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本の中

作者: 大西洋子

「アリス、違うんじゃない? これって本そのものなんだけど。……ねぇ聞いてる?」

「はい、聞いています。アリスは利用者ようこ様の問いに応えたまで」

読書サポートAIアリス。本の検索はもちろん、利用者の年齢に応じた本の案内、その本が書かれた頃の時代背景や、本に書かれた内容に合わせた疑似空間へと利用者を案内するのだけど、

「あたしは、アリスに本の作り方をたずねたのだよね」

「はい。ですから、本の作り方に関する本をお出しました」

「……アリス、あたしが知りたいのと、ぜんぜん違う。おしまいにするわ」

お話の終わりの言葉であり、疑似空間終了でもある言葉を口にしたのだけれども、

「疑似空間終了できません」

「そんな! ええっと…… 完、了、終。めでたしめでたし、末永く幸せになりました」

疑似空間にその言葉が文字となって浮かび、しばらくすると消えていく。

「ようこ様は本の作り方、つまりお話の作り方を問われましたので、ようこ様がお話を作り終えると疑似空間が終了します」

「……うわぁ、めんどくさい」

だけど、いつまででもこうしているわけにいかない。あたしはアリスの指示に従ってお話を作ることにする。

「まずお話の主人公はようこ様自身です。ですので、この疑似空間から無事に出る。これがこのお話の終わりとなります」

「ええっと、お昼ごはん食べてから、この図書館に来て…… ねぇアリス、この調子だと、ここから出るまでどのくらい?」

「それはようこ様次第です。ですが、はじめてお話を作られるのなら、原稿用紙5枚を目安にしましょう」

「だったら、朝起きてからここに来るまでで、それくらいになっちゃうけれど、ここから出られないのはなぜ?」

「ただ起きたことを、そのまま書いているだけでは、お話とはいえませんからね」

「しゃあ、アリスに問いかけてから、今までの間だったら?」

「原稿用紙で2枚ほどですね」

「そうなの? 意外と短いのね」

「はい」

「あと3枚か。ここからどう書けばいいのかな。おしまいはこの疑似空間から出ることに決定しているから…… ねぇアリス、おしまいの部分から考えてもいいの?」

「もちろん、いいですよ」

「……あたしが戻るのは図書館の中。あたしが今いる図書館は、微かに開いた窓の外から鳥の声や、雨上がりの風が入ってきていた」

「いいかんじですね。では、おしまいの直前に、お話の目的とはあべこべの出来事を起こしましょう」

「あべこべだから、疑似空間から出られそうだと思ったのに、出られない?」

アリスはニコニコとうなずくばかり。

「アリス、なによその顔、角がたつわ。──わわわ、な、な、な、なに?」

「疑似空間が、本の角で立つを再現したようです」

「のんきに今日の天気を語るように言わないでよ、アリス!」

「失礼。ですが、本の中は、なんでもありなので。ようこ様の安全は確保しておりますので、どんどん言ってみてみましょう」

ええい、どうとなれ! 本の作り方をたずねた時、アリスが提示してくれた本の部分の名前と図が書かれた画像を見ながら、それを読み上げてみた。

「……何も変化しないよ?」

「では、ダジャレでもいいので言ってみてください」

「表紙抜ける、カバー曲、帯をほどく」

すると言葉にしたそれに合わせて、疑似空間が次々と変化していく。

「そでまくり、見返し遊び士、背を並べる、のどから手が出る。わ!、疑似空間の中央の溝から手が出てきた!」

「紙の本の閉じた部分をのどといいますからね。ああ、原稿用紙5枚に到達したようです」

「あともう少しね。スピンしながら降りる、天地がひっくり返り、元に戻って扉を閉じる」

そう言い終えた時、大きな本の前に立っていた。

「やった、お話が終わった。でも、アリス、疑似空間が終わらないよ?」

「ようこ様、お話を作るの最後の行程が残っているからだと。紙の本はどのようになっていましたか?」

「えっと、表紙があって、背があって…… あっ! 本の題名と書いた人の名前!」

『本の中』と表紙と背に書きこみ名前を告げると……


何列もある本棚の中に並ぶ無数の本。微かに開いた窓の外から鳥の声と雨上がりの風。

「戻れた!」

読書サポート機を振り返り見る。そこに、

ご利用ありがとうの文字と、頭を下げるアリスの画像。思わずその画像に向かい、ぺこり頭を下げた。



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