乱するわよね。ここはセラフィム研究所。簡単に言えば、人体実験の研究施設よ」

「研究……施設?」

「ええ。ここは人体実験大好きな奴らが集まるイカれた研究所。私達は奴らのおもちゃなのよ」


 あのときは言ってる意味が分からなかった。いきなり変なところに連れてこられたかと思ったら研究施設だの人体実験だの。8歳の頭じゃ理解できないことばかりだった。唯一分かったのは、そこが家と同じくらいには腐った場所だということ。


「理解できてないみたいだけど」

「無理もないわ。こんな話を1回で理解できる方がどうかしてるもの」


 彼女たちが話をしていると、突然扉が開き、1人の女性が入ってきた。服どころか下着すら着ないという痴女のような女、カーリーだ。奴の後ろには何人もの屈強な男が並んでいた。ネメシスたちは奴を見て露骨に嫌な顔をしていた。


「あ、起きたんですね。カイツさん。寝起きのところ悪いですが、これから実験の時間でーす。皆さん、彼らを指定の場所にお願いします」


 その指示と共に、後ろにいた男たちが俺たちを捕まえようとしてくる。


「いや! 来ないで!」


 必死に逃げようとしたが、子供が大人に勝てるわけもなく、あっさりと捕まえられ、自由を奪われた。


「大人しくしろ! 貴様は我らの道具だ。道具が主に歯向かうな」


 彼女たちも既に捕まえられ、どこかに連れて行かれていった。俺も同じように部屋を出て廊下を歩き、どこかの部屋に入ったあと、分娩台に座らされ、拘束された。


「離して……ぐっ! なんだよこれ!」


 そこはさっきとは対照的にも見える黒い部屋。奴らは赤い色の入った液体を俺の腕に注射した。


「が!? あああああああ!」


 液体が入った直後、身体中に激痛が走り、耳や口、鼻から血が流れた。入れてはいけない異物を注入され、体が拒絶しているようだった。


「がああ……ごはっ……ぎあああああ!?」


 体中が痛くて、涙が流れ続けた。そんなことになっても奴らは気にも留めず、淡々と何かを紙に書いていた。


「ふむ。確かに悪くないな。あの馬鹿男からよくこんな上質な素体が生まれたものだ」

「ああ。適応値も悪くないどころか、あの2人よりも優秀だ。久しぶりに良い物が手に入ったな」


 奴らは続けて赤黒い染みのついた鋏を取り出し、それで俺の指を切り落とした。


「あああああああ!?」


 痛みで失神するかと思った。まさか指を切り落とされるとは思わなかったからな。


「ほお。指の再生もそれなりに速い。これは良い素体だ」

「ふむ。では次は腕を切り落としてみよう」


 その後は腕や足を切り落とされ、奴らの都合の良い実験に使われた。体の再生もしていたようだが、この時の俺は痛みで失神したりまた痛みで起きたりとそんなことを気に掛ける余裕などなかった。終わった頃には涙も声も枯れ果て、身体中が血だらけとなっていた。


「ふん。薬も切れてきたようだな。今日はこれまでだな」

「ああ。部屋に戻すとしよう」


 奴らに運ばれ、俺は元いた真っ白な部屋にぶち込まれた。


「ぐあ……なんで……こんな」


 体をまともに動かせなかった。なんでこんな目に合うのかわけがわからない。憎しみ、困惑、怒り、悲しみ、色んな感情がごちゃ混ぜになって襲ってきた。そんな時、ニーアとネメシスも部屋にぶち込まれた。2人も血だらけになっており、俺と似たような目に合わされたということは理解できた。


「ぐ……いつになっても慣れないな」

「そうね。これはほんと辛いわ……あら、カイツじゃない。大丈夫?」


 ネメシスはそう言って、俺の方に駈け寄った。


「初めてだと辛いわよね。身体中痛くてしんどくなる。私も最初の頃はまともに動けなかったわ。ちょっと待ってて」


 彼女はそう言って棚の方へ行き、チップスが入った袋を取り出してこっちに持ってきてくれた。


「食べなさい。元気が出るわ」


 彼女は袋からチップスを1枚取って食べさせてくれた。そのときの菓子は美味しかった。味だけじゃない。初めて誰かが恵んでくれたものだから。


「美味しい……ありがとう」

「どういたしまして。そうだ。動けるようになったら一緒に遊びましょ。3人でやってみたいことがたくさんあるのよ」


 痛みが引いた後は、3人でトランプしたりボードゲームをしたりボール遊びをしたりと色んなことをして遊んだ。初めて他の人と遊ぶことが出来た。誰かと遊んだりするのがあんなに楽しいとは思わなかった。人と触れ合って、暖かさを知って、その時は初めて充実したと思える時間だった。


「ふふ。3人で遊ぶのも楽しいな。2人の時よりも色んなことができるし、何より楽しい」

「そうね。今日も実験は大変だったけど、色々遊べて楽しかったわ。カイツはどうだった?」

「楽しかった! 今までこんな遊びをしたことなかったから、すごく新鮮で心がふわふわする!」

「うふふふ。楽しんでくれたみたいで良かったわ」


 その日は今までで一番安らかに眠ることが出来た。誰かと一緒に寝ることが、あんなに安らかな気持ちになれるとは思わなかった。あの時は、世界が色づいて見えた。2人といることが出来る世界を絶対に失いたくないと子供心に願ったものだ

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