第101話 カイツ&ケルーナVSアレス
「筋肉タックル!」
奴は地面を蹴り、馬車を思わせるような――いや、それよりも凄まじい勢いでこっちに突っ込んできた。俺とケルーナはそれを横に飛んで躱し、彼女は口から黒い豆のようなものを吐き出した。それを投げつけると、それは巨大な蛇へと変化してアレスに襲いかかる。
「そんなの効かないのだね!」
奴は蛇の頭を掴み、地面に叩きのめした。だがその行動のおかげで隙が出来た。俺はそこを突き、奴の背後に近づく。
「剣舞・四龍戦――!?」
攻撃しようとした瞬間、奴は裏拳を繰り出して攻撃してくる。間一髪で刀で防いだものの、勢いを殺しきれずにふっ飛ばされてしまった。
「くそ。なんつう反応速度だ」
「どえらい奴やのお。ここまでとは恐れ入ったわ」
「ふふふ。ヴァルキュリア家を舐めてもらっては困るんだよ!」
奴は俺の方に接近してくる。対応しようとしたが、頭痛のせいで体をうまく動かすことが出来ず、拳の攻撃をいなすだけで精一杯だった。
「どうした? ミカエルの器に選ばれた君の実力はそんなものなのか!」
「うるせえよ! 剣舞・爆龍十字!」
2本の剣で、奴の体をバツ形のように切り裂こうとするも、それは上に飛んで避けられた。
「遅い。その程度の攻撃は意味ないのだね」
「ならこの攻撃はどうや?」
ケルーナは口から黒い豆のようなものを何個も奴に向かって吐き出した。それらがぶつかった瞬間爆発を起こし、爆炎と煙が奴を包む。
「あの変な豆みたいなの。爆発もするのか。だが」
「……やっぱりこの程度じゃあかんか」
煙が晴れ、奴が地面に着地する。爆発はもろに喰らってたはずだが、鎧には傷1つ入っていない。
「この化け物が」
「ふふふ。さあ。もっと筋肉にいい刺激を寄越すのだね」
「言われなくても!」
俺が接近すると同時にケルーナも後ろから接近する。攻撃しようとしたが、奴は俺の刀と彼女の拳を掴んで受け止めた。
「くそ。簡単に受け止めるのかよ」
「とんでもない奴やのお」
「ふふふ。これでは全然刺激にならんぞお!」
奴は俺たちを投げ飛ばし、俺に接近してくる。拳で攻撃してきたのでそれに対応しようとしたら、下から顎に蹴りを入れられてふっ飛ばされてしまった。
「が!?」
「反応が鈍いね。その程度で戦おうなど笑止なのだね!」
そのまま追撃し、俺を殴り飛ばしてふっ飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていった。
「とどめだ!」
奴の攻撃。だが対処が間に合わない。このままじゃやられる。そう思った瞬間、ケルーナが上から奴の頭に蹴りを入れた。
「ぬおお!」
奴はふっ飛ばされていったが、即座に体勢を立て直して着地する。もろに喰らったはずなのに、まるでダメージが見受けられない。
「ふふふ。中々に良い連携なのだね。だがこの程度のパワーでは、私に傷をつけることは不可能なのだね」
「たく。ほんまにかったい奴やのお。これならどないや?」
彼女は口から黒い豆のような物をいくつも吐き出し、一部は地面の中にも潜り込んだ。地上にあるそれらは巨大な蛇となり、奴に襲い掛かっていく。奴は蛇頭を踏んだりしながら動き、それらを躱していく。そうやって蛇の包囲網から抜けて上空に出た瞬間。
「剣舞・五月雨龍炎弾!」
いくつもの紅い球体を奴に向けて撃つ。
「無駄だ。筋肉ストーム!」
奴は体をぐるぐると回転させ、駒のように回る。その回転の勢いで龍炎弾が弾かれてしまった。回転が収まると、下から蛇が飛び出し、彼を丸呑みしようとする。しかし、彼はその蛇の口の上下を掴み、そのまま口を引き裂いて殺した。
「効かへんか」
「この程度の攻撃で、私の筋肉は崩れはしない!」
「しゃあない。こんなとこで使いとう無かったけど、やるしかないか」
彼女は口からまた黒い豆を吐き出した。それは徐々に変化していき、ケンタウロスのようなものへと変わった。頭には2本の牛のような角が生えており、牛のような顔をしていてアレスと同じくらいに筋肉質だ。下半身は馬のような姿であり、不気味な姿だ。
「行きなはれ。レベル3!」
ケンタウロスのような魔物、レベル3はそのままアレスに向かって突進していく。アレスはその勢いを真正面から受けとめる。
「ぐるおおおおおお!」
「ぬぬぬぬ! こいつは良いね。私の筋肉が喜んでるよ」
「ぐるおおおお!」
レベル3は腕に力を込め、奴を上空に投げ飛ばした。
「おおお! この私を投げ飛ばすとは!?」
そして、レベル3は何十発も拳を叩き込んでいく。
「ぐぬぬぬぬぬぬ!? この連撃。筋肉が泣いてしまいそうだ。このお!」
奴はレベル3の攻撃に対応し、拳をぶつけ合った。その衝撃波で2人はふっ飛ばされ、俺たちの方にも余波が襲い掛かった。あのケンタウロス、とんでもない奴だな。あのアレスを投げ飛ばす上に、互角以上の腕力を持ってるなんて。というか、これだけの怪物を生み出せるケルーナは何者だ。ただの人間ってわけでもなさそうだが。
「ふむ。そのケンタウロスもどきは厄介なのだね」
「そう言ってくれると嬉しいわ。こいつはわっちの持つペットの中でも切り札みたいな奴やからのお。ちっとは苦戦してくれないとしょげてまうわ」
「だが、そのケンタウロスもどきでは私は倒せないのだね。そろそろ決着をつけないとプロメテウスに怒られそうだし、行くのだね!」
奴は地面を蹴ってジャンプすると、再び駒のように回り始めた。
「スーパー筋肉ストーム!」
それはまるで空を翔る鳥のように飛び、こちらに急降下しながら体を切り裂いていく。
「ぐうう!?」
「ぬあああ!?」
「ぐるおおおおお!?」
その速さは凄まじいもので、目で追うのがやっとのレベルであり、反撃に出るなどとても不可能な状態だった。
「私の筋肉の糧になると良いのだね!」
奴は更に勢いを増しながら俺たちの体を切り裂いていく。
「ぬう。この状態じゃ蛇で攻撃するのも難しいなあ。それどころか、避けることさえも」
「これが筋肉の力。そして、ヴァルキュリア家の真の力だああ!」
奴は回転をやめ、俺たちの後ろに立った。
「筋肉タックル!」
奴が地面を蹴り、こっちにぶつかろうとしてきた。だが、間一髪のところでレベル3が間に入り、その攻撃を受けとめた。
「ぐるおおおお!?」
「邪魔なのだねえ!」
奴はレベル3の下半身を掴み、遠くまで投げ飛ばした。レベル3は頭から落下したが、奴が投げられたおかげで隙が生まれ、距離を取ることが出来た。
「……はあ。わっちの可愛いペットが」
「そんなことより、奴の動きをどうにかしないと」
さっきよりも頭痛が酷くなってきてるし、眩暈も強くなってきている。さっさとこいつを片付けて体を治して、ウルたちを探しに行かないと。
「そやねえ。とりあえず、こいつをぶつけとくか!」
彼女は口から再び黒い豆のようなものを吐き出した。それらは口の生えた巨大な黒い球体へと変化した。
「レベル1、行きなはれ!」
彼女の命令に従い、球体が一斉に向かっていく。
「今更この程度の雑魚など!」
彼が球体の1個を殴った瞬間、球体が爆発を起こした。
「おっと。これはこれは」
「そいつらはただのレベル1じゃあらへん。自爆機能備えたレベル1や。吹っ飛びなはれ」
球体は次々に奴の体にくっついていき、自爆攻撃を繰り返していく。辺りは爆炎と煙が覆い、視界が悪くなっていく。これだけの爆発でもダメージは与えられないだろう。
爆発が止むと、煙の中から奴は飛び出し、上空に現れた。やはり体にダメージは無いが、鎧にヒビが入っており、一部割れている。
「面倒なことをする。そろそろ終わらせてやるのだね! スーパー筋肉ストーム!」
奴は再び駒のように体を回転させ、こっちに襲い掛かってきた。奴にダメージを与えるには、あの筋肉ストームをなんとか対処するしかない。いちかばちかにはなるが、やるしかないか。
「ケルーナ。俺が奴の動きを止める。その隙にでかい一撃を叩き込め!」
「あいさー。任しといてえ」
「アレス! お前の無駄な筋肉をぶつけて来い。叩き潰してやるよ」
「……ほお。ならばやってみると良いのだね!」
奴は少し怒ったような声を出しながらこっちに向かってきたので、ケルーナに被害が及ばないように彼女から距離を離しながら奴を誘導する。
「私の筋肉を無駄と言ったこと。後悔させてやるのだね!」
思った通りの単細胞で助かった。奴は自分の筋肉に誇りを持っている。それを馬鹿にするような奴には絶対に容赦をしない。おかげでこういう時は狙いを誘導し易くて助かるが。後はこれを弾き飛ばすだけだ。
「六聖天 腕部集中!」
刀と腕の部分に六聖天の力を集中させ、刀に光を纏わせて少しばかり巨大化させる。
「ぶっ潰してやるのだね!」
奴は真正面から駒のように回りながらこっちに向かってきた。俺はその攻撃を2本の刀で受け止めた。その直後、体を引き裂くかのような衝撃波と突風が襲い掛かる。視界がかすみ、身体中の骨が軋む。今にも意識が飛びそうだ。だが負けるわけには行かないんだ。俺がここに来たのは、奴らを叩き潰すためだ。こんな筋肉ダルマに苦戦してる余裕はねえんだよ。
「ぐ……うおおおおおおおお!」
「無駄だあ! 貴様の細い筋肉ではどうにもできない。私の勝ちだあ!」
「ぐ……確かにそうかもな……俺との戦いでは……お前の勝ちだ……だが、俺たちの戦いならどうだあああ!」
俺は腕にさらに力を込める。力の入れ過ぎか、あるいは魔力を込めすぎたせいか腕から血が噴き出す。だが構いはしない。このまま押し通す。
「うおおおおおおおお!!」
俺は2本の刀に力を込め続け、奴を弾き飛ばした。
「なにいい! 私の筋肉を!?」
「ケルーナあああ! 後はお前がやれ!」
「あいさー。行くでえ」
奴はいつのまにか1体の怪物を出していた。先ほどのようなケンタウロスの姿。だが下半身は馬のようなものではなく、砲台のような形をしていた。
「穿て!」
砲台から真っ黒な巨大レーザーが放たれ、アレスを飲みこんだ。
「ぎいあああああああああ!? こ……こんなところで……私は! 私の物語は……こんなところで!」
「終わりだ。お前の物語はここで終わりなんだよ」
「ぐあ……あああああああああああ!!??」
奴は真っ黒なレーザーの中で影すらも見えなくなっていった。レーザーが消えた後、奴の体は消し炭どころの話ではなく、肉片の1欠片すら残ってなかった。
「……やっと終わったか。これで」
「!? カイツ、後ろや!」
ケルーナの声で咄嗟に後ろを振り向いた瞬間、上半身のあちこちが焦げながらも、アレスがそこに立っていたのだ。
「馬鹿な!?」
「これで終わりだあああああ!」
まずい。防御が間に合わない。殺される。そう思った俺は咄嗟に目を瞑るという最悪の選択をしてしまった。だが、何分経っても、何の痛みも無かった。どういうことかと思って目を開けると、そこには1人の少女がいた。銀色のノースリーブシャツに黒の短パン。四肢は白い毛が生えており、鋭い爪も生やしている。目つきは鋭く、左目に青い炎が宿っていた。口の歯は牙と思えるほどに鋭く、白い尻尾も生えたその姿は狼を思わせる。彼女はアレスの拳を片手で受け止めていた。
「……貴様は!」
「ふふふ。まるで救世主だね。私ってばかっこいい!」
今は袂を分かってしまった俺の愛する人。
「……アリア」
「今すぐこいつを片付けてあげるからね。カイツ♪」
「舐めるな。貴様のような細い筋肉の女が私をーー!?」
奴は最後まで言葉を続けられなかった。アリアが奴の首を引きちぎっていたからだ。奴は何が起きたのか全く理解できてないようで、困惑ーというよりは、目の前の現実を認めたくないような顔ーをしていた。
「……そんな……この私の筋肉が……私は、ヴァルキュリア家の」
「ヴァルキュリア家だの熾天使だの、ピーピー言う割にはめちゃくちゃ弱いね。拍子抜けも良い所だよ」
彼女はそのまま彼の頭を握りつぶした。
『カイツ……あの女』
「分かってる」
明らかにあの時よりもはるかに強くなってる。ダメージを受けていたとはいえ、あのアレスの攻撃を片手で受けとめ、一撃で首を取るほどの強さ。どう考えても俺とは次元が違う。
「さて。邪魔者も消えたし、戦おうよ。カイツ」




